「クンクン……」
「どうした、ヒカリ?」
「なんだが変なにおいがするのだ」
ヒカリが何かのにおいを嗅いでいる。
変なにおいがするというのでトモナリも嗅いでみるけれど、特に何かのにおいを感じることはない。
『苦しい……早く……』
「また……声が聞こえる」
においは感じない。
その代わりに頭の中に声が響く。
決して明るい響きではなく重たく悩ましげな声である。
相変わらずトモナリにだけ聞こえているようで周りで反応している人はいない。
『奇妙な気配があるのぅ』
「……ルビウス?」
今度はルビウスの声が聞こえてきた。
頭の中で響いてくるという点では先ほどの妙な声と似ている。
「奇妙な気配ってなんだ?」
『知らぬ。ただ懐かしさを覚えるような気配じゃのぅ』
「懐かしさを感じる気配……」
トモナリは声を、ヒカリはにおいを、ルビウスは気配を感じた。
ここまでくると何もないと考える方がおかしいぐらいだ。
「けど……なんでだ?」
ドラゴンたるヒカリやルビウスが何かを感じることはあるかもしれない。
だがトモナリまで何かを感じるのは不思議である。
みんなにも声が聞こえているのなら理解できる話なのに、トモナリだけに声が聞こえているということもまた不思議な話なのである。
ゲート事故のことは表に出てきたニュースの情報を見ただけで全てを網羅しているわけじゃない。
不思議な声を聞いたなんて話は記憶になかった。
「何かあったのかい?」
トモナリの態度の微妙な変化を感じ取ったイヌサワがスッと隣に立った。
「見えました」
「本当かい?」
「ゲート事故はボス戦で……正確にはボス戦後に起こると思います」
いい機会なのでゲートについての情報をもう少し出しておく。
あまり秘密にしすぎても事故の被害が出てしまうかもしれないし、あまり情報を出しすぎても変に疑われてしまうかもしれない。
もうボス戦も近いのである程度事故の被害を防げそうな情報を出してもいい頃である。
「ボスを倒すとボスが爆発を起こします。それによってゲート事故が引き起こされる……可能性があります」
「爆発だって?」
「ひとまずゲート事故よりもボスの爆発に気をつけてください。巻き込まれたら怪我人が出るかもしれません」
「イガラシさんに伝えておこう。情報ありがとね」
イガラシはトモナリのそばを離れていく。
「ただ、声の正体は謎のまま……だな」
回帰前の事故でもそんなことがあったのだろうかと考える。
表に出ていない情報なこともあるだろうし、誰か特定の人にだけ聞こえる声ならば聞こえた人が言わなかったことや攻略中に死んでしまった可能性もある。
声が何か攻略のヒントになるのか、あるいは危険性を示すものなのかもわからない。
悩んでも仕方ないと思いつつやはり気になってしまう。
『もうすぐだ……感じる。この永遠に続く苦しみが終わる時が来る……』
また声が聞こえてくる。
もっと何が言いたいのはっきりしてくれとトモナリは思う。
「にしても……一本道だな」
ドアを軽く引いてみてシノハラが顔をしかめる。
研究所の廊下を進んでいくとドアみたいなものもいくつかある。
しかし天井が崩れていて入れなかったり開けようとしてもピクリともしなかったり手をかけるところすらないドアまであった。
パッとみた感じでは見るところも多そうなのにドアが開かなければただの一本道である。
「ミニサウルスだ! 戦闘準備!」
研究所の中を進んでいくと前の方からミニサウルスが走ってきた。
そんなに広くない廊下では全員が広がって戦うことはできない。
イガラシが指示を出すこともなく各々が互いの状況を見ながら戦闘の体制を整える。
こうした場所での陣形を使った戦いも慣れているようだ。
フウカやアサミは邪魔にならないように素早く後ろに下がっている。
「なっ……後ろからも現れたぞ!」
シノハラが手をかけて開かなかったドアがバンと内側から壊れてミニサウルスが飛び出してきた。
「うっ!」
「サーシャ!」
「ありがと」
後ろにいたトモナリたちはドアのそばに近かった。
部屋から出てきてトモナリたちを見つけたミニサウルスがすぐさま飛びかかってきた。
サーシャは逃げることもなく盾を構えてミニサウルスの攻撃を受け止めたが、力が強すぎて簡単に吹き飛ばされてしまう。
トモナリが吹き飛ばされたサーシャを受け止める。
「ふふ、良い反応だったよ」
再び飛び掛かろうとしたミニサウルスは体が重たくて飛び上がることができなかった。
それどころかドンドンと体が重たくなって頭を上げていることすら辛くなっていく。
「こんな罠もあるんだね。後ろも警戒しなきゃだね」
気づいたらドアから飛び出してきたミニサウルスたちは床に伏せるようにして押さえつけられていた。
「イヌサワ、大丈夫か?」
「もちろん。ちゃんと僕が見てたからね」
サーシャが攻撃されたのも大丈夫からだろうと思ってわざと見逃していたのだ。
多少の経験も必要だというのがイヌサワの考えなのである。
だけど無理はさせない。
イヌサワは笑顔を浮かべているが、その前ではミニサウルスたちがイヌサワの重力操作によって潰されてメキョメキョとひどい音が響き渡っていた。
