「おお、そのまま外に出られたのか」

 扉のゲートを抜けるとそこは外だった。
 三十分しかないと少し焦りもあったが、これなら焦ることもなかった。

「ここが外……」

「陰鬱な屋敷よりもよっぽどいいな」

「そうだね、あそこ暗かったし」

「あまりはしゃがないでくださいね」

「……おい! なんでここにいるんだ!?」

 大量のオートマタとの戦いによって命を落とした人もいる。
 死体も回収して出てきたのだが、ディーニたち四人も一緒にゲートの外に出てきていた。

 それに気づいたシノヅカが驚愕したような表情を浮かべている。

「……試練ゲートの報酬かもしれませんね」

 トモナリは笑顔で答える。

「こんなことが可能なのか……いや、しかし……うーん」

 シノヅカが悩んでいる間に、試練ゲートは小さくなって消えていってしまった。
 もう戻れと言っても戻るような先がない。

「もしかしてだけど、トモナリ君、このこと知ってた?」

 ディーニたちがいてもいいのか。
 シノヅカとイガラシが話し合いを始めて、イヌサワはこっそりとトモナリに声をかける。

「……知ってました」

「やっぱり? 確認してたもんね」

 ニコッと笑って耳打ちする。
 鍵を開ければ中のものはトモナリが手に入れる。

 そんなことをしっかりとシノヅカに聞いていた。
 ディーニたちを手に入れられるとイヌサワも思っていなかったので、ゲートの外に出てきて驚いたが、ディーニたちがついてくるのならばそんなことを聞いていたのも納得である。

「思い返してみれば全員直接助けて手に入れたのは君だもんね。ずるーいことするね」

 イヌサワはトモナリの頬を指先でつつく。

「リスク減らして攻略できたんですからいいでしょう?」

 トモナリの目的はディーニたちを助け、そして手に入れることだった。
 ただトモナリばかりが利益を得たわけではない。

 おそらくトモナリがいなければ蝦夷ギルドは攻略に失敗していた。
 成功しても大きな犠牲を払ったことだろう。

 しかしトモナリがいて、ディーニたちを助けたおかげで死傷者の数は最小限に抑えられた。
 イガラシギルドに至っては死人が出ていないぐらいである。

 ディーニたちのおかげで破壊することなくオートマタから取り出せた魔石も多い。
 魔石を売り捌いた後の金銭的な利益も最大限確保できた。

 加えて試練ゲートをクリアしたという大きな名声も得られる。
 何も悪いことなどない。

「あの子たちをどうするつもりなんだい?」

「それは話し合って決めようと思います。望まないなら……戦わなくてもいい」

「てっきり戦わせるつもりだと思ったけど……」

「俺は彼女たちを人だと思ってます。命令できる権利はあるのかもしれないけど、どうするのか決めるのは彼女たちの意思に任せます」

「そのために連れてきたのかい?」

 イヌサワは目を細めてトモナリのことを見る。
 わざわざ苦労を買って出て、利益にならないような選択も甘んじて受け入れるとトモナリは言う。

 自分がディーニたちの主人だったとして、そんなこと言えるだろうかとイヌサワは考えてみる。
 よほど嫌がるなら聞き受けるかもしれないけれど、ひとまず戦ってもらうとは思う。

 ゲートの中での動きを見ていても決して悪いものじゃなかった。
 なのに戦わなくてもいいなんて言えるトモナリの懐の広さには感心してしまう。

「変態オヤジならハーレムにしそうなものだけどね」

 ディーニたちはそれぞれタイプの違う美人である。
 たとえ人じゃなくても、見た目が良いならそれでよしなんて人ならはべらかしてしまいそう。

「そんなことしませんよ」

「分かってるさ。軽い冗談」

「イガラシさん、どうでした?」

 話し合いを終えたイガラシはまっすぐにトモナリのところに来た。

「ひとまず彼女たちは君が預かるということになった。事前に確認していたようにゲート内での取得者が所有権を持つ……それに君が契約を交わしたようだし、向こうも彼女たちに助けられたと文句はないようだ」

 イガラシはトモナリの目的を察して、上手く話をまとめてくれていた。
 シノヅカの方もディーニたちを寄越せと要求するつもりはなく、本当に外に出して大丈夫なものなのかと心配しているだけであった。

「覚醒者協会に連絡して、色々と調査はされるだろうな」

「まあ……しょうがないですよね」

 ディーニたちはこの世界にとって未知の存在である。
 すぐに受け入れられることは難しいかもしれない。

 けれどもトモナリはどうなろうとディーニたちの味方でいようと思った。

「さて、帰りますか。まだ色々やることは残ってるから……早く休みたい」

 なんだかんだと攻略で疲れている。
 ディーニたちがどうするかは後で話し合うことにして、トモナリたちは試練ゲートがあった場所を後にしたのであった。