ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした

「とんだ災難だったな」

「そうですね……」

 解放されてミズキの家に帰ってきたトモナリは盛大にため息をついた。
 神切についてもう一悶着起きそうだったけれど急に相手の態度が柔らかくなった。

 もしかしたらトモナリが未来視もどきで覚醒者協会に協力していることが伝わったのかもしれない。
 ともかくトモナリは犯人を止めようとしたのだし疑われるなんて大変だったとテッサイが労う。

 蔵に自由に出入りできるようにして神切を手にした直後だったというタイミングも少し悪かった。

「まさか泥棒が入るとはな……」

「しかも覚醒者だもんね」

 盗まれた側のテッサイやミズキだがあまり焦ってもいなかった。
 刀なんかは売ればいくらかになるだろうが蔵にあるものはほとんど価値のない骨董品がほとんどであった。

「まあ覚醒者に狙われたら厳しいよな」

 ユウトはため息をつく。
 たとえ鍵があろうと監視カメラがあろうと覚醒者なら様々な方法で突破することができてしまう。

「悪かったな、みんな起こして」

「むしろ起こしてよ!」

 時間としては日の出前になる。
 寝るには早い時間だけど起きてるのも眠い。

 結局みんなのことを起こしてしまったのでトモナリが謝るとミズキは少し怒ったような顔をした。

「一人で覚醒者の泥棒と戦ったんだよ? 危ないじゃない!」

「ん、まあ結果的にそうだけど……なんだったか分かんなかったしな」

 怪しい気配はしていたものの覚醒者が古ぼけた蔵に泥棒に入るとは思ってなかった。
 ちょっと確認だけするつもりで戦いになってしまったのだ。

「怪しいって思ったんでしょ? ならみんなのこと起こせばよかったんだよ」

「……そうだな、今度からそうするよ」

 コウにも諌められてトモナリは素直に自分の非を認める。
 確かに自分ならなんとかできるかもしれないという驕りがあった可能性はある。

 みんなを起こして取り囲めば盗人を捕らえることもできたかもしれない。

「次はないと思うけど次あったらみんなのこと叩き起こすよ」

 ミスは素直に認めよう。
 今回は頼もしい仲間たちもいるのだし頼ることも覚えなきゃなと思った。

「にしてもさー」

「なんだ?」

「本当に犯人の顔も見なかったのか?」

 盗人についてトモナリはやや身長が低めだったことと覚醒者で素早さが高そうなことしか報告していない。
 顔は隠していたし声も出さなかった。

 まともに戦ってもいないから能力も分からない。
 特徴として言えることが多くないのである。

「ただ……」

「ただ?」

「いや、なんでもない」

「んだよー。でもトモナリでも捕まえられないんじゃ俺たちいても同じかもな」

 トモナリはみんなの中でも頭一つ飛び抜けて実力が高い。
 そんなトモナリが逃してしまうほどの相手ならやっぱりみんながいても厳しいかもしれないとユウトは思った。

 一方でトモナリは言葉を飲んだ。
 盗人は女かもしれないとひっそりと思っていたのだが確証もないし口にはしなかった。

 ヒカリが盗人に一撃加えた。
 服をかすったのでダメージはないものの服は破けた。

 破れた胸元から黒い下着が見えたような気がするのだ。
 ほんの一瞬だったのでこちらもまた確証はない。

 それに男がブラジャーをつけないとも限らないので確実なことは言えない。

「とりあえず神切は守れたからよしとするか……」

 おそらく回帰前神切が盗まれたのはこの盗人によるものだろうとトモナリは思う。
 かなりギリギリのタイミングであったけれど神切を守ることができた。

 神切を持った覚醒者協会の職員が暴れたことを考えると回帰前に起きた連続殺人事件も神切によるものだろうと推測できる。
 つまりは未来における凄惨な事件を一つ防ぐことができたのである。

「まあ今度は逃がさない……」

「むにゃむにゃ……もう食べられないのだ〜」

 みんなの目が冴えてしまった中でヒカリは丸くなって寝ていた。
 もう会うことはないだろうが次に会うことがあればトモナリはもっと強くなっている。

 次は盗人など逃がさない。
 トモナリはそっとヒカリの頭を撫でた。
「母さん、引っ越しをしないか?」

「引っ越しなのだ!」

 様々なことがあったけれどなんだかんだで楽しくみんなと過ごした。
 最後に多少宿題なんかをやったりして解散、みんなはそれぞれの家に帰っていった。

 トモナリも自分の家に帰ってきた。
 やっぱり自分の家はいいもんだと思いながらもトモナリはこの家を離れようと思っていた。

「どうして?」

 トモナリの真剣な目に冗談ではなさそうだということは察しつつも理由が分からなくてゆかりは首を傾げた。
 長いこと住んでいるので多少くたびれたような感じはあるけれどそれでもまだまだ住めるところである。

「もっとセキュリティのちゃんとしたところに移ろうと考えてるんだ」

「セキュリティ?」

「うん、ある意味……俺のせいなんだ」

「どういうことなの?」

「俺は少し有名になっちゃったから……」

 良くも悪くもトモナリは目立つようになってきてしまった。
 ヒカリという大きな特徴もあるためにどれだけ隠そうとしてもトモナリに関しては隠しきれないところがある。

 砂浜でのブレイクゲートでもトモナリは目立ってしまった。
 No.10ゲートでもマサヨシが情報が広まらないようにしてくれたが、鬼頭アカデミーの一年がやったことだというのはもはや知る人は知っている。

