ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした

 一方でゲートの中に入って行うサポートもある。
 インベントリがあるとはいっても中に入れられる量には限界がある。

 トモナリなんかはインベントリがかなり大きい方であるが、それは割と特殊な方で自分の装備でいっぱいであるという人も珍しくない。
 そうなると必要になるのが荷物持ちである。

 自分のインベントリに物を入れたりリュックなどを背負って一緒に入っていく。
 他にも倒したモンスターの素材やゲートの中で拾えるものの回収なんかもやったりする。

 基本的にサポートを行う人は攻略を行う人よりも弱い人がやる。
 そのためにしっかり守ってあげなきゃいけないなどのルールも存在している。

「トモナリ君はサポートとして連れてく」

「えっ、俺ですか?」

 外で大人しくテントでも立ててようと思っていたトモナリのことをフウカが推薦する。

「……そうかではヤナギのチームにはアイゼンがサポートにつくように」

 トモナリがいいのかと問いかけるような視線をテルに向けたけれど、テルは困ったように笑ってフウカの推薦を受け入れた。
 テルが部長であるけれども課外活動部の中で一番強いのはフウカである。

 フウカが部長を嫌がったからそうしたことも得意なテルが部長をやっているのだ。
 普段からフウカがわがままを言うことはないが時としてしっかりとした主張をすることがあり、そうなるとテルも弱いのである。

「それじゃあもう一人誰か中に入ってのサポートをしたい人はいるかい?」

 一人はトモナリで決定してしまった。
 フウカは満足げに微笑んでいて、テルは一年生を見回す。

「……えっ、僕?」

「おっ、ミナミ君やってくれるか?」
 
「えっ、あの、えっ……あ、はい……」

 外も外でやることがあるとはいってもやはり外の方が楽ではある。
 みんなサポートなら外の方がいいなと黙っていたのだが、声を出してしまったマコトがテルに目をつけられた。

 なぜ声を出してしまったのか。
 それはトモナリがジッとマコトのことを見ていたからだった。

 嫌ですとも言えない。
 仕方なくマコトはサポート役を引き受けた。

「なんで僕なの?」

 攻略の計画についてテルが主導して話し合って決めた。
 攻略そのものは次の日なので解散となって各々部屋に戻ろうとしていた。

 マコトがトモナリに近づいてどうして自分のことを見ていたのか問い詰める。

「戦わなくても経験値は入るからな」

 マコトはほんの少しトモナリたち特進クラスと合流するのが遅かった。
 そのためにちょっとだけレベルの上がりが遅い。

 もはや気にするような差もないが、こうした機会には差を埋めるチャンスとなる。
 戦わずともサポートとして同行するだけで経験値が入る。

 レベルアップできるほどではないだろうけど、戦いを見学する経験とレベルアップのための経験値はマコトの差を埋めてくれるだろう。

「うぅ……」

 ちゃんと考えてのことだった。
 マコトのためを思ってのことなので反論することもできずにマコトは小さくうなる。

「マコトも犠牲……サポートとしてがんばれよ」

「今犠牲って言わなかった?」

「気のせいだ」

「気のせいじゃないよー!」

「まあいいじゃないか。外いたって暇なだけだ」

「はぁ……やるなら頑張るけどさ」

 暇な方がいいなとマコトは思う。
 けれどももう逃げられないのでサポートを頑張る方向で思考を切り替えようと努力するのであった。

 ーーーーー

「みんな準備はいいかい?」

 ゲートの前でテルが最終確認を行う。
 二、三年生のみならず万が一に備えて一年生も装備を身につけている。

 加えてトモナリとマコトはサポートのために大きなリュックを背負っている。
 見た目ほどのものは入っていないがサポートの荷物持ちとして大きな容量のリュックは必需品なのだ。

「準備万端なのだ!」

 ヒカリもヘルムをかぶってやる気満々である。
 油断するとフウカに捕まるのでヒカリはフウカを避けるように警戒している。

「一番最初は僕が入って安全を確認する。それから攻略開始だ」

 事前に中の状況は分かっているが、何かのきっかけで環境が変わる可能性やモンスターが待ち受けている可能性も排除できるものではない。
 タンクでもあるテルが最初に入って中の様子を確かめる。

 テルがゲートの中に消えていって、程なくしてまた出てくる。

「安全は確認できた。中に入ろう」

「みんな頑張ってくださいねー!」

 幸い今回ゲート周りに危険なことはなかったようである。
 サポートであるトモナリとマコトは一番後ろからゲートに入る。

 ゲートの中は事前に聞いていた通りの森の中である。

「信号を設置するぞ」

 今時技術も進歩している。
 周りの変化に乏しい環境の中ではゲートの位置が分からなくなってしまうこともある。

 そうならないために色々な対策が編み出されてきた。
 今主流なのは信号を発する機械を使うことである。

 地面に埋め込むものでモンスターにもバレにくく専用の端末を使えばゲートの方角と距離が分かるようになっている。

「向こうの木の方を北側として固定しよう」

 端末を操作して仮の北側を決める。

「ゲート地点から北をAチーム、南をBチームで攻略していこう。時間は昼までの四時間。四時間後一度ゲートに集合だ」

 流石にテルは慣れているなとトモナリも感心してしまう。
 ベテラン覚醒者みたいに進めていく。
「それじゃいくよ」

 トモナリがサポートとしてついていくのはフウカを中心としたBチームである。
 実力者ということでフウカがリーダーとしてチームをまとめることになってるが、みんなもそれぞれちゃんと動きを分かっているのでフウカが指示することもない。

