ゲートには大変ものも多いが、そのリスクに見合った報酬をくれるものもある。
 試練ゲートは実際の攻略難易度が高いことがほとんどであり、攻略せねばならないものである。

 だがNo.10ゲートがうまく利用すれば能力値を大きく伸ばせたことように、試練ゲートも大きな利益や報酬を見込めることもあるのだ。
 むしろ回帰前の記憶から考えるに試練ゲートの多くはどこかに報酬がある可能性が大きい。

 特殊な条件があったりするものの、特殊な報酬が設定されているのではないかとトモナリは踏んでいた。
 できるなら報酬全部独り占めしたい。

 しかしそれは現実的な話ではない。
 トモナリ一人の力で出来ることに限度がある。

 攻略の難しい試練ゲートを全部攻略できるはずもない。
 加えて試練ゲートは世界各地に発生している。

 報酬を得られる可能性もあるし、大きな国ほど他国を頼るのは恥だと考える。
 基本的に自分の国で試練ゲートは攻略してしまう。

 日本に発生したNo.10ゲートも最初は日本の覚醒者ギルドのみに攻略の許可を出していたなんて経緯もあったのだ。
 よほど攻略が難しくて失敗が続く、覚醒者が少ない小国に発生した、あるいはどこの国でもないところに現れたなどでない限り自国以外の試練ゲートに参加することも難しい。

 人類の利益になるなら他の人が報酬を得てもいいだろう。
 トモナリは記憶にある限りの報酬を予知として覚醒者協会に報告したり、試練ゲートをただ攻略するだけでなく詳細調査するように勧めていた。

 だけど、自分で欲しいなと思っている報酬もあった。

「まさかこんなお願いをされるとはな」
 
「すいません。どうしても俺じゃ無理で」

「いいさ。たまにはこうした場も悪くない。未成年厳禁……などとやぼったいことも言わない場であるしな」

 マサヨシはフッと笑う。
 今トモナリはとあるホテルにいた。

 高級ホテルとして有名なところで、とてもじゃないがトモナリがホイホイと泊まるような場所でもない。
 そもそも、そんなホテルに泊まるような用事もないのに来ているのには理由がある。

 今回トモナリはマサヨシにホテルに連れてきてもらっていた。
 マサヨシがトモナリをホテルに連れてきたのは、マサヨシの用事ではなくトモナリにお願いされたからである。

「それにしてもオークションに出たいとはな……」

 ホテルに連れてきてもらった理由、それはオークションに出たいとトモナリがお願いしたからだった。

「それもディエルンオークション……流石の俺も少し苦労したぞ」

「ありがとうございます」

 トモナリが出たいとお願いするぐらいのオークションなのだから、ただのオークションとは訳が違う。
 ディエルンオークション。

 出品されるものは全てゲートの中で見つかったものであり、通常のオークションには出てこないような貴重な品、珍品がオークションにかけられる。
 そしてお客もただの人たちじゃない。

 世界的な金持ちや覚醒者、大きなギルドの関係者なんかがオークションに参加する。
 トモナリ個人ではオークションに参加したくともできるはずがなかった。

 そこでマサヨシに連絡してみたのだ。
 ダメならタイショウやミヤノ、イヌサワなんかにも声をかけようと思っていたけれど、マサヨシがツテを動員してくれてオークションに行くことができた。

 格式高いオークションになるので、周りの人もしっかりとした格好をしている。
 トモナリもスーツを着ている。

 若いことを隠しようはないが、高校生だろうと思う人もいない。
 マサヨシと並ぶと若い息子か孫ぐらいには見えるかもかもしれない。

「しかし……どこでこんなものを知った?」

 決して多くの人が知るオークションではない。
 マサヨシも存在こそ知っていたが、オークションに参加したことは一度もない。

「出品目録は一般にも公開されてるんですよ」

「そうなのか?」

「重要品目だけは見られませんけど、大体何が出るのかは分かります」

 自信があるからなのか、オークションの出品目録は閲覧することができる。
 全部英語で、オークションの目玉となるものはVIPしか見られないが、おおよそどんなものが出品されるかは分かるのだった。

 どんなものがオークションされるか分かる。
 だから今回オークションに出たいと言い出した。

「また何をするつもりなんだ?」

「いやだなぁ、オークションですよ? 入札に決まってるじゃないですか」

 そういうことではない、とでも言いたげにマサヨシが目を細める。
 もちろんトモナリもマサヨシの意図はわかっている。

 オークションで何をするつもりか、というよりもオークションの先に何を見ているのかということが気になっているのだろう。
 だがトモナリは濁したまま答えを終わらせた。

「何かを明確に見つめているのならよい」

 そんなトモナリにマサヨシは軽くため息をつく。
 暴走でもなく、理性的に物事を進めているなら止めるようなことではない。

「会場に移動しようか」

「そうしましょう。……ヒカリは大丈夫ですかね?」

「クロサキ君がついているから大丈夫だろう」

 今は珍しくトモナリのそばにヒカリがいない。
 トモナリも目立ちたくはない。

 だがヒカリがいるとどうしても目立ってしまう。
 なのでヒカリはホテルの部屋でお留守番となっている。

 マサヨシの秘書でもあるミクがヒカリの面倒を見てくれていた。