「悪かったな」
「何がですか?」
軽く寝て、起こされて、持って来ておいたキャンプ用の折り畳み椅子に座ってテントの外でモンスターの警戒に当たる。
空気が綺麗で星空がよく見える。
時折風が吹いて草木が揺れる以外に音もない。
見張りとして起きているのはトモナリだけでなく、マサヨシも見張りとして起きていた。
ヒカリはそのままテントでスヤスヤである。
「こんな事故を起こしてしまってだ。全盛期なら……運転手を死なせることもなかっただろうに」
今のマサヨシは体に大きな制限がかかっている。
レベルとしては20相当までの力になっていて、それ以上の力を使うと体が負担に耐えきれずにダメージを受けてしまう。
制限内で戦っても通常のレベル20より強いのだけど、やはり不便だと感じることは多い。
レベル100相当ならデビルアームに運転手が襲われた時にすぐに動いて助けることができていた。
事故を防ぐことだって可能だっただろう。
「なぜ学長が謝るんですか? 運転手さんを助けられなかったのは俺も……みんなも同じです」
引率者としての責任もあるのかもしれない。
だがマサヨシに全ての責任があるわけじゃない。
「時として君がひどく大人に見えるよ」
「まあ他の子よりは大人な自覚はありますよ」
トモナリは持って来ていたオレンジジュースを飲む。
季節は夏だけど、場所が場所なだけに意外と涼しさがある。
中身はとっくに大人なので大人びて見えることがあっても当然だろう。
死ぬほどの戦いを何回か経験すれば、こんな状況でも自然と冷静になるものだ。
「君はこれまで見てきたどの覚醒者よりも才能がある。アカデミーに入学してきた時には生意気だと思っていたこともあったが……これからの戦いにアイゼンは必要な存在になるだろうな」
「そうなれるように頑張ります。……生意気だと思ってたんですか?」
「自分のことを保護してくれなんて要求してきたのだぞ? 能力はありそうだったから承諾したが……肝のすわった相手だと思っていたのさ」
マサヨシは目を細めて笑う。
確かに思い返してみれば、そこそこ態度はデカかったかもしれない。
「だが君には何かがあると思った。あの時の感覚は間違っていなかったよ」
「期待してもらえて嬉しいです」
「ふふ、普通なら期待も重たく感じるのだろうが、君はそれすらも飲み込んでしまう」
マサヨシは楊枝を刺してある羊羹に手を伸ばす。
こんな時にも羊羹を食べるだなんて本当に好きなんだなと思う。
「周りの子たちもアイゼンの影響を受けて成長している。ここ数年で見ても全体的なレベルは非常に高い」
トモナリの存在は周りにも影響を与えている。
ステータスとしてのレベルも高いが、ステータスだけではなく覚醒者としての質も高い。
本当に優秀な者は周りすら成長させる。
トモナリがいることは他の生徒にとってもありがたいことである。
「……モンスターは相変わらずだな」
森の中に一瞬赤い目が見えた。
襲いかかってくるような様子はないものの、絶えることなく監視している。
隙を狙っているのか、ただ見ているだけなのか、なんにしてもわずらわしさを感じる。
「ちょっと反撃しましょうか」
「反撃? どうするつもりだ?」
トモナリはニヤリと笑った。
立ち上がるとテントの中に入っていく。
誰か起こすのかと思ったけれど、テントから出てきたのはトモナリ一人だけだった。
「何をしたのだ?」
「少し見ててください」
トモナリはまた椅子に腰掛ける。
マサヨシもトモナリがそう言うのならとまた羊羹を一口。
「むっ?」
遠くに見えていた赤い瞳が急に下に落ちた。
「なんだ?」
デビルアームの鳴き声が響く。
何かは分からないけれど、何かが起きている。
「人にとって闇は大体敵です。しかし時には闇を味方につける覚醒者もいる」
見えていた赤い目が次々と消えていく。
「ふわっ……眠いよ、トモナリ君」
「……なるほどな」
森に静けさが戻り、見られているような感覚がなくなった。
森の方から黒い影が動いてくることにマサヨシは気がついた。
影が立ち上がり、人の姿になる。
それはマコトだった。
「マコトは闇に溶け込みますからね。ちょっとここらであいつらにも痛い目見てもらいました」
正確には影に溶け込むスキルだが、光なき闇夜は影も暗闇も差別しなくなる。
マコトの能力が最大限に発揮される環境なのだ。
影に紛れたマコトは、ひっそりと森に入ってデビルアームを倒した。
デビルアームからすれば、気づけば仲間が減っていくのだからなかなかの恐怖だろう。
「ありがとな。飲むか?」
「うん、もらうよ」
最初こそ情けなかったマコトも、こうして単独でモンスターを倒せるぐらいの力と胆力を身につけた。
入学時の面接では性格が気弱で、覚醒者として活動できるかギリギリかもしれないと評されていたことをマサヨシは思い出す。
経験もあるのだろうが、トモナリが励ましたり、認めたりすることでマコトも自信をつけていっている。
「頼もしいな……」
テントで寝ている子たちも素晴らしい。
こんな状況でも寝て、体力の回復に努められるのは覚醒者としても必要な能力である。
期待できる若人が多くてマサヨシは誇らしいぐらいの気持ちだった。
「この事態も……ただの事故ではなく彼らの経験となっていくのだろうな」
