「いつからゲートがあるのか分からない。あまり楽観視せず、ブレイクも間近だと覚醒者協会は見ている。迅速な攻略が求められる」

 人の監視下に置かれていない場所に現れたゲートが長く放置された結果、ブレイクを起こしてしまうという例は少なくない。
 今回のゲートも発生時間が不明な以上、ブレイクまでそんなに時間が残っていないと考えておいた方が安全である。

「先生方は先に現地に行ってゲートの調査をしている。ここを越えたら村が見えてくるだろう」

 今はバスの左側に崖が見える道を走っていた。
 道路は時々ガタンと揺れる他は、思っていたよりも綺麗である。

 先にあるという村も廃村になってそう時間は経っていないのかもしれない。

「出てくるモンスターはデビルアームと呼ばれるもので、名前通り腕が特徴的な……」

「トモナリ、何がいるのだ!」

 崖の反対側は森になっている。
 森の中にヒカリは何かを見た。

「うわああああっ!」

 何かがバスに飛び乗ってきた。
 黒い何かが外からバスの中を覗き込んだと思ったら、運転席の窓が割れる音が聞こえてきた。

「ヤバい!」
 
 今回バスを運転しているのは覚醒者ではない普通の人だった。
 割れた窓から赤黒くて筋張った腕が伸びてきて運転手の首を掴んで外に引きずり出す。

「うわっ!?」

 運転手を失ったバスは制御ができなくなる

「くっ!」

 とっさにマサヨシがハンドルに手を伸ばした。
 けれども大きく進行方向を左に向けたバスはガードレールを突き破り、崖を飛び出してしまった。

「ドラゴンズコネクト!」

 バスが空中に投げ出されて、浮遊感が襲いくる。
 トモナリは立てかけていたルビウスを掴むと、スキルのドラゴンズコネクトを発動させた。

 体がスキルで変化していく中で、座席を蹴って窓から飛び出す。

「ぬぅん!」

 ヒカリもトモナリに続いてバスの外に出る。

「まずいな……」

 トモナリが飛び出たのは、一人助かるためではない。
 翼を広げたトモナリは落下するバスの下に回り込む。

「グゥッ!」

 バスの落下を止めねばならない。
 方法を考える時間もなく、トモナリは下からバスを押して少しでも落下速度を落とそうとする。

「僕もやるのだー!」

 トモナリに続けとヒカリもマネをする。
 しかしトモナリとヒカリの力ではバスの勢いを弱めることすらできない。

 覚醒者といっても人間だ。
 落下するバスの中にいて無事に住むはずがない。

「ディーニ!」

「そうですね、サントリ」

 パニックになっているバスの中で冷静に行動するものもいる。

「おらっ!」

 サントリは窓を殴って壊して外に出て、バスを掴んで下に回り込む。

「トモナリ!」

「サントリ!」

「私も手伝うぜ!」

 サントリはバスを持ち上げるように背中をつけて、足を伸ばす。

「おりゃー!」

 サントリは足から炎を噴出させる。

「おおっ! それはすごいのだ! 僕も! ボーッ!」

 サントリを見て、ヒカリもブレスを真下に向かって吐き出す。

「危機的状況、ですが打開する手立てはあるものです」

 ディーニもバスの外に出ていた。
 けれどサントリとは逆でディーニはバスの上にいた。

「ふん」

 ディーニの足から刃が何本も飛び出してくる。
 足をわずかに上げてから振り下ろし、バスの屋根に刃を突き刺して体を固定する。

 両足突き刺したディーニはさらに刃の形を変化させて抜けないようにする。

「パンツの裾がボロボロになってしまいましたね。ですがしょうがないです」

 刃を出したものだから足首付近のパンツはズタズタに裂けてしまっている。
 服をダメにしたら怒られるかなと少し考えるけれど、緊急事態だから許されるだろうと結論に至る。

「さて」

 ディーニは崖を見る。

「止まってくれるといいのですが」

 腕を引く。
 ディーニの腕全体が金属化していき、足と同じように手首から前に向かって刃が飛び出す。

「フッ!」

 ディーニが腕を突き出すと腕が伸びていく。

「ウッ!」

 崖に刃が突き刺さり、バスとの間で腕が引きちぎられてしまいそうな力がかかって顔をしかめる。
 トモナリ、ヒカリ、サントリ、ディーニがそれぞれバスの勢いを殺そうと全力を尽くす。

「くそっ……これでも……」

 多少の勢いは減じたのかもしれない。
 しかしそれを実感できないほどの速度で地面が迫ってくる。

「諦めるかよ!」

 トモナリも下を向き、口を大きく開いてブレスを放つ。

「みんな、よくやってくれた」

 必死になっていたトモナリは気づいていなかったが、バスの速度は落ちていた。
 それでもまだ危険であることに変わりはなかったのだが、いつの間にかマサヨシが下の地面に降りていた。

「フゥン!」

 マサヨシが両拳をバスに向かって振り上げる。
 大きな魔力が動くのをトモナリは感じた。

 バスの前と後ろがベコッとへこんでバスが一瞬空中で止まった。

「……カハッ!」

 マサヨシが血を吐いて膝をつく。
 しかしそんなこと気にしている暇もなくトモナリたちは再び落ち始めたバスを支えて地面まで下ろしたのだった。

「ふぬぅ〜」

「はぁ……はぁ……」

 力を使い果たしたヒカリはフラフラと飛んでいて、トモナリも汗だくになって肩で息をしていた。
 ドラゴンズコネクトも解除されてしまって、魔力はほとんど底をついている。