 ゲートを中心として定めた南側に移動していく。
 メンバーにはカエデやタケルもいた。

 王職の覚醒者が二人もいるのだから大丈夫だろうとトモナリはついていく。

「いた」

 モンスターを見つけてフウカが停止の合図を出す。

「レオンコボルトだな」

 見つけたのはレオンコボルト三匹の小さな集団。
 まずは三年生が前に出てレオンコボルトの能力を確かめることにする。

 フウカをセンターに二人の三年生が左右に広がり、囲むようにレオンコボルトに近づく。
 さらに後ろから二年生たち三人もフウカの後についていく。

 トモナリとヒカリは邪魔にならないように距離を取って戦いを見学である。

「あれが闇騎士王か……」

 フウカの体を黒い魔力が包み込む。
 まるで闇のような魔力はフウカたちに気づいたレオンコボルトに恐怖を与えた。

 フウカが手を伸ばすと黒い魔力が手のような形を成してレオンコボルトの一体を捕まえた。

「圧倒的……ヤナギ先輩一人でも勝てたな」

 グシャリとレオンコボルトが闇の手の中で握りつぶされた。
 鎧であり縦であり武器である。

 まさしく闇を操るフウカの能力は味方であればとても心強い。
 そのまま左右から挟み込んできた三年生が残りのレオンコボルトを倒してしまい、戦いは二年生の出番なく終わった。

「そんなに強くないわね」

 トモナリがナイフでレオンコボルトの魔石を取り出している間に他のメンバーで改めてレオンコボルトについて話し合う。
 戦った感じも何もないぐらいあっさり終わってしまった。

 ここに先生がいたならもう少し相手の出方を窺いなさいと怒るところだろうとカエデは思う。

「この感じなら少数の群れは二年生中心で、数が多くなるようなら三年生中心の布陣で行こうか。ヤナギもそれでいいな?」

「うん」

 三年生の男子が話をまとめる。
 ダンジョンの等級がE+と聞いていたので警戒してレオンコボルトを倒してしまったが、この様子なら今のところ大きな心配なさそうだった。

 次は二年生を中心に戦い、レオンコボルトの動きを把握するつもりだった。

「ほい、ヒカリ」

「ほれきた」

 トモナリはレオンコボルトの腹から魔石をほじくり出すとヒカリが持ったタオルの上に置く。
 ヒカリがタオルでレオンコボルトの血を拭くと魔石はモンスターの革で作られた袋に放り込まれる。

「アイゼン君の手際もいいね」

 みんなはトモナリのサポート能力にも驚いている。
 倒したモンスターのお腹をサッと開いて魔石を取り出すのは初めてだとなかなか難しい。

 倒すのはいいけど解体するのは嫌だという人も一定数いる中でトモナリは何のためらいもなく魔石を取り出している。
 短い話し合いの最中に魔石の取り出しを終えてくれていたので感心しているのだ。

 先輩面しようと思っていたタケルは当てが外れたなとつまらそうな顔をしている。

「とりあえず五匹を基準にしよう。五匹以下なら二年生が前に。五匹よりも多いなら僕たち三年生が前に。」

「一匹ならアイゼンにやらせてもいいかもね」

「今回サポートですよ」

「サポートとして教えられることもなさそうだものね」

「まあ先輩たちが危なくなったら俺も戦いますよ」

「ふふ、じゃあその時はお願いするわ」

 軽く冗談なんかを言ったりしてBチームの雰囲気は悪くない。
 次見つけたのは四匹の群れだったので二年生が中心となって戦った。

 拳王であるタケルともう一人の二年生が前に出てカエデは後ろから魔法で攻撃する。
 三年生が程よく距離を保ってフォローを入れられるようにしながら二年生が自由に動いてレオンコボルトはあっという間に倒された。

「特殊な能力や魔法はないみたいだな」

 タケルが拳についた血を拭う。
 一気に倒し切ることもしないでレオンコボルトの出方を窺いながら戦った結果、レオンが魔法を使ったり見た目から想像もできないような能力を使うことはないようだった。

 噛み付く、爪で切り裂くなどの基本的な攻撃しかしてこない。
 決して油断して受けていい攻撃ではないけれど、対処が難しい攻撃でもない。

 テルのようなベーシックなタンク役がいないのでみんなでそれぞれ注意を引きつけながら戦っていく感じになる。

「このままサクサク倒していこう」

 トモナリの魔石回収を待ってまたモンスターを探し始めた。

「今度は武器持ちか」

 次に見つけたレオンコボルトは槍を持っていた。
 粗末な槍ではあったが武器を持っているということで脅威レベルは少し上がった。

 数も六匹であったので今度はまた三年生が前に出る。

「効かないよ」

 またしてもセンターから攻めるフウカは黒い闇の拳でレオンコボルトを一匹押し潰した。
 しかし今回のレオンコボルトはフウカの能力に怯むことなく反撃してみせた。

 けれどレオンコボルトの槍はフウカを包み込む闇に阻まれてダメージを与えることができない。
「くらえ!」

 フウカの闇の鎧が槍の先端を包み込んで拘束する。
 さっさと武器でも手放せばいいのにレオンコボルトは無駄に槍を引き抜こうと試みる。

 ただ簡単に抜けるはずもなく、動きが止まったところにタケルが前に出た。
 レオンコボルトの一体に素早く拳を叩き込んで倒す。

 前に戦った時よりも動きが速くなっていて強くなっているなとタケルを見ながらトモナリは思った。

「流石の連携だな」

「ひーまーなーのーだー」

「今日は我慢だぞ」

 トモナリはちょっとでも勉強になればとみんなの戦いを眺めているけれど、暇を持て余したヒカリはトモナリの頭に顎を乗せて頭をグリグリ動かす。
 ちゃんと出しゃばらずに引いた動きをするということも時には大切だ。

 しっかりとサポートに徹するつもりのトモナリはヒカリの攻撃にもめげない。

『こら、トモナリを困らせるでない!』

「むむむむ……」

 ちょいちょいヒカリと同等の争いを繰り広げるルビウスであるが、割と年長者としてヒカリをビシッと指導してくれることもある。
 お姉さん、時にはお母さんのようにヒカリを諭してくれるのだからありがたい。

 ドラゴンの品格というものがルビウスの中にあるらしく、ヒカリにも品格を持つようにと言っている。
 本来は親がこうしたことを教えるらしく妾はまだ子供もいないのに……と文句も言っていたりする。

