「まずは見回りからだ」

 歓迎を受けた次の日から早速ギルドの仕事が始まった。
 アカデミーの先輩ということでイヌサワがそのままギルド研修の担当になってくれた。

 一年生も戦わせるなんてイガラシは言っていたけれど、初日からモンスターと戦わせることはない。
 拠点や生活基盤など背後が安全であればこそ安心して戦える。

 モンスターを討伐している間に拠点をモンスターに落とされたなんて笑い話にならない。
 モンスターはいないか、あるいはモンスターはいなくとも不自然なところやモンスターの痕跡などはないかなど日頃から目を光らせておくことは大事だ。

 柵で囲まれた保護区域だけでなく柵の外の町の中、取り戻した畑、これから攻略する予定の区域までしっかりとチェックしておく必要がある。
 そのためにトモナリたちに最初に任せられた仕事は見回りであった。

 見回りだからと軽んずる人もいるけれど決して手の抜けない仕事である。
 いつでも戦えるように朝からしっかりと武装してギルドの建物を出発してイヌサワについていく。

「ここが五十嵐ギルドで奪還、管理している畑だ」 

「広いですね」

 初めにやってきたのは畑であった。
 モンスターがいたところを五十嵐ギルドが一掃して、荒れていたところを農業経験者や希望者と共に開墾した。

 元々広く畑だったところなので防衛や働き手を考えて多少縮小した今でもかなりの広さがある。
 パッと見ただけでも何人もの人たちが働いている。

 彼らは五十嵐ギルドのメンバーではないが、農業経験者や農家として働きたいと申し出てくれた人たちで五十嵐ギルドの保護の下で農業をしているのだ。

「僕が五十嵐ギルドに来る前に土地は取り戻していたんだ。ちょうど荒れた土地を開墾しているときぐらいに僕が来たのかな? それから本格的に農業が始まって……こうして畑だって見て分かるぐらいになった」

 イヌサワはサングラス越しに畑を眺めている。

「それを昨日いただいたんですね」

「まだまだ収穫は少ないから自分たちで食べるぐらいしかないけどね」

「そんな貴重なものを……」

「美味かったぞ!」

「いいのさ。食べるためのものだからね。美味しいって言ってもらえるだけで嬉しいよ」

 それにギルドのみんなもよく食べるから足りないんだ、と言ってイヌサワは笑った。

「イヌサワさん!」

「ああ、ムラタさん」

 畑を眺めながらいつもの巡回ルートを歩いていると白髪の目立つ中年の男性が近づいてきた。

「みんな、この人はムラタさん。ここらの畑を管理してくれてる人だ」

「ええと、こちらの方々は?」

「ギルドに研修に来ている高校生さ。ただちゃんと覚醒者だ」

「そうだったのですか。私はムラタと申します。よろしくお願いします」

 ムラタは優しい笑みを浮かべて頭を下げる。

「昨日ここで取れた野菜を使った天ぷらを食べてもらったんだ。好評だったよ」

「おお、喜んでいただけたなら私も嬉しいです」

「それで、いつもと変わりはないかい?」

「一つだけ。昨日の夜センサーに反応が。アラームが鳴るほど入ってこなかったので分かりませんが報告を」

「モンスター……泥棒……かな? 昨日のデータを一応送っておいてくれ」

「分かりました」

 ムラタは再び頭を下げて作業に戻っていく。

「見回りをしながらこうして責任者から報告も受けるんだ。畑はただ見回ってるだけじゃなくて、防犯装置も設置してる。人がいない夜間なんかは何かが畑に近づくとセンサーが察知して五十嵐ギルドにアラームが作動するようになってるんだよ」

 見回りを再開しながらイヌサワはムラタとのやり取りについて説明してくれる。
 昨夜何かが畑に近づいたらしい。

 ただ完全には侵入しないで離れていったのでアラームが鳴ることもなかった。
 警戒すべきはモンスターだけじゃない。

 畑があれば人間が農作物を盗みに来ることもある。
 センサーが反応したからとモンスターがいるかもしれないと決めつけることもできないのである。

「センサーのデータを解析してモンスターの疑いが濃厚なら改めて調査をすることになる」

 その後畑の見回りを終えて町中、モンスター占領区の近くまで一通り見回りをした。

「どうだった? といっても見て回っただけだけど」

「ふっ、疲れたのだ」

「お前は俺に抱かれてただけだろ?」

 一仕事終えたような顔をヒカリはしているけれど、移動だってトモナリが抱えていた。
 何も疲れる要素がないのである。

「ふふ、仲がいいね。ただまだ今日は終わりじゃないよ」

 一通り見回りはしたけれどまだ日は出ている。
 覚醒者なら体力的にも見回りだけではさほど消耗しないので、休みとするには時間的にも早い。

「ここからは訓練だ」

 覚醒者たるもの日々強くなる努力も怠れない。
 一見平和なように見える五十嵐ギルドであるが少しいけばモンスターが跋扈するモンスター占領区が近くにあるのだ。

 戦いの勘を鈍らせず、強くなることもまたギルドに所属する者としての義務であり仕事でもある。
 五十嵐ギルドはギルドの建物の隣の建物をトレーニングルームとして使っていた。