ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした

「だからお金の心配はしないで」

 魚人ゲートの攻略報奨金やモンスターの素材代金、トモナリに関しては覚醒者教会からの協力金もある。
 これからもっと覚醒者として活動するつもりだ。

 今あるお金を使い切ったってまた貯めればいい。
 トモナリはゆかりの手を取って目を見つめる。

「とりあえず物件だけ見に行ってみない?」

 あまり悩むと断られてしまうかもしれない。
 ゆかりに考える暇を与えず叩き込む。

「……分かったわ。とりあえず見に行ってみましょう」

 ーーーーー

「本当によかったのかしら……」

「いいの。俺がいるうちなら引っ越しも楽だしね」

 家の見学に行ったトモナリはそのまま契約まで済ませてしまった。
 元よりそのつもりで話を進めていたので早かったのだ。

 契約したのは大きな建物の下層階にギルドが入っていて、上の階を住居として売り出している物件であった。
 下に入っているギルドが上の住人の安全を保障してくれるということで防犯としてかなり良いものとなっている。

 その代わり高めであるがトモナリの財力を持ってすれば十分買えるものだった。
 あれよあれよと話が進んでしまったのでゆかりには止めることもできなかった。

「本当ならもっと良いところがいいんだけど……母さんの都合もあるからね」

「まあ、仕事辞めなくてもいいのはいいけれどね」

 トモナリとしてはもっと強い覚醒者のいる有名どころがよかったのだけど、ゆかりには仕事もある。
 トモナリが希望するところだと町から引っ越すことになるので諦めた。

 流石に仕事辞めて家に引きこもれと強制することはできない。

「……トモナリ」

「なぁに?」

「ありがとう」

 少し無理矢理な気はしたけれど、トモナリが自分のことを考えてやってくれたことには間違い無いとゆかりにも分かる。
 家の見学をしながら気がついた。

 トモナリの背が少し高くなっていたことに。
 体つきががっしりしたなとは思っていたけれど、よくみたらトモナリは記憶にあるような少し気弱でおとなしい少年ではなく大人になりつつあったのだ。

 嬉しくも、寂しくもある。
 でも止めることもできないのだから応援しようと思う。

「どういたしまして」

 少しでも母が安全に暮らすことができるならとトモナリは安心できる。
 何が起こるか分からない世の中なのだ、穏やかに暮らしてほしい。

「ただ次はこんなことするなら事前に相談してちょうだいね?」

「う……分かったよ」

 あまりにも話が早かった。
 流石のゆかりにもトモナリが事前にある程度話を進めていたことは分かっていたのだ。

「ヒカリちゃんもトモナリが勝手なことしないように、お願いね」

「うむ、任せておくのだ!」

「ふふふ、頼もしい」

 ゆかりはヒカリのことを撫でる。
 あまり人に撫でられたがらないヒカリであるけれどゆかりには心を許している。

 夏休みが終わればトモナリは鬼頭アカデミーに帰ってしまう。
 その前にと慌てて引っ越しの準備をしたトモナリは新しい家にゆかりと共に引っ越したのだった。

ーーー
後書き

昨日はお星様ありがとうございます!
感謝の言葉書きたくて今日も更新です!

これで星100突破しました、ありがとうございます!
もっとお星様くれてもいいんですからね!

これからものんびり更新します。
先行公開もあるのでよかったらギフト投げてください。
「それじゃあ行ってくるね」

「いってらっしゃい。怪我しないようにね」

「いってくるのだ〜」

 夏休みも残り数日。
 思ったよりも早かった。

 引っ越したばかりではあるもののトモナリはもう家を出発した。
 少し外出するのではない。

 次に帰ってくるのはまた長期休暇の時となる。
 ゆかりに挨拶をしたトモナリは呼んであったタクシーに乗り込んで空港に向かう。

「ひこーきってやつなのだ?」

「ひこーきってやつだ」

 今回はまっすぐにアカデミーに向かうのではない。
 別の場所に行くことになる。

 そのための移動手段として利用するのは飛行機であった。
 少し値段が張る移動手段ではあるものの今回は自分のお金ではないから気楽なものである。

 ただ何も考えずに飛行機に乗れた頃よりも空港の人は減った。
 けれどもやはり飛行機という移動手段は重宝されていて利用する人は多い。

「こんな鉄の塊が空を飛ぶのかぁ〜」

 飛行機のチケットを用意してくれたのはマサヨシである。
 ヒカリはペット扱いでもなくちゃんと座席が一つ与えられている。

 窓際の席で、ヒカリは尻尾をフリフリしながら外を眺めていた。
 翼があるドラゴンが空を飛べることはよく分かるが羽ばたきもしない飛行機が空を飛んでいることが不思議でならないのだ。