『妾も暇だが我慢しておるのだぞ!』

 ただルビウスの指導はちょっとズレているのではないかとトモナリは思う。
 別にそれでいいので黙っているけれども。

「トモナリ君、お願い」

「はーい!」

 戦いが終わったので今度はトモナリの出番である。
 ナイフを取り出してレオンコボルトの解体に取り掛かる。

「にしても……+がつくほどの感じは今の所ないな」

 水分補給をしながらタケルがレオンコボルトの事態に目を向ける。
 タケルは正直な感想ではレオンコボルトを弱いと感じている。

 難易度E+ならDに近い難易度になるはずと聞いて警戒していたが、これなら通常のEぐらいの難易度がせいぜいといったところであった。

「これならパパパッと片付けて帰れそうですね」

「タケル……そういうのは……」

『レオンコボルトが侵略者の存在に気づきました! 総力を上げて抵抗を見せます!
 300/300』

「フラグっていう……遅かったか」

 タケルの余裕そうな発言を受けてカエデがたしなめようとした瞬間トモナリを含めた全員の前に表示が現れた。

「はぁ……だから言ったのに」

「す、すいません、お嬢……」

 カエデがやれやれと首を振ってタケルは気まずそうに小さくなる。

「特殊なクエストが発生したのか」

 トモナリは表示を見ながら面倒なことになったと目を細める。

「引く時間は……なさそうだね」

 ゲートまで下がって撤退かAチームと合流したいところであったのだが、すでに地鳴りのようなレオンコボルトの足音が聞こえ始めている。
 全方向から足音は聞こえていて逃げ場がないことをフウカは察した。

「モンスターウェーブね」

 カエデは冷静に特殊クエストの内容を予想する。
 大量のモンスターが発生するモンスターウェーブというものが時に発生する。

 300という数字はモンスターの数なのである。

「トモナリ君、サポートはやめて戦闘準備」

 戦うしかないとフウカは判断した。

「分かりました!」

 トモナリは背負っていた大きなリュックを下ろしてルビウスを抜く。

「300か……結構多いな」

「300もいないだろうね」

「どういうことですか、お嬢?」

「お嬢って呼ぶな。ここにはもう一チーム攻略してる奴らがいるだろ。なら多分半分はそっちに行ってるはずだ」

「なるほど……なら150ってことですね」

 300匹のレオンコボルトが発生した。
 普通に考えると300匹を倒さねばならないが、今はAチームとBチームで分かれて攻略を行なっている。

 300匹全てがBチームに向かってくるとは考えにくい。
 となると半分ずつ分担することになるだろう。

 それでも150匹である。
 一人当たり20匹以上倒さねばならない。

 ここでトモナリをサポートとして温存して守っておく暇はない。

「きたぞ!」

「互いの背を守るようにしながら戦うんだ!」

 三年生の指示で丸くなるように布陣して走りくるレオンコボルトを迎え討つ。

「ワハハハハッー!」

 緊張感の走る戦いの中でヒカリはようやく出番だと嬉しそう。
 一人でレオンコボルトの群れの中に突っ込んでいったヒカリは暴れる。

 爪で切り裂き、ブレスを吐いてレオンコボルトを倒していく。

「ハハッ! あいつも強くなってるな! 今なら噛まれたらタダじゃ済まなそうだ!」

 意外と心強いヒカリの活躍にタケルがやる気を燃やす。

「スキル拳闘之体(ケントウシタイ)!」

 タケルがスキルを発動させる。
 魔力を消費して力と素早さを大きく向上させる効果を持つ。

「アイゼンはフクロウを守れ!」

「分かりました」

 魔法使いタイプであるカエデは接近戦を苦手とする。
 実力を発揮するためにはしっかり守ってやる必要がある。

 その役割をトモナリが任されることなった。
「それじゃあ先輩、俺が守るんで魔法をお願いしますよ」

「周りは任せたよ」

 やはり対多数における殲滅力が高い攻撃といえば魔法である。
 カエデは風の魔法を得意とする。

 本来風は目に見えないが魔法で発生した風は魔力の影響を受けてうっすらと緑色に見える。
 カエデの周りをエメラルドグリーンの風が渦巻く。

 周りの状況を確認して魔法を放つことができる場所を素早く把握する。

「ヒカリ、帰ってこい!」

「ダハハー! 分かったのだー!」

 トモナリはヒカリを呼び戻す。
 カエデが魔法を放つなら敵の中をビュンビュン飛び回るヒカリが邪魔になる。

「いい判断ね!」

 カエデが魔法を発動させる。
 レオンコボルトも気にしないようなつむじ風が巻き起こる。

 しかしつむじ風は瞬く間に大きさを増していき、レオンコボルトを巻き上げるサイクロンとなる。

「おおっ……!」

 迫るレオンコボルトを切り捨てながらトモナリはカエデの魔法に感心してしまう。
 広範囲の魔法はコントロールも難しい。

 カエデは魔法を発動させるだけでなくしっかりと魔法をコントロールしている。

「できるだけ早く終わらせてAチームと合流するぞ!」

 決してBチームと比較してAチームが劣るとは思わないが何があるか分からないのが戦いである。
 できるならレオンコボルトを倒して合流して安全を確保することも大切な考えだ。

 それぞれスキルを発動させて戦う。
 トモナリは発動させるようなスキルはないのでヒカリと連携を取りつつレオンコボルトを倒す。

「サードスキル……シャドーブレード」

 フウカが闇の斬撃を飛ばす。
 まとめてレオンコボルトが真っ二つになって一気に数が減る。

 最初こそ減っていないようにも感じられたレオンコボルトであったが、だんだん目に見えて数が減ってきた。

「この調子ならAチームの方とも合流できそうですね」

「あっ、バカ! そういうこと口に出すと……」

『レオンコボルトたちの王が出現しました!』

「ほらね……」

 トモナリは別にフラグを立てたつもりじゃなかったのだけど、どうにもこのゲートは声を聞いているように反応する。
 トモナリたちの前に表示が現れてカエデはため息をついた。

