「左右から攻撃して!」

 ハルカが指示を飛ばす。
 周りを見ていて意外とリーダー気質なところがある。

「ミヤマエ君、トドメを!」

「任せとけ!」

 ミヤマエが魔力を込めた剣でコボルトを一刀両断する。

「俺たちが出るまでもなかったな」

 手助けしようと思うような危ない場面すらなかった。
 トモナリが親指を立てると、ミヤマエも親指を立て返す。
 
「良い戦いでした。ミヤマエさんの動きは非常に良いですね。周りのみんなも上手く立ち回れていました。キシさんも周りがよく見えています。その調子で戦ってください」

 イオリが軽く頷きながら戦いを総括する。
 粗が目立つところはあったものの、それを今指摘することはない。

 良いところを見て、伸ばしてやる。
 そのことの方が大事である。

「よくやったのだ! 褒めてやるのだ!」

 微妙に腕を組めていないヒカリも先輩面でハルカたちのことを褒める。

「頭を出すのだ! よしよーし」

「わぁっ!」

「……嬉しいものですね」

 不思議そうな顔をしたハルカとナナが頭を出すと、ヒカリ手を目一杯伸ばして二人の頭を撫でる。
 ヒカリなりの褒め。

 ヒカリは頑張った時にトモナリに頭を撫でてもらうので、みんなも頑張ったのだから頭を撫でてやろうと思ったのだ。
 ハルカはヒカリに褒められて嬉しそうに笑い、ナナは少しだけ恥ずかしそうにしていた。

「ヒカリ先輩、俺も!」

「うむ、頭を差し出すが良いのだ」

「へいっ!」

 ミヤマエが腰をかがめて頭を差し出し、ヒカリは撫で撫でと手を動かす。
 その様子を見て、もう一つの班の子たちもよりやる気を燃やしていた。

 時間も限られているのでゲートでの討伐はさっさと次に行く。
 小規模の群れもあれば、少し多めにコボルトがいることもあった。

 そんな時は二つの班が協力したり、トモナリたちが手助けしたりして経験を積んでいった。

「最後に倒すのはボスです。ですが今回は危険なので二年生にお任せしましょう」

 一通りコボルトを倒して回り、外に出て残りの一年生と合流してまたゲートに戻る。
 ボスが出ないようなダンジョンもあるけれど、このゲートにはボスがいる。

 通常のモンスターを倒したのなら次に倒すべきはボスである。
 ちゃんとボスまで倒してゲートを閉じてこそゲートを攻略したといえるのだ。

 ただボスは通常のモンスターよりも強い。
 まだまだ経験不足な一年生が相手にするのはリスクが大きい。

 ここは引率としてきている二年生が良いところを見せることになった。

「あれがボス個体ですね。取り巻きも多く、慎重な戦いが求められます」

 見つけたダンジョンのボスもコボルトである。
 一回りほど体の大きなコボルトが二体いて、その周りに十体ほどの通常コボルトがいる。

「それじゃあ軽く倒してみますか」

 ミズキは腕を回してやる気を見せている。

「いつも通りいくぞ」

「ん」

 トモナリたちはボスコボルトに向かう。
 タンクであるサーシャを先頭にして、近づいていくと真っ先にボスコボルトがトモナリたちに気づく。

 サーシャが魔力を差し向けてボスコボルトを挑発すると、一鳴きしたボスコボルトがサーシャに襲いかかる。

「軽いね」

 ボスコボルトが持っている棒を振り下ろした。
 サーシャは盾で棒を軽々と受け止める。

 成長するにつれて挑む敵も強いものにしていくので、なかなか成長というものを自覚はしにくいものである。
 しかしこうして格下の相手と戦ってみると自分がしっかり強くなっているのだなと思える。

「いっとーりょーだん!」

 ミズキが刀を鞘に収めた状態から一気に抜く。
 そのまま振られた剣は勢いよくボスコボルトの首を刎ねた。

「……うーん、ちょっと強すぎますね」

 今年の二年生、特に課外活動部は強いとイオリも聞いていた。
 けれども話に聞いていたよりも遥かに強すぎて参考にするのも難しいと苦笑いを浮かべる。

「どりゃどりゃどりゃ!」

 あとは通常のコボルトだけである。
 特に苦労することもなく、トモナリたちはコボルトを倒してしまった。

「すげっす、先輩たち……」

「私たちもああなれるのかな?」

「わっかんね……でもやるしかないっしょ!」

 あまりにも圧倒的。
 けれどミヤマエなんかは折れることなくやる気を燃やしている。

 良い刺激にもなってくれたならよかった。
 少し心配していたイオリは優しく微笑んでいたのであった。