「トモナリ!」

「いつか……僕がおっきくなったらトモナリのこと乗せてやるからな!」

「んん?」

「こんなヒコーキなんかよりも僕の方が速いんだ!」

「ふっは、なるほどな」

 思わず笑ってしまう。
 何を言い出すのかと思えば飛行機に対抗心を燃やしていたのだ。

「期待してるよ」

 トモナリは回帰前に見たヒカリの姿を思い浮かべる。
 強大な敵だった。

 しかしそれを抜きにして考えると美しさすら覚えるような雄大なドラゴンだった。
 背に乗って空を飛ぶことができたらきっといい気分になれるだろうなと思う。

「ふふふん、期待するのだ」

 ヒカリは翼を広げて胸を張る。

「ヒカリに乗って移動できたら楽だろうな……」

 ドラゴンを襲うバカなモンスターも多くはないだろうとなると安全で速くてかっこいい移動手段となる。
 大いに期待させてもらおう。

 そう思ってトモナリはヒカリの頭を撫でてやるのだった。

 ーーーーー

「なんもしないってのも疲れるな……」

 空港から出てトモナリは体を伸ばす。
 覚醒者の体は長時間の移動でもびくともしないはずなのだけど、なんだか凝り固まってしまったような気がする。

 やはりヒカリの背中には期待だ。

「先に来てる奴がいるはず……」

「ぬおっ!? な、何するのだぁ〜!」

「……ああ、ヤナギ先輩……どうも」

「ん」

「トモナリ、助けるのだ〜!」

 振り返ると三年のフウカが無表情でヒカリを捕まえていた。
 そしてわしゃわしゃとヒカリのことを撫で回し始める。

 無表情ながら卓越した手つきにヒカリは逃れることもできずにされるがままになっている。

「キュウ……やられたのだ……」

「みんなあっちにいるよ」

 散々撫で回されてヒカリはフウカの腕の中でぐったりとしている。
 だいぶ強くなったトモナリだけどフウカにはまだ敵う気がしない。

 申し訳ないが助けるにはまだ力不足なのである。
 一通りヒカリを撫で回したフウカが歩き始めてトモナリも荷物を持って追いかける。

「おっ、遅くもなく……早くもないな」

「そうね。真ん中ぐらいってところね」

 ロビーの一角に見覚えのある顔が何人かいた。
 二年のレイジやカエデ、一年のマコトやサーシャといった顔ぶれだ。

 今日集まっているのはアカデミーの中でも課外活動部の活動のためであった。
 課外活動部の活動はゲートを攻略してレベルを上げることである。

 夏休みの自由の時間なんかうってつけだ。
 夏休みが始まる時に一つ攻略した。

 ちょっとイレギュラーな形でNo.10ゲートではあったが一応あれは課外活動部としての攻略であった。
 今回は二、三年生を中心としてゲートを攻略し、一年はサポートとしての動きを学ぶのである。

「お前らまたゲート攻略したんだって? 今レベルなんぼだよ?」

「今は19ですね」

「もうセカンドスキル目前か」

 レイジは驚いた顔をする。
 今の二、三年生もかなり速いペースでレベルを上げてきたがトモナリたちはさらにそれよりもペースが速い。

「どっかで抜かされそうだな」

「じゃあ抜かした先輩って呼んでください」

「やなこった」

 歯を見せてレイジは笑う。
 最初の当たりこそキツかったものの打ち解けてみると意外といい先輩である。

「レベルの上がり方が異常なのはいいけどあなたたちのセカンドスキルも気になるわよね」

 レベルが20になると二番目のスキル枠が開く。
 能力値が優れていても優秀なスキル一つに潰されてしまうこともある。

 逆に優秀なスキルを手に入れたことでここまで平凡なだった覚醒者が日の目を見ることもある。
 どんなスキルを手に入れることができるのかということは優秀な人であるほど当人のみならず周りも気になるものなのだ。

 トモナリは最初に見たこともないスキルを二つも手に入れた。
 自ずと周りも次のスキルはどんなものかと期待してしまうのだ。
「今回レベル上がればセカンドスキルも解放できますね」

「まあでも今回一年はサポートだからな」

 本来課外活動部での活動においてこの時期の一年生は二、三年生のサポートを任される。
 トモナリのレベルを見ればもはやサポートなんて枠に収まらないことは確実だが、夏休みの最初に行ったNo.10ゲートでは二、三年生がサポートだった。

 なので今回はトモナリも大人しくサポートに徹しようと思う。

「まあ、私が卒業する前にもっと強くなってくれると嬉しいな」

 フウカは無表情のままジッとトモナリのことを見ている。
 抱えられたヒカリはなんとか抜け出そうともがいているけれど厳しそうだ。

 ヒカリがどうにかフウカの腕の中から脱出に成功した頃になると残りのみんなも集まってきた。

「ういっす!」

「うっす」

 相変わらずのユウトはトモナリとハイタッチで挨拶を交わす。

「みんな集まっているな」

 マサヨシがミクと共にやってきた。

「まずはホテルに行って荷物を置き、ミーティングを行う」

 タクシーを使ってみんなでホテルに移動する。
 意外と良いホテルでトモナリはユウト、マコト、コウと一緒の部屋であった。

 とりあえず荷物だけ部屋に置いてホテルで貸し出している会議室に集まる。

「それではミーティングを始めます」

 会議室にはスクリーンがあって画像が映し出されている。
 まず映し出されたのは地図だった。

 ミーティングを主導して説明をしてくれるのはミクである。

「今回攻略するゲートはこの町から二時間ほど行ったところにある湖のほとりに発生したものです。ダンジョン階数は一階、ダンジョンの難易度はE+……Dに近いと思われます」

 次に映し出されたのはダンジョンの情報だった。
 ダンジョン前で見られるダンジョン情報のステータス表示に似た形で書いてある。
 
「最大入場数は三十人。問題ないでしょう。入場条件はレベル10以上、60以下となっています。攻略を行う人の中で引っかかっている人はいません。そして攻略条件ですが全てのモンスターを倒せとなっています」

 基本的に入場条件や最大入場数は厳しくないことの方が多い。
 どういう基準で設定されているのか分からないけれど、今回のゲートは入る条件として全く厳しくなかった。

 つまり全員普通に入れるということである。

「事前調査で確認されたモンスターはレオンコボルトです」

 映し出された画像がモンスターのものに変わる。
 コボルトといえば犬頭人身、犬のような頭を持った二足歩行のモンスターである。

 普通のコボルトならF級相当の弱いモンスターであるけれど、今回発見されたモンスターは正確にはコボルトではない。
 レオンコボルトはまるで獅子のような立髪を持っている。