 さらにNo.10ゲートでは終末教に目をつけられてしまった可能性がある。
 回帰前終末教が邪魔になりそうな覚醒者の家族を襲撃して人質に取ったなんて話もある。

 トモナリにとって唯一の肉親は母親だけだ。
 狙われないとも限らないし、鬼頭アカデミーにいる今狙われたら守れない。

 より安全にいてもらうことがトモナリにとっても大事となるのだ。

「あなたにとっても必要なことなのね?」

「……ああ、そうだね」

「じゃあ引っ越しましょうか」

「……いいの?」

「あら、引っ越そうって言ったのはあなたでしょ?」

 母の無事を祈ることはもちろんだ。
 だがこんなにあっさりと承諾してくれるなんて思わなくてトモナリは驚いた。

「トモナリ、あなたは今羽ばたこうとしているわ。きっとこの話も必要だからするのでしょう? なら私はあなたの邪魔にならないようにしなきゃ」

「邪魔だなんてそんな……」

「いいのよ。私はあなたが友達を連れてきてくれて安心したわ。だから引っ越して……あなたが安心できるならそうするから」

 事情も聞かずにゆかりはトモナリのことを信じてくれる。
 思わず少しグッときてしまう。

「でもどこに引っ越すとか決めなきゃいけないわね」

「それについては候補が二つほど考えてあるんだ」

 ただ勢いで引っ越そうなどと言っているのではない。
 当然のことながら引っ越し先の候補もすでに考えてあった。

「ト、トモナリ……こ、これ本気なの?」

 プリントアウトしてあった物件の情報をゆかりの前に置く。
 ゆかりはそれを見て目を丸くしている。

 まずゆかりが見たのは物件の値段だった。
 引っ越し先も賃貸だろうとゆかりは考えていた。

 今いる家もマンションの一室で、賃貸であるしそうだろうと思っていたのだけど、トモナリが出してきたのは賃貸のものではなかった。
 二つとも分譲マンションのようで一室丸々購入する形となっている。

 さらに値段も驚きだった。
 ゆかりは平均的な相場というものを知らないがそれでも価格は高すぎるほどに高価である。

「母さん、心配しないで」

 とてもじゃないがこんな物件買うことなんてできないと顔をあげたゆかりにトモナリは微笑みかけた。

「これ見て」

「……通帳?」

 トモナリが次にテーブルに置いたのは銀行の通帳であった。

「ほら」

「……えっ!?」

 トモナリがペラリと通帳を開く。
 そこに書かれていた金額を見てゆかりが驚きの表情を浮かべる。

「ぷぷ……珍しい顔してるのだ」

 ゆかりが驚いているのが面白くてヒカリはクスクス笑ってしまう。

「こここ、これどうしたの?」

 見たこともないような金額だった。

「俺もそこそこお金持ちなんだ」

 トモナリはにっこりと笑顔を浮かべる。

「前にNo.10っていうゲートをクリアしたって言ったでしょ? あれは試練ゲートっていうもので……まあクリアするといっぱいお金もらえるんだよ」

 細かい説明は面倒で省いた。
 試練ゲートは人類が攻略すべきゲートである。

 そのために試練ゲートの攻略には報奨金が設定されている。
 国際覚醒者協会という世界的な覚醒者協会が寄付を募って設定しているもので試練ゲートが長く残ればそれだけ報奨金も高くなる。

 さらには日本の覚醒者協会も独自に国内の試練ゲート攻略には報奨金を出している。
 加えて試練ゲートに挑むには供託金を払う必要もある。

 攻略成功すれば過去に預けられたお金も全てもらえて、失敗すればそのまま成功するまで積み立てられる。
 No.10は結構長めに残っていた。

 入場条件の厳しさから失敗する攻略隊も後をたたずに時間も経ち、供託金も結構積み立てられていた。
 トモナリはNo.10攻略によって得られたお金をみんなで平等に分けようとしたのだけど、みんながそれを許さなかった。

 トモナリのおかげで攻略できたのだからとトモナリが半分を受け取ることになった。
 半分でもかなりの金額、みんなはもっと渡してもいいぐらいなんていうから渋々そこで納得したのだ。
「だからお金の心配はしないで」

 魚人ゲートの攻略報奨金やモンスターの素材代金、トモナリに関しては覚醒者教会からの協力金もある。
 これからもっと覚醒者として活動するつもりだ。

 今あるお金を使い切ったってまた貯めればいい。
 トモナリはゆかりの手を取って目を見つめる。

「とりあえず物件だけ見に行ってみない?」

 あまり悩むと断られてしまうかもしれない。
 ゆかりに考える暇を与えず叩き込む。

「……分かったわ。とりあえず見に行ってみましょう」

 ーーーーー

「本当によかったのかしら……」

「いいの。俺がいるうちなら引っ越しも楽だしね」

 家の見学に行ったトモナリはそのまま契約まで済ませてしまった。
 元よりそのつもりで話を進めていたので早かったのだ。

 契約したのは大きな建物の下層階にギルドが入っていて、上の階を住居として売り出している物件であった。
 下に入っているギルドが上の住人の安全を保障してくれるということで防犯としてかなり良いものとなっている。

 その代わり高めであるがトモナリの財力を持ってすれば十分買えるものだった。
 あれよあれよと話が進んでしまったのでゆかりには止めることもできなかった。

「本当ならもっと良いところがいいんだけど……母さんの都合もあるからね」

「まあ、仕事辞めなくてもいいのはいいけれどね」

 トモナリとしてはもっと強い覚醒者のいる有名どころがよかったのだけど、ゆかりには仕事もある。
 トモナリが希望するところだと町から引っ越すことになるので諦めた。

 流石に仕事辞めて家に引きこもれと強制することはできない。

「……トモナリ」

「なぁに?」

「ありがとう」

 少し無理矢理な気はしたけれど、トモナリが自分のことを考えてやってくれたことには間違い無いとゆかりにも分かる。
 家の見学をしながら気がついた。

 トモナリの背が少し高くなっていたことに。
 体つきががっしりしたなとは思っていたけれど、よくみたらトモナリは記憶にあるような少し気弱でおとなしい少年ではなく大人になりつつあったのだ。