「なんかデカいの来たのだ!」

 空を飛んで状況を見ていたヒカリがトモナリのところに飛んできた。
 ヒカリの尻尾が指している方を見ると森の木々の間を何か大きなものが駆け抜けていた。

「来るなら来てみろ!」

 森の中から現れたのは巨大なレオンコボルトであった。
 表示からするとレオンコボルトの王、つまりはキングレオンコボルトだろう。

 キングレオンコボルトに一番近いのはタケルだった。
 タケルは拳を構えてキングレオンコボルトを待ち構える。

「オラっ!」

 キングレオンコボルトは武器を持たずタケルに向かって取りかかると爪を振り下ろした。
 タケルはサイドステップで爪をかわすと拳をキングレオンコボルトの腹に叩き込んだ。

 普通のレオンコボルトなら骨が砕けて内臓にも大きなダメージが入る一撃である。

「おっと!」

 けれどもキングレオンコボルトはなんともないように反撃を繰り出した。

「へっ、なかなかやるじゃないか!」

「ヤマザト、下がって」

「えっ、あ……はい」

 キングレオンコボルトのさらなる攻撃をフウカの闇の魔力が受け止めた。

「チェ……」

 自分でもやれるのになと思いながらも今は迅速さと安全に戦うことが求められるのはタケルも理解していた。

「流石E+だね」

 フウカの闇の魔力が作り出した二本の腕とキングレオンコボルトの腕とで押し合いになる。
 わずかに押されているのはキングレオンコボルトの方だ。

「でもごめんね。さっさと終わらせるから。セカンドスキル:闇の支配者」

 フウカがスキルを発動させる。
 闇の腕が一回り大きくなりキングレオンコボルトの方が明らかに押され始めた。

 キングレオンコボルトが牙を剥き出しにして抵抗しようとするけれど上から押さえつけられるような感じにまでなってしまった。

「えいっ」

 闇の腕がギュルンと回転した。
 魔法で作られた闇の腕にはなんともなくともキングレオンコボルトの腕はそんなに回転するものじゃない。

 骨が砕ける音がしてキングレオンコボルトの腕がねじれる。

「そしてえいっ」

 腕がねじ砕かれた痛みに叫ぶよりも早くフウカはキングレオンコボルトの腕を引きちぎった。

「バイバイ」

 フウカの闇の腕の一本がキングレオンコボルトの胴体を掴み、もう一本の腕が頭を掴んだ。
 ゴキンと音が音がしてキングレオンコボルトの首が逆方向を向いた。

 フウカの闇の腕によって首の骨が折られたキングレオンコボルトはゆっくりと倒れる。

「終わり」

「圧倒的だな……」

 E+級のボスモンスターならD級の下の方にも匹敵するボスだろう。
 にもかかわらずフウカは圧倒的な力で危なげなくキングレオンコボルトを倒してしまった。

 強いとは分かっていたけど想像よりも能力が高そうである。

「これで最後なのだー!」

 ヒカリが最後のレオンコボルトを切り裂いて倒す。

「モンスターの魔石を回収する時間はないからこのままAチームの方に向かうよ」

 幸い怪我人もなくすぐに動ける状態だった。
 表示を確認するとまだあと50匹ほどレオンコボルトが残っているのでAチームはまだ戦っていることが分かる。
「トモナリ? いかないのだ?」

「もちろん行くさ」

 トモナリは投げるように置いたサポート用のリュックをゆっくりと拾い上げる。
 もう他のみんなは北の方に向かっていて、ヒカリは不思議そうにさっさと動かないトモナリを見ている。

「ふふ……」

 トモナリはパチンと指を鳴らした。
 そして先に行ったみんなのことを追いかけ始めた。

「……むむむ? まあいいのだ」

 ヒカリはトモナリの行動に一度首を傾げたけれど、トモナリの行動には何か意味があるとすぐに追いかけて背中にしがみついた。

 ーーーーー

「だいじょぶそう」

「まあAチームも強いからな。こっちはお前やフクロウもいたし殲滅力が高かったってだけだな」

 BチームがAチームを見つけてみると、Aチームも危なげなく戦いを続けていた。
 Bチームの方がレオンコボルトを倒すのが早かったのはフウカやカエデという広範囲の攻撃も得意とする攻撃力の高い覚醒者がいたからである。

 一方でAチームはテルを始めとして防御力もある編成だったので確実にレオンコボルトの数を減らしていた。
 Bチームがついた時にはもう残り20匹で助けに入るまでもなかった。

「マコトも戦えてるじゃないか」

 Aチームの方も流石にマコトをサポーターとして守っている余裕まではなかったようで、マコトもリュックを下ろして戦っていた。
 邪魔にならないように必死に立ち回ってレオンコボルトを倒している。

 二、三年生に混じりながらも上手く動けている。
 自信のなさがマコトの弱点であり、もっと自分の能力に自信を持てばもっと強くなれるはずだとトモナリは思っていた。

「ハァッ!」

『ゲートが攻略されました!
 間も無くゲートの崩壊が始まります!
 残り00:10』

 テルが最後のレオンコボルトを切り裂いた。
 どうやらボスはBチームに現れた一体だけのようで、Aチームの方には最後までボスは出現しなかった。

 最後のレオンコボルトを倒した瞬間表示が現れた。
 モンスターウェーブのモンスターを全て倒すことで攻略を終えたようである。

「テル!」

「見てたなら助けてくれてもいいんじゃないかな?」

「その必要なさそうだったからな」

 Bチームはモンスターを倒し終えたAチームに近づく。
 テルはタンクとして多くのレオンコボルトを引きつけながら戦っていた。

 リーダーとしてもみんなを率いるために引くわけにもいかずテルの消耗は大きく、肩で息をして汗だくになっていた。
 Bチームの三年生がテルにタオルを投げ渡して他のみんなの具合を確かめる。

