「‘君こそ手際がいいね’」

「‘そうだろ?’」

 回帰前、トモナリが料理することも多かった。
 能力が低くて雑用させられていただけでなく、世界が滅亡に近づけばレストランなんてものもなくて自分で作るしかなかった。

 ただ腹が満たされればいいと考える人も滅亡期には少なくなかった。
 けれど食事はやはり活力の基礎となる。

 少しでも美味いものを食べられるならその方がいいに決まっている。
 手を加えて美味しくなるのならと、トモナリも工夫を凝らしているうちに料理もそこそこ上手くなった。

 カレーの下ごしらえぐらいなら簡単なものである。

「むっ? 僕は味見担当なのだ!」

 地面に伏せるキュリシーの背中の上にヒカリは寝転がっていた。

「ふっふっふっ、確かにそうなのだな」

「何してるんだ?」

 ヒカリとキュリシーは何か話しているように見えて、トモナリは声をかけた。

「お話ししています」

「話してるのだ!」

「えっ!?」

「‘どうかしたのかい?’」

 ヒカリとキュリシーがトモナリの声に反応して顔を上げた。
 次の瞬間、二人分の声が聞こえてきてトモナリは驚いた。

 一つはヒカリの声だろう。
 もう一つ女性の声っぽいものが聞こえたけれど、今トモナリの近くに女性はいない。

 ルビウスの声でもなく、声の内容もトモナリの質問に答えるものだった。
 急に驚いたトモナリにアルケスが驚いている。

「今のはまさか……」

 それが何の声だったのか、トモナリにはすぐにピンときた。

「何でしょうか?」

 トモナリが視線を向けたのはキュリシーだ。
 きょとんとしてトモナリの顔を見返すキュリシーの声が聞こえている。

「むむ?」

 何でトモナリがキュリシーを見つめているのかとヒカリは嫉妬したように目を細める。

「キュリシー?」

「何ですか?」

 キュリシーはトモナリに声が聞こえているとは思わず首を傾げる。

「アルケスの秘密を教えてくれるか?」

「‘……一体何を話してるんだ?’」

 本当にキュリシーの声が聞こえているのか確かめるため、トモナリはキュリシーにキュリシーしかわからないだろう質問をする。
 日本語がわからないアルケスは、トモナリがキュリシーに話しかけていることに不思議そうな顔をしている。

「秘密? アルケスはこすぷれというものが好きなようでよくスマホで見ています。ケモミミ? というのが好きらしいです」

「‘なあ、アルケス’」

「‘なんだ?’」

「‘コスプレした女の子好きなのか?’」

「‘…………な、何で君が……あっ、いや! 別に……’」

 アルケスは目を丸くして顔を赤くする。
 その反応でもう答えたようなものだが、キュリシーが答えたとは思いもしないアルケスは誤魔化そうとする。

「‘ケモミミ……’」

「‘うわーっ!’」

 好きなコスプレの種類までズバリ当てられてアルケスが叫ぶ。

「‘な、何でもない! 何でもないです!’」

 アルケスが叫んだものだから周りの視線が一斉に集まる。
 みんな、変なものを見る目をしていたが、モンスターが出たわけでもないので各々の活動に戻る。

「‘トモナリ君! どうして!’」

 誰にも言ったことのない秘密だった。
 アルケスは耳まで真っ赤になっている。

「実はキュリシーに教えてもらったんだ」

「あら?」

「‘キュリシー!?’」

 キュリシーは大きく首を傾げる。
 確かに秘密は言った。

 しかしヒカリが通訳したわけでもないのになんで伝わっているのか謎だとキュリシーは思っている。

「‘実はキュリシーの声が聞こえるんだ’」

「‘なんで!? いや、聞こえてもいいけど、何でそんなことを!?’」

 キュリシーの声が聞こえるということは非常に大きな話である。
 ただ今はキュリシーの声が聞こえていることよりも、キュリシーが話したという内容の方がアルケスにとっては大事であった。

「‘落ち着けアルケス。俺はいいと思うぞ’」

「‘な、何もいいことなんてあるもんか!’」

「‘まあ、俺も悪いし、秘密は秘密にしておくからさ’」

 アルケスの反応を見る限りでは、キュリシーが言ったことは本当にアルケスの秘密だったのだと分かる。

「‘あんまり叫ぶと周りにバレるぞ?’」

「‘うぅ……’」

 取り乱すアルケスの様子を周りは気にしている。
 覚醒者は耳もいいので注目されていると会話を聞かれてしまう可能性が高い。

 トモナリがキュリシーの声が聞こえたことと、それを確かめるために秘密を教えてほしいとお願いしたことを説明した。

「‘キュリシーにバレてたのか……’」

 アルケスは落ち込む。
 キュリシーの前でも普通にスマホをいじったりしている。

 まさかスマホを覗かれているとも、コスプレの画像にいいねをしていることがバレているとも思いもしなかった。

「‘アルケスは猫科ではなく私のようなミミの方がお好みなのですよ’」

 キュリシーもトモナリに言葉が通じると聞いて驚いたけれど、アルケスのような秘密を暴露されたわけでもないので割とすぐにトモナリの話を受け入れた。
 ついでにドヤ顔でさらに秘密を教えてくれた。

 けれどもこれ以上秘密を知ったことをアルケスに伝えると、恥ずかしさでゲートに飛び込んでしまいそうなので聞かなかったことにする。