「僕たち五十嵐ギルドが活動を始めてから担当しているモンスター占領区の40%を奪還した」

 現在モンスター占領区となっている土地の多くが大きな都市から離れたところである。
 そのために五十嵐ギルドが拠点を置いているところも少し離れているのだ。

「これからより戦いは厳しく……奪還も楽じゃないだろう」

 ゲートに近づくほどモンスターの数は多くなる。
 モンスター占領区を取り戻して、モンスターの領域が狭くなるとそれだけモンスターが密集して取り戻すことが難しくなっていく。

 五十嵐ギルドが担当している地域の40%を取り戻したが、それはモンスターの少ない場所を取り戻したに過ぎない。
 ここからが本当の戦いであるといえるのだ。

「僕たちは試練ゲートの攻略にも参加している。モンスター占領区の解放、試練ゲートの攻略……強い覚醒者は大歓迎なのさ」

 五十嵐ギルドの目的はかなり高いところにある。
 ミネルアギルドのような志の低いギルドもある一方で、このようなギルドがあることはトモナリにとっても希望だと思える。

「君たちは課外活動部……だっけ? 僕の時にはなかったものだ。特進クラスの中でもより優秀な子が集まっているんだってね」

 車を走らせていると荒廃した町に入ってきた。

「うちを選んでくれるかは分からないけれど……来てくれると嬉しいよ」

 町中を走っていく。
 すると鉄柵が見えてきた。

 大きな門があって銃を持った歩兵がいる。
 単純な銃火器はモンスターに効果が薄い。

 けれど特殊な弾薬を使ったり覚醒者が銃を使えばモンスターにもある程度の効果はある。

「おーい、未来のエースを連れてきたぞ」

 イヌサワが車の窓から身を乗り出して門の方に手を振る。
 門がゆっくりと開いていく。

「ようこそ五十嵐ギルドへ。おしゃれな都会ギルドとは違うけれどありのままを君たちに見せよう」

 車は門の中に入っていく。
 柵の外では人の姿は見られなかったけれど、柵の中に入ると歩いている人が見られた。

「覚醒者以外の人もいるんですね」

 町中を歩く人には覚醒者っぽくない普通の人もいるようにトモナリは思えた。

「ふふ、よく分かるね。五十嵐ギルドとは言ったけれどまだ正確には五十嵐ギルドではないんだ」

「どういうことですか?」

「ここも元々はモンスター占領区だった。今は五十嵐ギルドがモンスターを掃討して、レベル1……安全区域となっている。空港がある町とここの間には畑があってね。モンスターを追い払った今再生を試みているんだ。ここの方が畑に近いから町と畑の再生を五十嵐ギルドの保護の元で行っている」

 鉄柵の内側は五十嵐ギルドの保護の下で畑と都市の再生を行う一つの町となっていた。
 まだまだ不足しているものも多く、念のために立てられた柵の内側での活動がメインであるけれど、高い志を持ってみんな努力している。

 車を走らせているとイヌサワに向かって笑顔を向けて手を振る人もいる。
 イヌサワもみんなに慕われているようである。

 車は大きなビルの地下駐車場に入っていく。

「ここが五十嵐ギルドが使っている建物だ」

「電気が通っているんですね……」

 車を降りたアサミが天井を見上げる。
 ちゃんと電気がついていて地下でも問題なく活動できる。

 元モンスター占領区で外を見ると割と町はボロボロになっていた。
 電気が通っているようには見えなかった。

「大きな魔石発電機があるんだ。柵の内側の区域の電気ぐらいなら賄えるようになってる」

 モンスターから取れる魔石の魔力を利用して電気を作る魔石発電機が建物に備られている。
 一般向きではない大型の発電機は柵の中で使う分の電気を生み出している。

「ただエレベーターは使えないから階段でね」

 電気を大きく消費し、メンテナンスも難しいエレベーターは利用しない。
 荷物を持って階段を上がっていく。

「さて、改めて、本当に、五十嵐ギルドにようこそ」

 建物の五階まで上がってきてようやく中に入れた。
 中は外から見ていたよりも綺麗だった。

「まずは荷物を置いてこよう」

 いきなり五階という中途半端なところに通されたのは五階には泊まれるような部屋が整えてあるからである。
 柵の外にあるホテルからベッドなどを持ち込んでギルド員が住めるようにしてあった。

「置いてあるベッドなんかは良いホテルのものだから快適だよ」

 一人一室与えられ、トモナリたちはとりあえず荷物を置いた。

「それじゃあみんなに挨拶に行こうか」

 今度は最上階である十一階まで上がる。
 イヌサワは社長室と書かれたプレートのある部屋をノックする。

「社長室……?」

「このビルはどこかの会社のものだったみたいだね。もうその会社はないけど」

「おお、遅かったな、イヌサワ」

 社長室のドアが開いて大柄な男性が顔を覗かせた。

「入るといい」

 社長室の中は普通のオフィスのようだった。
 ただ壁に大きな剣が掛けられていることだけが覚醒者らしい感じを出していた。

「よくここまで来てくれたな。俺が五十嵐ギルドのギルド長である五十嵐真澄(イガラシマスミ)だ」

 頬に大きな傷が走るイガラシは腕を大きく広げて笑顔を浮かべ、歓迎の意を示した。