「疲れはあるようだけど怪我はないな」

「後十分。みんなインベントリにモンスター入れて外に出るよ」

 ひとまず大きな怪我をしている人はいない。
 ただ疲れているところ悪いが余裕もない。

 ゲートが攻略されたことによりクローズする時間が迫っている。
 今回のゲートは閉じてしまうまでの時間が十分しかなくかなり短かった。

 十分以内にゲートから出なければならないのだ。
 この際解体なんてしている場合じゃない。

 みんなはできるだけレオンコボルトをインベントリに詰め込んでゲートに向かう。
 インベントリの容量は個人によって違うが、150のレオンコボルトでも一人当たり10も詰め込めれば持っていけるので分担して持っていくことができた。

「みんないるな? 忘れ物や落としたもの……何か残してしまったものはないか今一度確認するんだ」

 ゲート前までやってきて一度立ち止まる。
 まだ五分残っているので荷物を確認する。

 時々投げナイフを回収し忘れたとか後で取りに戻るつもりの素材を置いてきたなんてことが発生することもある。
 ゲートを出る前に忘れ物がないか確認することは大切なのだ。

「大丈夫そうだな。じゃあゲートを出るぞ」

 みんなが大丈夫そうなことを確認してゲートを出る。

「あっ、出てきた」

 サポートとして待っていた一年生のみんなは想定していたよりも二、三年生が戻ってくるのが早くて驚いていた。

「攻略終了しました」

「思っていたよりも早かったな」

 待っていたマサヨシも少し驚いたようだった。
 テルの性格なら慎重に攻略を進めるはずなのでこんなに早く終わるとは思っていなかった。

「中でモンスターウェーブが起こったのです。そのために早く終わりました」

 テルが簡単にゲートの攻略について報告する。

「なるほどな……そうしたことがあったのなら早くてもしょうがないな」

「一年! モンスターの解体をお願いするよ」

 中で解体できなかったモンスターは外で解体する。
 売れるモンスターならそのまま持ち帰って売ることもあるが、今回は経験も兼ねて一年生が持ち帰ったモンスターを解体することになった。

「こうなるとボスモンスターを持って帰れなかったのは少し痛いかもな」

 お金は目的でないがやはり持ち帰るものは持ち帰りたい。
 ボスモンスターの魔石は通常モンスターよりも価値が高いので持って帰りたかったところである。

「あっ、それなら」

 トモナリは自分のインベントリの中からボスレオンコボルトの死体を取り出した。

「あの状況で持ってきたのか?」

「実は……全部持ってきたんです」

「えっ!?」

 Bチームとして倒したレオンコボルトを実はトモナリが全部インベントリに入れて持ってきていた。
 あの状況では誰のインベントリに余裕があって入れられるかなんて考える暇がなかったのでモンスターの死体は無視したが、トモナリのインベントリの容量はかなり大きくてその場にあった死体全ても収納できた。

 だからこっそりと持ってきていたのだ。
「大型新人はインベントリも大型だな」

「この場合分配はどうするべきかな……」

 勝手なことをしたので怒られるかと思ったけど、みんなは怒るような様子もなかった。
 レイジはガハハと笑い、テルはトモナリが持ってきたモンスターの死体をどうすべきか悩み始める。

 状況が状況だけにインベントリの余裕を確認してモンスターの回収をなんてやっている暇はなかった。
 一刻も早く移動しようという状況で一人、インベントリにモンスターを入れたことは多少の問題かもしれない。

 しかしトモナリは特に遅れたわけでもないし、トモナリの行為で誰かが迷惑を被ってもいない。

「まあいいんじゃない」

「ぐぬー! 放すのだぁー!」

 Aチームのリーダーであり全体のリーダーでもあるテルも怒っていない。
 Bチームのリーダーであるフウカもあっけらかんとしているので他のメンバーからも特に苦情はなかった。

「アイゼン君はどうしたい?」

 正直お金に関して困っている人はいない。
 戦闘訓練が目的であるので元々持ってくる予定のなかったレオンコボルトの分の報酬を強く欲してはいなかった。

「うーん……」

 トモナリも特にお金には困っていない。
 先日ゆかりのために家を買ったがそれでもまだ貯金はあった。

「じゃあこうしませんか? ボスレオンコボルトとレオンコボルト五十匹はみんなで分けて、残り百匹は俺がもらってもいいですか?」

「みんなはどうだ?」

「ん、私はいいよ」

「先輩方がいいなら言うことないな」

 トモナリの提案に反発する人もいなかった。

「んじゃ」

 トモナリはインベントリの中からレオンコボルト五十匹を出す。

「よし、一年、解体だ」

「ええーっ!」

「ほら、さっさとやる!」

 レオンコボルトの死体そのものはいらない。
 持ち帰るなら魔石だけ取り出したほうが持ち運びしやすい。

 どうせならサポートとしてついてこなかった一年生にも解体をやらせようとテルは思った。
 ミズキは露骨に嫌な顔をするけれどいつかはやらなきゃいけないことである。

 渋々ナイフを持ってきてレオンコボルトの解体にチャレンジする。
 二年生が付き添って解体のやり方を教える。

「ぎゃあ! 血が飛んだ!」

 騒がしいミズキだけでなくサーシャやコウたちも解体に挑戦している。

「残りの百匹はいいのかい?」

 どうせなら今出して解体すればいいのにとテルは思った。

「別の使い方があるんです。……あの解体した後の死体ももらっていいですかね?」

「燃やすだけだから構わないけれど……何に使うんだい?」

「スキルの解放に使うんです」

「スキルの解放に?」

「そうなんです。実はスキルの解放にも秘密があるんですよ」

 ーーーーー

 ゲートの攻略を終えたトモナリたちはそのままアカデミーに帰ってくることになった。
 まだギリギリ夏休み期間ではあるもののそれぞれ家に帰るような時間もなかったので仕方ないのである。

