ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした

「水でよかったね」

「ありがとうございます」

 トモナリにもウィスキーグラスで水が渡される。
 おしゃれなグラスに入れるとただの水もオシャレになるのだから不思議だ。

「君とは会ってみたいと思っていた。人類が乗り越えるべき99のゲートの内、攻略が止まっていたNo.10を攻略した覚醒者。ドラゴンとの契約者、それを活かした裏の顔まで」

 裏の顔という言葉にトモナリはピクリと反応してしまう。

「流石にこれは予想外の言葉だったかな?」

 ようやくトモナリの反応が見られたとタイショウは笑顔を浮かべる。
 ドラゴンを活かした裏の顔とは、きっと未来予知もどきのことだろうとすぐに察した。

 トモナリが未来予知の情報を覚醒者協会に流していることは極秘のはずだ。
 なぜ知っているのかと驚いてしまったのだ。

「安心したまえ。特にこのことで何かを言うつもりも、他の人に吹聴するつもりもない」

 ただの大企業の社長というだけではない。
 自分の企業を、あるいは社員を守るためにタイショウは権力という力をつけているのだな、とトモナリは思った。

「君に会いたかった一番の理由は魔力抑制装置のことだよ」

 トモナリは以前、魔力を抑制するものを作ってほしいとマサヨシにお願いした。
 マサヨシはオウルグループの協力によって、トモナリが望む魔力抑制装置を使った。

 協力というよりも、ほとんどオウルグループが作ってくれたようなものである。
 なかなか面白いアイディアであり、正式に製品化まで開発を進めていることはトモナリも知っている。

「良いアイディアだった。新たなるトレーニング方法……覚醒者たちの能力を一歩引き上げてくれる可能性がある新たなるアイテムだ」

 魔力を抑制すると体を鍛えられるだけでなく、少ない魔力を運用することで魔力のコントロールなんかも鍛えられる。
 少ない魔力でやりくりすることで魔力の総量なんかもちょっとだけ増えたり、能力値としての魔力も上がったりと良い側面が多い。

「うちのグループでも魔力抑制装置は取り入れている。加えて国内にとどまらず国外の覚醒者からも注文が来ている。需要の限られるものなので大ヒット……とは言えないが、魔力抑制装置を必要とするような大きなギルドの間でうちのグループの評判が上がったことは間違いない」

 魔力抑制装置を必要とするのは、すでに既存のトレーニングを一周してしまっているような人も多い。
 つまり強い人、ひいてはお金や影響力もある人なことも少なくない。

 オウルグループという存在が上位の覚醒者の間で広まる。
 このことは稼いだ金額以上の効果を持つ。

 もちろんそうした人たちはお金を持っているので、魔力抑制装置が多少高額でも普通に買ってくれる。
 ちゃんと利益も上げているのだ。

「君は魔力抑制装置さえあればいいと言ってくれたが、直接感謝の言葉を伝えたくてな」

「それは……光栄です」

「君が望むならいくらか謝礼を渡す用意もある。お金でなくとも何か協力して欲しいということがあれば喜んで手を貸そう。職人の件もあるしな」

 サタケのこともオウルグループ絡みである。
 自分の納得いく人を見つけること、というサタケの条件をトモナリがクリアしてみせた。

 サタケについてもオウルグループはトモナリに恩があるのだ。

「いつかお願いすることもあるかもしれません」

 今お金には困っていない。
 何か手助けしてほしいこともなく、慌てて考える必要もないだろう。

「ふっ、それでいい。必要があればカエデに連絡するといいだろう」

「……それで、話はそれだけですか?」

「うむ、勘のいい人は嫌いじゃない」

 ただ感謝を伝えるためだけに多忙なオウルグループの社長がトモナリに会いに来るとは思えない。
 他にも用事があるのではないかとトモナリは疑っていた。

 トモナリの目を見てタイショウはニヤリと笑う。

「君に……いや、君たちに頼みがある」

「頼み?」

 君たち、という言葉はトモナリを含めてここに来ているミズキたちも含めてだろう。

「ここは療養地となっているが、本来はリゾートにする計画だった。いや、今もその計画は進んでいる」

 リゾート地というものは今や結構少ない。
 一度放棄されてしまったところも多く、モンスターに対応する手間やリスクなんかから都心に近い以外のリゾート地が世界的にかなり減ってしまったのだ。

 だがオウルグループは新たにリゾート地を作るつもりだった。
 今いる場所は実際大きな都市からアクセスも悪くない。

 リゾート地にすれば人は来るだろう。

「けれど何かの問題があるのですね?」

「その通りだ。君たちでなければ解決は難しいだろう」

 トモナリにこんなことを話すということは、リゾート地としての感想をくれなんていう安いお願いじゃない。

「この地にはゲートが存在しているのだ」

 やっぱりと思う言葉がタイショウの口から飛び出してきたのだった。