ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした

「何だか終わりに近づいている感じがあるね」

 三階に上がってくると正面にドアがあった。
 ここまで通路があって横にドアが並んでいる形だったのに少し様子が変化した。

 こうした変化はゲートの攻略が終わりに近づいていることを予感させる。

「待ってください」

「なんだ?」

「あちらに」

「あちら?」

 ドアまでの短い通路の真ん中でディーニが立ち止まった。
 横を向いたので視線の方を見てみるとそこに窓があった。

「あれ? そういえばここには窓があるんだね」

 これまで建物の中にありながらも窓がなく、外の様子は一切わからなかった。
 イヌサワは窓から外を覗こうとするが、窓の透明度は低くて外は見えない。

「窓がどうかしたのか?」

「外にいます」

「外?」

 みんなが一斉に窓を見る。
 いるという言葉に敵がいるのかと警戒する。

「姉妹が外に」

「話に出ていた残りの一体か」

「そうです」

 ディーニが頷く。
 イヌサワは窓に手を伸ばす。

 取っ手に手をかけて引いてみると多少の軋む音と共に窓が開いた。

「バルコニーがあるのか」

 イヌサワがオートマタに警戒しながら外を覗く。
 一応ちゃんと三階にいるらしく地面が遠くに見える。

 窓を出てすぐのところにバルコニーがあって出られるようになっていた。

「僕が出てみるよ」

 ここまで外に出るなんてことはなかった。
 イヌサワが剣を抜いて窓の外のバルコニーに出る。

 何かがあってもイヌサワなら対応できるだろう。

「バルコニーに敵はいない。出ても大丈夫だ」

 バルコニーはそんなに広くない。
 あまり大勢で出ていっても身動きが取れなくなってしまうので、限られたメンバーで出ることにした。

 トモナリとディーニ、能力で小回りが効くタンクとしてフウカも任された。

「気をつけてくださいね」

「うん」

 バルコニーは長めに続いている。
 先の方にオートマタの姿はないけれど、どこから襲ってくるか分からないのでフウカを先頭にして慎重に進んでいく。

「ハシゴ……上に登れるようになってるんだね」

 バルコニーの反対側の端までくると、そこにはハシゴがあった。
 見上げると、上は屋根になっている。

 ハシゴを登っていくと屋根の上に出られそうだ。

「僕が先に上がろう」

 ハシゴを登った瞬間に襲われる。
 そんな可能性も否定はできない。

 ならばハシゴを登らずに上に行けばいいのである。
 イヌサワは重力操作で自分の体を軽くすると高く飛び上がった。

 ハシゴを使うことなく屋根の上に着地する。

「……ひとまず平気だ。上がって!」

 イヌサワは状況を確認してトモナリたちに声をかける。
 念のためフウカが先にハシゴを登る。

 続いてディーニ、トモナリも屋根に上がった。

「何だあれは……犬?」

 平らな屋根の上には小さな檻が一つ。
 その中にオートマタが膝を抱えて座っている。

 そして檻の前には大型犬ぐらいのサイズの何かが丸くなって寝ていた。
 どうにも普通のモンスターではなくオートマタのようだ。

「あんなタイプのやつもいるのか」

 人型ではなくケモノ型のオートマタはここまでで初めて見る。

「ご主人様、お願いがあります」

「俺にできることならやるけど」

 ディーニは犬のオートマタをじっと見つめている。

「ヘキサム……あの子を倒さないでくれませんか?」

 犬のオートマタはゆっくりと立ち上がると、唸るように牙を剥き出した。
 どう見ても敵対している。

「倒すなって言っても……」

「シテトラを助ければあの子も止まります。あの子を壊すと……シテトラが悲しむから」

「……あれを避けて、あの子を助ければいいんだな?」

 幸いにして、他に敵はいない。
 相手が犬のオートマタ一体だけなら対処もできそうだとトモナリは思った。

「そんな目をしなくても可愛い後輩くんのお願いなら聞くよ」

 敵対するオートマタを殺さないように制圧してほしい。
 話を聞いていたイヌサワはトモナリの視線にウインクで返した。

「ふっふっ〜。僕に任せるのだ!」

「ヒカリ? 何か作戦あるのか?」

「まあ見てるのだ!」

 胸を張ったヒカリが犬のオートマタに近づく。
 睨み合うようにしながら少しずつヒカリは距離を詰めていくのだが、何をするのかトモナリにも分からない。

「……おすわり!」

 何をするのかと思ったら、ヒカリはピッと手を伸ばして犬のオートマタに命令を出した。

「にょわぁ〜! なんでなのだぁ〜!」

「……イヌサワさん、お願いします」

「はははっ! いや、悪くない試みだったと思うよ!」

 当然犬のオートマタが命令を聞くはずがない。
 ヒカリは犬のオートマタに追いかけ回される。

「あれは僕に任せて、トモナリ君は早く」

「分かりました!」

 結果的にヒカリが注意を引きつけてくれている形になったので、トモナリはディーニとフウカに守られながら檻に向かう。

「おっと、ダメだよ、ワンちゃん」

 檻の方にトモナリたちが向かうのを察知した犬のオートマタが、ヒカリを追いかけるのをやめて振り返った。
 そのままヒカリを追いかけてくれていれば楽だったのにと思いながらもイヌサワはスキルを使う。

 トモナリたちの方に駆け出そうとした犬のオートマタの体が浮かび上がっていく。