「トモナリ……!」

「ああ……囲まれてるな」

 ホッとしたのも束の間、周りにモンスターの気配を感じる。
 崖下は森になっていて暗く、顔を上げるとモンスターの赤く光る目が見えた。

「くそっ……」

 マサヨシは戦える状態ではない。
 トモナリも剣を支えにしてなんとか立っているような状態だった。

「ご主人様はお休みください」

「ここは私たちに任せとけよ」

 絶体絶命のピンチだと思ったのだけど、トモナリの前にディーニとサントリが立ってモンスターを睨みつける。

「おいおい、俺たちを忘れるなよ! よいしょ!」

 窓を叩き割ってユウトが飛び出してきた。

「バスん中じゃ役に立たなかったけど、俺たちも戦えるぜ!」

 他のみんなもバスから出てくる。
 どうやら怪我人もいないようである。

「トモナリ君にだけ、いい格好させられないからね!」

「二人も休んでてください。あとは僕たちが戦います」

「……二人とも、危なそうなら助けてやって」

「オッケ」

「分かりました」

 みんなが無事なら状況は違う。
 モンスターに囲まれたぐらいじゃびくともしないだろう。

「いくぞ! トモナリの分までやるんだ!」

「人を死んだみたいに言うなよ……」

 一年生はサポートに周り、二、三年生を中心として戦う。
 相手はデビルアームと呼ばれるモンスターで名前通りに腕が長いことはもちろん、猿が全身の毛を剃られて皮膚が赤黒くなった悪魔っぽい感じの見た目をしている。

 魔物の等級としてはE級の上位、D級に近い感じではある。
 でも今の二、三年生なら問題なく戦えるレベルだろう。

「学長、大丈夫ですか?」

 トモナリはバス近くまで下がって休んでいた。
 マサヨシもそのままにはしておけないのでサントリが肩を貸して連れてきた。

「少し無理をしてしまったな」

 マサヨシは終末教のせいで体に呪いがかけられたような状態になっている。
 強い力を引き出すこともできるのだけど、その分の反動を受けてしまう。

 バスを破壊しないようにしながらバスの勢いを殺すのは簡単な行為ではない。
 微妙な力のコントロールがあったのである。

「君たちもよくやってくれたな」

「力を見せる良い機会だったからな」

 サントリはニカッと笑顔を浮かべる。

「それにしても、モンスターがこのような場所に出てきているということは」

「ゲートがブレイクを起こしたようだな」

 正直マサヨシもまだブレイクは起こらないだろうと思っていた。
 まさかブレイクが起きていて、バスが襲われるなんて思いもしなかった。

「先に行った教員たちは無事だろうか……」

 レベル的には生徒よりも高く、デビルアーム程度の魔物なら戦うのも訳がない。
 しかしなんの連絡もなかったことは気になってしまう。

「電波はどうだ?」

「……圏外ですね」

 トモナリはスマホを取り出して電波の状態を確認する。
 スマホは圏外になっている。

 これじゃあ先に廃村に向かった教員と連絡を取ることも、助けを呼ぶこともできない。

「しかし流石だな……」

 気づけば襲いかかってきたデビルアームは倒されていた。
 まだ他にもいるような気配はあったが、逃げていってしまったようである。

「ここからどうするか……これは問題だな」

「うむ、難しい問題なのだ」

 分かってるのか、分かってないのか知らないけれどヒカリも腕を組んで難しい顔をしている。
 ともあれ、みんな命はある。

 生きている限りは諦めないし、なんとでもできる。

「こんな状況を経験……と言うのは不謹慎かもしれないが、遭難ということもあり得ない訳ではないからな」

 不測の事態によって判断が難しい状況に陥る。
 ゲートの中においてはどんなことでも起こりうるもので、どんな状況にも冷静に対応することが求められる。

 こんな状況、経験しようと思ってできるものではない。
 みんながこれからどうするのか、ちょっとだけ楽しみだとマサヨシは思ったのだった。