 帰ってきて少し懐かしさすら感じる部屋で休んで次の日部室に課外活動部のみんなが集まった。

「何か飲み物はいるかしら?」

「じゃあ、リンゴジュースお願いします、フクロウ先輩」

「アイゼンは?」

「ソーダがいいのだ!」

「ふふ、分かったわ」

 課外活動部の部室はかなり至れり尽くせりとなっている。
 ある程度の魔法や衝撃に耐えられる訓練室があるだけでなくお菓子にジュースまで完備されている。

 いつきてもちゃんと補充されているのでミクあたりが細かく管理してくれているのかもしれない。

「はい、ソーダ」

「ありがとうなのだ!」

 カエデからソーダのコップを受け取ってヒカリはソファーに座るトモナリの膝の上でチビチビと飲み始めた。

「それにしても今日は何の用なんですかね?」

 ミズキはカエデからリンゴジュースを受け取る。
 部室にみんなが集まっているのは偶然ではない。
 
 本来なら今日はお休みだったのだが部室にいるのはマサヨシが集めたからであった。

「みんな集まっているな」

 マサヨシとミクが部室に入ってきた。

「おはようございます」

「うむ、おはよう。本来ならゆっくり休んでもらうところ集まってもらって悪いな」

「今日は何の用でみんなを集めたのですか?」

 みんなを代表してテルがマサヨシに聞く。

「一つ聞いてもらいたい話があってな」

「話ですか?」

「そうだ。ただ重いものではない。くつろいだまま聞いてくれ」

 テルは会議室の方に移動するべきだろうかと考えたがのんびりしたまま聞いていいとマサヨシは軽く笑顔を浮かべた。

「今日聞いてほしい話はスキルに関するものだ。先日日本の覚醒者協会からとある論文が発表された」

「それがスキルに関するものなのですか?」

「その通りだ。論文のタイトルは上位スキル獲得可能性の向上方法だ」

「上位スキル獲得可能性の向上……ですか?」

「その通りだ。まだ未確認な部分が多く、広く一般には知れ渡っているものでもない。しかし内容は面白いものだった」

「どのようなものなのですか?」

「軽くかいつまんで話そう。スキルスロットが解放されるとスキルを抽選することができることは知っての通りだ」

 レベルが上がるとスキルスロットが解放される。
 ただしスキルスロットが解放されたからと勝手にスキルも解放されるわけじゃない。

 スキルスロットが解放されたら自らの意思でスキルを得ようとして初めてスキルがスキルスロットに入る。
 一般にスキルはランダムに抽選されるもので、運によって良いもの悪いものが選ばれるとされている。
「何が選ばれるのかは完全にランダムで運に任せるしかない……というのがこれまでの通説だった」

「……そう言うということはまさか?」

「確実に良いスキルを手に入れられるとは限らないが確率を上げられる方法がある、らしいのだ」

「そんな方法が?」

 テルのみならずみんなが驚いたような顔をする。

「この方法を使えば良いスキルを手に入れられる確率が上がる。他にも手に入れたいスキルの方向性を固定することもできるらしい」

「らしい、なのですね?」

「やらなかった場合に手に入れられるスキルとやった場合に手に入れられるスキルの比較はできないからな。だがこの方法を使って得たスキルはいいものである傾向が強いというのが論文の検証だ」

 回帰前にガチャスキル理論なんて呼ばれたものがあった。
 それは金持ちの遊びから始まった。

 スキルの抽選がソーシャルゲームにおけるガチャで、まるでなんの対価も払うことがない無料のガチャだと言い出した人がいた。
 ならばソーシャルゲームになぞらえて石を入れたら高いガチャになるのでは、なんて考えたのである。

 金持ちだったその人はたまたま身近に魔石を保有していた。
 レベルが上がってスキルスロットが解放された金持ちは魔石を使ってスキルを解放しようとした。

 悪ふざけだったのだがその時使われたのはA級モンスターの魔石だった。

『確率変動が起こりました!』

 そんな表示が現れて金持ちは新たなるスキルを手に入れた。
 かなり強力なスキルを手に入れた金持ちはこれまで地味な覚醒者だったのだが、以降第一線で活躍する覚醒者となる。

 しばらくスキルの解放に魔石を投じたことは秘密にされていたのだが、人類の旗色が悪くなってくると金持ちは慌てて自分がスキルを手に入れた秘訣を公開した。
 良いスキルを手に入れる方法があるということに世界は騒然となった。

 ただ金持ちが言うほどに簡単な方法ではなかった。
 確率変動が起きるまでに必要なものは低等級の魔石なら大量に必要であったのだ。

 ただ確率変動が起こらずとも良いスキルが手に入れられる可能性は高まっていると色々な人が試した中で言われるようになる。
 魔石だけでなくアーティファクトやモンスターの素材でも代用がきくことが判明して人類のスキルは良くなり、一時期だいぶモンスターに対して盛り返したものだった。

「まだ確実ではないらしいが試してみる価値はある」

「試す……とは誰が」

「アイゼンだ」

「アイゼン君が?」

 みんなの視線がトモナリに集まる。

「実は前回のゲートでレベル20になったんです」

 サポーターとしてついていくだけなら分からなかったけれど、途中モンスターウェーブが発生したおかげでトモナリも戦うことになった。
 そのおかげでトモナリのレベルも20を越えていた。

「そこでアイゼンで論文を試してみようと思う」

「試すって……アイゼン君はそれでいいのかい?」

「もちろんですよ。仮に論文が嘘でも普通にスキルが選ばれるだけですから」

「確かにそうかもしれないが……」

 テルはまだ確実でもない論文をトモナリで試すことにやや難色を示している。
 だがトモナリはもちろんやる気だった。

 なぜならその論文を書いたのがトモナリ本人なのであるから。
 覚醒後の能力について説明してくれる人などいない。

 今現在ある知識も先人たちが経験の中から得たものである。
 言ってしまえばかなり不親切なのだ。

 回帰したトモナリにはこうした偶然発見された知識もいくつか覚えているものもあった。
 ただトモナリがいきなりそうした知識を披露したところで信じてもらえないだろう。

 なのでこっそりと論文という形で発表した。
 論文の名前は偽名であるが完全に匿名でもなく未来予知として貢献してきた覚醒者協会を通じて発表し、ある程度の検証まで行ってもらっていた。

