「死ぬまで有効か。とりあえず今は受けるつもりはないし、今後もそれは変わらない」

「いつかきっとあなたに正しい終末が伝わることを願っています」

「話は終わりか? ならば俺は帰りたいのだが」

 いまだに戦闘の音は響いてきている。
 こんなところで引き留めにあっている場合じゃない。

「まだダメですよ」

「なぜだ?」

「あなたに死なれたら困るからです」

「戦いが終わるまでここに閉じ込めておくつもりか? 俺に死なれたくないならこんな戦い止めて降伏すればいい」

 トモナリは顔をしかめる。
 ゲートから出た直後に襲撃しておいて、死なれたら困るなどよく言うものだ。

「ふふ、そんなこともできませんよ。それに今回の作戦の責任者は私じゃありませんから」

「なんだと?」

「我々の組織……終末教も一枚岩ではありません。我々をお導きくださる存在は多くのことを我々に任せてくれています。どのように正しい終末を迎えるのか……それは我々が考えて行動せねばならないのです」

 スラーサはほんの少しだけ困った顔をした。

「我々を信頼してくれている……ただその分だけ色々な派閥もあるのです。過激な者もいれば、私のように優しくて慈悲に溢れた者もいます」

 初耳の話が多いものだとトモナリは思った。
 終末教内部でも考え方の違いがあるとは考えもしなかった。

「今回のことは過激派……正しい終末に抗うものは全て殺してしまえばいいという過激派閥主導なのです」

 確かによくある話だ。
 大きな力を持つ組織が穏健派と過激派に分かれていて、内部でも権力争いしているなんてあり得ないことではない。

 正しい終末という目的こそ合致しているものの、どうやって正しい終末を実現するのかで考え方の違いがあるのだ。
 もしかしたら回帰前に終末教が滅びたのも、内部分裂があったのかもしれない。

「恩着せがましい言い方をすると私はあなたを助けたのです。私がここにいるのも少しお手伝いを頼まれたからに過ぎませんしね」

「俺はそれを望まない。出してもらえないのなら力づくでもここを出る」

 トモナリは剣に手をかける。
 スラーサがトモナリのことを気に入ってくれていることは理解したが、トモナリは終末教になるつもりはない。

 望まぬ強制的な善意はありがた迷惑になることもある。
 スラーサはただ善意でトモナリを安全なところに隔離しているのかもしれないが、トモナリはそれに甘んじるつもりもなかった。

「……まあ好きにしてください。私にあなたを押さえつけるつもりはありませんから」

 スラーサは深いため息をつく。
 パチンと指を鳴らすとトモナリの後ろの扉が開く。

「いつでもお待ちしておりますよ。あなたが死ぬまで私の提案は有効です」

「……死んでも終末教にはならないよ」

 本来ならばスラーサも倒すべきなのかもしれない。
 ただ刃がスラーサに届く気がしない。

 トモナリよりも年下で、見た目にはただ可憐な少女に見える。
 しかし対峙しているだけでじっとりと汗をかくような異様な雰囲気をまとっている。

 敵意がないからいいものの、敵対していたら勝てる自信がなかった。
 気後れしている態度を出さないようにしていたが、正直戦いたくはないと思っていた。

 逃がしてくれるというのならその方がいい。

「行くぞ、ヒカリ!」

「う、うむ!」

 奇妙な出会いだった。
 スラーサが何者なのか。

 疑問を残しつつも早くみんなのところに行かねばとトモナリとヒカリは部屋を出て行った。

「……ドラゴンを従える者。こちらに来てくれれば嬉しいんだけどな」

 スラーサは横に黒い魔力の扉を作り出した。
 ゆっくりと黒い魔力の扉は開いていき、中にはひたすらに闇が広がっている。

「またきっと会えるよ。あなたが正しい終末に抵抗するならきっと、ね」

 立ち上がったスラーサは扉の中に入って行く。
 スラーサが入った後の扉はゆっくりと閉まり、煙のように消えてしまった。