オウルグループが入れる人はいないかと探したものの、結局トモナリとヒカリ以外に入れる人はいなかった。

「やっぱり俺がやるしかないか。アースドラゴンの精髄の持ち主だからなのか、あるいは……ドラゴンが関係しているのか」

 オウルグループから対象を広げて調べていては、資格ありし者がいつ見つかるのか分かったものではない。
 トモナリが資格ありし者と分かったのだから、トモナリが入るのが正当な話である。

 トモナリが提供した素材から発生したゲートであるのだし、トモナリが攻略できるのならそうするべきだ。
 ということでトモナリがゲートに挑むことになった。

「良い装備も貸してもらったし、準備は万端だな」

 今回ゲートに挑むにあたってトモナリは防具をオウルグループから借りられることになった。

「アーティファクトまで貸し出してくれるんだもん、太っ腹だな」

 割と近未来チックなデザインの動きやすい軽装の装備を身につけたトモナリは、自分の右手を見る。
 トモナリの右手首にはブレスレットが着けられている。

 ブレスレットはトモナリのものではないし、ただのオシャレでもない。
 ブレスレットはアーティファクトなのである。

 魔力が込められ特殊な効果を持つもので、魔道具などとも呼ばれることがある。
 以前入手したゴブリンキングの王冠もアーティファクトであるし、剣のルビウスも広く見ればいわゆるアーティファクトの一種であると言っていい。

 アーティファクトにも種類がある。
 単純に能力を上げてくれるものもあれば、魔力を込めると魔法やスキルが発動するものもある。

 中にはインベントリのようなものの収納機能があるものや武器に変形するもの、なんで色々だ。
 回帰前には、全身アーティファクトで固めたアーティファクターと呼ばれている覚醒者もいた。

 常にジャラジャラ音がなるほどにアーティファクトを身につけていて、アーティファクトのおかげで上位の覚醒者と遜色ないほどの力を持っていた。
 しかしそんなアーティファクターもゲートの中で帰らぬ人となる。

 多くのアーティファクトが失われてしまったので、アーティファクターの死を嘆く人も多かった。

「防御型アーティファクト……ありがたいな」

 腕につけているブレスレットは防御型のアーティファクトである。
 交流戦の時に使っていたものと似たような機能を持つが、交流戦で使ったものが常時防御が発動しているのに対し、借りたものは危険な時に勝手に発動してくれるものだった。

 どちらがいいというものでもない。
 常時発動防御型は攻略を安全に進ませてくれる。

 緊急時発動防御型は危険な時に強い力で守ってくれるので万が一の場合に心強い。
 常時発動防御型は常に発動している分いざという時には消耗してしまっていることもあるし、緊急時発動防御型は一回限りで次の行動いかんでは無駄に終わることもある。

「あとはネックレスと指輪か」

 貸し出されたアーティファクトはブレスレットだけではない。
 それぞれ能力を上げてくれる効果がある。

 ゴブリンキングの王冠ほどではないにしても、能力が上がるのはありがたい。

「危なくなったらすぐに引き返すのだぞ」

 一応見送りとしてカエデも来ていた。

「分かってますよ。では行ってきます」

「行ってくるのだ!」

 準備も万端。
 トモナリとヒカリはゲートの中に入っていく。

「ゲートを通る感覚は慣れたけど……好きにはなれないな」

 ゲートを通り抜ける時には独特の感覚がある。
 回帰前も含めてゲートに入った数は多く、通り抜ける時の独特の感覚には慣れている。

 ただその感覚が好きかはまた別問題だ。
 ゲートに入った感じがあって好きという人もいるけれど、トモナリはいまだに好きにはなれなかった。

「そしてこのゲートも……なんだかな」

 入った先は真っ白の空間が広がっている。
 トモナリの後ろにあるゲート以外はただの白で、どこが端になるのかも分からない。

「変な空間だ……」

 とても奇妙なゲートである。
 こんなゲートの話はトモナリも聞いたことがない。

「そもそもどうしたらいいんだ?」

 目印となるようなものもない。
 どこに進んでいいのかすら分からない。

「怖いな……」

 何が起こるのか予想もできなきゃ、すべきことも分からないのは不安である。
 通常のゲートなら攻略のための条件が表示されるはずなのにそれもない。

 とりあえずトモナリはルビウスを抜いて警戒を高める。

「足元にも気をつけなきゃな……」

 真っ白な世界では急な段差があっても気づけない。
 モンスターに襲われることも警戒しなきゃいけないが、足元にもしっかりと注意を払う必要がある。

「ほっ!」

 トモナリは軽く剣を振る。
 剣先から炎が飛んでいって、地面に細く長い炎の線が残る。

 こうすれば地面の凹凸が眼に見えるようになる。

「地面は平坦なようだな」

 地面に残った炎の軌跡を見る限り、起伏があったり急な段差があったりということなさそうだ。

「うーむ……」

 摩訶不思議な空間にヒカリもキョロキョロしながらうなっている。

「どうしろと……」

「よく来たな」

 ふと声が聞こえた。
 振り返るとそこには今までいなかったはずの男性が立っていた。