 故にライオンを表すレオンとついているのだ。
 顔立ちもコボルトは犬っぽいがレオンコボルトはやや猫っぽい。
 
 能力もコボルトより強い。
 コボルトだからなんて名前だけで油断すると痛い目を見ることになる。

「ただ気をつけてください。全てのモンスターを倒せとなっているので他のモンスターやボスモンスターが出てくる可能性があります」

 レオンコボルトを全て倒せではなく全てのモンスターを倒せとなっている以上他のモンスターの存在も考慮に入れるべきである。
 事前にゲート情報を見てこうした予想をしておけばレオンコボルト以外のモンスターが現れても驚くことなく対処することができるのだ。

「レオンコボルトは食用になりませんし素材として有用なところがありません。魔石だけ回収して死体はそのままでも大丈夫です」

 モンスターの回収もゲート攻略には重要な要素である。
 今回のレオンコボルトは素材として利用されないので死体を持ち帰る必要はなく魔石だけ取り出して持ってくればいい。

「そして肝心のゲート内の環境ですが森林となります。鬱蒼とした密林ではなく明るめでやや視界が確保できる森となります。ですが木々が多いので奇襲には十分気をつけてください。説明は以上です。何か質問等はありますか?」

 一通り説明を終えたミクがみんなのことを見回す。
 無駄のない説明だった。

 トモナリも聞くことはない。

「質問がないようでしたら攻略計画について皆さんで話し合ってください」

 何かもをやってもらうわけではなく、実際の攻略は生徒に任されている。
 どうゲートを攻略していくのか、それは自分たちで決めるのだ。

「それじゃあまず……攻略メンバーは二、三年生で構わないね?」

 部長であるテルが場をリードする。
 従来通りに攻略のメインメンバーは二、三年生で編成することにした。

 戦力や職業を勘案し、攻略の効率を上げるために二つのグループに分ける。

「一年は外で準備組と中でサポート組に別れよう」

 全員が中に入って攻略すればいいというわけではない。
 外は外ですることもある。

 中で攻略する人たちがいつ出てきてもいいように出迎える準備が必要だ。
 近くに町がないならテントなどを張って食事の用意をしたり、着替えやタオルなどをすぐに渡せるようにしておいたりもする。

 他にも他人がゲートに近づかないようにしたりゲートがブレイクを起こしてモンスターが出てきた時に対処したりと外だからと決して気を抜いていていいわけでもないのだ。
 一方でゲートの中に入って行うサポートもある。
 インベントリがあるとはいっても中に入れられる量には限界がある。

 トモナリなんかはインベントリがかなり大きい方であるが、それは割と特殊な方で自分の装備でいっぱいであるという人も珍しくない。
 そうなると必要になるのが荷物持ちである。

 自分のインベントリに物を入れたりリュックなどを背負って一緒に入っていく。
 他にも倒したモンスターの素材やゲートの中で拾えるものの回収なんかもやったりする。

 基本的にサポートを行う人は攻略を行う人よりも弱い人がやる。
 そのためにしっかり守ってあげなきゃいけないなどのルールも存在している。

「トモナリ君はサポートとして連れてく」

「えっ、俺ですか?」

 外で大人しくテントでも立ててようと思っていたトモナリのことをフウカが推薦する。

「……そうかではヤナギのチームにはアイゼンがサポートにつくように」

 トモナリがいいのかと問いかけるような視線をテルに向けたけれど、テルは困ったように笑ってフウカの推薦を受け入れた。
 テルが部長であるけれども課外活動部の中で一番強いのはフウカである。

 フウカが部長を嫌がったからそうしたことも得意なテルが部長をやっているのだ。
 普段からフウカがわがままを言うことはないが時としてしっかりとした主張をすることがあり、そうなるとテルも弱いのである。

「それじゃあもう一人誰か中に入ってのサポートをしたい人はいるかい?」

 一人はトモナリで決定してしまった。
 フウカは満足げに微笑んでいて、テルは一年生を見回す。

「……えっ、僕?」

「おっ、ミナミ君やってくれるか?」
 
「えっ、あの、えっ……あ、はい……」

 外も外でやることがあるとはいってもやはり外の方が楽ではある。
 みんなサポートなら外の方がいいなと黙っていたのだが、声を出してしまったマコトがテルに目をつけられた。

 なぜ声を出してしまったのか。
 それはトモナリがジッとマコトのことを見ていたからだった。

 嫌ですとも言えない。
 仕方なくマコトはサポート役を引き受けた。

「なんで僕なの?」

 攻略の計画についてテルが主導して話し合って決めた。
 攻略そのものは次の日なので解散となって各々部屋に戻ろうとしていた。

 マコトがトモナリに近づいてどうして自分のことを見ていたのか問い詰める。

「戦わなくても経験値は入るからな」

 マコトはほんの少しトモナリたち特進クラスと合流するのが遅かった。
 そのためにちょっとだけレベルの上がりが遅い。

 もはや気にするような差もないが、こうした機会には差を埋めるチャンスとなる。
 戦わずともサポートとして同行するだけで経験値が入る。

 レベルアップできるほどではないだろうけど、戦いを見学する経験とレベルアップのための経験値はマコトの差を埋めてくれるだろう。

「うぅ……」

 ちゃんと考えてのことだった。
 マコトのためを思ってのことなので反論することもできずにマコトは小さくうなる。

「マコトも犠牲……サポートとしてがんばれよ」

「今犠牲って言わなかった?」

「気のせいだ」

「気のせいじゃないよー!」

「まあいいじゃないか。外いたって暇なだけだ」

「はぁ……やるなら頑張るけどさ」

 暇な方がいいなとマコトは思う。
 けれどももう逃げられないのでサポートを頑張る方向で思考を切り替えようと努力するのであった。

 ーーーーー

「みんな準備はいいかい?」

 ゲートの前でテルが最終確認を行う。
 二、三年生のみならず万が一に備えて一年生も装備を身につけている。

 加えてトモナリとマコトはサポートのために大きなリュックを背負っている。
 見た目ほどのものは入っていないがサポートの荷物持ちとして大きな容量のリュックは必需品なのだ。

