「美味し」
ペンターゴが小動物のようにサクサクとうみゃー棒を食べる。
「やたらと羊羹が……しかも高級品」
割と大きめのカゴの中を漁るイヌサワは羊羹が多いなと思った。
お手軽サイズなものから謝罪にも使えそうな立派な羊羹まであって、ちょっと不思議であった。
「とある人から時々もらうんです」
「ふーん、そうなんだ。一本もらってもいい?」
「どうぞ」
「やった! そのままかじるの、やってみたかったんだよね!」
イヌサワは大きな羊羹を手に取るとそのまま剥いてかじりついた。
高級羊羹一本喰いという贅沢である。
「お茶が欲しくなるね」
「あったかいのありますよ」
「おおっ!? それはすごいね!」
トモナリはインベントリから大きな水筒と湯呑みを取り出す。
「まさか湯呑みまで完備とはね……」
「こうしたものから精神的な余裕が生まれることもありますからね」
トモナリは湯呑みにお茶を注いでイヌサワに渡す。
極限の状態の時ほどいかに体の力を抜いて、精神的なゆとりを持って休むことが大切になる。
お菓子やお茶、湯呑みだって本来は必要ないものである。
ただお菓子を食べて、湯呑みでお茶を飲むというあたかも日常のワンシーンを体感することで人は意外と精神的に落ち着くのだ。
「まあ、インベントリに余裕があるからですね」
余裕があるから色々持ってくる。
いざとなればお菓子や湯呑みは捨ててもいい。
「なんだか時々、君は僕よりもベテランの覚醒者みたいだね」
本当に一本食べてしまいそうな勢いでイヌサワは羊羹をモグモグとしている。
「それ、私も飲みたい」
「こら、ペンターゴ!」
ペンターゴがトモナリの服をくいっと引っ張った。
「いいよ、待ってね」
妹がいたことはないが、妹がいたらこんな感じなのかなと少し思う。
湯呑みを取り出してお茶を入れてあげる。
「熱い……」
「ああ、あったかいやつだから、気をつけてね」
「でも嫌いじゃない」
ペンターゴはお茶を一口飲んでベッと舌を出した。
熱かったようである。
オートマタも熱さをかんじるのかと思いつつ、トモナリが注意してやるとペンターゴはイヌサワを見習うように息で冷ましながら少しずつ飲み始める。
「申し訳ありません、ご主人様」
「ご主人様……」
「何かお気に召しませんでしたか?」
「いや……そうじゃないけど」
キズクが一瞬表情を曇らせたのでディーニは不思議そうに小首を傾げた。
「ご主人様ってのはなんだかね」
ちょっと背中がむずむずするような呼び方だなとトモナリは思った。
「ダメでしょうか?」
「ダメってわけじゃないけど……」
「いいじゃないご主人様」
サントリもお菓子を食べながら笑顔を浮かべる。
「こんな美少女にご主人様って呼ばれるのよ?」
「それは嬉しいかもな……でも名前なんかじゃダメか?」
悪い気はしない。
だからと言ってずっと読んでほしいと思うほどでもない。
恥ずかしさがあったり、周りの目が気になったりしてしまう。
「ダメです」
「いいんじゃない?」
ディーニとサントリの声が重なる。
「お堅いねー」
「あなたは軽すぎます」
「ご主人様がいいって言ってるんだからさ」
「お仕えすると決めたのですから礼節はわきまえるべきです」
ディーニとサントリが睨み合う。
「まあ……好きに呼んでくれ」
名前にしてもご主人様にしても、自分で呼ばせているというものが一つ乗っかりそうでトモナリは小さくため息をついた。
「ん?」
「お兄様」
「んん?」
「好きに呼ぶ」
またしても服を引っ張ったペンターゴの方を見ると、イタズラっぽい目をして笑っていた。
好きに呼んでくれとはいったけれど、予想外の呼び方で驚いてしまう。
「む……まいべすとぱーとなぁ」
「それはやめてくれ」
若干嫉妬を燃やしたヒカリもトモナリの裾を引く。
マイベストパートナーなのは認めるけれど、いちいちそんな長い呼び名では面倒である。
「ヒカリはトモナリでいいよ。一番親しい呼び方だろ?」
「トモナリぃ……」
トモナリはヒカリを抱きかかえて頭を撫でてやる。
「そろそろいいか?」
「三人とも大丈夫?」
「はい、ご主人様」
「大丈夫だよ、トモナリ様」
「うん、お兄様」
「多種多様な呼び方をされてるね」
「……まあ、なんでもいいですよ」
イヌサワは羊羹を食べ切ってお茶で流し込む。
こうして攻略は再開された。
「なんなのだ、これ?」
「ここはバスルームです」
真ん中に一人用の浴槽がポツンと置かれた部屋にヒカリは首を傾げた。
いわゆる中世風の世界観らしく、お風呂が備え付けられている浴室なんてものはない。
部屋に置かれたバスタブにお湯を沸かして入るのがこの世界、この洋館においての入浴というものらしかった。
「偽物は消し飛びなさい!」
サントリもオートマタを止められて、三人合わせておよそ三分の一ほどが動かなくなった。
それでもまだまだ動いているオートマタはいるので戦わねばならない。
サントリの体に赤い刺青のようなものが浮かび、燃え盛る炎を放つ。
サントリは魔法を駆使した接近戦闘タイプという少し珍しい戦い方をする。
炎をまとった拳で攻撃したり、近距離で魔法を放ったりする高火力の戦闘スタイルだ。
キッチンの他に書斎、執務室、バスルーム、衣裳室など一階とは毛色の違う部屋が並んでいた。
衣装をかき分けた奥に上への階段があった。
二階にはもうディーニたちの仲間はいないようで、トモナリたちは三階に上がることにした。
