「あんまり量はないな」

 露出して見えている鉱石の量は少ない。
 一番近いところは当然他の人も訪れるはずなので、少ないことは予想していた。

「サーシャとコウで見張りを頼む」

「えー、私がやるのー?」

 トモナリはインベントリからツルハシを取り出してミズキに渡す。
 壁にくっついているはそのままでは持ち帰ることができない。

 採掘せねばならないのである。
 自分がやるのかとミズキは不満そうだ。

「そうわがまま言うな。結局みんなやるんだからさ」

 ここに至っては男女の差別などない。
 男でも女でもみんなで平等に作業する。

 もちろんトモナリはメインでやるつもりなので、ミズキたちに交代してもらう気である。

「ガン、バル、のだぁ〜」

 ヒカリの応援をもらいながらツルハシを振るってミスリル鉱石を採取する。

「意外と難しいね」

 しっかりとツルハシの先端を当てなきゃ岩を砕くことができない。
 乱雑に振り下ろせばいいというわけにもいかない。

「よいしょ!」

「ぽぽい、ぽい。回収するのだ〜」

 砕いて採掘したミスリル鉱石はヒカリが袋にまとめてくれる。

「こんなもんかな」

 とりあえず見える範囲で採掘した。

「結構ありそうだけど……」

「これじゃあ全然足りないな」

「そうなの?」
 
 丈夫な分厚い袋いっぱいにミスリルを採った。
 それだけでも量がありそうだとミズキは思ったのだけど、トモナリは少ないという。

「この青いの全部ミスリルにも見えるけど、実際は不純物が多いんだ。しっかり精製して純度を高めるとミスリルそのものの量はグッと少なくなる」

 根本の岩部分も含まれていたり、青いところにもミスリル以外の不純物が多く含まれている。
 不純物が多いとそのまま使うわけにもいかないので、ちゃんとミスリルのみを取り出す作業を行わなきゃいけない。

 そうすると袋いっぱいに入っているようなミスリルも実際の量は意外と少ないのである。

「まあ、あれだよ。鉄鉱石もそのままじゃ使えなくて鉄を取り出す必要があるだろ?」

「ああ、なんとなく分かったかな」

 トモナリはミスリルが入った袋をインベントリに入れる。

「それに集めるだけ集めればいいものだからな。次行くぞ」

 欲張るのはいけないが、多めに集めればトモナリだけではなくみんなもミスリルを使った武器を作ってもらえるかもしれない。
 ツルハシもインベントリにしまって、次のミスリル鉱脈に向かう。

「トモナリ、なんかいるぞ」

「流石に何もなし……とはいかないか」

 次のミスリル鉱脈の前にモンスターがいた。

「ミスリルクラブ……」

「でっかいカニだね」

「あれ、食べられるのだ?」

「美味いらしいぞ」

 三階に出てくるモンスターはミスリルクラブと名付けられている。
 見た目はでかいカニである。

 ただ甲羅やハサミからミスリルが生えている。
 ミスリル鉱脈がある広い場所のど真ん中で丸まるようにして動かない。

「硬くて速い。ハサミは人なんか簡単に切断しちゃうから気をつけろよ」

「あのミスリルってどうなってんの?」

「アレ、くっつけてるらしいな」

 一見すると生えているように見えるミスリルだけど、実際はミスリルクラブの体から生えているのではない。
 ミスリル鉱脈のミスリルを自分の体にくっつけているのである。

「まあ知恵だよな。だけど体につけたミスリルのせいで防御も攻撃もレベルアップだ」

 硬いミスリルを甲羅につけることで防御力をアップさせるだけでなく、ハサミにもミスリルをつけることでトゲトゲとさせて破壊力も増している。
 加えてミスリルはその性質から魔法耐性も高い。

 甲羅にミスリルをつけることで魔法に対する耐性もつけられるのだ。

「……じゃあどうやって倒すの?」

 サーシャが首を傾げる。
 硬くて、魔法耐性もある。

 そんな相手にどうやって攻撃したらいいのか。

「力あるなら……そのままぶった斬ることもできるんだけどな」

 所詮ミスリルは体につけているだけのものである。
 魔法耐性も完璧ではない。

 相手を上回る攻撃力があればそのまま倒すことも可能である。
 しかしトモナリたちにそんな攻撃力はない。

「定石なのは隙間を狙うことだな」

 ミスリルも全身くまなく覆っているわけではない。
 ミスリルクラブが自らくっつけているのであって隙間も多い。

 甲羅なんかも十分に硬いが、ミスリル部分を狙うよりダメージを与えられる可能性がある。

「もっと簡単な方法もある……かな?」

 トモナリの顔を見て、まだ何かありそうだとコウは思った。
 これでも一年の付き合いであるのだから、なんとなく顔で分かることもある。

「その通り」

 トモナリもニヤリと笑って返す。

「俺たちに力は足りないけど、知恵がある。モンスターにも賢い奴はいるけれど……大体人間の知恵には及ばない」

 力をつけることも必要だが、人類は強大なモンスターに対して知恵を絞って対抗してきた。
 正面から叩き潰すだけが戦いではない。

「所詮はカニ。人間の知恵ってやつを見せてやろうぜ」

「トモナリ、悪ーい顔してるのだ」

「相手のモンスターの方を同情しちゃうね」

「敵に回したくない」

「ほんと、味方でよかったよ」

 散々な言われよう。
 だがちゃんと作戦はある。

 知っている、ということは大きな強みなのである。

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