 嬉しくも、寂しくもある。
 でも止めることもできないのだから応援しようと思う。

「どういたしまして」

 少しでも母が安全に暮らすことができるならとトモナリは安心できる。
 何が起こるか分からない世の中なのだ、穏やかに暮らしてほしい。

「ただ次はこんなことするなら事前に相談してちょうだいね?」

「う……分かったよ」

 あまりにも話が早かった。
 流石のゆかりにもトモナリが事前にある程度話を進めていたことは分かっていたのだ。

「ヒカリちゃんもトモナリが勝手なことしないように、お願いね」

「うむ、任せておくのだ!」

「ふふふ、頼もしい」

 ゆかりはヒカリのことを撫でる。
 あまり人に撫でられたがらないヒカリであるけれどゆかりには心を許している。

 夏休みが終わればトモナリは鬼頭アカデミーに帰ってしまう。
 その前にと慌てて引っ越しの準備をしたトモナリは新しい家にゆかりと共に引っ越したのだった。

ーーー
後書き

昨日はお星様ありがとうございます!
感謝の言葉書きたくて今日も更新です!

これで星100突破しました、ありがとうございます!
もっとお星様くれてもいいんですからね!

これからものんびり更新します。
先行公開もあるのでよかったらギフト投げてください。
「それじゃあ行ってくるね」

「いってらっしゃい。怪我しないようにね」

「いってくるのだ〜」

 夏休みも残り数日。
 思ったよりも早かった。

 引っ越したばかりではあるもののトモナリはもう家を出発した。
 少し外出するのではない。

 次に帰ってくるのはまた長期休暇の時となる。
 ゆかりに挨拶をしたトモナリは呼んであったタクシーに乗り込んで空港に向かう。

「ひこーきってやつなのだ?」

「ひこーきってやつだ」

 今回はまっすぐにアカデミーに向かうのではない。
 別の場所に行くことになる。

 そのための移動手段として利用するのは飛行機であった。
 少し値段が張る移動手段ではあるものの今回は自分のお金ではないから気楽なものである。

 ただ何も考えずに飛行機に乗れた頃よりも空港の人は減った。
 けれどもやはり飛行機という移動手段は重宝されていて利用する人は多い。

「こんな鉄の塊が空を飛ぶのかぁ〜」

 飛行機のチケットを用意してくれたのはマサヨシである。
 ヒカリはペット扱いでもなくちゃんと座席が一つ与えられている。

 窓際の席で、ヒカリは尻尾をフリフリしながら外を眺めていた。
 翼があるドラゴンが空を飛べることはよく分かるが羽ばたきもしない飛行機が空を飛んでいることが不思議でならないのだ。

「トモナリ!」

「いつか……僕がおっきくなったらトモナリのこと乗せてやるからな!」

「んん?」

「こんなヒコーキなんかよりも僕の方が速いんだ!」

「ふっは、なるほどな」

 思わず笑ってしまう。
 何を言い出すのかと思えば飛行機に対抗心を燃やしていたのだ。

「期待してるよ」

 トモナリは回帰前に見たヒカリの姿を思い浮かべる。
 強大な敵だった。

 しかしそれを抜きにして考えると美しさすら覚えるような雄大なドラゴンだった。
 背に乗って空を飛ぶことができたらきっといい気分になれるだろうなと思う。

「ふふふん、期待するのだ」

 ヒカリは翼を広げて胸を張る。

「ヒカリに乗って移動できたら楽だろうな……」

 ドラゴンを襲うバカなモンスターも多くはないだろうとなると安全で速くてかっこいい移動手段となる。
 大いに期待させてもらおう。

 そう思ってトモナリはヒカリの頭を撫でてやるのだった。

 ーーーーー

「なんもしないってのも疲れるな……」

 空港から出てトモナリは体を伸ばす。
 覚醒者の体は長時間の移動でもびくともしないはずなのだけど、なんだか凝り固まってしまったような気がする。

 やはりヒカリの背中には期待だ。

「先に来てる奴がいるはず……」

「ぬおっ!? な、何するのだぁ〜!」

「……ああ、ヤナギ先輩……どうも」

「ん」

「トモナリ、助けるのだ〜!」

 振り返ると三年のフウカが無表情でヒカリを捕まえていた。
 そしてわしゃわしゃとヒカリのことを撫で回し始める。

 無表情ながら卓越した手つきにヒカリは逃れることもできずにされるがままになっている。

「キュウ……やられたのだ……」

「みんなあっちにいるよ」

 散々撫で回されてヒカリはフウカの腕の中でぐったりとしている。
 だいぶ強くなったトモナリだけどフウカにはまだ敵う気がしない。

 申し訳ないが助けるにはまだ力不足なのである。
 一通りヒカリを撫で回したフウカが歩き始めてトモナリも荷物を持って追いかける。

「おっ、遅くもなく……早くもないな」

「そうね。真ん中ぐらいってところね」

 ロビーの一角に見覚えのある顔が何人かいた。
 二年のレイジやカエデ、一年のマコトやサーシャといった顔ぶれだ。

 今日集まっているのはアカデミーの中でも課外活動部の活動のためであった。
 課外活動部の活動はゲートを攻略してレベルを上げることである。

 夏休みの自由の時間なんかうってつけだ。
 夏休みが始まる時に一つ攻略した。

 ちょっとイレギュラーな形でNo.10ゲートではあったが一応あれは課外活動部としての攻略であった。
 今回は二、三年生を中心としてゲートを攻略し、一年はサポートとしての動きを学ぶのである。