「どうした、ヒカリ?」
「なんだが変なにおいがするのだ」
ヒカリが何かのにおいを嗅いでいる。
変なにおいがするというのでトモナリも嗅いでみるけれど、特に何かのにおいを感じることはない。
『苦しい……早く……』
「また……声が聞こえる」
においは感じない。
その代わりに頭の中に声が響く。
決して明るい響きではなく重たく悩ましげな声である。
相変わらずトモナリにだけ聞こえているようで周りで反応している人はいない。
『奇妙な気配があるのぅ』
「……ルビウス?」
今度はルビウスの声が聞こえてきた。
頭の中で響いてくるという点では先ほどの妙な声と似ている。
「奇妙な気配ってなんだ?」
『知らぬ。ただ懐かしさを覚えるような気配じゃのぅ』
「懐かしさを感じる気配……」
トモナリは声を、ヒカリはにおいを、ルビウスは気配を感じた。
ここまでくると何もないと考える方がおかしいぐらいだ。
「けど……なんでだ?」
ドラゴンたるヒカリやルビウスが何かを感じることはあるかもしれない。
だがトモナリまで何かを感じるのは不思議である。
みんなにも声が聞こえているのなら理解できる話なのに、トモナリだけに声が聞こえているということもまた不思議な話なのである。
ゲート事故のことは表に出てきたニュースの情報を見ただけで全てを網羅しているわけじゃない。
不思議な声を聞いたなんて話は記憶になかった。
「何かあったのかい?」
トモナリの態度の微妙な変化を感じ取ったイヌサワがスッと隣に立った。
「見えました」
「本当かい?」
「ゲート事故はボス戦で……正確にはボス戦後に起こると思います」
いい機会なのでゲートについての情報をもう少し出しておく。
あまり秘密にしすぎても事故の被害が出てしまうかもしれないし、あまり情報を出しすぎても変に疑われてしまうかもしれない。
もうボス戦も近いのである程度事故の被害を防げそうな情報を出してもいい頃である。
「ボスを倒すとボスが爆発を起こします。それによってゲート事故が引き起こされる……可能性があります」
「爆発だって?」
「ひとまずゲート事故よりもボスの爆発に気をつけてください。巻き込まれたら怪我人が出るかもしれません」
「イガラシさんに伝えておこう。情報ありがとね」
イガラシはトモナリのそばを離れていく。
「ただ、声の正体は謎のまま……だな」
回帰前の事故でもそんなことがあったのだろうかと考える。
表に出ていない情報なこともあるだろうし、誰か特定の人にだけ聞こえる声ならば聞こえた人が言わなかったことや攻略中に死んでしまった可能性もある。
声が何か攻略のヒントになるのか、あるいは危険性を示すものなのかもわからない。
悩んでも仕方ないと思いつつやはり気になってしまう。
『もうすぐだ……感じる。この永遠に続く苦しみが終わる時が来る……』
また声が聞こえてくる。
もっと何が言いたいのはっきりしてくれとトモナリは思う。
「にしても……一本道だな」
ドアを軽く引いてみてシノハラが顔をしかめる。
研究所の廊下を進んでいくとドアみたいなものもいくつかある。
しかし天井が崩れていて入れなかったり開けようとしてもピクリともしなかったり手をかけるところすらないドアまであった。
パッとみた感じでは見るところも多そうなのにドアが開かなければただの一本道である。
「ミニサウルスだ! 戦闘準備!」
研究所の中を進んでいくと前の方からミニサウルスが走ってきた。
そんなに広くない廊下では全員が広がって戦うことはできない。
イガラシが指示を出すこともなく各々が互いの状況を見ながら戦闘の体制を整える。
こうした場所での陣形を使った戦いも慣れているようだ。
フウカやアサミは邪魔にならないように素早く後ろに下がっている。
「なっ……後ろからも現れたぞ!」
シノハラが手をかけて開かなかったドアがバンと内側から壊れてミニサウルスが飛び出してきた。
「うっ!」
「サーシャ!」
「ありがと」
後ろにいたトモナリたちはドアのそばに近かった。
部屋から出てきてトモナリたちを見つけたミニサウルスがすぐさま飛びかかってきた。
サーシャは逃げることもなく盾を構えてミニサウルスの攻撃を受け止めたが、力が強すぎて簡単に吹き飛ばされてしまう。
トモナリが吹き飛ばされたサーシャを受け止める。
「ふふ、良い反応だったよ」
再び飛び掛かろうとしたミニサウルスは体が重たくて飛び上がることができなかった。
それどころかドンドンと体が重たくなって頭を上げていることすら辛くなっていく。
「こんな罠もあるんだね。後ろも警戒しなきゃだね」
気づいたらドアから飛び出してきたミニサウルスたちは床に伏せるようにして押さえつけられていた。
「イヌサワ、大丈夫か?」
「もちろん。ちゃんと僕が見てたからね」
サーシャが攻撃されたのも大丈夫からだろうと思ってわざと見逃していたのだ。
多少の経験も必要だというのがイヌサワの考えなのである。
だけど無理はさせない。
イヌサワは笑顔を浮かべているが、その前ではミニサウルスたちがイヌサワの重力操作によって潰されてメキョメキョとひどい音が響き渡っていた。

