「だーかーらー、俺じゃないですって! 本当に怪しい覚醒者がいたんです!」

 絶賛取り調べ中。
 トモナリは覚醒者協会に連れて行かれて取り調べを受けていた。

「本当に君が盗んだんじゃないんだな?」

「そう言ってるでしょ……」

 蔵に泥棒が入ったことに関して事情聴取されているのだが、どうにもトモナリは自分で盗んでいるのではないかと疑われているようだった。
 もちろん盗んでなんかいないのだけど相手がしつこく聞いてくるのでトモナリもだんだんとイライラしてきた。

「インベントリの中に刀があったな。あれはどうやって手に入れたものだ?」

「元々蔵にあったものですよ」

「やはり……」

「盗んだんじゃなくてもらったんです!」

 盗んでいないことを証明するためにインベントリの中身を全部出させられた。
 インベントリの中身は死なない限りは本人にしか分からないのだから隠そうと思えばいくらでも隠すことができる。

 しかし疑われるのも気分が悪いからトモナリはちゃんと全部出した。
 その中に朝にもらったばかりの神切があったものだから少し話がややこしくなっているのだ。

 何もしていないのに疑われるのはこんなにムカつくものなのかとトモナリはため息をつく。

「浦田(ウラタ)さん……」

 取調室に捜査官が入ってきてウラタと呼ばれた捜査官に耳打ちする。

「持ち主の確認と監視カメラの映像の解析が終わりましてアイゼンさんの証言の裏が取れました」

 テッサイに聞いておけば早いし、監視カメラが当たったなら先にそっちだろとトモナリは思う。
 敵でもないのにこんなに人を殴りたくなったのは初めてだった。

「取り調べは終わりです。もう行っても構いませんよ」

 謝罪も無しかよと言いかけるが我慢した。

「最初に言いましたけどあの刀誰も触れてないですよね?」

「ああ? ああ……そのはずだが……」

「ウラタさん!」

「なんだ?」

 また別の捜査官が慌てたように取調室の中に入ってきた。

「証拠の管理をしていた奴が急に刀を振り回し始めて……」

「なんだと?」

「ああ……だから言ったのに」

「心当たりがあるんですか?」

「だから刀に触れるなって言ったでしょう?」

 もはや苛立ちを隠さない口調でトモナリは答えた。

「他の覚醒者じゃ抑えられなくて……ウラタさんお願いします」

「分かった、向かおう!」

 ウラタが取調室を飛び出してトモナリは一人残された。

「トモナリ〜終わったか〜?」

 パタパタと翼を羽ばたかせてヒカリが取調室の中に飛んできた。

「……大丈夫なのだ?」

「あんまり大丈夫じゃない。すごくイライラしてる」

 犯人じゃないってのに疑いをかけられ、神切に触るなと言ったのに触れて問題を起こしている。
 これがイライラせずにいられるだろうか。

「はぁ……」

 どうにかイライラを飲み込んでため息をつく。

「いくぞヒカリ」

「どこいくのだ? 帰るのか?」

「インベントリのものも返してもらわにゃいけないしな。神切のこともある」

 トモナリは騒がしさが大きい方に向かっていく。

「非覚醒者の職員は退避しろ!」

「救急車を呼べ!」

 かなり大事になっている。
 ただ悪いのはトモナリのことを疑ってインベントリの中身を出させた挙句ちゃんと刀の管理をしなかった覚醒者協会の方だ。

「君、今そっちにいくのは……」

「こりゃひどい……」

 他の職員の制止を無視して角を曲がった先の光景はあまりいいものじゃなかった。
 神切を手に暴れる男が一人と覚醒者の職員が数人で取り押さえようとしている。

 周りには切られた怪我人が何人かいるが幸い死者はいなさそうだった。

「ぐっ……おい、目を覚ませ!」

 神切を持った職員は明らかに異常な目をしていて容赦なくウラタに切り掛かる。
 ウラタも剣で対抗するが神切を持った職員の力が強くて押されている。

「はぁ……」

 せっかく朝は気分よかったのになんでこんなことになるんだとため息しか出てこない。

「ヒカリ、ちょっと髪の毛チリチリになるぐらい仕方ないだろう」

「ふっふーん、任せておけぇ〜」

 ヒカリが神切を持った職員に飛んでいき、トモナリも後に続く。

「ぼーっ!」

 神切を持った職員の前に飛んでいったヒカリは口からブレスを吐く。
 真っ赤な炎が目の前に迫って神切を持った職員は思わず怯む。

「それ俺のなんだ、返してもらうぞ!」

 怯んだ神切を持った職員の顔面をトモナリが思い切り殴りつける。
 鼻の骨ぐらいは折れたかもしれない。

 だけどこれ以上被害を出すわけにもいかないと一撃で仕留めた。

「チッ……相変わらずうるさいな」

 足で腕を押さえつけて神切を取り上げる。
 手に持った瞬間に頭の中に神切の声が聞こえてくる。

 全く持って気分が良くない声に顔をしかめたトモナリは神切をインベントリに放り込む。

「……た、助かった……」

「お礼はいいんで俺のもの返してください」

 今度はルビウスがうるさく言いそうだとトモナリはため息をつく。
 なんだかんだと肌身離さず持っていないと小言を言う寂しがりやドラゴンがルビウスなのだ。

「あの盗人まじで覚えてろよ……」

 顔も名前も分からないけれどトモナリは盗人に対して良くない印象を抱いていたのであった。

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