「お前らまたゲート攻略したんだって? 今レベルなんぼだよ?」

「今は19ですね」

「もうセカンドスキル目前か」

 レイジは驚いた顔をする。
 今の二、三年生もかなり速いペースでレベルを上げてきたがトモナリたちはさらにそれよりもペースが速い。

「どっかで抜かされそうだな」

「じゃあ抜かした先輩って呼んでください」

「やなこった」

 歯を見せてレイジは笑う。
 最初の当たりこそキツかったものの打ち解けてみると意外といい先輩である。

「レベルの上がり方が異常なのはいいけどあなたたちのセカンドスキルも気になるわよね」

 レベルが20になると二番目のスキル枠が開く。
 能力値が優れていても優秀なスキル一つに潰されてしまうこともある。

 逆に優秀なスキルを手に入れたことでここまで平凡なだった覚醒者が日の目を見ることもある。
 どんなスキルを手に入れることができるのかということは優秀な人であるほど当人のみならず周りも気になるものなのだ。

 トモナリは最初に見たこともないスキルを二つも手に入れた。
 自ずと周りも次のスキルはどんなものかと期待してしまうのだ。
「今回レベル上がればセカンドスキルも解放できますね」

「まあでも今回一年はサポートだからな」

 本来課外活動部での活動においてこの時期の一年生は二、三年生のサポートを任される。
 トモナリのレベルを見ればもはやサポートなんて枠に収まらないことは確実だが、夏休みの最初に行ったNo.10ゲートでは二、三年生がサポートだった。

 なので今回はトモナリも大人しくサポートに徹しようと思う。

「まあ、私が卒業する前にもっと強くなってくれると嬉しいな」

 フウカは無表情のままジッとトモナリのことを見ている。
 抱えられたヒカリはなんとか抜け出そうともがいているけれど厳しそうだ。

 ヒカリがどうにかフウカの腕の中から脱出に成功した頃になると残りのみんなも集まってきた。

「ういっす!」

「うっす」

 相変わらずのユウトはトモナリとハイタッチで挨拶を交わす。

「みんな集まっているな」

 マサヨシがミクと共にやってきた。

「まずはホテルに行って荷物を置き、ミーティングを行う」

 タクシーを使ってみんなでホテルに移動する。
 意外と良いホテルでトモナリはユウト、マコト、コウと一緒の部屋であった。

 とりあえず荷物だけ部屋に置いてホテルで貸し出している会議室に集まる。

「それではミーティングを始めます」

 会議室にはスクリーンがあって画像が映し出されている。
 まず映し出されたのは地図だった。

 ミーティングを主導して説明をしてくれるのはミクである。

「今回攻略するゲートはこの町から二時間ほど行ったところにある湖のほとりに発生したものです。ダンジョン階数は一階、ダンジョンの難易度はE+……Dに近いと思われます」

 次に映し出されたのはダンジョンの情報だった。
 ダンジョン前で見られるダンジョン情報のステータス表示に似た形で書いてある。
 
「最大入場数は三十人。問題ないでしょう。入場条件はレベル10以上、60以下となっています。攻略を行う人の中で引っかかっている人はいません。そして攻略条件ですが全てのモンスターを倒せとなっています」

 基本的に入場条件や最大入場数は厳しくないことの方が多い。
 どういう基準で設定されているのか分からないけれど、今回のゲートは入る条件として全く厳しくなかった。

 つまり全員普通に入れるということである。

「事前調査で確認されたモンスターはレオンコボルトです」

 映し出された画像がモンスターのものに変わる。
 コボルトといえば犬頭人身、犬のような頭を持った二足歩行のモンスターである。

 普通のコボルトならF級相当の弱いモンスターであるけれど、今回発見されたモンスターは正確にはコボルトではない。
 レオンコボルトはまるで獅子のような立髪を持っている。

 故にライオンを表すレオンとついているのだ。
 顔立ちもコボルトは犬っぽいがレオンコボルトはやや猫っぽい。
 
 能力もコボルトより強い。
 コボルトだからなんて名前だけで油断すると痛い目を見ることになる。

「ただ気をつけてください。全てのモンスターを倒せとなっているので他のモンスターやボスモンスターが出てくる可能性があります」

 レオンコボルトを全て倒せではなく全てのモンスターを倒せとなっている以上他のモンスターの存在も考慮に入れるべきである。
 事前にゲート情報を見てこうした予想をしておけばレオンコボルト以外のモンスターが現れても驚くことなく対処することができるのだ。

「レオンコボルトは食用になりませんし素材として有用なところがありません。魔石だけ回収して死体はそのままでも大丈夫です」

 モンスターの回収もゲート攻略には重要な要素である。
 今回のレオンコボルトは素材として利用されないので死体を持ち帰る必要はなく魔石だけ取り出して持ってくればいい。

「そして肝心のゲート内の環境ですが森林となります。鬱蒼とした密林ではなく明るめでやや視界が確保できる森となります。ですが木々が多いので奇襲には十分気をつけてください。説明は以上です。何か質問等はありますか?」

