「‘わざわざ来てもらって悪いな’」

 終末教との戦いは終わった。
 拠点は壊滅し、誘拐されていた覚醒者たちはビルの中で見つかって救出することができた。

 終末教の被害は甚大である。
 ただ襲撃した側の被害も決して少なくなかった。

 終末教からの襲撃に始まり、ビルに突入した瞬間バラバラの階に飛ばされて待ち受けていた終末教と戦うことになったらしい。
 おそらくゲートでの襲撃の時にトモナリたちを飛ばした覚醒者と同じ人物がやったのだろうと言われている。

 それはスラーサのことだろうなとトモナリは思った。
 大規模な空間転移スキルを持つ覚醒者は世界にもほとんどいない。

 そこらにホイホイとあるようなスキルではなく、スラーサ以外にそんな貴重なスキルを持つ覚醒者がいるとは思えない。
 それでも痛み分け同然で襲撃側も壊滅した回帰前に比べれば、いくらか被害は抑えられた。

「‘ジョン・ドゥ……恐ろしい能力を持つネクロマンサーを倒すことができたのは大きな功績だ’」

 トモナリたち日本勢はルドンアカデミーの学長室に呼ばれていた。
 終末教との戦いを持って交流戦は終わったのだが、帰る前にと呼ばれたのである。

 終末教との戦いで拠点を潰すことができたのも大きいが、やはりネクロマンサーのジョン・ドゥを倒したことも同じぐらいに大きい。
 人類に対して敵対的な組織に所属する、ネクロマンサーという危険な職業の覚醒者を倒せた。

 これによって本来ならジョンによって起こるはずの虐殺事件は防がれたことになる。
 ルドンアカデミーとしても、ジョン・ドゥを倒したということは対外的に公表できる功績が増えてありがたいことであった。

「‘アイゼントモナリ、そしてヒカリには感謝する。よくネクロマンサーを止めてくれた’」

 ジョンが倒れて死体が止まったために終末教との戦いは一気に決着がついた。
 トモナリが成し遂げたことは創造以上に大きいことなのだ。

「‘功績には褒賞を’」

 ルドンは自身のインベントリから一本の小瓶を取り出す。

「‘これは?’」

 小瓶の中には赤い液体が入っている。

「‘これはドラゴンの血だ’」

「‘ドラゴンの血……’」

「‘かつてアメリカにドラゴンが現れたことがある。その時に倒したものの血だ。君は立派な剣を持っているが他の装備品は正直貧弱だな。これ使えばアーティファクトの効果を極大化することができる。作るにしても、何か手に入れるにしても役に立つだろう’」

「‘こんなものもらっていいんですか?’」

 トモナリもドラゴンの血というアイテムがあることは知っていた。
 回帰前に活躍していた覚醒者が持っていた強力な装備の中には、ドラゴンの血を利用したものがると話を聞いたことがあったのだ。

 いくらだとかそんなことを聞いたことはなかったけれど、効果があることは目の当たりにしているので分かっている。
 本当にもらってもいいのかと驚いてしまう。

 お金に換算するとかなり高額なものである。
 結構お金を持っているつもりのトモナリでも、手を出せないぐらいの価値が実はある。

「‘個人戦優勝の賞品を兼ねてのものだ。遠慮なく受け取ってほしい’」

「‘ではいただきます’」

 良いものだからそんなに突き返すつもりもない。
 気が変わらないうちにとドラゴンの血を受け取る。

「‘そちらのドラゴン君には……少し不快だったかな?’」

 ヒカリはジッとドラゴンの血を見つめている。
 ドラゴンであるヒカリの目の前でドラゴンの血を見せたのは軽率だったろうか、とルドンは思った。

「むっ? 特に何ともないのだ」

 ヒカリはドラゴンの血が入った小瓶をツンツンとつつく。

『どうやら本物っぽそうだな』

 頭の中でルビウスの声が聞こえる。

『僅かだが同類の力を感じる。妾やチビ助よりも格は下そうだがな』

「チビ助だと!」

「ヒカリ、少し落ち着け」

 ドラゴンであるヒカリやルビウスは、ドラゴンの血からドラゴンの気配を感じていた。
 だからヒカリはぼんやりと小瓶を見つめていたのだ。

 ドラゴンにも格というものがあるのだなとトモナリは思った。

『まあ知らんやつの血など一々気にしてはいられないからな』

 ドラゴンの血であることは間違いないが、親しい同族でもない限りルビウスもドラゴンの血には興味がなかった。

「‘アイゼン君はアメリカに興味はないのかい?’」

「‘まさか目の前で堂々と勧誘するのか?’」

 今呼ばれているのはトモナリとヒカリだけではない。
 マサヨシたち教員も含めたみんながいる。

 個人的に話しているならともかく、マサヨシたちアカデミーの教員の前で堂々と勧誘の言葉を口にされてマサヨシが眉をひそめる。

「‘コソコソと声をかけるよりいいだろう’」

 マサヨシに睨まれてもルドンはフッと鼻で笑うだけだった。

「‘うちのものを引き抜くのはやめていただきたい’」

「‘彼らももはや子供ではない。どうするのかを決めるのは本人だ’」

「‘子供ではないかもしれないが、全ての責任を取るにはまだ若すぎる’」

「‘これだから日本は甘いのだよ’」

「‘甘いと言われようとも彼らを守るべき責任が我々にはあるのだ’」

 マサヨシとルドンの間に火花が散る。