「焼きそば、チョコバナナ、わたあめ、イカ焼き、たこ焼き……」

「食べもんばっかだな」

「お祭りなんて雰囲気の中で食べ物楽しむものでしょ?」

 早速目につく屋台によっては食べ物を買っていく。
 こういう時に覚醒者として便利なのはインベントリがあるところだ。

 持ちきれないような量を買ってもインベントリに入れて好きな時に取り出せる。
 目についたらとりあえず買ってみて後で取り出して食べてもいいのである。

「うおー、ふわふわだぞ! 溶けていくぞ!」

「服につかないように気をつけろよ」

 ヒカリはわたあめを食べて目をキラキラさせている。
 あまり他のものには見えられないふわふわとした食感に感動しているのだ。

「ちょこばなな欲しいのだ!」

「ん、ほらよ」

 トモナリはインベントリから買っておいたチョコバナナを取り出してヒカリに渡す。

「んまーなのだ!」

『妾の分も残しておくのだぞ!』

「分かってるよ」

 頭の中でルビウスの声が響く。
 人混みは嫌ということでルビウスは出ていないのだが外の様子は見ている。

 あれ食べたいこれ食べたいとトモナリに要求していて、後で食べるつもりだった。

「すいません! 少しお時間いいですか?」

「はい? 俺ですか?」

 焼きたてのたい焼きを買い込んでインベントリに入れていると二人組の男性がトモナリに声をかけてきた。
 知らない顔であったが武器を持っていることから覚醒者だということは分かる。

「ええ、その……連れている……」

「ああ、なるほど」

 お祭りも人が多く集まる場である。
 海水浴場と同じくお祭りでも覚醒者が至る所にいて守りを固めている。

 海水浴場みたいにゲートが出る例は稀なので主には犯罪を犯す覚醒者を取り締まっていた。
 ただお祭りを警護しているのはミネルアギルドではない。

「こいつは俺のスキルで契約したパートナーです」

 覚醒者たちはヒカリについて聞きにきたのだ。
 なんだかんだとヒカリのことはもうトモナリにとっての日常になっているが他の人にとってヒカリは得体の知れないものである。

 浴衣着てりんご飴を一口でポリポリ食べている様は可愛らしくて危険を感じないけれど遠巻きな視線は感じていた。
 ただ可愛らしくとも安全とは限らない。

 大丈夫なのかと通報があって確かめにきたのだろう。

「テイマー ライセンスです」

「テイマーライセンス……」

 世界にはモンスターを従える職業の人や知能を持ったモンスターと契約する人がいる。
 残念ながら日本にはそうした人がいないけれど、モンスターを従えることができる人を抱えた国では公的にモンスターも従えられた存在だと認めている。

 モンスターを従えることに反発する人もいるのでそうした人たちから覚醒者やモンスターを保護するためにテイマー制度を法的に設けているという国もあるのだ。
 そこで発行されているのがテイマーライセンスである。

 モンスターの写真や名前、契約している覚醒者の情報が書いてあって覚醒者協会がモンスターは安全だと保証してくれる公的身分証の一つだ。
 トモナリがドラゴンと契約していることが分かった覚醒者協会が外国を参考にして制度を作り上げてくれた。

「ちゃんと覚醒者協会から発行されたものですよ。調べてもらえば分かります」

「少し……調べさせてもらいます」

 見回りの覚醒者はスマホを取り出してテイマーライセンスについて調べ始めた。
 大々的に発表されたものではないが覚醒者協会のホームページに行けばしっかりと載っている。

「……確かにテイマーライセンスという制度がありますね。確認が取れました。管理されたモンスターということで問題はありません。ご協力ありがとうございます」

「いえ、お疲れ様です」

 無事確認も取れた。
 テイマーライセンスに記載があるモンスターについては普段から出していても問題はないということになっている。

 モンスターにストレスを与えないとか、モンスターと絆を深めておく必要があるとか色々理由はある。
 何にしてもこれまでと違って出しておく公的な理由ができたわけなのだ。

 ヒカリを気にする人はいても祭りの中では人が絶え間なく動いている。
 突っかかって来るような人もいないので快適にお祭りを楽しんでいた。

「あっ!」

「あっ?」

「もうこんな時間!」

 気づけば日も暮れてきていた。

「早めに移動しないと場所無くなっちゃうよ!」

 スマホで時間を確認したミズキが少し焦ったような顔をする。
 もう高校生なのだ、帰りの時間に厳しい制限などない。

 ミズキが焦っているのは花火の時間が迫っているからだった。
 このお祭りでは花火大会も開催されていて、今回花火も目的としてお祭りに来ていたのだ。

 花火が始める時間になってから良い場所を取ろうとしても難しい。
 花火が始まる前にどこか良い場所を取っておこうと話し合っていたのに気づけば花火が始まる時間が迫っていた。

「お母さんに聞いたところがあるから行ってみよ!」

 事前にお祭りで花火がよく見える場所をミズキはユキナから聞いていた。
 買い食いを切り上げてトモナリたちはミズキについて移動する。