ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした

「これからどうすんだっけ?」

「ちゃんと話聞いてたのか、ユウト?」

「聞いてたよ。ただもう忘れちゃっただけ」

 ユウトは悪びれもなく肩をすくめてみせる。

「これからホテルに移動なのだ!」

「その通り。ヒカリの方がよく覚えてるな」

「はっはっはっー! ユウトには負けないのだ! 褒めるがよいぞ!」

 トモナリの方にしがみついていたヒカリはトモナリの方に頭を差し出す。

「はいはい」

「むふー」

「おいおい……ヒカリが俺に勝つだって? 笑わせるよな、なあ?」

「そうだね」

「ユウトがヒカリちゃんに勝ってるところ一つもないもんね」

「あれ!? そっち!?」

 流石にヒカリには負けないだろう。
 ユウトはそんなつもりでサーシャとミズキの方を見た。

 しかし二人は全く逆の意味でユウトに同意した。
 ヒカリの方がユウトよりも勝っているのだから、確かにおかしな話であるということなのだ。

「ど、どこが負けてんだよ!」

「じゃあ勝ってるところ言ってみたら?」

「…………可愛さ?」

「ユウトのことアメリカに置いていこうか」

「アメリカが迷惑……」

「ひ、ひでぇ!」

 ミズキとサーシャの二人はため息をつく。
 色々あるだろうに、なんでよりによって可愛さでヒカリに勝負を挑んだのだ。

 流石に可愛さ勝負ではユウトに勝ち目が無い。
 ヒカリは撫でられながら勝ち誇った顔をしている。

「僕の方が可愛いのだ!」

「それは当然だな」

「ほ、他に勝てるところは……」

「何で可愛さ一番なんだよ?」

 もっと勝負になるところはあるだろうとトモナリもため息をつく。

「‘すいません’」

「ん?」

 英語で声をかけられてトモナリは立ち止まった。
 振り返ると制服を着たイカつい男性が二人、険しい目をしてトモナリのことを見ている。

 腕を見るとセキュリティと英語で書いてある。

「‘何ですか?’」

 トモナリは英語で答える。
 みんなはトモナリがサラリと英語を話したことに驚いている。

「‘失礼ですが肩の……’」

「‘ああ、コイツですね’」

 声をかけてきたのは空港のセキュリティを担当している覚醒者であった。
 何の用で声をかけてきたのかはすぐに分かった。

 以前お祭りに行った時も同じようなことがあった。

「‘俺のパートナーですよ。これがテイマーライセンスです’」

 トモナリはサイフからテイマーライセンスを取り出した。
 契約しているモンスターの写真と名前、そしてトモナリの名前が記載されているカード状の身分証明書である。

「‘確認します’」

 セキュリティの人はテイマーライセンスを受け取ると機械に通す。
 日本よりも進んでいるアメリカは、テイマーライセンスそのものが何なのかをセキュリティが知っていた。

 機械の画面には覚醒者としてのトモナリの簡易的な情報が映し出されている。
 トモナリとヒカリのことを画面と見比べて、一度大きく頷いたセキュリティはテイマーライセンスをトモナリに返す。

「‘ご協力感謝します’」

「‘お疲れ様です’」

 ちゃんとした身分証を持っているので何も怖がることはない。
 堂々としていれば覚醒者は基本的に悪い扱いを受けることはないのだ。

「みんな、なんだよ? そんな変な顔して」

 怖いセキュリティを見送ってみんなの方に振り向くと、ユウトたちは不思議そうな顔をしていた。

「いや、お前英語喋れたんだなって」

 みんなが変な顔してるのは、トモナリがセキュリティに対して英語で対応したからだった。
 英語話せる先輩呼ばなきゃ、なんて思ってたら流暢にやり取りしているものだから驚いたのだ。

「まあ……軽くな」

 トモナリは英語が話せた。
 なぜなら回帰前の経験があるから。

 回帰前、世界が滅亡に近づくと国も言語も関係なく協力しなければ生きていけない時がくる。
 ただそんな時でも意思の疎通は必要だ。

 同じ国の人ばかりならその国の言語を使えばいいが、世界中いろんな人がいた。
 やはりそんな時に使われるのは英語であった。

 学校で英語は習った。
 成績も良かったけれど、ただそれで話せるようにはならない。

 話せるようになったのは実際に英語を使うしかなかったからである。
 日常会話はもちろん、一瞬の判断を求められる戦いの中でも英語なのだ。

 慣れるしかなかった。
 気づけばトモナリも英語が堪能になっていたのである。

 戦いの中で覚えた英語なのでスラングちっくだったり荒いところはあったりするけれど、かなり話せる方であることは間違いない。

「なんでヒカリがドヤ顔なんだよ?」

「トモナリが凄いということは僕も凄いということなのだ」

「謎理論だな」

「トモナリと僕は一心同体なのだ〜」

「さすがヒカリちゃん」

「うむ、サーシャは分かってるのだ!」

 ちょっと目を細めて笑っているようなサーシャの褒め言葉にヒカリは気分がよさそうにしている。

「問題ないわね?」

「ええ、大丈夫です」

 引率の教員もいるが、リーダー的に周りに気を配っているのはカエデである。
 カエデも英語が堪能でトモナリとセキュリティの会話を聞いていたけれど、ちゃんとした受け答えだったと感心していた。

「早くバスに行くわよ。早めに移動すれば観光の時間もあるから」

「観光!?」

「いいんですか?」

「ええ、早めに着いたもの。少しぐらいはいいって」

 飛行機は天候やモンスターの都合で飛ばないこともある。
 スケジュールギリギリでは間に合わなくなる可能性もあるので、予定は余裕を持って移動していた。

 今回は何の問題もなく移動できたのでスケジュールには余裕ができていた。
 少しぐらい観光してもいい時間があったのだ。

「トモナリが話せんなら安心だしな」

「ねー」

「……まあいいか」

 人のこと通訳として使うつもりだな、と思ったけれど、どうせみんなで行動することに変わりはない。

「美味いもの食べたいのだ」

「後でなんか探してみるか」