「準備万端なのだ!」

 ヒカリもヘルムをかぶってやる気満々である。
 油断するとフウカに捕まるのでヒカリはフウカを避けるように警戒している。

「一番最初は僕が入って安全を確認する。それから攻略開始だ」

 事前に中の状況は分かっているが、何かのきっかけで環境が変わる可能性やモンスターが待ち受けている可能性も排除できるものではない。
 タンクでもあるテルが最初に入って中の様子を確かめる。

 テルがゲートの中に消えていって、程なくしてまた出てくる。

「安全は確認できた。中に入ろう」

「みんな頑張ってくださいねー!」

 幸い今回ゲート周りに危険なことはなかったようである。
 サポートであるトモナリとマコトは一番後ろからゲートに入る。

 ゲートの中は事前に聞いていた通りの森の中である。

「信号を設置するぞ」

 今時技術も進歩している。
 周りの変化に乏しい環境の中ではゲートの位置が分からなくなってしまうこともある。

 そうならないために色々な対策が編み出されてきた。
 今主流なのは信号を発する機械を使うことである。

 地面に埋め込むものでモンスターにもバレにくく専用の端末を使えばゲートの方角と距離が分かるようになっている。

「向こうの木の方を北側として固定しよう」

 端末を操作して仮の北側を決める。

「ゲート地点から北をAチーム、南をBチームで攻略していこう。時間は昼までの四時間。四時間後一度ゲートに集合だ」

 流石にテルは慣れているなとトモナリも感心してしまう。
 ベテラン覚醒者みたいに進めていく。
「それじゃいくよ」

 トモナリがサポートとしてついていくのはフウカを中心としたBチームである。
 実力者ということでフウカがリーダーとしてチームをまとめることになってるが、みんなもそれぞれちゃんと動きを分かっているのでフウカが指示することもない。

 ゲートを中心として定めた南側に移動していく。
 メンバーにはカエデやタケルもいた。

 王職の覚醒者が二人もいるのだから大丈夫だろうとトモナリはついていく。

「いた」

 モンスターを見つけてフウカが停止の合図を出す。

「レオンコボルトだな」

 見つけたのはレオンコボルト三匹の小さな集団。
 まずは三年生が前に出てレオンコボルトの能力を確かめることにする。

 フウカをセンターに二人の三年生が左右に広がり、囲むようにレオンコボルトに近づく。
 さらに後ろから二年生たち三人もフウカの後についていく。

 トモナリとヒカリは邪魔にならないように距離を取って戦いを見学である。

「あれが闇騎士王か……」

 フウカの体を黒い魔力が包み込む。
 まるで闇のような魔力はフウカたちに気づいたレオンコボルトに恐怖を与えた。

 フウカが手を伸ばすと黒い魔力が手のような形を成してレオンコボルトの一体を捕まえた。

「圧倒的……ヤナギ先輩一人でも勝てたな」

 グシャリとレオンコボルトが闇の手の中で握りつぶされた。
 鎧であり縦であり武器である。

 まさしく闇を操るフウカの能力は味方であればとても心強い。
 そのまま左右から挟み込んできた三年生が残りのレオンコボルトを倒してしまい、戦いは二年生の出番なく終わった。

「そんなに強くないわね」

 トモナリがナイフでレオンコボルトの魔石を取り出している間に他のメンバーで改めてレオンコボルトについて話し合う。
 戦った感じも何もないぐらいあっさり終わってしまった。

 ここに先生がいたならもう少し相手の出方を窺いなさいと怒るところだろうとカエデは思う。

「この感じなら少数の群れは二年生中心で、数が多くなるようなら三年生中心の布陣で行こうか。ヤナギもそれでいいな?」

「うん」

 三年生の男子が話をまとめる。
 ダンジョンの等級がE+と聞いていたので警戒してレオンコボルトを倒してしまったが、この様子なら今のところ大きな心配なさそうだった。

 次は二年生を中心に戦い、レオンコボルトの動きを把握するつもりだった。

「ほい、ヒカリ」

「ほれきた」

 トモナリはレオンコボルトの腹から魔石をほじくり出すとヒカリが持ったタオルの上に置く。
 ヒカリがタオルでレオンコボルトの血を拭くと魔石はモンスターの革で作られた袋に放り込まれる。

「アイゼン君の手際もいいね」

 みんなはトモナリのサポート能力にも驚いている。
 倒したモンスターのお腹をサッと開いて魔石を取り出すのは初めてだとなかなか難しい。

 倒すのはいいけど解体するのは嫌だという人も一定数いる中でトモナリは何のためらいもなく魔石を取り出している。
 短い話し合いの最中に魔石の取り出しを終えてくれていたので感心しているのだ。

 先輩面しようと思っていたタケルは当てが外れたなとつまらそうな顔をしている。

「とりあえず五匹を基準にしよう。五匹以下なら二年生が前に。五匹よりも多いなら僕たち三年生が前に。」

「一匹ならアイゼンにやらせてもいいかもね」

「今回サポートですよ」

「サポートとして教えられることもなさそうだものね」

「まあ先輩たちが危なくなったら俺も戦いますよ」

「ふふ、じゃあその時はお願いするわ」

 軽く冗談なんかを言ったりしてBチームの雰囲気は悪くない。
 次見つけたのは四匹の群れだったので二年生が中心となって戦った。

 拳王であるタケルともう一人の二年生が前に出てカエデは後ろから魔法で攻撃する。
 三年生が程よく距離を保ってフォローを入れられるようにしながら二年生が自由に動いてレオンコボルトはあっという間に倒された。