「何がですか?」
軽く寝て、起こされて、持って来ておいたキャンプ用の折り畳み椅子に座ってテントの外でモンスターの警戒に当たる。
空気が綺麗で星空がよく見える。
時折風が吹いて草木が揺れる以外に音もない。
見張りとして起きているのはトモナリだけでなく、マサヨシも見張りとして起きていた。
ヒカリはそのままテントでスヤスヤである。
「こんな事故を起こしてしまってだ。全盛期なら……運転手を死なせることもなかっただろうに」
今のマサヨシは体に大きな制限がかかっている。
レベルとしては20相当までの力になっていて、それ以上の力を使うと体が負担に耐えきれずにダメージを受けてしまう。
制限内で戦っても通常のレベル20より強いのだけど、やはり不便だと感じることは多い。
レベル100相当ならデビルアームに運転手が襲われた時にすぐに動いて助けることができていた。
事故を防ぐことだって可能だっただろう。
「なぜ学長が謝るんですか? 運転手さんを助けられなかったのは俺も……みんなも同じです」
引率者としての責任もあるのかもしれない。
だがマサヨシに全ての責任があるわけじゃない。
「時として君がひどく大人に見えるよ」
「まあ他の子よりは大人な自覚はありますよ」
トモナリは持って来ていたオレンジジュースを飲む。
季節は夏だけど、場所が場所なだけに意外と涼しさがある。
中身はとっくに大人なので大人びて見えることがあっても当然だろう。
死ぬほどの戦いを何回か経験すれば、こんな状況でも自然と冷静になるものだ。
「君はこれまで見てきたどの覚醒者よりも才能がある。アカデミーに入学してきた時には生意気だと思っていたこともあったが……これからの戦いにアイゼンは必要な存在になるだろうな」
「そうなれるように頑張ります。……生意気だと思ってたんですか?」
「自分のことを保護してくれなんて要求してきたのだぞ? 能力はありそうだったから承諾したが……肝のすわった相手だと思っていたのさ」
マサヨシは目を細めて笑う。
確かに思い返してみれば、そこそこ態度はデカかったかもしれない。
「だが君には何かがあると思った。あの時の感覚は間違っていなかったよ」
「期待してもらえて嬉しいです」
「ふふ、普通なら期待も重たく感じるのだろうが、君はそれすらも飲み込んでしまう」
マサヨシは楊枝を刺してある羊羹に手を伸ばす。
こんな時にも羊羹を食べるだなんて本当に好きなんだなと思う。
「周りの子たちもアイゼンの影響を受けて成長している。ここ数年で見ても全体的なレベルは非常に高い」
トモナリの存在は周りにも影響を与えている。
ステータスとしてのレベルも高いが、ステータスだけではなく覚醒者としての質も高い。
本当に優秀な者は周りすら成長させる。
トモナリがいることは他の生徒にとってもありがたいことである。
「……モンスターは相変わらずだな」
森の中に一瞬赤い目が見えた。
襲いかかってくるような様子はないものの、絶えることなく監視している。
隙を狙っているのか、ただ見ているだけなのか、なんにしてもわずらわしさを感じる。
「ちょっと反撃しましょうか」
「反撃? どうするつもりだ?」
トモナリはニヤリと笑った。
立ち上がるとテントの中に入っていく。
誰か起こすのかと思ったけれど、テントから出てきたのはトモナリ一人だけだった。
「何をしたのだ?」
「少し見ててください」
トモナリはまた椅子に腰掛ける。
マサヨシもトモナリがそう言うのならとまた羊羹を一口。
「むっ?」
遠くに見えていた赤い瞳が急に下に落ちた。
「なんだ?」
デビルアームの鳴き声が響く。
何かは分からないけれど、何かが起きている。
「人にとって闇は大体敵です。しかし時には闇を味方につける覚醒者もいる」
見えていた赤い目が次々と消えていく。
「ふわっ……眠いよ、トモナリ君」
「……なるほどな」
森に静けさが戻り、見られているような感覚がなくなった。
森の方から黒い影が動いてくることにマサヨシは気がついた。
影が立ち上がり、人の姿になる。
それはマコトだった。
「マコトは闇に溶け込みますからね。ちょっとここらであいつらにも痛い目見てもらいました」
正確には影に溶け込むスキルだが、光なき闇夜は影も暗闇も差別しなくなる。
マコトの能力が最大限に発揮される環境なのだ。
影に紛れたマコトは、ひっそりと森に入ってデビルアームを倒した。
デビルアームからすれば、気づけば仲間が減っていくのだからなかなかの恐怖だろう。
「ありがとな。飲むか?」
「うん、もらうよ」
最初こそ情けなかったマコトも、こうして単独でモンスターを倒せるぐらいの力と胆力を身につけた。
入学時の面接では性格が気弱で、覚醒者として活動できるかギリギリかもしれないと評されていたことをマサヨシは思い出す。
経験もあるのだろうが、トモナリが励ましたり、認めたりすることでマコトも自信をつけていっている。
「頼もしいな……」
テントで寝ている子たちも素晴らしい。
こんな状況でも寝て、体力の回復に努められるのは覚醒者としても必要な能力である。
期待できる若人が多くてマサヨシは誇らしいぐらいの気持ちだった。
「この事態も……ただの事故ではなく彼らの経験となっていくのだろうな」

