「あっ、戻ってきましたよ!」
ゲートがほんの少し揺らぎ、中からイガラシを先頭にして覚醒者たちが出てくる。
「あれ? トモナリ君とヒカリちゃんは……」
みんなの顔色は悪くない。
ただ連れて行かれたトモナリの姿が見えないとサーシャは少し不安げな顔をした。
「いた」
「本当だ」
「……情けない」
「こんなの初めてなのだ……」
「はははっ! しょうがないじゃないか!」
トモナリはもちろん生きている。
ただ無事といえる状態じゃない。
ゲートを出てきたトモナリはイヌサワに背負われていた。
そしてヒカリはそんなトモナリの背中にひっついている。
「急にヘニョヘニョしちゃうんだから驚いたよ」
トモナリを背負っているイヌサワは笑っている。
戦いが終わってメガサウルスを解体している中で、トモナリは体の力が抜けて地面に座り込んでしまった。
ドラゴンズコネクトを使ってブレスを放って、メガサウルスのブレスに対抗した。
魔力を使い果たした上に、ドラゴンズコネクトは使うと使用後にある程度の反動もあったのだ。
メガサウルスが展開していたバフの効果が切れて、魔力不足とドラゴンズコネクトの反動でトモナリは動けなくなってしまったのである。
ヒカリも魔力を使い果たしてトモナリと同じく動けなくなった。
カッコよく帰還するなんてつもりはないけれど、背負われて帰ってくるのは流石にカッコ悪いなと思わざるを得ない。
「ヒカリちゃん大丈夫?」
「大丈夫じゃないのだ〜お肉食べたいのだ〜」
フウカたちが駆け寄ってきて心配そうにヒカリのことを見上げる。
ヒカリはトモナリの背中で渋い顔をしている。
「ヒカリの心配だけか?」
「トモナリ君も大丈夫?」
「なんだかついで感があるな……」
「そんなことないよ」
「心配したよ」
「まあ、心配ありがと」
サーシャとフウカの無表情コンビは何を考えているのか分からないなとトモナリは笑う。
「皆さんが戻ってきたということは……」
「ええ、ゲート攻略しましたよ」
「ふふ、トモナリ君は大活躍だったよ!」
「やめてくださいよ、イヌサワさん……」
「ははははっ! 今日はお祝いだね!」
ーーーーー
「モンスターの素材の精算金は後々君たちにも分配しよう。たとえ研修生でも我々ギルドの仲間だからな」
ギルドの拠点に帰ってきて夜、ゲート攻略を祝うささやかな宴が開かれた。
いつもより豪勢な食事が用意され、大人たちはお酒も飲んでいる。
堅苦しい話はなしだが、イガラシがゲート攻略後の処理についてトモナリたちにも話してくれた。
回収したミニサウルスの魔石やモンスターの死体は、鑑定したり調査して売りに出される。
魔石はすぐに売れるだろうが、メガサウルスの皮や骨なんかは利用できるかどうかの調査を経てから売られることになる。
すぐに換金できるものではない。
だがトモナリたちはもうすぐ研修を終えて帰る。
フウカとアサミはまだいるけれど換金するまでギルドにいるかはわからない。
それでも攻略を共にした仲間である。
たとえ直接参加していなくとも外で待機してもらうことにも意味があって、攻略の一部を成しているといえる。
つまり攻略のタイミングでギルドにいたのなら攻略で得られたお金をいくらか受け取る権利があるのだ。
「ただ初めてのモンスターだし、鑑定に時間もかかる。ボスの皮は硬かったから利用価値もあるだろうから売れるだろうが、オークションなんかの形式になればさらに時間もかかるかもしれない。気長に入金を待ってくれ」
お金がもらえるだけありがたい。
多少時間がかかろうともみんな文句はない。
「あと……あれは」
「あれについてもみんなで話し合った」
あれとは精髄のことである。
ギルドに戻ってからトモナリはちゃんと精髄を渡していた。
権利を主張することはしないけれど、どうするつもりなのは気になった。
「これは君にあげよう」
イガラシはインベントリから精髄を取り出すとトモナリの前に置いた。
「えっ!?」
予想もしていなかった答えにトモナリは驚いてしまう。
「みんなで話し合った。今回誰一人として死ぬこともなく無事でいられたのは、君のおかげだ」
ゲート事故を事前に警告してくれた。
