『感謝する……トモナリ』

 首だけになったのにメガサウルスはやたらと澄んだ理性的な目でトモナリのことを見ていた。

「俺は何もしてないよ」

 結局倒したのはミヤノである。
 イヌサワやみんながいなければ倒せなかったし、トモナリが倒したというのは無理があると自身でも思う。

『何もしていない者ほど何かしたと言い、何かをした者ほど何もしていないと言う。お前は俺の願いを叶えてくれた。永遠の苦しみを終わらせてくれた』

 確かにメガサウルスを倒したのは別の人である。
 しかしトモナリはよく戦った。

 抑制装置を起動させて、ブレスだって防いだ。
 何もしていないことはない。

『ドラゴンの声が聞こえる、ドラゴンの友よ……感謝する。これを……お前に……』

 メガサウルスの頭が光となる。
 ギュッと小さく凝縮されて、トモナリの目の前に飛んでくる。

「受け取らないのだ?」

 自分に権利があるのだろうか。
 そんなことを考えていたトモナリの代わりにヒカリが手を伸ばすと、メガサウルスの光の塊がヒカリの手の中に収まる。

「ほい、なのだ」

 ヒカリが受け取っちゃった。
 しょうがないのでヒカリが差し出したものをトモナリが受け取る。

 メガサウルスの頭は茶色い水晶玉のようなものになった。

『アースドラゴンの精髄
 アースドラゴンの力が込められた精髄。そのままでは使えないが加工することでドラゴンの力を利用することができる』

「ドラゴンの力だったのか……」

 アイテムの説明を見てトモナリは思わず呟いた。
 トモナリのもう一つの目的、それはこの精髄であった。

 回帰前においては詳細を伏せられて精髄とだけ話を聞いていたけれど、ドラゴンのものだったのかと驚いてしまう。
 メガサウルスの攻略のために回帰前、五十嵐ギルドは甚大な被害を受けた。

 イヌサワまでもが引退してしまったのだが、すでに解放している地域を捨ててギルドを畳むこともできなかった。
 そのために五十嵐ギルドは精髄を手放すことにした。

 人の手に渡るために詳細は伏せられて精髄とだけ話が出たのだ。
 精髄は防具に加工され、その防具は最終的に終末教の手に渡った。

 死壁などと呼ばれた終末教の覚醒者が精髄の防具を使っていたのだ。
 強力なタンクだった死壁は強力な精髄の防具を使って、多くの覚醒者を捻り潰した。

 五十嵐ギルドの被害を抑えれば、精髄が流出して終末教の手に渡る可能性は低くなる。
 できるならトモナリが欲しいな、と考えていた。

『ゲートが攻略されました!
 間も無くゲートの崩壊が始まります!
 残り5:47』

「ゲート崩壊のタイムリミットも動き始めたぞ。時間はまだあるからしっかりと状況を確認するんだ!」

 裏ボスであったメガサウルスが倒されたことでゲート崩壊も再び進み始めた。
 ただ六時間近くもあるのだから焦る必要はない。

 イガラシはみんなの状態を確認する。
 魔法や尻尾の攻撃をくらって怪我をした人はいたものの、死人は出なかった。

 回帰前に引退したイヌサワは超重力を使った反動があるけれども、反動を除けばダメージはない。

「メガサウルスは解体して持って帰るぞ!」

 モンスターの死体も立派な資金源である。
 メガサウルスの皮は硬く、十分に利用できるために持って帰ることにした。

 ただデカすぎるので一人のインベントリにはとても収まりきらない。
 なので解体してある程度の大きさにして持って帰るのだ。

「あの、コレ……」

 精髄は目的のものだが、攻略で得られたものはギルド全体のものである。
 トモナリが勝手に持ち帰っていいわけがない。

 まして連れてきてもらった研修生の分際でネコババなんかできやしない。

「んん? ああ、それは一旦君が持っていなさい」

 イガラシに精髄を渡そうとしたのだが、ニコリと笑って持っているように言われてしまう。
 とりあえずインベントリに保管して、後で渡せばいいかとトモナリは思った。

「内臓も傷つけないように気をつけろよ!」

 みんなで協力してメガサウルスを解体していく。

「まあ……かなり上手くいったかな」

 怪我人無しとまではいかなかったが、死人は出なかった。
 十分すぎるぐらいの成果を上げられた。

「お疲れ様、ヒカリ」

「うむ、トモナリもお疲れ様なのだ!」

 トモナリはそばを飛ぶヒカリの頭をわしゃわしゃと撫でたのだった。