「ふざけるなよ! なんだよこのスキル! これじゃまるで……」

 ヒカリを殺せと言っているようではないか。
 そうトモナリは思った。

 滅竜の光。
 スキルの内容を見ずとも、滅竜というところからドラゴンに対する特攻系のスキルであることは分かる。

 加えて光なんてヒカリに対してバカにしているのかと思ってしまう。

「ただ……」

 このままブラックドラゴンが戦いを続ければ人類は滅びてしまう。
 それはヒカリも望んでいないことだった。

「俺が……ヒカリを?」

 トモナリは自分のステータス表示を見る。
 何度見てもスキルスロットには交感力でなく、滅竜の光というスキルが入っている。

「まだだ……頭ぶん殴ってやれば目を覚ますこともあるかもしれない……」

 諦めるにはまだ早い。
 衝撃を与えてやればヒカリとしての意識が目覚めることもあるかもしれないとトモナリは思った。

「行こうか」

 覚悟はない。
 だが戦わねば犠牲が増える。

 トモナリは再びブラックドラゴンに向かっていく。

『敵対関係!
 滅竜の光が宿ります!』

 真っ直ぐに駆けていくトモナリの前に表示が現れた。
 それがなんなのか理解する前に、体により大きな力が溢れてくる。

 トモナリは気づいていないが、体もうっすらと発光していた。

「はああああっ!」

 ブラックドラゴンがトモナリに向かってブレスを放つ。
 力を圧縮したビーム状のブレスをトモナリは正面から受ける。

 剣に魔力を込めると、剣が眩く光る。
 ブレスを剣で受け止めてもトモナリは一歩も引くことがない。

「‘ブレスを弾き飛ばしやがった……’」

「‘あいつ人間か?’」

 トモナリは剣を振り、ブレスを明後日の方向に飛ばした。

「目を覚ませ! お前は戦いたくないはずだ!」

 飛び上がったトモナリが剣を振り上げる。
 剣から魔力が放たれて、光る巨大な刃の形を成す。

 トモナリが光の剣を振り下ろして、ブラックドラゴンの頭を殴りつける。
 光の刃が砕けるほどの衝撃にブラックドラゴンは地面に倒れる。

 ブラックドラゴンを殺すつもりはない。
 だから光の刃に鋭さは持たせなかった。

「‘おい、横だ!’」

 トモナリの着地の瞬間を狙ってブラックドラゴンが尻尾を横に振った。

「うぅ!」

 トモナリは剣で尻尾を防御する。
 けれど不安定な姿勢ではうまく力を受けきれず、トモナリは弾き飛ばされる。

「まだ目を覚さないか……」

 空中で一回転してトモナリは着地して、またブラックドラゴンに向かっていく。

「‘あいつなら倒せるかもしれない’」

「‘いけ……頑張れ!’」

 トモナリがブラックドラゴンと激しく戦う。
 光り輝くトモナリはブラックドラゴンを圧倒していて、覚醒者たちはトモナリに希望の光を見た。

 変に手を出すと邪魔にしかならない。
 覚醒者たちは戦いの手を止めて、トモナリのことを応援する。

 ブラックドラゴンの方向にも負けない歓声。
 ここでトモナリがブラックドラゴンを倒せるなら、他のゲートのモンスターだって倒せる可能性も出てくる。

 けれどトモナリには覚醒者たちの応援の声は聞こえていない。
 ブラックドラゴンの理性を失って何も映さないウツロな目の奥に悲しみが見えるからだ。

 攻撃するたびに弱い者いじめでもしているかのような胸の痛みを覚える。
 あまり傷つけたくなくて鋭い一撃は放たない。

 それでもブラックドラゴンにダメージを与えるような攻撃は決して軽くない。
 鱗が割れ、血が流れる。

 黒い見た目をしているから分かりにくいが、確実にブラックドラゴンにダメージは蓄積している。

「早く……目を覚ましてくれ!」

 優位に戦っているはずなのにトモナリの表情は苦しそうだった。
 胸の痛みに押しつぶされそうになっていて、戦うほどにブラックドラゴンを倒さねばならないという思いが削り取られていく。

「ヒカリィ!」

 光の刃がブラックドラゴンの頭を殴り飛ばした。

「‘ブラックドラゴンが倒れたぞ!’」

 ブラックドラゴンが倒れる。

「…………虚しい」

 人類の宿敵を倒した。
 なのにトモナリにはなんの達成感もない。

 ただただ胸が苦しい。

「‘早くトドメを刺すんだ!’」

 ブラックドラゴンはまだ死んでいない。
 力なく地面に横たわって荒く呼吸を繰り返している。

 何も難しいことはない。
 抵抗もないのならたとえドラゴンといえど大きなトカゲのようなものである。

「‘おい! 何してるんだ!’」

 倒れて動かないとは言ってもドラゴンはドラゴン。
 周りの人は誰も近づいてこず、トモナリがトドメを刺すことを期待して見ている。

 トモナリはブラックドラゴンに近づく。
 ここまでしてもダメならばトドメを刺して終わらせるしかないと心のどこかで考えていた。

 頭の側に回り込み、目を覗き込む。
 眩しいほどの輝きを放っていた金色の瞳が、今はただ濁ったようにトモナリを睨みつけている。

 そこにヒカリの影はない。

「終わらせるしかないの……それが正しいのか分からないけど……」

 この状況を終わらせるためにはブラックドラゴンを倒すしかないのかもしれない。
 トモナリは剣に魔力を集める。

 剣が魔力を帯びて光を放ち始める。

「トモナリ……」

 その時、ヒカリの声が聞こえた。