「特殊な能力や魔法はないみたいだな」

 タケルが拳についた血を拭う。
 一気に倒し切ることもしないでレオンコボルトの出方を窺いながら戦った結果、レオンが魔法を使ったり見た目から想像もできないような能力を使うことはないようだった。

 噛み付く、爪で切り裂くなどの基本的な攻撃しかしてこない。
 決して油断して受けていい攻撃ではないけれど、対処が難しい攻撃でもない。

 テルのようなベーシックなタンク役がいないのでみんなでそれぞれ注意を引きつけながら戦っていく感じになる。

「このままサクサク倒していこう」

 トモナリの魔石回収を待ってまたモンスターを探し始めた。

「今度は武器持ちか」

 次に見つけたレオンコボルトは槍を持っていた。
 粗末な槍ではあったが武器を持っているということで脅威レベルは少し上がった。

 数も六匹であったので今度はまた三年生が前に出る。

「効かないよ」

 またしてもセンターから攻めるフウカは黒い闇の拳でレオンコボルトを一匹押し潰した。
 しかし今回のレオンコボルトはフウカの能力に怯むことなく反撃してみせた。

 けれどレオンコボルトの槍はフウカを包み込む闇に阻まれてダメージを与えることができない。
「くらえ!」

 フウカの闇の鎧が槍の先端を包み込んで拘束する。
 さっさと武器でも手放せばいいのにレオンコボルトは無駄に槍を引き抜こうと試みる。

 ただ簡単に抜けるはずもなく、動きが止まったところにタケルが前に出た。
 レオンコボルトの一体に素早く拳を叩き込んで倒す。

 前に戦った時よりも動きが速くなっていて強くなっているなとタケルを見ながらトモナリは思った。

「流石の連携だな」

「ひーまーなーのーだー」

「今日は我慢だぞ」

 トモナリはちょっとでも勉強になればとみんなの戦いを眺めているけれど、暇を持て余したヒカリはトモナリの頭に顎を乗せて頭をグリグリ動かす。
 ちゃんと出しゃばらずに引いた動きをするということも時には大切だ。

 しっかりとサポートに徹するつもりのトモナリはヒカリの攻撃にもめげない。

『こら、トモナリを困らせるでない!』

「むむむむ……」

 ちょいちょいヒカリと同等の争いを繰り広げるルビウスであるが、割と年長者としてヒカリをビシッと指導してくれることもある。
 お姉さん、時にはお母さんのようにヒカリを諭してくれるのだからありがたい。

 ドラゴンの品格というものがルビウスの中にあるらしく、ヒカリにも品格を持つようにと言っている。
 本来は親がこうしたことを教えるらしく妾はまだ子供もいないのに……と文句も言っていたりする。

『妾も暇だが我慢しておるのだぞ!』

 ただルビウスの指導はちょっとズレているのではないかとトモナリは思う。
 別にそれでいいので黙っているけれども。

「トモナリ君、お願い」

「はーい!」

 戦いが終わったので今度はトモナリの出番である。
 ナイフを取り出してレオンコボルトの解体に取り掛かる。

「にしても……+がつくほどの感じは今の所ないな」

 水分補給をしながらタケルがレオンコボルトの事態に目を向ける。
 タケルは正直な感想ではレオンコボルトを弱いと感じている。

 難易度E+ならDに近い難易度になるはずと聞いて警戒していたが、これなら通常のEぐらいの難易度がせいぜいといったところであった。

「これならパパパッと片付けて帰れそうですね」

「タケル……そういうのは……」

『レオンコボルトが侵略者の存在に気づきました! 総力を上げて抵抗を見せます!
 300/300』

「フラグっていう……遅かったか」

 タケルの余裕そうな発言を受けてカエデがたしなめようとした瞬間トモナリを含めた全員の前に表示が現れた。

「はぁ……だから言ったのに」

「す、すいません、お嬢……」

 カエデがやれやれと首を振ってタケルは気まずそうに小さくなる。

「特殊なクエストが発生したのか」

 トモナリは表示を見ながら面倒なことになったと目を細める。

「引く時間は……なさそうだね」

 ゲートまで下がって撤退かAチームと合流したいところであったのだが、すでに地鳴りのようなレオンコボルトの足音が聞こえ始めている。
 全方向から足音は聞こえていて逃げ場がないことをフウカは察した。

