「今回魔法使いの個体はいないな……」

 厄介な遠距離攻撃をするオートマタはいない。

「ならさっさと倒すのがいいな!」

 優先すべきような相手がいないなら、普通のオートマタを倒してイヌサワとイガラシを助けにいくのがいいだろう。

「はああっ!」

 ペンターゴが斧を振り回す。
 細腕のどこにそんな力があるのかというぐらいの勢いで振り回される斧にオートマタが吹き飛んでいく。

 意外と戦い方も様になっている。

「ごめんなさい……」

 謝りながらディーニがオートマタの胸に手を突き刺した。
 手は金属質に変化していて、そのまま魔石を抜き取る。

 同じオートマタであっても関係ないようで、ディーニに対して後ろから斬りかかる。
 ディーニは腕から刃を出して防御し、金属化した手でオートマタの胸を貫く。

 貫いたその手には魔石が握られていた。

「……ディーニは魔石の位置が分かっているのか?」

 ディーニの効率良さは異常なレベルだ。
 まるで魔石の位置が分かっているかのように一撃で魔石を抜き取ってオートマタを倒していく。

「はい、私には彼女たちの心臓部の位置が分かります」

 また一体の魔石を抜き取りながらディーニが答えた。

「ペンターゴは……」

「他の姉妹には分かりません」

「なるほど」

 ペンターゴは魔石も何も関係なくオートマタを破壊していっている。
 敵のオートマタから奪った武器なのに、使い手が違うだけであれだけ破壊力が違うのかと驚いてしまう。

「ヒカリ、イヌサワさんを助けるぞ!」

「分かったのだ!」

 ディーニとペンターゴの奮戦もあってオートマタの数もだいぶ少なくなった。
 状況を見たトモナリは、六本腕のオートマタと戦うイヌサワを手助けすることにした。

「イヌサワさん!」

「おっ、来てくれたね」

 それほど苦戦しているわけでもないが、体力や魔力の消耗を抑えつつみんなを待って倒した方がいいとイヌサワは抑えめに戦っていた。
 苦戦はしていないけれども六本の腕から繰り出される素早い攻撃は厄介だ。

「左三本頼むよ」

「分かりました!」

 顔が綺麗な人形なだけに、人の形を外れると結構違和感が強くて気持ち悪く感じられる。
 トモナリとヒカリが左から攻め、イヌサワが右から攻める。

 どこ見ているのかも分からないが、六本腕のオートマタは巧みに六本の腕をそれぞれ動かしてみせる。

「ガシィ!」

 ヒカリがサッと六本腕のオートマタの腕を掴む。
 両手で一本、尻尾を巻きつけて一本の合計二本を拘束した。

「おっと!」

 二本拘束しても、もう一本残っている。
 ヒカリのことを包丁で突き刺そうとしたが、そうはトモナリが許さない。

 オートマタの腕をトモナリは掴む。
 ヒカリが二本を、トモナリが一本を拘束した。

 そしてトモナリにはもう一本腕がある。

「そうはさせないぞ」

 トモナリが剣に炎をまとわせる。
 オートマタが拘束を解こうとして出来た隙をついて、イヌサワは腕を切り落とす。

「はあっ!」

 トモナリは炎をまとった剣を真横に振る。
 オートマタの胴体が真っ二つに切り裂かれた。

「ナイスだよ、二人とも!」

 イヌサワは素早くオートマタの切断面を確認する。
 下側に魔石は見えない。

 ならば上の方である。
 イヌサワは半分に切られた胴体の上側を、さらに縦に半分に切り裂く。

「見つけた!」

 縦に半分にされた胴体に魔石が見えた。
 イヌサワは手を伸ばし、重力操作のスキルを使って魔石を引き寄せる。

 オートマタにくっついているのかほんの少しの抵抗はあったものの、魔石はオートマタの体を離れてイヌサワの手に飛んでいった。

「しゅた! ぱーふぇくとぅ! わーはっはっはっ!」

 ヒカリはトモナリの頭にまたがるように肩に着地すると胸を張って、自慢げに笑う。

「イガラシさんは……大丈夫そうだな」

 もう一体の六本腕のオートマタはイガラシが戦っていた。
 どうなったか見てみると他のイガラシギルドのメンバーが合流して倒していた。

「他のオートマタも……ほとんど終わってるな」

 ディーニとペンターゴが止めている以外のオートマタも倒されている。

「気配は……」

「あの大鍋だろ?」

 残りのオートマタもきっちり仕留め、動きが止められているオートマタも魔石を抜き取って倒しておいた。
 キッチンにはディーニとペンターゴの仲間がいる気配があると聞いていた。

 しかしキッチンに繋がるような部屋はなく、床にカーペットもなければ隠してある扉のようなものもない。
 だがトモナリはどこに仲間のオートマタがいるのか分かっている。

 キッチンには巨大な鍋が置いてある。
 寸胴とでもいうのだろうか、それこそ人でも入れそうな大きさがある。

 ただ不自然にロープで縛られて、蓋の上には四角い石が置いてある。
 怪しさしかない。

 見た目にも何かあるなと勘が鋭ければ思うだろう。
 しかしトモナリが大鍋が怪しいと思ったのは知っていたからだ。

 ロープを切り、石をどかして大鍋の蓋を開ける。

「おはようございます……あなたは誰ですか?」

「おはよう。俺はアイゼントモナリ。君は……サントリだね?」

 大鍋の中に入っていたのは燃えるような赤い瞳、赤い髪をしたオートマタであった。