たとえ分かっていたとしても口を出すのには勇気がいるだろう。
「ゲート事故のモンスターを倒せたのも君の働きが大きい」
トモナリは何もしていないなどというけれど、メガサウルスを弱体化させ、攻撃して地面に倒したのはトモナリである。
トドメこそ刺してはいなくとも、トモナリの働きは決して小さいものではない。
「それに最後……これは君に向けてドロップしたように思えた」
トモナリとメガサウルスの頭は見つめ合い、そして最後に精髄はヒカリの手の中に収まった。
地面に転がるでもなくトモナリとヒカリを選んで、その下に行ったのだ。
「俺に意味を推しはかることはできない。だが何かしらの意味がある。これは君が持つべきだ。五十嵐ギルドの総意。俺たちの感謝の気持ちである」
「…………分かりました。ありがたく頂戴します」
みんなの思いを断り続けるのも失礼だ。
トモナリは精髄を手に取る。
「それでいい。受け取れるものは受け取っておけ。ついでにこれもやろう」
「これは?」
イガラシは小さなメモ用紙をテーブルに置いた。
「それはそれのみで活用できないだろう。道具にするにしても、防具や武器にするにしても職人の手は必要だ。これは俺が知る最高の職人の連絡先だ。気難しい奴だが腕は確かだ」
メモには名前と連絡先が書いてある。
「……ありがとうございます」
「君の将来が楽しみだよ。うちに来てくれると嬉しいんだがな」
「考えておきます」
「ふっ、まあ君はうちよりも大きなところで活躍するかもしれないな。研修に来てくれて感謝するよ」
「こちらこそ、こんなに良くしてくれてありがたく思ってます」
短い研修だったけれど、濃い時間を過ごせた。
五十嵐ギルドの被害を無くし、精髄をトモナリが手に入れた。
イヌサワもトモナリの頼みならどこにでも飛んでいくから呼んでくれ、なんて言ってくれた。
このことが未来にどんな影響を及ぼすのか、それはトモナリにも分からない。
けれども多少は明るい影響になるのではないかと期待している。
三年生のサポートであるトモナリの研修時間は終わり、アカデミーに帰ったのであった。
ーーー第三章完結ーーー
ゲートがほんの少し揺らぎ、中からイガラシを先頭にして覚醒者たちが出てくる。
「あれ? トモナリ君とヒカリちゃんは……」
みんなの顔色は悪くない。
ただ連れて行かれたトモナリの姿が見えないとサーシャは少し不安げな顔をした。
「いた」
「本当だ」
「……情けない」
「こんなの初めてなのだ……」
「はははっ! しょうがないじゃないか!」
トモナリはもちろん生きている。
ただ無事といえる状態じゃない。
ゲートを出てきたトモナリはイヌサワに背負われていた。
そしてヒカリはそんなトモナリの背中にひっついている。
「急にヘニョヘニョしちゃうんだから驚いたよ」
トモナリを背負っているイヌサワは笑っている。
戦いが終わってメガサウルスを解体している中で、トモナリは体の力が抜けて地面に座り込んでしまった。
ドラゴンズコネクトを使ってブレスを放って、メガサウルスのブレスに対抗した。
魔力を使い果たした上に、ドラゴンズコネクトは使うと使用後にある程度の反動もあったのだ。
メガサウルスが展開していたバフの効果が切れて、魔力不足とドラゴンズコネクトの反動でトモナリは動けなくなってしまったのである。
ヒカリも魔力を使い果たしてトモナリと同じく動けなくなった。
カッコよく帰還するなんてつもりはないけれど、背負われて帰ってくるのは流石にカッコ悪いなと思わざるを得ない。
「ヒカリちゃん大丈夫?」
「大丈夫じゃないのだ〜お肉食べたいのだ〜」
フウカたちが駆け寄ってきて心配そうにヒカリのことを見上げる。
ヒカリはトモナリの背中で渋い顔をしている。
「ヒカリの心配だけか?」
「トモナリ君も大丈夫?」
「なんだかついで感があるな……」
「そんなことないよ」
「心配したよ」
「まあ、心配ありがと」
サーシャとフウカの無表情コンビは何を考えているのか分からないなとトモナリは笑う。
「皆さんが戻ってきたということは……」
「ええ、ゲート攻略しましたよ」
「ふふ、トモナリ君は大活躍だったよ!」
「やめてくださいよ、イヌサワさん……」