 一通り説明を終えたミクがみんなのことを見回す。
 無駄のない説明だった。

 トモナリも聞くことはない。

「質問がないようでしたら攻略計画について皆さんで話し合ってください」

 何かもをやってもらうわけではなく、実際の攻略は生徒に任されている。
 どうゲートを攻略していくのか、それは自分たちで決めるのだ。

「それじゃあまず……攻略メンバーは二、三年生で構わないね?」

 部長であるテルが場をリードする。
 従来通りに攻略のメインメンバーは二、三年生で編成することにした。

 戦力や職業を勘案し、攻略の効率を上げるために二つのグループに分ける。

「一年は外で準備組と中でサポート組に別れよう」

 全員が中に入って攻略すればいいというわけではない。
 外は外ですることもある。

 中で攻略する人たちがいつ出てきてもいいように出迎える準備が必要だ。
 近くに町がないならテントなどを張って食事の用意をしたり、着替えやタオルなどをすぐに渡せるようにしておいたりもする。

 他にも他人がゲートに近づかないようにしたりゲートがブレイクを起こしてモンスターが出てきた時に対処したりと外だからと決して気を抜いていていいわけでもないのだ。
 一方でゲートの中に入って行うサポートもある。
 インベントリがあるとはいっても中に入れられる量には限界がある。

 トモナリなんかはインベントリがかなり大きい方であるが、それは割と特殊な方で自分の装備でいっぱいであるという人も珍しくない。
 そうなると必要になるのが荷物持ちである。

 自分のインベントリに物を入れたりリュックなどを背負って一緒に入っていく。
 他にも倒したモンスターの素材やゲートの中で拾えるものの回収なんかもやったりする。

 基本的にサポートを行う人は攻略を行う人よりも弱い人がやる。
 そのためにしっかり守ってあげなきゃいけないなどのルールも存在している。

「トモナリ君はサポートとして連れてく」

「えっ、俺ですか?」

 外で大人しくテントでも立ててようと思っていたトモナリのことをフウカが推薦する。

「……そうかではヤナギのチームにはアイゼンがサポートにつくように」

 トモナリがいいのかと問いかけるような視線をテルに向けたけれど、テルは困ったように笑ってフウカの推薦を受け入れた。
 テルが部長であるけれども課外活動部の中で一番強いのはフウカである。

 フウカが部長を嫌がったからそうしたことも得意なテルが部長をやっているのだ。
 普段からフウカがわがままを言うことはないが時としてしっかりとした主張をすることがあり、そうなるとテルも弱いのである。

「それじゃあもう一人誰か中に入ってのサポートをしたい人はいるかい?」

 一人はトモナリで決定してしまった。
 フウカは満足げに微笑んでいて、テルは一年生を見回す。

「……えっ、僕?」

「おっ、ミナミ君やってくれるか?」
 
「えっ、あの、えっ……あ、はい……」

 外も外でやることがあるとはいってもやはり外の方が楽ではある。
 みんなサポートなら外の方がいいなと黙っていたのだが、声を出してしまったマコトがテルに目をつけられた。

 なぜ声を出してしまったのか。
 それはトモナリがジッとマコトのことを見ていたからだった。

 嫌ですとも言えない。
 仕方なくマコトはサポート役を引き受けた。

「なんで僕なの?」

 攻略の計画についてテルが主導して話し合って決めた。
 攻略そのものは次の日なので解散となって各々部屋に戻ろうとしていた。

 マコトがトモナリに近づいてどうして自分のことを見ていたのか問い詰める。

「戦わなくても経験値は入るからな」

 マコトはほんの少しトモナリたち特進クラスと合流するのが遅かった。
 そのためにちょっとだけレベルの上がりが遅い。

 もはや気にするような差もないが、こうした機会には差を埋めるチャンスとなる。
 戦わずともサポートとして同行するだけで経験値が入る。

 レベルアップできるほどではないだろうけど、戦いを見学する経験とレベルアップのための経験値はマコトの差を埋めてくれるだろう。

「うぅ……」

 ちゃんと考えてのことだった。
 マコトのためを思ってのことなので反論することもできずにマコトは小さくうなる。

「マコトも犠牲……サポートとしてがんばれよ」

「今犠牲って言わなかった?」

「気のせいだ」

「気のせいじゃないよー!」

「まあいいじゃないか。外いたって暇なだけだ」

「はぁ……やるなら頑張るけどさ」

 暇な方がいいなとマコトは思う。
 けれどももう逃げられないのでサポートを頑張る方向で思考を切り替えようと努力するのであった。

 ーーーーー

「みんな準備はいいかい?」

 ゲートの前でテルが最終確認を行う。
 二、三年生のみならず万が一に備えて一年生も装備を身につけている。

 加えてトモナリとマコトはサポートのために大きなリュックを背負っている。
 見た目ほどのものは入っていないがサポートの荷物持ちとして大きな容量のリュックは必需品なのだ。

「準備万端なのだ!」

 ヒカリもヘルムをかぶってやる気満々である。
 油断するとフウカに捕まるのでヒカリはフウカを避けるように警戒している。

「一番最初は僕が入って安全を確認する。それから攻略開始だ」

 事前に中の状況は分かっているが、何かのきっかけで環境が変わる可能性やモンスターが待ち受けている可能性も排除できるものではない。
 タンクでもあるテルが最初に入って中の様子を確かめる。