 論文の内容を先んじてマサヨシに送ってもらっていたのである。
 ちなみにマサヨシには論文のことは言っていない。

 トモナリがレベル20になりそうなことをそれとなく伝えていたのでタイミング良しだと今回の話が持ち上がったのだ。

「あっ! じゃあモンスターの死体集めてたのって……」

「そのとーり」

 ミズキがゲートでのことを思い出す。
 不必要なはずのレオンコボルトの死体をトモナリはインベントリに入れて回収していた。

 なんでそんなことするのか疑問だったけれどようやく理由が分かった。
 スキルの解放で利用するためにトモナリはレオンコボルトの死体も持って帰ってきたのである。

「なるほどね。やっぱりトモナリ君は意味のないことをしないね」

 マコトが感心したように頷いている。
 いくらインベントリに空きがあるからとおかしいとは思っていた。

「とりあえず今日の話はここまでだ。細かく知りたいものがアカデミーの図書館にも資料があるし電子でも読めるようにしてある」

「トモナリはスキル抽選すんのか?」

「ああ、これからやろうと思ってる」

「ふーん、じゃあ見学してってもいいか? お前のスキル気になるしな」

「ああ、構わないぞ」

「んじゃ私も!」

「僕もいいかな?」

「見たいなら好きにしろ」

 論文についての説明は終わった。
 となると次は実際にやってみるということになる。

 みんなもトモナリのスキルは気になる。
 ユウトが見学したいと言い出してミズキやマコトも同調したので別に減るものでもないしトモナリは軽く許可を出した。
「……えっ、みんなも?」

 トモナリが訓練室に移動するとユウトたちだけでなくフウカをはじめとしてみんながゾロゾロとついてくる。
 ユウトたちだけだと思っていたトモナリは驚く。

「お前のセカンドスキルは気になるからな」

「良いものを手に入れる可能性が高いっていうなら尚更気になるでしょう?」

 レイジやカエデもトモナリがどんな力を手に入れるのか興味があった。

「アイゼン」

「おっと、ありがとうございます」

 マサヨシがインベントリから箱を取り出してトモナリに投げ渡した。
 トモナリが箱を開けてみると三つの魔石が入っていた。

「B級の魔石だ」

「本当にいいんですか?」

「もちろんだ。持っていたが使わなかったしな」

 トモナリはスキルを解放するにあたってマサヨシにお願いをしていた。
 モンスターの死体、魔石、あるいは使わないアーティファクトなどあればスキル解放に使いたいと。

 マサヨシは快諾してくれて、多少足しになるような魔石でもあればいいと思っていたのにまさかB級の魔石を貰えるだなんて思ってもいなかった。
 B級の魔石を捧げられるなら確率変動を起こせる可能性も高まる。

 確率変動までいかなくとも良いスキルを手に入れられる確率も高くなるだろう。
 回帰前は万年貧乏で弱い覚醒者だったのでスキルのために何かを捧げる余裕なんてなかった。

 あの時に初めて見た確率変動とやらをまた引き起こせるかもそれないと期待もできる。

「回帰前はEXスキルなんてものも出たな」

 EXスキルというものはトモナリでも知らないものだった。
 こうして過去に戻ってきて調べてみたけれどトモナリが調べられる限りではEXスキルの情報はなかった。

 確率変動を起こせばまたEXスキルを手に入れられるかもしれない。
 トモナリはもらった魔石をインベントリに入れる。

「えーと魔石、モンスターの死体を投入してランダムスキル抽選っと」

 トモナリはインベントリのウィンドウを表示させて投入するものを選ぶ。
 マサヨシからもらった魔石、レオンコボルトの死体、それだけではなくトモナリ個人が持っている魔石も投入する。

 トモナリは覚醒者協会に協力する見返りとしてお金以外に魔石やモンスター素材を要求していた。
 この時のためにコツコツと溜めてきた。

『ランダムスキルの抽選を行います』

 スキルにも分類がある。
 分類する人によって多少の違いはあるけれど攻撃、防御、支援、特殊の四つが基本で、それに加えて職業によるスキル、スキルのためのスキルがある。

 攻撃スキルは文字通り攻撃に関するスキルだが、単に攻撃するだけでなく自分の能力を上げるスキルも攻撃スキルに分類される。
 ユウトの二連撃やフウカのサードスキルであるシャドーブレードなんかはわかりやすい攻撃スキルであるが、レイジの迅雷加速やタケルの拳闘之体も能力アップ系の攻撃スキルとなる。

 防御スキルはそのまんま防御に関するスキルである。
 サーシャの光の加護、テルの絶対防御が防御スキルとなっている。

 支援スキルは周りにいる仲間に対して適応されるスキルで仲間の能力を上げたり状態異常に対する免疫をつけたりする。
 あまり支援系のスキルに覚醒する人は多くなく珍しいスキルなのである。

 治療系も支援スキルに分類されている。
 そして特殊スキルは三つの枠に当てはまらないもののことを指す。

 トモナリの魂の契約もそうであるしマコトのインザシャドウ、フウカの闇をまとうファーストスキルも特殊スキルだ。
 そして特殊スキルであると同時にトモナリのスキルは職業スキルでもある。

 特定の職業にしか出てこないスキルで、おそらくフウカのファーストスキルも職業スキルであるとトモナリは思っている。
 最後にスキルのためのスキルとはスキルの効果を向上させたり、あるいは他のスキルがあることを前提としたスキルのことをいう。

 フウカのセカンドスキルは魔力の消費が激しくなる代わりにファーストスキルを強化する効果を持っている。
 職業スキルもスキルのためのスキルも四つの類型に当てはめることもできるので、この二つを別枠にしない考え方も存在している。

