「ゲート攻略の手順としては先発の調査隊を派遣して中の様子を確かめてから難易度に合わせて攻略隊を組みますよね?」

「まあそうなるだろうね。ゲートの難易度はCクラスだ。君の実力は承知しているけれど、研修でもあるし攻略隊に入れられないだろう」

 Cクラスゲートは決して軽んじていい難易度ではない。
 一般的な考えではCクラスならレベル60程度、つまりフォーススキルの解放は必要だと考えられている。

 フウカぐらいならともかくトモナリではまだ参加するに達しているとはみなされない。

「参加できるとは……思ってません」

「じゃあ何を話したかったんだい?」

「このゲート攻略はギルドの全力をあげてください。先発の調査まではいいですが攻略する時には必要な人以外は全て攻略に投入してほしいんです」

「……それはどうしてだい?」

 あまり冗談とも思えない話にイヌサワはサングラスを外した。
 あまり色の濃いサングラスではないので外したところでさほど視界に変わりはないけれど、トモナリの目は相変わらず真剣そのものであった。

「覚醒者協会の秘密保持契約は結んでいますか?」

「試練ゲートを攻略する時にね」

「今からお話しすることは覚醒者協会の中でも秘密にされていることなんですが、俺には未来予知の力があるんです」

「未来予知の力だって? そうしたスキルが?」

 イヌサワが驚いた顔をした。
 未来予知のスキルはこれまで二人確認されている。

 一人はすでに亡くなっていて、もう一人は未来予知のスキルを持つ覚醒者がいる国で厳重に保護されている。
 国家レベルで保護すべきスキルであり、トモナリがそんなスキルを持っているのだとしたらかなりの秘密であった。

「正確にはヒカリにそうした能力があるんです」

「ヒカリ君に……」

「ニヒッ!」

 イヌサワが視線が向けるとヒカリはニパッと笑った。
 トモナリがヒカリの能力を偽っていることはヒカリも承知している。

 変に話すとボロが出るのでヒカリは堂々とした顔をして黙っていればいいと事前に言われている。

「ミニサウルスと名付けられたモンスターを見た時に未来予知が発動したらしいんです。このままでは五十嵐ギルドは攻略に失敗して大きな被害を受けてしまうことになります」

 トモナリがフウカの付き添いを選んだ理由、それは五十嵐ギルドに行くからだった。
 五十嵐ギルドがゲートの攻略に失敗して大きな損害を出したことは回帰前に聞いた話であった。

 どうして被害を受けたのかトモナリは覚えていて、関与できる可能性があるのではないかと思ってここに来たのだ。
 ただ回帰して記憶があるからですと説明はできないので未来予知で何かを見たからという理由で介入する。

「本当にそんな能力が?」

「覚醒者協会に聞いてみてください」

 これまで覚えている限りのゲートやモンスターの事故をいくつか報告して実績を積み重ねてきた。
 疑わしくとも覚醒者協会に問い合わせしてもらえれば未来予知っぽく色々アドバイスしている確認は取れるだろう。

「……いや、信じよう」

「イヌサワさん……」

 覚醒者協会と繋がりのあるミヤノと繋がりのあるイヌサワなら確認する手段があるはずだと思っていた。
 けれどもイヌサワはトモナリを信じることにした。

「このことをイガラシさんに話してもいいかい?」

「本当に信じるんですか?」

「ふっ、なんだい? そんな真面目な目をした後輩のことを疑うはずがないだろう。嘘だとしてこの話において君のメリットがないしね」

 イヌサワは仮に嘘だとして考えてみた。
 ゲートの攻略に全力を尽くさせてトモナリになんのメリットがあるというのか。

 泥棒でもするとしても必要な人員は残していくし、五十嵐ギルドに盗めるようなものはない。
 ゲートの攻略もあっさり終わってしまうだろうからトモナリがゲート攻略に全力を尽くさねばならないと嘘をついてもメリットがないのである。

 トモナリが嘘をついてもメリットがないことに加えて、仮に嘘なら攻略は問題なく進むことを合わせて考えると嘘だろうと本当だろうと信じてもいいとイヌサワは思った。

「今すぐイガラシさんに話に行こうか。何事も早めにやっちゃうのがいいからね」

 イヌサワはサングラスをかけて立ち上がる。

「ほら、行くよ?」

「……良い人だな。待ってくださいよ!」

 こんなにあっさり信じてもらえるとはトモナリも思っていなかった。
 もうちょっと情報を小出しにして説得するつもりだったのにむしろ拍子抜けぐらいの感じがある。

 トモナリは慌ててイヌサワの後を追いかける。

「それにしても未来予知か……君は本当に多才だね」

「そんなことないですよ」

「謙遜することはないさ。ヤナギ君の身の回りの世話もそつなくこなしているようだしね」

「意外とヤナギ先輩手がかからないんですよ」

 まさかそこを褒められるとは思ってなかったトモナリは苦笑いを浮かべた。
 三年生のサポートのために来ているトモナリはフウカの身の回りの世話を焼いている。

 基本的に周りに興味がなくてフウカは何もしないように思えるが、それは間違いではなかった。
 ただし何もできないわけじゃなく、これやってくれというとちゃんとやってくれるタイプの人でトモナリも予想より手間がかからずにいた。

 回帰前戦う能力が低くて周りの人のサポート的なことを積極的にこなしていたトモナリにとって、フウカ一人の世話ぐらいなんてこともなかったのである。