 テルがゲートの中に消えていって、程なくしてまた出てくる。

「安全は確認できた。中に入ろう」

「みんな頑張ってくださいねー!」

 幸い今回ゲート周りに危険なことはなかったようである。
 サポートであるトモナリとマコトは一番後ろからゲートに入る。

 ゲートの中は事前に聞いていた通りの森の中である。

「信号を設置するぞ」

 今時技術も進歩している。
 周りの変化に乏しい環境の中ではゲートの位置が分からなくなってしまうこともある。

 そうならないために色々な対策が編み出されてきた。
 今主流なのは信号を発する機械を使うことである。

 地面に埋め込むものでモンスターにもバレにくく専用の端末を使えばゲートの方角と距離が分かるようになっている。

「向こうの木の方を北側として固定しよう」

 端末を操作して仮の北側を決める。

「ゲート地点から北をAチーム、南をBチームで攻略していこう。時間は昼までの四時間。四時間後一度ゲートに集合だ」

 流石にテルは慣れているなとトモナリも感心してしまう。
 ベテラン覚醒者みたいに進めていく。
「それじゃいくよ」

 トモナリがサポートとしてついていくのはフウカを中心としたBチームである。
 実力者ということでフウカがリーダーとしてチームをまとめることになってるが、みんなもそれぞれちゃんと動きを分かっているのでフウカが指示することもない。

 ゲートを中心として定めた南側に移動していく。
 メンバーにはカエデやタケルもいた。

 王職の覚醒者が二人もいるのだから大丈夫だろうとトモナリはついていく。

「いた」

 モンスターを見つけてフウカが停止の合図を出す。

「レオンコボルトだな」

 見つけたのはレオンコボルト三匹の小さな集団。
 まずは三年生が前に出てレオンコボルトの能力を確かめることにする。

 フウカをセンターに二人の三年生が左右に広がり、囲むようにレオンコボルトに近づく。
 さらに後ろから二年生たち三人もフウカの後についていく。

 トモナリとヒカリは邪魔にならないように距離を取って戦いを見学である。

「あれが闇騎士王か……」

 フウカの体を黒い魔力が包み込む。
 まるで闇のような魔力はフウカたちに気づいたレオンコボルトに恐怖を与えた。

 フウカが手を伸ばすと黒い魔力が手のような形を成してレオンコボルトの一体を捕まえた。

「圧倒的……ヤナギ先輩一人でも勝てたな」

 グシャリとレオンコボルトが闇の手の中で握りつぶされた。
 鎧であり縦であり武器である。

 まさしく闇を操るフウカの能力は味方であればとても心強い。
 そのまま左右から挟み込んできた三年生が残りのレオンコボルトを倒してしまい、戦いは二年生の出番なく終わった。

「そんなに強くないわね」

 トモナリがナイフでレオンコボルトの魔石を取り出している間に他のメンバーで改めてレオンコボルトについて話し合う。
 戦った感じも何もないぐらいあっさり終わってしまった。

 ここに先生がいたならもう少し相手の出方を窺いなさいと怒るところだろうとカエデは思う。

「この感じなら少数の群れは二年生中心で、数が多くなるようなら三年生中心の布陣で行こうか。ヤナギもそれでいいな?」

「うん」

 三年生の男子が話をまとめる。
 ダンジョンの等級がE+と聞いていたので警戒してレオンコボルトを倒してしまったが、この様子なら今のところ大きな心配なさそうだった。

 次は二年生を中心に戦い、レオンコボルトの動きを把握するつもりだった。

「ほい、ヒカリ」

「ほれきた」

 トモナリはレオンコボルトの腹から魔石をほじくり出すとヒカリが持ったタオルの上に置く。
 ヒカリがタオルでレオンコボルトの血を拭くと魔石はモンスターの革で作られた袋に放り込まれる。

「アイゼン君の手際もいいね」

 みんなはトモナリのサポート能力にも驚いている。
 倒したモンスターのお腹をサッと開いて魔石を取り出すのは初めてだとなかなか難しい。

 倒すのはいいけど解体するのは嫌だという人も一定数いる中でトモナリは何のためらいもなく魔石を取り出している。
 短い話し合いの最中に魔石の取り出しを終えてくれていたので感心しているのだ。

 先輩面しようと思っていたタケルは当てが外れたなとつまらそうな顔をしている。

「とりあえず五匹を基準にしよう。五匹以下なら二年生が前に。五匹よりも多いなら僕たち三年生が前に。」

「一匹ならアイゼンにやらせてもいいかもね」

「今回サポートですよ」

「サポートとして教えられることもなさそうだものね」

「まあ先輩たちが危なくなったら俺も戦いますよ」

「ふふ、じゃあその時はお願いするわ」

 軽く冗談なんかを言ったりしてBチームの雰囲気は悪くない。
 次見つけたのは四匹の群れだったので二年生が中心となって戦った。

 拳王であるタケルともう一人の二年生が前に出てカエデは後ろから魔法で攻撃する。
 三年生が程よく距離を保ってフォローを入れられるようにしながら二年生が自由に動いてレオンコボルトはあっという間に倒された。

「特殊な能力や魔法はないみたいだな」

 タケルが拳についた血を拭う。
 一気に倒し切ることもしないでレオンコボルトの出方を窺いながら戦った結果、レオンが魔法を使ったり見た目から想像もできないような能力を使うことはないようだった。