「ははははっ! 今日はお祝いだね!」
ーーーーー
「モンスターの素材の精算金は後々君たちにも分配しよう。たとえ研修生でも我々ギルドの仲間だからな」
ギルドの拠点に帰ってきて夜、ゲート攻略を祝うささやかな宴が開かれた。
いつもより豪勢な食事が用意され、大人たちはお酒も飲んでいる。
堅苦しい話はなしだが、イガラシがゲート攻略後の処理についてトモナリたちにも話してくれた。
回収したミニサウルスの魔石やモンスターの死体は、鑑定したり調査して売りに出される。
魔石はすぐに売れるだろうが、メガサウルスの皮や骨なんかは利用できるかどうかの調査を経てから売られることになる。
すぐに換金できるものではない。
だがトモナリたちはもうすぐ研修を終えて帰る。
フウカとアサミはまだいるけれど換金するまでギルドにいるかはわからない。
それでも攻略を共にした仲間である。
たとえ直接参加していなくとも外で待機してもらうことにも意味があって、攻略の一部を成しているといえる。
つまり攻略のタイミングでギルドにいたのなら攻略で得られたお金をいくらか受け取る権利があるのだ。
「ただ初めてのモンスターだし、鑑定に時間もかかる。ボスの皮は硬かったから利用価値もあるだろうから売れるだろうが、オークションなんかの形式になればさらに時間もかかるかもしれない。気長に入金を待ってくれ」
お金がもらえるだけありがたい。
多少時間がかかろうともみんな文句はない。
「あと……あれは」
「あれについてもみんなで話し合った」
あれとは精髄のことである。
ギルドに戻ってからトモナリはちゃんと精髄を渡していた。
権利を主張することはしないけれど、どうするつもりなのは気になった。
「これは君にあげよう」
イガラシはインベントリから精髄を取り出すとトモナリの前に置いた。
「えっ!?」
予想もしていなかった答えにトモナリは驚いてしまう。
「みんなで話し合った。今回誰一人として死ぬこともなく無事でいられたのは、君のおかげだ」
ゲート事故を事前に警告してくれた。
たとえ分かっていたとしても口を出すのには勇気がいるだろう。
「ゲート事故のモンスターを倒せたのも君の働きが大きい」
トモナリは何もしていないなどというけれど、メガサウルスを弱体化させ、攻撃して地面に倒したのはトモナリである。
トドメこそ刺してはいなくとも、トモナリの働きは決して小さいものではない。
「それに最後……これは君に向けてドロップしたように思えた」
トモナリとメガサウルスの頭は見つめ合い、そして最後に精髄はヒカリの手の中に収まった。
地面に転がるでもなくトモナリとヒカリを選んで、その下に行ったのだ。
「俺に意味を推しはかることはできない。だが何かしらの意味がある。これは君が持つべきだ。五十嵐ギルドの総意。俺たちの感謝の気持ちである」
「…………分かりました。ありがたく頂戴します」
みんなの思いを断り続けるのも失礼だ。
トモナリは精髄を手に取る。
「それでいい。受け取れるものは受け取っておけ。ついでにこれもやろう」
「これは?」
イガラシは小さなメモ用紙をテーブルに置いた。
「それはそれのみで活用できないだろう。道具にするにしても、防具や武器にするにしても職人の手は必要だ。これは俺が知る最高の職人の連絡先だ。気難しい奴だが腕は確かだ」
メモには名前と連絡先が書いてある。
「……ありがとうございます」
「君の将来が楽しみだよ。うちに来てくれると嬉しいんだがな」
「考えておきます」
「ふっ、まあ君はうちよりも大きなところで活躍するかもしれないな。研修に来てくれて感謝するよ」
「こちらこそ、こんなに良くしてくれてありがたく思ってます」
短い研修だったけれど、濃い時間を過ごせた。
五十嵐ギルドの被害を無くし、精髄をトモナリが手に入れた。
イヌサワもトモナリの頼みならどこにでも飛んでいくから呼んでくれ、なんて言ってくれた。
このことが未来にどんな影響を及ぼすのか、それはトモナリにも分からない。
けれども多少は明るい影響になるのではないかと期待している。
三年生のサポートであるトモナリの研修時間は終わり、アカデミーに帰ったのであった。
ーーー第三章完結ーーー