「モンスターウェーブね」

 カエデは冷静に特殊クエストの内容を予想する。
 大量のモンスターが発生するモンスターウェーブというものが時に発生する。

 300という数字はモンスターの数なのである。

「トモナリ君、サポートはやめて戦闘準備」

 戦うしかないとフウカは判断した。

「分かりました!」

 トモナリは背負っていた大きなリュックを下ろしてルビウスを抜く。

「300か……結構多いな」

「300もいないだろうね」

「どういうことですか、お嬢?」

「お嬢って呼ぶな。ここにはもう一チーム攻略してる奴らがいるだろ。なら多分半分はそっちに行ってるはずだ」

「なるほど……なら150ってことですね」

 300匹のレオンコボルトが発生した。
 普通に考えると300匹を倒さねばならないが、今はAチームとBチームで分かれて攻略を行なっている。

 300匹全てがBチームに向かってくるとは考えにくい。
 となると半分ずつ分担することになるだろう。

 それでも150匹である。
 一人当たり20匹以上倒さねばならない。

 ここでトモナリをサポートとして温存して守っておく暇はない。

「きたぞ!」

「互いの背を守るようにしながら戦うんだ!」

 三年生の指示で丸くなるように布陣して走りくるレオンコボルトを迎え討つ。

「ワハハハハッー!」

 緊張感の走る戦いの中でヒカリはようやく出番だと嬉しそう。
 一人でレオンコボルトの群れの中に突っ込んでいったヒカリは暴れる。

 爪で切り裂き、ブレスを吐いてレオンコボルトを倒していく。

「ハハッ! あいつも強くなってるな! 今なら噛まれたらタダじゃ済まなそうだ!」

 意外と心強いヒカリの活躍にタケルがやる気を燃やす。

「スキル拳闘之体(ケントウシタイ)!」

 タケルがスキルを発動させる。
 魔力を消費して力と素早さを大きく向上させる効果を持つ。

「アイゼンはフクロウを守れ!」

「分かりました」

 魔法使いタイプであるカエデは接近戦を苦手とする。
 実力を発揮するためにはしっかり守ってやる必要がある。

 その役割をトモナリが任されることなった。
「それじゃあ先輩、俺が守るんで魔法をお願いしますよ」

「周りは任せたよ」

 やはり対多数における殲滅力が高い攻撃といえば魔法である。
 カエデは風の魔法を得意とする。

 本来風は目に見えないが魔法で発生した風は魔力の影響を受けてうっすらと緑色に見える。
 カエデの周りをエメラルドグリーンの風が渦巻く。

 周りの状況を確認して魔法を放つことができる場所を素早く把握する。

「ヒカリ、帰ってこい!」

「ダハハー! 分かったのだー!」

 トモナリはヒカリを呼び戻す。
 カエデが魔法を放つなら敵の中をビュンビュン飛び回るヒカリが邪魔になる。

「いい判断ね!」

 カエデが魔法を発動させる。
 レオンコボルトも気にしないようなつむじ風が巻き起こる。

 しかしつむじ風は瞬く間に大きさを増していき、レオンコボルトを巻き上げるサイクロンとなる。

「おおっ……!」

 迫るレオンコボルトを切り捨てながらトモナリはカエデの魔法に感心してしまう。
 広範囲の魔法はコントロールも難しい。

 カエデは魔法を発動させるだけでなくしっかりと魔法をコントロールしている。

「できるだけ早く終わらせてAチームと合流するぞ!」

 決してBチームと比較してAチームが劣るとは思わないが何があるか分からないのが戦いである。
 できるならレオンコボルトを倒して合流して安全を確保することも大切な考えだ。

 それぞれスキルを発動させて戦う。
 トモナリは発動させるようなスキルはないのでヒカリと連携を取りつつレオンコボルトを倒す。

「サードスキル……シャドーブレード」

 フウカが闇の斬撃を飛ばす。
 まとめてレオンコボルトが真っ二つになって一気に数が減る。

 最初こそ減っていないようにも感じられたレオンコボルトであったが、だんだん目に見えて数が減ってきた。

「この調子ならAチームの方とも合流できそうですね」

「あっ、バカ! そういうこと口に出すと……」

『レオンコボルトたちの王が出現しました!』

「ほらね……」

 トモナリは別にフラグを立てたつもりじゃなかったのだけど、どうにもこのゲートは声を聞いているように反応する。
 トモナリたちの前に表示が現れてカエデはため息をついた。

「なんかデカいの来たのだ!」

 空を飛んで状況を見ていたヒカリがトモナリのところに飛んできた。
 ヒカリの尻尾が指している方を見ると森の木々の間を何か大きなものが駆け抜けていた。

「来るなら来てみろ!」

 森の中から現れたのは巨大なレオンコボルトであった。
 表示からするとレオンコボルトの王、つまりはキングレオンコボルトだろう。

 キングレオンコボルトに一番近いのはタケルだった。
 タケルは拳を構えてキングレオンコボルトを待ち構える。

「オラっ!」

 キングレオンコボルトは武器を持たずタケルに向かって取りかかると爪を振り下ろした。
 タケルはサイドステップで爪をかわすと拳をキングレオンコボルトの腹に叩き込んだ。

 普通のレオンコボルトなら骨が砕けて内臓にも大きなダメージが入る一撃である。

「おっと!」

 けれどもキングレオンコボルトはなんともないように反撃を繰り出した。

「へっ、なかなかやるじゃないか!」

「ヤマザト、下がって」

「えっ、あ……はい」

 キングレオンコボルトのさらなる攻撃をフウカの闇の魔力が受け止めた。

「チェ……」

 自分でもやれるのになと思いながらも今は迅速さと安全に戦うことが求められるのはタケルも理解していた。

「流石E+だね」

 フウカの闇の魔力が作り出した二本の腕とキングレオンコボルトの腕とで押し合いになる。
 わずかに押されているのはキングレオンコボルトの方だ。

「でもごめんね。さっさと終わらせるから。セカンドスキル:闇の支配者」

 フウカがスキルを発動させる。
 闇の腕が一回り大きくなりキングレオンコボルトの方が明らかに押され始めた。

 キングレオンコボルトが牙を剥き出しにして抵抗しようとするけれど上から押さえつけられるような感じにまでなってしまった。

「えいっ」

 闇の腕がギュルンと回転した。
 魔法で作られた闇の腕にはなんともなくともキングレオンコボルトの腕はそんなに回転するものじゃない。

 骨が砕ける音がしてキングレオンコボルトの腕がねじれる。

「そしてえいっ」

 腕がねじ砕かれた痛みに叫ぶよりも早くフウカはキングレオンコボルトの腕を引きちぎった。

「バイバイ」

 フウカの闇の腕の一本がキングレオンコボルトの胴体を掴み、もう一本の腕が頭を掴んだ。
 ゴキンと音が音がしてキングレオンコボルトの首が逆方向を向いた。

 フウカの闇の腕によって首の骨が折られたキングレオンコボルトはゆっくりと倒れる。

「終わり」

「圧倒的だな……」

 E+級のボスモンスターならD級の下の方にも匹敵するボスだろう。
 にもかかわらずフウカは圧倒的な力で危なげなくキングレオンコボルトを倒してしまった。

 強いとは分かっていたけど想像よりも能力が高そうである。

「これで最後なのだー!」

 ヒカリが最後のレオンコボルトを切り裂いて倒す。

「モンスターの魔石を回収する時間はないからこのままAチームの方に向かうよ」

 幸い怪我人もなくすぐに動ける状態だった。
 表示を確認するとまだあと50匹ほどレオンコボルトが残っているのでAチームはまだ戦っていることが分かる。
「トモナリ? いかないのだ?」