『スキルの抽選が終わりました!』

「……確率変動は起こらなかったか」

 確率変動が起こることなくスキルの抽選が終わってしまった。
 残念だとトモナリは目を細める。

『スキルドラゴンズコネクトを獲得しました!』

「ドラゴンズコネクト……」

 見慣れないスキルであるとトモナリは思った。
 ドラゴンとついていることから職業スキルの可能性が高い。

 トモナリはステータス表示を開く。

『力:83
 素早さ:87
 体力:82
 魔力:79
 器用さ:86
 運:58』

 まず目に入るのは自分の能力値である。
 No.10ゲートのおかげで各能力値が大幅に向上した。

 一般的なレベル20ではとてもじゃないが太刀打ちできない能力値である。
 ただNo.10ゲートにおいては能力値が倍になるという恩恵があった。

 レベルそのものはゲートに入った時の倍になっているが、能力値は倍になった時に及ばないのでやっぱり能力値が倍になるという効果はかなり大きかったのである。
「能力もかなり伸びたな」

 自分の能力を見て思わずニヤリとしてしまう。
 想定していたよりも能力の伸びが良い。

 体を鍛えればある程度伸びるということが分かっていたので努力してきた。
 数値として能力が見えると努力が身になっているなと感じられる。

 ただこれからはそうもいかない。
 トレーニングで数値も上がりにくくなったし、レベル20を超えるとレベルアップでの能力アップも鈍化するというのが一般的だ。

 このまま伸びるだろうなんて慢心しないで努力や工夫を続けねばならない。

「スキルは……」

 次にスキルに目を向ける。
 トモナリが持っているスキルは三つある。

 一つ目は交感力。
 モンスターと心を通わせたりできるスキルである。
 
 今のところその効果を強く実感したことはないけれどもEXスキルという見たこともないスキルなのでどこかで役に立ってくれるだろうと期待している。
 二つ目のスキルは魂の契約 (ドラゴン)だ。

 このスキルによってヒカリやルビウスとトモナリは繋がっている。
 実態を持つヒカリが強くなるとトモナリも強くなるなんていう特殊な効果もある。

 そして三つ目のスキルが新しく手に入れたドラゴンズコネクトというスキルになる。

『ドラゴンズコネクト
 魂の契約したドラゴンの力を借りることができる。ドラゴンの力を体に宿して同一化し、ドラゴンの力を使ったり自身の力を強化することができる。力を借りるドラゴンの能力によって強化される能力が変わる』

 ドラゴンズコネクトのスキルの説明を確認する。
 見た限りスキルのためのスキル、分類するなら特殊スキル寄りの攻撃スキルのようだ。

「うーん……」

 スキルの説明だけを見てもいまいち分かりにくい感じがある。
 ただ契約したドラゴンといっているから魂の契約を前提としたスキルであることは確実だ。

「同一化、ということはスキルを使っている間ヒカリはいなくなるのか?」

 色々と疑問はある。

「まあいいか、使ってみよう」

 どんなスキルであれ使ってみればわかることも多い。
 ドラゴンズコネクトは契約したドラゴンを使う。

 今回はヒカリではなくルビウスで試してみようとトモナリは剣を抜いた。

「ドラゴンズコネクト!」

 ルビウスを意識しながらトモナリはスキルを発動させる。

「あれが新しいアイゼンのスキルか」
 
 ルビウスが赤い光を放つ。
 そしてゆっくりとトモナリの胸に吸い込まれていく。

「うっ……」

 トモナリの体に変化が起き始めた。
 まるで炎が血管を流れているかのように熱さが体を巡り始める。

 全身の皮膚がムズムズして、背中の肩甲骨のあたりに不思議な違和感を感じる。

「ト、トモナリ君の姿が……」

「何つースキルだよ……」

 トモナリの変化はみんなの目にも明らかであった。

「くっ……ハァッ! ……これは」

 体を駆け巡る熱さを飲み込んだ瞬間、背中からビリッと音が聞こえてきた。
 トモナリとしては全身にみなぎるような強い力を感じ取っていた。

 そしてふと見ると手や腕に赤い鱗が生えていることに気がつく。

「むひょーーーー!」

「ヒ、ヒカリちゃん?」

 トモナリの視点から見た時には鱗が生えているな程度だったけれど、周りから見た時のトモナリはより大きく変化していた。
 腕だけではなく顔など全身に赤い鱗が生えている。

 目は輝くような金色に染まり、瞳孔が縦に長くなっている。
 頭には小さくツノが生えていて、さらに一番大きな大きな変化は背中に翼まで生えているのだ。

 まるでドラゴンと人が融合したような姿である。
 トモナリの姿を見てヒカリが激しく興奮をあらわにした。

 尻尾を激しく振りながらフラフラとトモナリに近づいていく。

「どうだ、ヒカリ?」

 トモナリは珍しく飛ばずに歩いてくるヒカリに気づいて笑顔を向けた。

「か……」

「か?」

「カッコイイのだぁ〜!」

 ヒカリはうっとりとした顔をしてトモナリのことを見ている。

『お主、何をしたのだ?』

 トモナリの頭の中でルビウスの声が響く。

「新しいスキルを試したんだ」

 ヒカリはトモナリに飛びついて頬を擦り付けている。
 何だかスキルを使った姿をとても気に入ってくれているようだ。

 尻尾がグルングルン回転していてヒカリのテンションはとても高い。

『何だか不思議なものだな……体を失って久しいのに体を得たような気分がしておるわ』

「今俺とルビウスは一つになってるからな。体の他のところはどうなってる……翼!?」

 グッと体をねじってみてトモナリはようやく翼の存在に気がついた。

「えっ、俺どうなってんの!?」

 ちょっと鱗が生えただけだと思っていたのだけど思っていたよりも大きな変化があってトモナリは驚いた。

「ほれ! すごいことになってるよ!」

「おっ、ありがと……うおっ!?」

 ミズキがスマホでトモナリの姿を撮影して見せてくれた。
 ツノがあって翼まで生えている。

 ここまで体が変化しているだなんて思いもよらず、トモナリはお尻に手をやった。

「流石に尻尾はないか……」

 もしかしたらと思ったけれど尻尾まではなかった。
 けれどなぜなのかその気になれば尻尾もいけるような気がしてならない。