「……やっぱりアレか」
倒せそうな雰囲気が、一転して倒せなさそうになった。
時に倒せない存在が出てくる。
何をしても攻撃が通じないとか、何度でも立ち上がるとか攻略不可な相手が出てくるのだ。
そんな場合は無理して戦うことはない。
何かの特殊条件で倒したり攻撃できたりすることもある。
周りをよく観察して、状況を変える術はないかと模索するべきだ。
倒せなさそうなボスイエティを倒す、あるいは倒さずとも攻略する方法があるはず。
今この状況でボスイエティを倒すことに関わりがありそうなものは一つしかない。
冬の結晶と攻略条件で書かれていたもの。
確証がなくてひとまず決めつけはしなかったが、雪の結晶がそのまま冬の結晶なのだろう。
「みんな、ボスを引きつけてくれ!」
ボスイエティを倒せば楽に冬の結晶を狙える。
だからボスイエティを倒そうとしていたが、狙うべきは冬の結晶の方だ。
精霊がどうして冬の結晶を守っているのかは分からない。
攻撃してくるような様子もない。
だが簡単に冬の結晶を攻撃させてくれるような雰囲気でもない。
おそらく攻撃をかわそうとするはずだ。
今いるメンバーの中で攻撃力、素早さ共に高いのはトモナリである。
みんなにはボスイエティの相手をお願いして、トモナリは冬の結晶を狙う。
「行かせないよ!」
冬の結晶に向かうトモナリをボスイエティが気にする素振りを見せた。
イワヤがボスイエティを攻撃して注意を引きつける。
全体的な指示は任せているものの、覚醒者としての先輩の面目ぐらいはあるのだ。
『クスクス……やらせないよ』
『うん……ダメだよ』
トモナリが近づこうとすると、精霊は冬の結晶を持ったまま距離を取る。
「そう言われてもこっちも命懸けなんだよ!」
トモナリは冬の結晶を追いかける。
精霊の速度も速いがトモナリの方が速く、距離は少しずつ縮まる。
洞窟も広いけれど、高速の追いかけっこに十分すぎるともいかない。
壁際に追い詰められて精霊は方向を転換する。
捕まえることはできなかったけれど、曲がる間に距離はグッと詰まる。
「僕もいるのだ!」
忘れちゃならないのがヒカリだ。
地面を走るトモナリよりも自由自在に移動できるのがヒカリであり、いつの間にか精霊の先に回り込んでいた。
「どりゃー!」
『うっ!』
『させ……ない!』
冬の結晶に向かってヒカリが爪を振るう。
妖精は顔をしかめて空中で急旋回して回避しようとする。
『あっ!』
『まだ大丈夫』
『逃げよう』
「むぅ!」
結晶の一部が爪によって叩き割れる。
しかしそれでは不十分なようで、精霊はまだ逃げる。
「あっちは……」
精霊が逃げた方向は洞窟の出口の方だった。
トモナリとヒカリが慌てて追いかけるも、なかなか追いつけない。
「うっ……」
精霊はそのまま外に飛び出す。
「すごいのだ……」
外は洞窟に入る前よりも激しい吹雪になっていた。
吹き付ける雪が防寒具に当たってバチバチと音を立てる。
「見失わないように追いかけるぞ!」
「うむ!」
こんな吹雪の中で離れられてしまうと冬の結晶を見失うことになる。
トモナリは慌てて雪の結晶を追跡するが、雪で足場が悪くてなかなか距離が詰まらなくなってしまった。
「こうなったら……! ルビウスいくぞ!」
『ふふ、任せおれ』
トモナリはドラゴンズコネクトを発動させる。
手に持ったルビウスがトモナリの体に吸い込まれていき、トモナリの体が竜化していく。
赤き竜と一つになった姿のトモナリは翼を広げて飛び上がる。
「ぬふぅん! かっこいいのだぁ!」
相変わらずヒカリはトモナリのドラゴンズコネクト姿が好きなようである。
「待て!」
トモナリは火をまとって雪と風を防ぎつつ加速する。
「はあっ!」
『うわっ!』
『きゃあっ!』
少し距離が近づいてきた。
トモナリが腕に炎をまとって振るうと火炎が冬の結晶に向かって飛んでいく。
精霊は炎をかわしたものの、トモナリが放った炎の軌跡は高く燃え上がって精霊の逃げ道を封じる。
「ボボボーッ!」
ヒカリが両手を振り下ろす。
地面から炎が噴き出し、トモナリの炎と合わせて完全に精霊を封じ込めた。
「もう逃さないぞ」
トモナリとヒカリも飛べる以上、上に逃げても無駄である。
『これはダメ……』
『‘春’は守らなきゃ……』
精霊たちは冬の結晶を地面にそっと下ろすと立ちはだかるように両手を広げる。
あくまで攻撃するような気はないようだ。
「なぜそんなにそれを守ろうとする?」
精霊を蹴散らして冬の結晶を壊してもいい。
ただあまりにも精霊が必死なように見えて、トモナリは問いかけてみることにした。
もしかしたらヒカリという存在に出会ったこともそんな気まぐれに関わっているかもしれない。
モンスターにも心のあるものがいる。
たとえわずかな可能性でも、そんなことがあるのだとトモナリは知ってしまっている。
なんだか、精霊をモンスターとして倒してしまうのは憚られるような気持ちになったのだ。
『これは春』
『封じられた春』
「春? 冬じゃないのか?」
トモナリの問いかけに精霊はゆっくりと答えた。
『これは春だよ』
トモナリはヒカリと顔を見合わせた。