ペンターゴが小動物のようにサクサクとうみゃー棒を食べる。
「やたらと羊羹が……しかも高級品」
割と大きめのカゴの中を漁るイヌサワは羊羹が多いなと思った。
お手軽サイズなものから謝罪にも使えそうな立派な羊羹まであって、ちょっと不思議であった。
「とある人から時々もらうんです」
「ふーん、そうなんだ。一本もらってもいい?」
「どうぞ」
「やった! そのままかじるの、やってみたかったんだよね!」
イヌサワは大きな羊羹を手に取るとそのまま剥いてかじりついた。
高級羊羹一本喰いという贅沢である。
「お茶が欲しくなるね」
「あったかいのありますよ」
「おおっ!? それはすごいね!」
トモナリはインベントリから大きな水筒と湯呑みを取り出す。
「まさか湯呑みまで完備とはね……」
「こうしたものから精神的な余裕が生まれることもありますからね」
トモナリは湯呑みにお茶を注いでイヌサワに渡す。
極限の状態の時ほどいかに体の力を抜いて、精神的なゆとりを持って休むことが大切になる。
お菓子やお茶、湯呑みだって本来は必要ないものである。
ただお菓子を食べて、湯呑みでお茶を飲むというあたかも日常のワンシーンを体感することで人は意外と精神的に落ち着くのだ。
「まあ、インベントリに余裕があるからですね」
余裕があるから色々持ってくる。
いざとなればお菓子や湯呑みは捨ててもいい。
「なんだか時々、君は僕よりもベテランの覚醒者みたいだね」
本当に一本食べてしまいそうな勢いでイヌサワは羊羹をモグモグとしている。
「それ、私も飲みたい」
「こら、ペンターゴ!」
ペンターゴがトモナリの服をくいっと引っ張った。
「いいよ、待ってね」
妹がいたことはないが、妹がいたらこんな感じなのかなと少し思う。
湯呑みを取り出してお茶を入れてあげる。
「熱い……」
「ああ、あったかいやつだから、気をつけてね」
「でも嫌いじゃない」
ペンターゴはお茶を一口飲んでベッと舌を出した。
熱かったようである。
オートマタも熱さをかんじるのかと思いつつ、トモナリが注意してやるとペンターゴはイヌサワを見習うように息で冷ましながら少しずつ飲み始める。
「申し訳ありません、ご主人様」
「ご主人様……」
「何かお気に召しませんでしたか?」
「いや……そうじゃないけど」
キズクが一瞬表情を曇らせたのでディーニは不思議そうに小首を傾げた。
「ご主人様ってのはなんだかね」
ちょっと背中がむずむずするような呼び方だなとトモナリは思った。
「ダメでしょうか?」
「ダメってわけじゃないけど……」
「いいじゃないご主人様」
サントリもお菓子を食べながら笑顔を浮かべる。
「こんな美少女にご主人様って呼ばれるのよ?」
「それは嬉しいかもな……でも名前なんかじゃダメか?」
悪い気はしない。
だからと言ってずっと読んでほしいと思うほどでもない。
恥ずかしさがあったり、周りの目が気になったりしてしまう。
「ダメです」
「いいんじゃない?」
ディーニとサントリの声が重なる。
「お堅いねー」
「あなたは軽すぎます」
「ご主人様がいいって言ってるんだからさ」
「お仕えすると決めたのですから礼節はわきまえるべきです」
ディーニとサントリが睨み合う。
「まあ……好きに呼んでくれ」
名前にしてもご主人様にしても、自分で呼ばせているというものが一つ乗っかりそうでトモナリは小さくため息をついた。
「ん?」
「お兄様」
「んん?」
「好きに呼ぶ」
またしても服を引っ張ったペンターゴの方を見ると、イタズラっぽい目をして笑っていた。
好きに呼んでくれとはいったけれど、予想外の呼び方で驚いてしまう。
「む……まいべすとぱーとなぁ」
「それはやめてくれ」
若干嫉妬を燃やしたヒカリもトモナリの裾を引く。
マイベストパートナーなのは認めるけれど、いちいちそんな長い呼び名では面倒である。
「ヒカリはトモナリでいいよ。一番親しい呼び方だろ?」
「トモナリぃ……」
トモナリはヒカリを抱きかかえて頭を撫でてやる。
「そろそろいいか?」
「三人とも大丈夫?」
「はい、ご主人様」
「大丈夫だよ、トモナリ様」
「うん、お兄様」
「多種多様な呼び方をされてるね」
「……まあ、なんでもいいですよ」
イヌサワは羊羹を食べ切ってお茶で流し込む。
こうして攻略は再開された。
「なんなのだ、これ?」
「ここはバスルームです」
真ん中に一人用の浴槽がポツンと置かれた部屋にヒカリは首を傾げた。
いわゆる中世風の世界観らしく、お風呂が備え付けられている浴室なんてものはない。
部屋に置かれたバスタブにお湯を沸かして入るのがこの世界、この洋館においての入浴というものらしかった。
「偽物は消し飛びなさい!」
サントリもオートマタを止められて、三人合わせておよそ三分の一ほどが動かなくなった。
それでもまだまだ動いているオートマタはいるので戦わねばならない。
サントリの体に赤い刺青のようなものが浮かび、燃え盛る炎を放つ。
サントリは魔法を駆使した接近戦闘タイプという少し珍しい戦い方をする。
炎をまとった拳で攻撃したり、近距離で魔法を放ったりする高火力の戦闘スタイルだ。
キッチンの他に書斎、執務室、バスルーム、衣裳室など一階とは毛色の違う部屋が並んでいた。
衣装をかき分けた奥に上への階段があった。
二階にはもうディーニたちの仲間はいないようで、トモナリたちは三階に上がることにした。