「もちろん行くさ」

 トモナリは投げるように置いたサポート用のリュックをゆっくりと拾い上げる。
 もう他のみんなは北の方に向かっていて、ヒカリは不思議そうにさっさと動かないトモナリを見ている。

「ふふ……」

 トモナリはパチンと指を鳴らした。
 そして先に行ったみんなのことを追いかけ始めた。

「……むむむ? まあいいのだ」

 ヒカリはトモナリの行動に一度首を傾げたけれど、トモナリの行動には何か意味があるとすぐに追いかけて背中にしがみついた。

 ーーーーー

「だいじょぶそう」

「まあAチームも強いからな。こっちはお前やフクロウもいたし殲滅力が高かったってだけだな」

 BチームがAチームを見つけてみると、Aチームも危なげなく戦いを続けていた。
 Bチームの方がレオンコボルトを倒すのが早かったのはフウカやカエデという広範囲の攻撃も得意とする攻撃力の高い覚醒者がいたからである。

 一方でAチームはテルを始めとして防御力もある編成だったので確実にレオンコボルトの数を減らしていた。
 Bチームがついた時にはもう残り20匹で助けに入るまでもなかった。

「マコトも戦えてるじゃないか」

 Aチームの方も流石にマコトをサポーターとして守っている余裕まではなかったようで、マコトもリュックを下ろして戦っていた。
 邪魔にならないように必死に立ち回ってレオンコボルトを倒している。

 二、三年生に混じりながらも上手く動けている。
 自信のなさがマコトの弱点であり、もっと自分の能力に自信を持てばもっと強くなれるはずだとトモナリは思っていた。

「ハァッ!」

『ゲートが攻略されました!
 間も無くゲートの崩壊が始まります!
 残り00:10』

 テルが最後のレオンコボルトを切り裂いた。
 どうやらボスはBチームに現れた一体だけのようで、Aチームの方には最後までボスは出現しなかった。

 最後のレオンコボルトを倒した瞬間表示が現れた。
 モンスターウェーブのモンスターを全て倒すことで攻略を終えたようである。

「テル!」

「見てたなら助けてくれてもいいんじゃないかな?」

「その必要なさそうだったからな」

 Bチームはモンスターを倒し終えたAチームに近づく。
 テルはタンクとして多くのレオンコボルトを引きつけながら戦っていた。

 リーダーとしてもみんなを率いるために引くわけにもいかずテルの消耗は大きく、肩で息をして汗だくになっていた。
 Bチームの三年生がテルにタオルを投げ渡して他のみんなの具合を確かめる。

「疲れはあるようだけど怪我はないな」

「後十分。みんなインベントリにモンスター入れて外に出るよ」

 ひとまず大きな怪我をしている人はいない。
 ただ疲れているところ悪いが余裕もない。

 ゲートが攻略されたことによりクローズする時間が迫っている。
 今回のゲートは閉じてしまうまでの時間が十分しかなくかなり短かった。

 十分以内にゲートから出なければならないのだ。
 この際解体なんてしている場合じゃない。

 みんなはできるだけレオンコボルトをインベントリに詰め込んでゲートに向かう。
 インベントリの容量は個人によって違うが、150のレオンコボルトでも一人当たり10も詰め込めれば持っていけるので分担して持っていくことができた。

「みんないるな? 忘れ物や落としたもの……何か残してしまったものはないか今一度確認するんだ」

 ゲート前までやってきて一度立ち止まる。
 まだ五分残っているので荷物を確認する。

 時々投げナイフを回収し忘れたとか後で取りに戻るつもりの素材を置いてきたなんてことが発生することもある。
 ゲートを出る前に忘れ物がないか確認することは大切なのだ。

「大丈夫そうだな。じゃあゲートを出るぞ」

 みんなが大丈夫そうなことを確認してゲートを出る。

「あっ、出てきた」

 サポートとして待っていた一年生のみんなは想定していたよりも二、三年生が戻ってくるのが早くて驚いていた。

「攻略終了しました」

「思っていたよりも早かったな」

 待っていたマサヨシも少し驚いたようだった。
 テルの性格なら慎重に攻略を進めるはずなのでこんなに早く終わるとは思っていなかった。

「中でモンスターウェーブが起こったのです。そのために早く終わりました」

 テルが簡単にゲートの攻略について報告する。

「なるほどな……そうしたことがあったのなら早くてもしょうがないな」

「一年! モンスターの解体をお願いするよ」

 中で解体できなかったモンスターは外で解体する。
 売れるモンスターならそのまま持ち帰って売ることもあるが、今回は経験も兼ねて一年生が持ち帰ったモンスターを解体することになった。

「こうなるとボスモンスターを持って帰れなかったのは少し痛いかもな」

 お金は目的でないがやはり持ち帰るものは持ち帰りたい。
 ボスモンスターの魔石は通常モンスターよりも価値が高いので持って帰りたかったところである。

「あっ、それなら」

 トモナリは自分のインベントリの中からボスレオンコボルトの死体を取り出した。

「あの状況で持ってきたのか?」

「実は……全部持ってきたんです」

「えっ!?」

 Bチームとして倒したレオンコボルトを実はトモナリが全部インベントリに入れて持ってきていた。
 あの状況では誰のインベントリに余裕があって入れられるかなんて考える暇がなかったのでモンスターの死体は無視したが、トモナリのインベントリの容量はかなり大きくてその場にあった死体全ても収納できた。

