「視野を広く持て! マーマンを近づかせるな!」

 戦いは人の視野を狭める。
 目の前の敵に集中することは悪くないけれど周りへの警戒が散漫になってしまう。

 今はただ目の前の敵を倒すだけでなくマーマンがさらわれた人たちに手を出すことも防がねばならない。

「ボォー!」

 さらわれた人に迫るマーマンにヒカリがブレスを放つ。
 マーマンが炎に包まれてギャアギャアと叫び声を上げる。

「皆さんもっと固まってください!」

 マーマンの囲みの外からはユウトとコウ、そしてルビウスが攻撃してくれている。
 ミズキとマコトとサーシャはうまく連携を取り合いながらさらわれた人たちを守ってマーマンを倒している。

 トモナリは状況を見ながら動き、時にはヒカリに指示を出して全体的にフォローを入れていた。
 少々キツイ戦いであるがみんなの動きが優秀なので大きな問題もなくマーマンの数は減っていっている。

 このままいけばマーマンを倒せるかもしれない。
 そう思った時だった。

「な、なんなのだ!?」

 マーマンの死体から急に黒い煙が上がり始めた。
 ヒカリが慌ててマーマンの死体から離れてトモナリの後ろに隠れる。

「チッ……」

 やはりそう易々とはいかない。
 振り返るトモナリの視線の先には杖を高く掲げたマーマンシャーマンがいた。

「あいつ仲間の命使うつもりか!」

 黒い煙がマーマンシャーマンに集まっていく。
 杖の先に集まって塊のようになった黒い煙が破裂して洞窟の中にヌルくて気持ち悪い風が駆け抜ける。

「なに……急に体が重く……」

『呪術を受けました。ステータスが一時的に減少します』

 体が重たくなったように感じてミズキは顔をしかめた。
 目の前に表示が現れてそれが呪術によるものだと教えてくれる。

「ミズキ、後ろだ!」

「ん……ありがと!」

 ミズキの後ろにマーマンが迫りトモナリはとっさに火の槍を生み出して放った。
 乱雑な狙いではあったがマーマンの肩に火の槍が突き刺さって怯み、ミズキは振り返ってマーマンの首を切り落とした。

「呪術によるデバフだ! ステータスが下がってるから気をつけるんだ!」

 攻撃や仲間の能力を上げるバフも呪術にはあるけれど、やはり呪術の大きな特徴は広範囲に及ぶ強力なデバフである。
 行動を阻害したり相手の能力を下げたりと戦闘において厄介な状態異常を引き起こすのだ。

 マーマンシャーマンは倒された仲間の命を使って呪術を発動させた。
 みんなのステータスが下げられてしまい、そのためにミズキは体の重さを感じたのだった。

「……なんともないな」

 ステータスが下がれば相対的にマーマンは強くなったのと同じである。
 数はだいぶ減ったがまだ囲むだけのマーマンは残っていて体の変化に戸惑いながらなんとか戦っている。

 そんな中でトモナリは自身の体に変化を感じなかった。
 トモナリだって呪術を受けているはずなのにステータスが下がった感じもなければ下がったという表示もない。

「それは当然だ」

「えっ、ルビウス?」

 ルビウスの声が頭の中に響いてきた。
 思わず周りを確認したがルビウスはユウトとコウのところにいる。

「お主はドラゴンと繋がってドラゴンの力を受けておる。偉大なるドラゴンが安い呪術なんぞに影響されるわけなかろう」

「つまりはヒカリやルビウスのおかげでなんともないということか?」

「その通り」

 トモナリのスキルである魂の契約には契約したヒカリやルビウスとの相互作用がある。
 相互作用がなんなのかフワッとしていて難しいところであるけれどドラゴンの能力の一部がトモナリにも宿っているようだった。

 マーマンのシャーマン如きが操る呪術はそんなに強力ではない。
 ドラゴンにそんな呪術の力は通じないのである。

 もっと強力ならともかくマーマンシャーマンの力も、力を使うために使われた命もドラゴンの力を突破するには弱かった。

「俺はまたシャーマンを狙う! みんなここは頼んだぞ!」

 このままマーマンの死体が増えればまたマーマンシャーマンが何かする可能性が出てくる。
 今はまだみんなも動けているけれどこれ以上デバフをかけられると戦うのも辛くなってしまう。

 先にマーマンシャーマンを倒さねばならない。
 トモナリが抜けると少しキツくなるかもしれないがみんなの戦いの感じを見ているときっと持ち堪えてくれると確信できた。

 トモナリはヒカリを引き連れてマーマンシャーマンの方に向かう。
 マーマンシャーマンの周りを固めていたマーマンが立ちはだかるようにトモナリの前に出てくる。

「どけ!」

 マーマンシャーマンを守るマーマンは他のマーマンよりも少しだけ能力が高そうな気配がある。
 しかしトモナリの前ではそんな差など些細な違いでしかない。

 トモナリの剣とヒカリの爪がマーマンを切り裂く。
 呪術の影響を受けているだろうと舐めていたのかマーマンの方が勢いよく突っ込んでくるトモナリに驚いた様子があった。

 次々とトモナリの前にマーマンが立ちはだかるけれどヒカリと共に切り倒してズンズンと進んでいく。

「無駄だ!」

 トモナリが飛びかかってきたマーマンの胴体を一刀両断にしてマーマンシャーマンの顔に焦りが浮かぶ。