倒せそうな雰囲気が、一転して倒せなさそうになった。
時に倒せない存在が出てくる。
何をしても攻撃が通じないとか、何度でも立ち上がるとか攻略不可な相手が出てくるのだ。
そんな場合は無理して戦うことはない。
何かの特殊条件で倒したり攻撃できたりすることもある。
周りをよく観察して、状況を変える術はないかと模索するべきだ。
倒せなさそうなボスイエティを倒す、あるいは倒さずとも攻略する方法があるはず。
今この状況でボスイエティを倒すことに関わりがありそうなものは一つしかない。
冬の結晶と攻略条件で書かれていたもの。
確証がなくてひとまず決めつけはしなかったが、雪の結晶がそのまま冬の結晶なのだろう。
「みんな、ボスを引きつけてくれ!」
ボスイエティを倒せば楽に冬の結晶を狙える。
だからボスイエティを倒そうとしていたが、狙うべきは冬の結晶の方だ。
精霊がどうして冬の結晶を守っているのかは分からない。
攻撃してくるような様子もない。
だが簡単に冬の結晶を攻撃させてくれるような雰囲気でもない。
おそらく攻撃をかわそうとするはずだ。
今いるメンバーの中で攻撃力、素早さ共に高いのはトモナリである。
みんなにはボスイエティの相手をお願いして、トモナリは冬の結晶を狙う。
「行かせないよ!」
冬の結晶に向かうトモナリをボスイエティが気にする素振りを見せた。
イワヤがボスイエティを攻撃して注意を引きつける。
全体的な指示は任せているものの、覚醒者としての先輩の面目ぐらいはあるのだ。
『クスクス……やらせないよ』
『うん……ダメだよ』
トモナリが近づこうとすると、精霊は冬の結晶を持ったまま距離を取る。
「そう言われてもこっちも命懸けなんだよ!」
トモナリは冬の結晶を追いかける。
精霊の速度も速いがトモナリの方が速く、距離は少しずつ縮まる。
洞窟も広いけれど、高速の追いかけっこに十分すぎるともいかない。
壁際に追い詰められて精霊は方向を転換する。
捕まえることはできなかったけれど、曲がる間に距離はグッと詰まる。
「僕もいるのだ!」
忘れちゃならないのがヒカリだ。
地面を走るトモナリよりも自由自在に移動できるのがヒカリであり、いつの間にか精霊の先に回り込んでいた。
「どりゃー!」
『うっ!』
『させ……ない!』
冬の結晶に向かってヒカリが爪を振るう。
妖精は顔をしかめて空中で急旋回して回避しようとする。
『あっ!』
『まだ大丈夫』
『逃げよう』
「むぅ!」
結晶の一部が爪によって叩き割れる。
しかしそれでは不十分なようで、精霊はまだ逃げる。
「あっちは……」
精霊が逃げた方向は洞窟の出口の方だった。
トモナリとヒカリが慌てて追いかけるも、なかなか追いつけない。
「うっ……」
精霊はそのまま外に飛び出す。
「すごいのだ……」
外は洞窟に入る前よりも激しい吹雪になっていた。
吹き付ける雪が防寒具に当たってバチバチと音を立てる。
「見失わないように追いかけるぞ!」
「うむ!」
こんな吹雪の中で離れられてしまうと冬の結晶を見失うことになる。
トモナリは慌てて雪の結晶を追跡するが、雪で足場が悪くてなかなか距離が詰まらなくなってしまった。
「こうなったら……! ルビウスいくぞ!」
『ふふ、任せおれ』
トモナリはドラゴンズコネクトを発動させる。
手に持ったルビウスがトモナリの体に吸い込まれていき、トモナリの体が竜化していく。
赤き竜と一つになった姿のトモナリは翼を広げて飛び上がる。
「ぬふぅん! かっこいいのだぁ!」
相変わらずヒカリはトモナリのドラゴンズコネクト姿が好きなようである。
「待て!」
トモナリは火をまとって雪と風を防ぎつつ加速する。
「はあっ!」
『うわっ!』
『きゃあっ!』
少し距離が近づいてきた。
トモナリが腕に炎をまとって振るうと火炎が冬の結晶に向かって飛んでいく。
精霊は炎をかわしたものの、トモナリが放った炎の軌跡は高く燃え上がって精霊の逃げ道を封じる。
「ボボボーッ!」
ヒカリが両手を振り下ろす。
地面から炎が噴き出し、トモナリの炎と合わせて完全に精霊を封じ込めた。
「もう逃さないぞ」
トモナリとヒカリも飛べる以上、上に逃げても無駄である。
『これはダメ……』
『‘春’は守らなきゃ……』
精霊たちは冬の結晶を地面にそっと下ろすと立ちはだかるように両手を広げる。
あくまで攻撃するような気はないようだ。
「なぜそんなにそれを守ろうとする?」
精霊を蹴散らして冬の結晶を壊してもいい。
ただあまりにも精霊が必死なように見えて、トモナリは問いかけてみることにした。
もしかしたらヒカリという存在に出会ったこともそんな気まぐれに関わっているかもしれない。
モンスターにも心のあるものがいる。
たとえわずかな可能性でも、そんなことがあるのだとトモナリは知ってしまっている。
なんだか、精霊をモンスターとして倒してしまうのは憚られるような気持ちになったのだ。
『これは春』
『封じられた春』
「春? 冬じゃないのか?」
トモナリの問いかけに精霊はゆっくりと答えた。
『これは春だよ』
トモナリはヒカリと顔を見合わせた。

