「こっち側にはミスリル鉱脈が多いからこっちの方があるかもな」

 三階がどれだけの広さなのかも分からない。
 しかし地図を眺める限り、それぞれのミスリル鉱脈の間隔は割と空いている。

 そのことから考えると、見つかっているミスリル鉱脈から少し離れたところにミスリル鉱脈がある可能性が高い。
 地図が途切れているところから先に進めそうな場所は何ヶ所かある。

「こっちか、こっちだな」

「うん、僕もそう思う」

 トモナリが地図を指差しながら候補を挙げると、コウも頷いて同意する。

「じゃあここから近いのはこっちだね」

「そうだな。行ってみるか」

 候補になる場所のうち、近い方に行ってみることにした。

「カニ〜カニカニカニ〜」

「気に入ってるな」

 ヒカリはまたカニをムシャムシャしている。
 よほど気に入ったのか、おかわりを要求したのでトモナリが出したのだ。

「うむ。なかなかイケるのだ! やはりお肉が一番だけど……しーふーども悪くないのだ!」

『いいのぅ、妾も食べたいのぅ』

 食べ応えも抜群のカニが羨ましいとルビウスの声がトモナリの頭の中で響く。

「後でな」

「なに?」

「いや、ルビウスがカニ食いたいって」

「今あげれば?」

 ルビウスに返事したトモナリをサーシャが不思議そうに見つめた。
 表に出ていない時のルビウスの声は、トモナリにしか聞こえないからしょうがない。

「あー、確かにそうかもな」

 サーシャたちはすでにルビウスの存在を知っている。
 別に隠すこともないかとトモナリは思った。

「妾、参上!」

 トモナリはルビウスを呼び出す。

「うむむ! これがカニか!」

 カニを出してやるとルビウスは両手で抱えてかぶりつく。

「可愛いなぁ……」

 ミニ竜が二匹してカニを食べている。
 なかなかユニークな光景である。

 高貴な感じを出したいルビウスは、トモナリ以外には基本的に触れさせることもない。
 表情もツーンとしているのだけど、今はカニを食べてヒカリと共にニコニコだ。

 ゲートの中だというのにほんわかとした光景。
 他のみんなが聞いたら羨ましく思うだろうなとミズキはこっそりスマホで撮っていた。

「右よしなのだ!」

「こっちにもいないぞ!」

 食べた分は働いてもらう。
 進んでいくとかなり広い鍾乳洞状の洞窟になっていた。

 広くて暗いので相手との不意の遭遇には気をつけねばならない。
 ヒカリだけでなく、ルビウスにも周りの様子を見てきてもらって警戒する。

「ミスリル鉱脈も……おっ、あれかな?」

 洞窟の奥側にキラリと光るものが見えた。

「待て! みんな隠れろ!」

 トモナリたちは近くの岩影にサッと隠れた。
 キラリと光ったもの、それはミスリル鉱脈で間違いない。

「トモナリ、あれカニなのだ!」

 しかし、その横にあたかもミスリル顔をしているミスリルクラブがいたのである。
 そっとミスリル鉱脈の近くを確認してきたヒカリが戻ってきてトモナリにささやく。

 トモナリたちに背中を向けて丸まっている。
 こうするとパッと見ではミスリル鉱脈の一部にも見えるのだ。

「不用意に近づくところだったな」

「よく気づいたね」

「チラッと足のようなものが見えた気がしたんだ」

 ミスリル鉱脈を照らした時にミスリルの隙間からカニの足が見えた。
 ほんの一瞬だったがトモナリは見逃さなかった。

 おかげで今回もしっかりと用意を整えて戦うことができる。

「ねえねえ」

「なんだ?」

「この水にさ……塩入れといたら美味しく茹で上がるかな?」

 少しミスリル鉱脈から離れてコウが水の玉を作り出す。
 それをトモナリとヒカリが炎で熱する。

 一人で水の玉を出して、熱してお湯にするのは大変かもしれないが、今は炎を扱える仲間がいるのだから作業は分担した方が負担が少ない。
 水の玉に塩を入れおけば美味しい塩茹でになるのではないか、とミズキはうっすらと考えた。

 確かにいい感じの塩茹でにはなりそうだけど、カニにしっかり味がつくほどの塩はかなりの量が必要そうだ。

「……あったかい」

 サーシャは水の玉に手を突っ込んでいる。
 温める途中の水の玉はいい感じの温水になっている。

「お風呂入りたいな」

 石切場に来てゲートの攻略をして、ともう数日お風呂に入っていない。
 体を拭くシートで身を綺麗にはしているけれど、お風呂に入るのとはまた違う。

「……コウ君が水を出して、トモナリ君が温めてくれれば解決?」

「僕はお風呂じゃないよ」

 そのまま水の中に入ってしまいたい気持ちになっているサーシャにコウは苦笑いを浮かべる。

「これに入ったら周りから丸見えだぞ?」

 浴槽と違って水の玉は中が全方位から丸見えだ。
 お風呂として入るのも悪くないし、実際回帰前には水と炎の魔法を駆使して身を綺麗にしていたこともある。

 ただ丸見えなのはなかなか落ち着かない。

「……見たい?」

「別にそういうことじゃ……」

「えっち」

 サーシャはポッと頬を赤らめる。
 冗談なのかいまいち分かりにくいが、サーシャとの付き合いもそれなりに長くなってきたのでこれが冗談だとトモナリも分かっている。

「熱くなってきた」

 水の玉は熱されてお湯になってきている。
 そろそろ手を入れているのも辛くなってきたので、サーシャは手を引き抜いて水を払う。