 噛み付く、爪で切り裂くなどの基本的な攻撃しかしてこない。
 決して油断して受けていい攻撃ではないけれど、対処が難しい攻撃でもない。

 テルのようなベーシックなタンク役がいないのでみんなでそれぞれ注意を引きつけながら戦っていく感じになる。

「このままサクサク倒していこう」

 トモナリの魔石回収を待ってまたモンスターを探し始めた。

「今度は武器持ちか」

 次に見つけたレオンコボルトは槍を持っていた。
 粗末な槍ではあったが武器を持っているということで脅威レベルは少し上がった。

 数も六匹であったので今度はまた三年生が前に出る。

「効かないよ」

 またしてもセンターから攻めるフウカは黒い闇の拳でレオンコボルトを一匹押し潰した。
 しかし今回のレオンコボルトはフウカの能力に怯むことなく反撃してみせた。

 けれどレオンコボルトの槍はフウカを包み込む闇に阻まれてダメージを与えることができない。
「くらえ!」

 フウカの闇の鎧が槍の先端を包み込んで拘束する。
 さっさと武器でも手放せばいいのにレオンコボルトは無駄に槍を引き抜こうと試みる。

 ただ簡単に抜けるはずもなく、動きが止まったところにタケルが前に出た。
 レオンコボルトの一体に素早く拳を叩き込んで倒す。

 前に戦った時よりも動きが速くなっていて強くなっているなとタケルを見ながらトモナリは思った。

「流石の連携だな」

「ひーまーなーのーだー」

「今日は我慢だぞ」

 トモナリはちょっとでも勉強になればとみんなの戦いを眺めているけれど、暇を持て余したヒカリはトモナリの頭に顎を乗せて頭をグリグリ動かす。
 ちゃんと出しゃばらずに引いた動きをするということも時には大切だ。

 しっかりとサポートに徹するつもりのトモナリはヒカリの攻撃にもめげない。

『こら、トモナリを困らせるでない!』

「むむむむ……」

 ちょいちょいヒカリと同等の争いを繰り広げるルビウスであるが、割と年長者としてヒカリをビシッと指導してくれることもある。
 お姉さん、時にはお母さんのようにヒカリを諭してくれるのだからありがたい。

 ドラゴンの品格というものがルビウスの中にあるらしく、ヒカリにも品格を持つようにと言っている。
 本来は親がこうしたことを教えるらしく妾はまだ子供もいないのに……と文句も言っていたりする。

『妾も暇だが我慢しておるのだぞ!』

 ただルビウスの指導はちょっとズレているのではないかとトモナリは思う。
 別にそれでいいので黙っているけれども。

「トモナリ君、お願い」

「はーい!」

 戦いが終わったので今度はトモナリの出番である。
 ナイフを取り出してレオンコボルトの解体に取り掛かる。

「にしても……+がつくほどの感じは今の所ないな」

 水分補給をしながらタケルがレオンコボルトの事態に目を向ける。
 タケルは正直な感想ではレオンコボルトを弱いと感じている。

 難易度E+ならDに近い難易度になるはずと聞いて警戒していたが、これなら通常のEぐらいの難易度がせいぜいといったところであった。

「これならパパパッと片付けて帰れそうですね」

「タケル……そういうのは……」

『レオンコボルトが侵略者の存在に気づきました! 総力を上げて抵抗を見せます!
 300/300』

「フラグっていう……遅かったか」

 タケルの余裕そうな発言を受けてカエデがたしなめようとした瞬間トモナリを含めた全員の前に表示が現れた。

「はぁ……だから言ったのに」

「す、すいません、お嬢……」

 カエデがやれやれと首を振ってタケルは気まずそうに小さくなる。

「特殊なクエストが発生したのか」

 トモナリは表示を見ながら面倒なことになったと目を細める。

「引く時間は……なさそうだね」

 ゲートまで下がって撤退かAチームと合流したいところであったのだが、すでに地鳴りのようなレオンコボルトの足音が聞こえ始めている。
 全方向から足音は聞こえていて逃げ場がないことをフウカは察した。

