『ここにいるのは春』
「じゃあ冬の結晶ってやつを知ってるか?」
『これだよ』
「…………」
精霊はトモナリの問いかけに素直に答えてくれる。
ただ雪の結晶が春であり、そして冬の結晶であるとなかなか難解なことを言う。
「もしかして……この中にいるのが春……ってやつなのか?」
春であり冬である。
そのことの答えはトモナリにも分かった。
『そう……』
『彼女は……春』
『壊されたら死んじゃう』
冬の結晶の真ん中に封じられている存在、それが精霊の言う春であった。
『春が死んだら、春が来なくなる』
『春が死んだら、永遠の冬のまま』
『春が死んだら、冬の思い通り』
精霊たちは懇願するようにトモナリのことを見ている。
「だが俺は……これを破壊しなきゃならないんだ」
今もミズキたちはボスイエティと戦っている。
倒せなくともフォローし合えばやられることはないだろう。
けれども何かの油断やミスからやられてしまう可能性は否めない。
冷静に話しているように見えても内心で焦りは感じている。
『春が死んでしまう』
「……そんな言われてもな。何か方法はないのか?」
春とやらが死なない方法があるのならトモナリとしてもそれでいい。
トモナリの質問に精霊たちは驚いたような顔をして、集まってヒソヒソと話し出す。
『どうする?』
『信用できる? できない?』
『私はできると思う』
『うん、あの人間なら信用できると思う』
吹雪の中では精霊の小さな会議は聞こえにくい。
チラチラと精霊に見られて少し居心地の悪さを感じる。
『そうだね。お願いしてみようか』
『スキル交感力の効果によって精霊が心を開きました!』
精霊たちがトモナリを見た。
その瞬間トモナリの目の前に表示が現れた。
『冬を溶かして。あなたからは強い火の力を感じる』
精霊には表示が見えていない。
トモナリが確認しようとしていた表示をすり抜けて精霊が一体、トモナリの目の前に飛んでくる。
「溶かす……火で燃やせばいいのか?」
『そう』
「それなら……」
『でもとても大変。冬の力はとても強い』
溶かすならできそうだと思ったトモナリに釘を刺すような言葉を口にする。
『触れて、そして溶かして』
「触れる……」
大変だと言われてもやるしかない。
トモナリは言われるがまま冬の結晶に触れた。
「ううっ!?」
「トモナリ!? 大丈夫なのだ?」
冬の結晶に触れた瞬間、トモナリの指先が凍り始める。
同時に冷たい魔力が体に流れ込んでくる。
『トモナリ、早う魔力を燃やせ! これは危険だぞ!』
頭の中でルビウスの声が響いてトモナリは魔力を炎に換えて体にまとわせる。
腕から手を重点的に炎で包み、体に流れ込んでくる魔力にも自分の魔力をぶつける。
「くっ……!」
吹雪がより一層強くなる。
油断すると寒さが内も外も侵食してくる。
白い世界の中、赤々とも燃えるトモナリが孤独に戦う。
「押されてる…………!」
トモナリは全力で冬の結晶を溶かしにかかっている。
なのに腕に登ってくる冷気はじわじわとトモナリの火気を押してきていた。
「トモナリ! 僕も手伝うのだ! ボーッ!」
トモナリが険しい顔をしている。
何もしないことももどかしくしてヒカリもブレスを放つ。
「これなら……!」
ヒカリの力が加わって冷気がほんの少し弱くなった。
少し押されていた状況が、少し押し返す状況になる。
冬の結晶の表面が溶け始め、精霊たちはトモナリとヒカリの戦いを見つめている。
『冬が……溶ける』
トモナリの足元の雪も溶けて、茶色い地面が出てくる。
熱さに耐えきれないようにパキンと音がして冬の結晶の一部が割れて地面に落ちる。
「はああああっ!」
「ボォーッ!」
魔力を絞り出すように炎を出し、流れ込んでこようとする魔力を押し返す。
冬の結晶からボタボタと水が垂れて、小さくなっていく。
「いけー!」
トモナリの指先から冷気が完全に押し出された。
次の瞬間、トモナリが触れているところから冬の結晶全体にヒビが広がった。
「うわっ!」
「にょわー!」
「ヒカリ!」
中にいる春が見えなくなるほどに細かなヒビが冬の結晶に走り、まるで爆発するかのように冬の結晶が割れた。
まるで春の訪れのような暖かで、強い風が吹いた。
吹き飛ばされそうになったヒカリをトモナリはギリギリキャッチして、強い風に目を開けいられずに顔を背ける。
「……ん?」
まず気づいたのは、肌に雪が当たらないと思った。
激しく吹雪いていはずなのに風も雪もない。
そして肌にあたる空気が暖かい。
「これは……」
そっと目を開ける。
すると白かったはずのあたり一面が草に覆われていた。
雪はどこにもなく、春先のような柔らかな新緑が大地を包み込んでいる。
思わず周り見渡して、ここが山の上であったことに初めて気がつく。
『ありがとう』
心地の良い声が聞こえてトモナリが振り返ると、そこに冬の結晶に閉じ込められていた精霊がいた。
他の精霊よりも一回り大きな精霊は髪が鮮やかな緑色に染まり、穏やかな笑顔を浮かべてトモナリのことを見ていた。
「……あんたが春、なのか?」
『はい。私が春の精霊です』
春の精霊は頷く。
「春にも精霊っているんだな」
属性的なものだけでなく、春の精霊という存在がいることをトモナリは初めて知った。
