「中で何かしてるのかもしれないな」

 ブレイクを起こしてマーマンが大量に外に出たから中に数が少ないのは理解できるが、あまりにも姿が見えない。
 何体がいれば先ほどマーマンと戦っていないミズキたちにもマーマンと戦う経験を少しさせておきたかったなんて考えも少しだけあった。

 なのに全くいないのでスルスルと入江まで来ることができてしまったのである。

「ルビウスを様子を見てきてくれるか?」

「任せよ」

 本来ならこうしたことはマコトが得意とする分野である。
 しかしまだまだマコトも経験不足だ。

 見つかってさらわれた人たちを危険に晒すようなことはできないので小さくて見つかりにくく、天井にも張り付いて行動できるルビウスにお願いすることにした。
 小さな翼を羽ばたかせルビウスは洞窟に向かって飛んでいく。

 岩を掴んで洞窟の上の方に張り付くと中を確認する。

『今のところ何も見えない』

 頭の中でルビウスの報告の声が響く。
 そのままルビウスが洞窟の中に入っていき、トモナリたちは周りを警戒しながらルビウスの偵察を待つ。

「見つかっちゃったら……大丈夫なのかな?」

「ちっちゃくてもドラゴンなんだろ? なら大丈夫だろう」

 さらわれた人も心配だが見つかったらルビウスも倒されるのではないかとミズキとユウトは心配している。

「ルビウスはいざとなったら召喚の解除ができるから大丈夫だよ」

 ルビウスはトモナリに召喚されて具現化している。
 何かの問題が起きてどうしようなくなればルビウスの召喚の解除を行えばどこにいてもルビウスは家の中に戻ってくる。

 仮に戦いになってもルビウスは弱くない。
 ヒカリも最近戦えるようになってきたがルビウスには経験があるのかヒカリよりも上手く戦うことができる。

 ヒカリと違ってブレスなんかの発動にはトモナリの魔力がいるという制限はあるけれど、マーマンぐらいならルビウスが危なくなることもないだろうと思っている。
 程なくして洞窟からルビウスが出てきた。

「奥の方に空間があってそこにさらわれた人間は置かれておる。周りには魚どもが囲っておる」

 繋がっているルビウスから報告を受けていたので知っているがみんなは分かっていないのでルビウスが軽く口頭で報告してくれる。
 洞窟の作りはかなりシンプルで少し進んだ先にが広い空間になっている。

 そこにさらわれた人と残りのマーマンがいるようだった。

「……戦闘は避けられなさそうだな」

 正直なところ何もなくさらわれた人を助け出して逃げることができるとは思っていなかった。
 マーマンがさらわれた人を囲んでいるのならバレずに助け出すのは不可能だ。

 助け出すためには大なり小なり戦う必要がある。

「数は十数体。洞窟の入り口付近には何もいない。外を警戒しているマーマンもいないようだ」

 他にもルビウスから聞いた情報をみんなと共有する。

「ダンジョンボスはおそらくマーマンシャーマンだ」
 
「マーマンシャーマン?」

「ああ、ルビウスが見たマーマンの中には杖を持った個体がいたそうだ。人をさらうことも含めて考えるとマーマンシャーマンだろうな」

 今の世界には魔法というものがある。
 それとはまた別に呪術というものも存在している。

 魔法もいまだによく分かっていないものであるが呪術というものはより理解が難しいものである。
 理由は様々ある。

 呪術を使う職業の人が少ないことを始めとして魔法に比べると地味で効果も直接相手にダメージを与えるようなものでもないことなどの理由があるのだ。
 魔法はモンスターも使うことがあり、同様に呪術もモンスターが使うことがある。

 どんな原因で生まれてくるのか世界が滅びる寸前でも改名はされていなかったが、シャーマンと呼ばれる存在が呪術を行使していた。

「シャーマンは生命を代償にするんだ」

 呪術にも様々あるのだがモンスターが操る呪術の特徴は命を利用することにある。
 自らの生命力だけでなく他者の命をも使う。

 時には仲間の命すら使ってシャーマンは呪術を発動させるのである。
 人をさらうなんてことをしないはずのマーマンが人をさらった。

 そして杖を持った個体がいるということは人の命を使って呪術を発動させるシャーマンがいるのだろうとトモナリは推測した。
 ついでにそんな存在がいて、マーマンの上位存在がルビウスには見つからなかったようなのでシャーマンがマーマンの中でのボスの可能性が高い。

「だから人をさらったのか……」

「早く助けないとまずいな。呪術の代償にされてしまうかもしれない」

「げっ、そんなことに命使われんの嫌だな」

 なんで人をさらったのかということは分かった。
 ただ呪術のためにさらわれたのならあまり時間は残されていない。

 呪術を使われる前に助けなければさらわれた人の命はないのである。

「さらわれた人の安全もそうだし呪術を使われると面倒だ。急ごう」

 トモナリたちはサッと洞窟に近づく。
 静かにして耳を傾けてみると洞窟の中からマーマンのギャアギャアとした声が聞こえてくる。

 トモナリが洞窟の中を覗き込んでみるけれど入り口からでは中の様子がわからない。