ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした

「大丈夫か?」

「ええ、なんとか」

「みんなを気をつけろ。どこから敵が来るか予想もできないからな」

 ついでなので軽く休憩の時間として、ポーションの効果もあってキムラの怪我は治った。
 攻略の人員に余裕はない。

 キムラ一人でも戦力であるし、怪我したからと離脱もさせられない。
 一人で返すわけにもいかず、だからと言って何人か付けてやって外まで護衛させることもできなかった。

 そのためにインベントリから予備の装備を取り出して、このまま攻略に参加し続けてもらうしかないのである。
 上から来る可能性があるということはみんなの脳裏に刻まれた。

 一応建物の形をなしている以上は足元から来る可能性は低いが、それでも警戒はしておく。
 ディーニのおかげで襲撃してくる敵の数が減って少しやりやすくなった。

 多少の怪我人は出つつも攻略は進んでいた。

「近いです」

「近くにいるのか?」

 ディーニが何かを感じ取ってトモナリに耳打ちする。
 別にコッソリする必要はないが、ディーニなりの配慮かもしれない。

「ただ……何もない……」

 ディーニが何かを感じた部屋にもオートマタはいた。
 倒して部屋の中を確認するが、ドアなんかがあるわけではない。

「下です」

「下? カーペットの下に何かあるのか?」

 下だと言われて視線を落とす。
 部屋の中には赤いカーペットが敷いてある。

「簡単にめくれるな」

 シノヅカに声をかけて少し待ってもらう。
 部屋の隅に立ってカーペットに手をかけてみると、思いの外簡単にペロンとめくれる。

「こりゃあ……隠し扉か」

 そのまま大きくカーペットを引っ剥がすと、床に扉があった。

「鍵はなしか」

 鉄製の取っ手を軽く引っ張ってみると扉がうっすらと開く。
 この扉には鍵などがかけられていないようだ。

 扉を開いてみると中には階段があった。

「危ないから」

「すいません。ありがとうございます、先輩」

 階段を降りていこうとするトモナリをフウカが止めて、先に入っていく。
 ディーニを見つけた部屋でも不用心だったとフウカはちょっと怒っていた。

 タンクという危険を背負う人がいるのだから、任せてくれればいいと誇りを持って仕事をしている。
 暗い階段を降りていくと狭い部屋に出た。

 オートマタはおらず、部屋のど真ん中に大きな宝箱が一つ置いてある。

「あの中に……いる」

 宝箱しかないのだから何かあるなら宝箱だ。
 フウカが闇をまといながら宝箱に近づく。

 ひとまず宝箱までに罠はない。
 闇の手で宝箱を開けようとしてみる。

「鍵がかかってる」

 開けたら罠が発動する。
 そんなこともあり得るが、宝箱は鍵がかかっていて開けられなかった。

「任せてください」

 本来ならきっと洋館のどこかに鍵があるのだろう。
 しかしトモナリには秘密兵器がある。

 トモナリは宝箱に近づいて鍵を取り出す。
 ゲートの中限定という不便さのためにオークションでもあまり人気がなかった品物であるが、意外と使おうと思えば使えるものである。

 宝箱の鍵穴に鍵を差し込むトモナリの周りにフウカの闇がまとわりついている。
 いざとなれば守ってくれるということなのだろう。

 こんなに温かい闇は初めてだ。

「開けますよ」

 鍵を回すとガチャリと重たい音がした。
 トモナリが一度フウカのことを見て、それから宝箱の蓋に手をかける。

 大きな宝箱は意外と重たい。
 グッと腕に力を込めて宝箱を開く。

「ペンターゴ」

 宝箱の中に入っていたのはオートマタであった。
 フリフリのドレスを着て、宝箱の中に詰め込まれたためか膝を抱えるように小さくなっている。

 ディーニがペンターゴと呼んだオートマタは、パチっと目を開くと体を起こす。
 ルビーのような赤い瞳がトモナリのことを見つめ、ぼんやりとするようにパチパチと瞬きする。

「ディーニ?」

 そしてトモナリの後ろに立っているディーニに気づいて驚いたような顔をする。

「おはよう、ねぼすけさん」

 ペンターゴはディーニよりもいくらか幼い少女に見えた。
 瞳の色こそ違うが顔立ち的には似ていて、どちらもかなり美形の顔をしている。

「この人は?」

「マスター。私は彼に従うと決めた」

「じゃあ私も」

 ペンターゴは箱の中に入ったまま手を伸ばすとトモナリの手を取った。
 そして手の甲に口づけする。

 すると手の甲が熱く感じられる。
 しかし二回目なのでわずかに眉を寄せるだけで耐えられた。

 手の甲に新たな模様が浮かび上がる。
 ディーニの模様とくっつくような模様はすぐにスッと消える。

「みんなは?」

「まだ。でもこの人なら解放してくれるかもしれない」

「本当?」

「……努力はするさ」

 ペンターゴに見られてトモナリは笑顔で頷いた。

「うん、いい人そうだね」

 ペンターゴが立ち上がる。
 身長も小柄である。

「アイゼン君……このオートマタも……」

「仲間にしました」

「ふぅむ……君は不思議な力を持っているのだな?」

「これは俺の力じゃないですよ」

 ヒカリと同じようにスキルで契約したわけじゃない。
 どちらかというとディーニたちの能力である。

 二体目ともなると蝦夷ギルドも異常な状況を受け入れ始めている。
 ディーニが有能だったので、ペンターゴにも少し期待もしていた。