 だからこっそりと持ってきていたのだ。
「大型新人はインベントリも大型だな」

「この場合分配はどうするべきかな……」

 勝手なことをしたので怒られるかと思ったけど、みんなは怒るような様子もなかった。
 レイジはガハハと笑い、テルはトモナリが持ってきたモンスターの死体をどうすべきか悩み始める。

 状況が状況だけにインベントリの余裕を確認してモンスターの回収をなんてやっている暇はなかった。
 一刻も早く移動しようという状況で一人、インベントリにモンスターを入れたことは多少の問題かもしれない。

 しかしトモナリは特に遅れたわけでもないし、トモナリの行為で誰かが迷惑を被ってもいない。

「まあいいんじゃない」

「ぐぬー! 放すのだぁー!」

 Aチームのリーダーであり全体のリーダーでもあるテルも怒っていない。
 Bチームのリーダーであるフウカもあっけらかんとしているので他のメンバーからも特に苦情はなかった。

「アイゼン君はどうしたい?」

 正直お金に関して困っている人はいない。
 戦闘訓練が目的であるので元々持ってくる予定のなかったレオンコボルトの分の報酬を強く欲してはいなかった。

「うーん……」

 トモナリも特にお金には困っていない。
 先日ゆかりのために家を買ったがそれでもまだ貯金はあった。

「じゃあこうしませんか? ボスレオンコボルトとレオンコボルト五十匹はみんなで分けて、残り百匹は俺がもらってもいいですか?」

「みんなはどうだ?」

「ん、私はいいよ」

「先輩方がいいなら言うことないな」

 トモナリの提案に反発する人もいなかった。

「んじゃ」

 トモナリはインベントリの中からレオンコボルト五十匹を出す。

「よし、一年、解体だ」

「ええーっ!」

「ほら、さっさとやる!」

 レオンコボルトの死体そのものはいらない。
 持ち帰るなら魔石だけ取り出したほうが持ち運びしやすい。

 どうせならサポートとしてついてこなかった一年生にも解体をやらせようとテルは思った。
 ミズキは露骨に嫌な顔をするけれどいつかはやらなきゃいけないことである。

 渋々ナイフを持ってきてレオンコボルトの解体にチャレンジする。
 二年生が付き添って解体のやり方を教える。

「ぎゃあ! 血が飛んだ!」

 騒がしいミズキだけでなくサーシャやコウたちも解体に挑戦している。

「残りの百匹はいいのかい?」

 どうせなら今出して解体すればいいのにとテルは思った。

「別の使い方があるんです。……あの解体した後の死体ももらっていいですかね?」

「燃やすだけだから構わないけれど……何に使うんだい?」

「スキルの解放に使うんです」

「スキルの解放に?」

「そうなんです。実はスキルの解放にも秘密があるんですよ」

 ーーーーー

 ゲートの攻略を終えたトモナリたちはそのままアカデミーに帰ってくることになった。
 まだギリギリ夏休み期間ではあるもののそれぞれ家に帰るような時間もなかったので仕方ないのである。

 帰ってきて少し懐かしさすら感じる部屋で休んで次の日部室に課外活動部のみんなが集まった。

「何か飲み物はいるかしら?」

「じゃあ、リンゴジュースお願いします、フクロウ先輩」

「アイゼンは?」

「ソーダがいいのだ!」

「ふふ、分かったわ」

 課外活動部の部室はかなり至れり尽くせりとなっている。
 ある程度の魔法や衝撃に耐えられる訓練室があるだけでなくお菓子にジュースまで完備されている。

 いつきてもちゃんと補充されているのでミクあたりが細かく管理してくれているのかもしれない。

「はい、ソーダ」

「ありがとうなのだ!」

 カエデからソーダのコップを受け取ってヒカリはソファーに座るトモナリの膝の上でチビチビと飲み始めた。

「それにしても今日は何の用なんですかね?」

 ミズキはカエデからリンゴジュースを受け取る。
 部室にみんなが集まっているのは偶然ではない。
 
 本来なら今日はお休みだったのだが部室にいるのはマサヨシが集めたからであった。

「みんな集まっているな」

 マサヨシとミクが部室に入ってきた。

「おはようございます」

「うむ、おはよう。本来ならゆっくり休んでもらうところ集まってもらって悪いな」

「今日は何の用でみんなを集めたのですか?」

 みんなを代表してテルがマサヨシに聞く。

「一つ聞いてもらいたい話があってな」

「話ですか?」

「そうだ。ただ重いものではない。くつろいだまま聞いてくれ」

 テルは会議室の方に移動するべきだろうかと考えたがのんびりしたまま聞いていいとマサヨシは軽く笑顔を浮かべた。

「今日聞いてほしい話はスキルに関するものだ。先日日本の覚醒者協会からとある論文が発表された」

「それがスキルに関するものなのですか?」

「その通りだ。論文のタイトルは上位スキル獲得可能性の向上方法だ」

「上位スキル獲得可能性の向上……ですか?」

「その通りだ。まだ未確認な部分が多く、広く一般には知れ渡っているものでもない。しかし内容は面白いものだった」

「どのようなものなのですか?」

「軽くかいつまんで話そう。スキルスロットが解放されるとスキルを抽選することができることは知っての通りだ」

 レベルが上がるとスキルスロットが解放される。
 ただしスキルスロットが解放されたからと勝手にスキルも解放されるわけじゃない。

 スキルスロットが解放されたら自らの意思でスキルを得ようとして初めてスキルがスキルスロットに入る。
 一般にスキルはランダムに抽選されるもので、運によって良いもの悪いものが選ばれるとされている。