「少し楽になったな」

 夜、マコトがデビルアームを襲撃したおかげで相手も警戒を強めた。
 元々遠い距離から見ていたのに、さらに遠巻きに眺めるようになった。

 監視してくる数も減ったようで、距離が離れたことも合わせて見られている不快感は大きく緩和されたのである。

「村が見えてきたぞ!」

 デビルアームが襲いくることもなく、ひたすら歩いていくと村が見えてきた。
 建物は比較的綺麗に残っていて、まだ少し人の生活というものを感じさせる雰囲気がある。

「先生たちはどこに……」

「予定では公民館があって、使えそうならそこに泊まる予定だった。いるならそこかもしれないな」

 村に入るとデビルアームの気配を強く感じる。
 先に様子を見にきた教員たちと合流したいとカエデは考えていた。

 寝泊まりする予定だった公民館に向かってみる。

「あれかな?」

「車が止まってる!」

 村の中を歩いていくと一際大きな建物を見つけた。
 公民館と木の看板がかけられていて、建物の前にはまだ新しい車が止まっていた。

「車は……破壊されてる……」

 一見何の異常もなさそうだが、前に回ってみると車は壊されていた。
 フロントガラスが外から叩き割られていて、車内は荒らされている。

「最悪の事態も想定して動くぞ」

 車がここにあるということは、教員もここに来ているということだ。
 だが車は破壊されていて、教員たちの姿はない。

 考えたくはないが、教員がやられてしまった可能性も考慮に入れて動かねばならない。
 そうなると公民館も安全な場所とは限らないのである。

「アイゼン、偵察頼めるか?」

「分かりました」

 狭い建物内をみんなでゾロゾロ進むのはリスクが大きい。
 ここは安全に偵察を試みる。

「頼むぞ、ルビウス、エド!」

 トモナリはルビウスとエドを実体で召喚する。

「あれ!? 一体増えてる!?」

 ルビウスはもうお馴染みであるが、エドの方は初めてである。

「何これ……オオサンショウウオ?」

「オオサンショウウオではない。アースドラゴンだ」

「声渋っ!」

「でも妙な愛嬌もあるな……」

 本来の姿は巨大な恐竜のようなをしているエドだが、トモナリの力が足りないせいなのか、ルビウスと同じくミニ姿で召喚された。
 しかもただ小さくなったわけじゃない。

 理由は知らないけれど、エドの姿はなんだかつるんとしていた。
 誰が言ったかオオサンショウウオのような姿をしていた。

 ただ声はエドそのものである。
 不思議な見た目をしているのだけど、見ていると可愛らしさも感じる。

「ルビウスちゃんは相変わらず可愛いね」

「ふん、当然であろう!」

 そんなことを口で言いつつもルビウスは嬉しそうに尻尾を振っている。
 褒められれば嬉しいのだ。

「頼むぞ!」

「任せておけ」

「命とあらば」

 トモナリはルビウスとエドを公民館の中に送り込む。
 召喚されている今ルビウスとエドに実体はあるけれど、仮に倒されたところで召喚解除されるだけである。

 時にゲートなどの偵察を行うのに人ではなく、ドローンをなどを用いることがある。
 ルビウスとエドなら偵察しつつもある程度戦えるし、自分で考えて動ける。
 
 安全に中を偵察するためリスクの少ない手段を選ぶのは当然のことだ。
 ドローンと違って中の様子をカメラなどでみることはできないけれど、戦い始まればトモナリにも感じられる。

「どうだ?」
 
『今の所異変はないな』

『モンスターはいない』

 ついでに会話だけなら離れていても可能だったりする。
 今度何かカメラでもつけて、遠隔で状況確認できるようにしてみようかなと思った。

『おっ?』

「どうした?」

『人がおるぞ』

「人が?」

 人がいる。
 そう言ってルビウスとの会話が途切れた。

「アイゼン、どうだ?」

「人がいるそうです」

「人? ……それって……」

「誰か出てきますよ!」

 公民館からの奥から人が走ってくるのが見えた。
 一応みんな武器を構えて警戒する。

「みんな!」

「イリヤマ先生!」

 公民館からルビウスとエドと共に出てきたのはトモナリたちの担任でもあるイリヤマであった。

「イリヤマ、無事だったか」

「ええ、こちらは何とか。……そちらも遅かったですね」

「こちらも色々あってな」

 マサヨシもホッとしたような顔をする。

「とりあえず中に入ってください。中にモンスターはいないので」

 トモナリたちも公民館の中に入る。
 イリヤマは周りを確認して最後についていく。

 公民館の中は電気が通っておらず暗い。

「ああ、学長もご無事でしたか」

 奥のホールに入るともう一人の教員がいた。

「そちらも無事だったようだな。……それとそちらの方は?」

 教員以外に二人の老人がいた。

「こちらの方はシマダさんご夫婦です。元々こちらの村に住んでいた方でして、定期的に村に通ってお墓のお手入れをしていたそうです」

「……なるほどな」

 おかしいと思っていた。
 たとえ連絡が取れず、車が破壊されようとも教員たちならば村を脱出して途中で合流もできたりしたはずだ。

 なのに何もしていないのはどう考えても変だった。
 運の悪い一般人とでもいえばいいのだろうか。

 村を捨てたとはいえ、村から移すことができないものある。
 村の近くにはお墓があって、さすがにお墓までは完全に放置できなくてお手入れするために訪れていた村人がいた。

 しかし運が悪く村人が来るタイミングでブレイクしたゲートが発生してしまったのだ。
 そこにイリヤマたちが来て村人を保護をしたのである。

 イリヤマともう一人の教員だけならば村から脱出できただろう。
 けれども覚醒者ではない一般人、しかもかなりの老齢の夫婦を連れては逃げられない。

 だからといってほっとくこともできない。
 二人しかいないのに、一人だけでは二人を守るのも楽ではないことだ。

 結果的に後から到着するトモナリたちを待つしかなかったのである。