「じゃあ冬の結晶ってやつを知ってるか?」
『これだよ』
「…………」
精霊はトモナリの問いかけに素直に答えてくれる。
ただ雪の結晶が春であり、そして冬の結晶であるとなかなか難解なことを言う。
「もしかして……この中にいるのが春……ってやつなのか?」
春であり冬である。
そのことの答えはトモナリにも分かった。
『そう……』
『彼女は……春』
『壊されたら死んじゃう』
冬の結晶の真ん中に封じられている存在、それが精霊の言う春であった。
『春が死んだら、春が来なくなる』
『春が死んだら、永遠の冬のまま』
『春が死んだら、冬の思い通り』
精霊たちは懇願するようにトモナリのことを見ている。
「だが俺は……これを破壊しなきゃならないんだ」
今もミズキたちはボスイエティと戦っている。
倒せなくともフォローし合えばやられることはないだろう。
けれども何かの油断やミスからやられてしまう可能性は否めない。
冷静に話しているように見えても内心で焦りは感じている。
『春が死んでしまう』
「……そんな言われてもな。何か方法はないのか?」
春とやらが死なない方法があるのならトモナリとしてもそれでいい。
トモナリの質問に精霊たちは驚いたような顔をして、集まってヒソヒソと話し出す。
『どうする?』
『信用できる? できない?』
『私はできると思う』
『うん、あの人間なら信用できると思う』
吹雪の中では精霊の小さな会議は聞こえにくい。
チラチラと精霊に見られて少し居心地の悪さを感じる。
『そうだね。お願いしてみようか』
『スキル交感力の効果によって精霊が心を開きました!』
精霊たちがトモナリを見た。
その瞬間トモナリの目の前に表示が現れた。
『冬を溶かして。あなたからは強い火の力を感じる』
精霊には表示が見えていない。
トモナリが確認しようとしていた表示をすり抜けて精霊が一体、トモナリの目の前に飛んでくる。
「溶かす……火で燃やせばいいのか?」
『そう』
「それなら……」
『でもとても大変。冬の力はとても強い』
溶かすならできそうだと思ったトモナリに釘を刺すような言葉を口にする。
『触れて、そして溶かして』
「触れる……」
大変だと言われてもやるしかない。
トモナリは言われるがまま冬の結晶に触れた。
「ううっ!?」
「トモナリ!? 大丈夫なのだ?」
冬の結晶に触れた瞬間、トモナリの指先が凍り始める。
同時に冷たい魔力が体に流れ込んでくる。
『トモナリ、早う魔力を燃やせ! これは危険だぞ!』
頭の中でルビウスの声が響いてトモナリは魔力を炎に換えて体にまとわせる。
腕から手を重点的に炎で包み、体に流れ込んでくる魔力にも自分の魔力をぶつける。
「くっ……!」
吹雪がより一層強くなる。
油断すると寒さが内も外も侵食してくる。
白い世界の中、赤々とも燃えるトモナリが孤独に戦う。
「押されてる…………!」
トモナリは全力で冬の結晶を溶かしにかかっている。
なのに腕に登ってくる冷気はじわじわとトモナリの火気を押してきていた。
「トモナリ! 僕も手伝うのだ! ボーッ!」
トモナリが険しい顔をしている。
何もしないことももどかしくしてヒカリもブレスを放つ。
「これなら……!」
ヒカリの力が加わって冷気がほんの少し弱くなった。
少し押されていた状況が、少し押し返す状況になる。
冬の結晶の表面が溶け始め、精霊たちはトモナリとヒカリの戦いを見つめている。
『冬が……溶ける』
トモナリの足元の雪も溶けて、茶色い地面が出てくる。
熱さに耐えきれないようにパキンと音がして冬の結晶の一部が割れて地面に落ちる。
「はああああっ!」
「ボォーッ!」
魔力を絞り出すように炎を出し、流れ込んでこようとする魔力を押し返す。
冬の結晶からボタボタと水が垂れて、小さくなっていく。
「いけー!」
トモナリの指先から冷気が完全に押し出された。
次の瞬間、トモナリが触れているところから冬の結晶全体にヒビが広がった。
「うわっ!」
「にょわー!」
「ヒカリ!」
中にいる春が見えなくなるほどに細かなヒビが冬の結晶に走り、まるで爆発するかのように冬の結晶が割れた。
まるで春の訪れのような暖かで、強い風が吹いた。
吹き飛ばされそうになったヒカリをトモナリはギリギリキャッチして、強い風に目を開けいられずに顔を背ける。
「……ん?」
まず気づいたのは、肌に雪が当たらないと思った。
激しく吹雪いていはずなのに風も雪もない。
そして肌にあたる空気が暖かい。
「これは……」
そっと目を開ける。
すると白かったはずのあたり一面が草に覆われていた。
雪はどこにもなく、春先のような柔らかな新緑が大地を包み込んでいる。
思わず周り見渡して、ここが山の上であったことに初めて気がつく。
『ありがとう』
心地の良い声が聞こえてトモナリが振り返ると、そこに冬の結晶に閉じ込められていた精霊がいた。
他の精霊よりも一回り大きな精霊は髪が鮮やかな緑色に染まり、穏やかな笑顔を浮かべてトモナリのことを見ていた。
「……あんたが春、なのか?」
『はい。私が春の精霊です』
春の精霊は頷く。
「春にも精霊っているんだな」
属性的なものだけでなく、春の精霊という存在がいることをトモナリは初めて知った。

