「それは……」

「少し前に手に入れたんです」

 トモナリはニコッと笑って答える。
 先日オークションで落札したゲートの中限定でどんなものの鍵も開けられるというアーティファクトである。

 どうしてそんなものを落札したか。
 それはこの時のためだった。

 試練ゲートについては情報が出ているものもあれば、出ていないものもあった。
 攻略情報をまとめを作ろうという人もいた。

 けれど試練ゲートそのものが色々な国にまたがって出現している上に一発で攻略成功してちゃんとした情報がないとか、生き残った人が少ない、いないことや攻略した人が情報を出さないなど複雑な理由で難航した。
 しかしオートマタゲートは意外と情報が多かった。

 三回失敗したということもあるのだけど、本来ならもう何回か攻略に失敗する。
 結果的に攻略の許可を外国のギルドにまで広げる。

 こうして攻略されたオートマタゲートは攻略のための情報が残されたのだ。
 ただトモナリの場合はそれに留まらない情報がある。

「入りますよ」

「おい、そんな不用心に……」

 南京錠が外れると鎖も同じく床に落ちる。
 トモナリがサッとドアを開くとシノヅカは慌てた顔をした。

 オートマタが飛び出してくる可能性があった。
 けれどもオートマタは飛び出してこない。

「……なんだ?」

「トモナリ君……あれはなんだい?」

 窓もない部屋の中には一体のオートマタがいた。
 手足を鎖で繋がれ、口にはくつわを、目には布が巻かれている。

 異様なオートマタにシノヅカのみならずイヌサワたちも警戒をあらわにする。

「アイゼン君……!」

 もっと警戒すべきなのにトモナリはスタスタとオートマタに近づく。
 オートマタの前に立ったトモナリはスッと手を伸ばす。

 オートマタの目を覆う布に手をかけると、取り外してニコリと笑う。

「初めまして。俺はアイゼントモナリ」

「僕はヒカリなのだ!」

 目の布を取るとオートマタは目を開いた。
 まるで宝石のような紫色の瞳は作り物のようには見えなかった。

「うー……」

「オートマタが……」

「声を発した?」

 声と呼ぶにはあまりも弱々しく、何かの意味をなしたものでもなかった。
 くつわをされているのでそれもしょうがない。

 トモナリはオートマタのくつわを外す。
 人形のはずなのに指先にオートマタの息が触れた。

「……私を助けてください」

「しゃべった……」

 トモナリの様子を窺っていたみんなが驚愕する。
 モンスターであるオートマタがトモナリに対して言葉を投げかけた。

 言葉を介するモンスターが存在しないこともない。
 しかしオートマタは人形であり、ここまでオートマタから知性のようなものを感じたことはなかった。

 見た目だけ人っぽく作られているが、ただの人形であることは明白だった。

「……まるで人みたいだ」

 なのに言葉を発した囚われのオートマタは目に理性を感じさせ、全てにおいて人のようだとみんなは感じていた。

「助ける見返りは?」

「あなたに忠誠を誓います。それに私がいればこの屋敷ではお役に立つでしょう」

「どう信じればいい?」

「……手の甲を顔に近づけてください」

 トモナリは言われた通りに手の甲をオートマタの顔に近づける。

「チュッ……」

 オートマタはトモナリの手の甲に口づけした。

「うっ……」

 トモナリの手の甲が一瞬熱をもった。
 痛みでもないが、まるで火でも燃え移ったようでトモナリは顔をしかめた。

 見ると手の甲に淡く光る模様が浮かび上がっている。

「忠誠の誓いです」

「君の名前は?」

 トモナリが名前を訊ねるとオートマタは少し驚いたような顔をした。

「私はディーニです」

「そうか。じゃあ拘束を解くぞ」

 トモナリは鍵を取り出す。
 手足を拘束する鎖の鍵を外す。

「みなさん、こいつは敵じゃありません」

「……どういうことだ? どうして君はそんなことを……」

 あまりにあっさりとトモナリは物事を進めてしまったが、冷静に考えてみるとおかしなところだらけだ。
 どうして鍵を開けるアーティファクトを持っているのか、なぜオートマタが敵ではないと分かっていたのか、謎のことが多すぎる。

 どう見てもトモナリが全てを分かっていたようにしか思えなかった。

「シノヅカさん、今回我々が参加した理由は分かっていますね?」

「……ああ、そういえば。なるほど、その関係ですか」

 イガラシギルドが参加することになった理由が、未来予知に関係しているということをシノヅカは知っている。
 トモナリと目があったイガラシがそれとなく未来予知だろうと示唆し、シノヅカもそれで納得してくれた。

「つまり攻略に関わること……なんですね」

 トモナリの不可解な行動も未来予知によるものだとしたら納得もできる。
 性格にいえば未来を予知したのではなく、未来において出ていた情報を知っているからそれを元に行動しているのだ。

「お仲間様もご納得してくださったようですね」

 何かあればすぐにでも飛びかかってくる気配をディーニは感じていた。
 しかしまだ警戒心はありつつも、ひとまず攻撃してくるような雰囲気はいくらか収まった。

「……一つ聞きたい」

「私に答えられることならば」

「サントリ……というオートマタはいるか?」

「どうしてその名前を……」

 オートマタは驚いて目を見開いた。