「モンスターウェーブね」

 カエデは冷静に特殊クエストの内容を予想する。
 大量のモンスターが発生するモンスターウェーブというものが時に発生する。

 300という数字はモンスターの数なのである。

「トモナリ君、サポートはやめて戦闘準備」

 戦うしかないとフウカは判断した。

「分かりました!」

 トモナリは背負っていた大きなリュックを下ろしてルビウスを抜く。

「300か……結構多いな」

「300もいないだろうね」

「どういうことですか、お嬢?」

「お嬢って呼ぶな。ここにはもう一チーム攻略してる奴らがいるだろ。なら多分半分はそっちに行ってるはずだ」

「なるほど……なら150ってことですね」

 300匹のレオンコボルトが発生した。
 普通に考えると300匹を倒さねばならないが、今はAチームとBチームで分かれて攻略を行なっている。

 300匹全てがBチームに向かってくるとは考えにくい。
 となると半分ずつ分担することになるだろう。

 それでも150匹である。
 一人当たり20匹以上倒さねばならない。

 ここでトモナリをサポートとして温存して守っておく暇はない。

「きたぞ!」

「互いの背を守るようにしながら戦うんだ!」

 三年生の指示で丸くなるように布陣して走りくるレオンコボルトを迎え討つ。

「ワハハハハッー!」

 緊張感の走る戦いの中でヒカリはようやく出番だと嬉しそう。
 一人でレオンコボルトの群れの中に突っ込んでいったヒカリは暴れる。

 爪で切り裂き、ブレスを吐いてレオンコボルトを倒していく。

「ハハッ! あいつも強くなってるな! 今なら噛まれたらタダじゃ済まなそうだ!」

 意外と心強いヒカリの活躍にタケルがやる気を燃やす。

「スキル拳闘之体(ケントウシタイ)!」

 タケルがスキルを発動させる。
 魔力を消費して力と素早さを大きく向上させる効果を持つ。

「アイゼンはフクロウを守れ!」

「分かりました」

 魔法使いタイプであるカエデは接近戦を苦手とする。
 実力を発揮するためにはしっかり守ってやる必要がある。

 その役割をトモナリが任されることなった。
「それじゃあ先輩、俺が守るんで魔法をお願いしますよ」

「周りは任せたよ」

 やはり対多数における殲滅力が高い攻撃といえば魔法である。
 カエデは風の魔法を得意とする。

 本来風は目に見えないが魔法で発生した風は魔力の影響を受けてうっすらと緑色に見える。
 カエデの周りをエメラルドグリーンの風が渦巻く。

 周りの状況を確認して魔法を放つことができる場所を素早く把握する。

「ヒカリ、帰ってこい!」

「ダハハー! 分かったのだー!」

 トモナリはヒカリを呼び戻す。
 カエデが魔法を放つなら敵の中をビュンビュン飛び回るヒカリが邪魔になる。

「いい判断ね!」

 カエデが魔法を発動させる。
 レオンコボルトも気にしないようなつむじ風が巻き起こる。

 しかしつむじ風は瞬く間に大きさを増していき、レオンコボルトを巻き上げるサイクロンとなる。

「おおっ……!」

 迫るレオンコボルトを切り捨てながらトモナリはカエデの魔法に感心してしまう。
 広範囲の魔法はコントロールも難しい。

 カエデは魔法を発動させるだけでなくしっかりと魔法をコントロールしている。

「できるだけ早く終わらせてAチームと合流するぞ!」

 決してBチームと比較してAチームが劣るとは思わないが何があるか分からないのが戦いである。
 できるならレオンコボルトを倒して合流して安全を確保することも大切な考えだ。

 それぞれスキルを発動させて戦う。
 トモナリは発動させるようなスキルはないのでヒカリと連携を取りつつレオンコボルトを倒す。

「サードスキル……シャドーブレード」

 フウカが闇の斬撃を飛ばす。
 まとめてレオンコボルトが真っ二つになって一気に数が減る。

 最初こそ減っていないようにも感じられたレオンコボルトであったが、だんだん目に見えて数が減ってきた。

「この調子ならAチームの方とも合流できそうですね」

「あっ、バカ! そういうこと口に出すと……」

『レオンコボルトたちの王が出現しました!』

「ほらね……」

 トモナリは別にフラグを立てたつもりじゃなかったのだけど、どうにもこのゲートは声を聞いているように反応する。
 トモナリたちの前に表示が現れてカエデはため息をついた。

「なんかデカいの来たのだ!」

 空を飛んで状況を見ていたヒカリがトモナリのところに飛んできた。
 ヒカリの尻尾が指している方を見ると森の木々の間を何か大きなものが駆け抜けていた。

「来るなら来てみろ!」

 森の中から現れたのは巨大なレオンコボルトであった。
 表示からするとレオンコボルトの王、つまりはキングレオンコボルトだろう。

 キングレオンコボルトに一番近いのはタケルだった。
 タケルは拳を構えてキングレオンコボルトを待ち構える。

「オラっ!」

 キングレオンコボルトは武器を持たずタケルに向かって取りかかると爪を振り下ろした。
 タケルはサイドステップで爪をかわすと拳をキングレオンコボルトの腹に叩き込んだ。

 普通のレオンコボルトなら骨が砕けて内臓にも大きなダメージが入る一撃である。

「おっと!」

 けれどもキングレオンコボルトはなんともないように反撃を繰り出した。

「へっ、なかなかやるじゃないか!」

「ヤマザト、下がって」

「えっ、あ……はい」

 キングレオンコボルトのさらなる攻撃をフウカの闇の魔力が受け止めた。

「チェ……」

 自分でもやれるのになと思いながらも今は迅速さと安全に戦うことが求められるのはタケルも理解していた。

「流石E+だね」

 フウカの闇の魔力が作り出した二本の腕とキングレオンコボルトの腕とで押し合いになる。
 わずかに押されているのはキングレオンコボルトの方だ。

「でもごめんね。さっさと終わらせるから。セカンドスキル:闇の支配者」

 フウカがスキルを発動させる。
 闇の腕が一回り大きくなりキングレオンコボルトの方が明らかに押され始めた。

 キングレオンコボルトが牙を剥き出しにして抵抗しようとするけれど上から押さえつけられるような感じにまでなってしまった。

「えいっ」

 闇の腕がギュルンと回転した。
 魔法で作られた闇の腕にはなんともなくともキングレオンコボルトの腕はそんなに回転するものじゃない。

 骨が砕ける音がしてキングレオンコボルトの腕がねじれる。

「そしてえいっ」

 腕がねじ砕かれた痛みに叫ぶよりも早くフウカはキングレオンコボルトの腕を引きちぎった。

「バイバイ」

 フウカの闇の腕の一本がキングレオンコボルトの胴体を掴み、もう一本の腕が頭を掴んだ。
 ゴキンと音が音がしてキングレオンコボルトの首が逆方向を向いた。

 フウカの闇の腕によって首の骨が折られたキングレオンコボルトはゆっくりと倒れる。

「終わり」

「圧倒的だな……」

 E+級のボスモンスターならD級の下の方にも匹敵するボスだろう。
 にもかかわらずフウカは圧倒的な力で危なげなくキングレオンコボルトを倒してしまった。

 強いとは分かっていたけど想像よりも能力が高そうである。

「これで最後なのだー!」

 ヒカリが最後のレオンコボルトを切り裂いて倒す。

「モンスターの魔石を回収する時間はないからこのままAチームの方に向かうよ」

 幸い怪我人もなくすぐに動ける状態だった。
 表示を確認するとまだあと50匹ほどレオンコボルトが残っているのでAチームはまだ戦っていることが分かる。

ラスボスドラゴンを育てて世界を救います!〜世界の終わりに聞いたのは寂しがり屋の邪竜の声でした

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