どんなに悩んでも、落ち込んでも、時は平等に過ぎ去っていくもので。あっ、という間に文化祭当日がやって来た。
俺はといえば、それはもう……見事な寝不足だ。
寝不足の原因は、もちろん二宮くんである。
別に「二宮くんのせいで」なんてことを言うわけではないが、気を抜くと……どうにも彼のことを考えてしまう。これまでも彼のことを考える時間は多かったが、この十日間はもう、本当に、毎分毎秒といってもいいくらい頭にふわふわと浮かんで仕方なかった。
あの日、俺が恋を自覚した日から、二宮くんとは一度も顔を合わせていない。連絡自体は取っているのだが、通話もしていないし、現実では一度も顔を合わせていない。
それはもう、俺が彼を避けていることが原因だ。
『一緒に帰らない?』
『今日通話しようよ』
『昼休みにでも、ちょっと顔見たい』
そう言ってくれる二宮くんに、俺は……。
『ごめん。今日はもう帰っちゃって』
『ごめん。昨日寝てて、通話のお誘い気付かなかった』
『ごめん。昼休みは文化祭の準備があって』
なんて、ごめん、を免罪符にすべて断りの連絡を入れている。
ついでのようにホーム画面やメッセージアプリのアイコンまで、虹の写真から淡い水色の単色のそれに変えてしまった。その虹を見ていると、どうしても二宮くんの笑顔が頭に浮かんでしまうからだ。そのことについて二宮くんからは特に何も言われなかったので、もしかしたら気にもかけていないかもしれないが……。
『忙しいんだな。文化祭当日の約束はちゃんと覚えてる? 一緒に回れそう?』
そんなメッセージが飛んできた時は、さすがに少しドキッとした。夕暮れの中、二宮くんとゆびきりげんまんをしたのは、ほんの数週間前のこと。忘れるわけないし、忘れられるはずがない。
だというのに俺は「うん、大丈夫」と短いメッセージを返しただけだった。こんなの誠実じゃないとわかっているのだが、気持ちが露呈してしまう恐れがどうしても拭えない。
俺は「そういう意味」で人を好きになったことがない。だから、それを自覚したまま二宮くんに会って……自分が何を言ったり、どんな行動をするかわからない。もしかしたら顔を合わせた途端、俺の挙動不審で「好き」がバレてしまうかもしれない。
(そんなの、困る。困る……)
そうやって二宮くんとの接触を極力避けて、そのくせ二宮くんのことを考えて寝不足になって。いつだって早寝早起きの快眠体質だったのに、最近は日付が変わるくらいの時間まで寝付けないこともある。
おかげで、昼間は眠くて仕方ない。
*
「ふぁ……んぐ」
湧き上がって来たあくびをどうにか噛み殺す。眠気を押しやるために、むに、と頬を引っ張ると「ヌカち」と背中を叩かれた。
「おはよーう! いよいよ文化祭当日だな〜……って、なにしてんの?」
背を叩いてきたのは、山本くんだった。頬の肉を引っ張る俺を見て不思議そうな顔をしたが、俺は「や、なんでも」と誤魔化すように笑った。そして、改めて山本くんに顔を向ける。……と、彼が何やらいつもと雰囲気が違うことに気が付いた。
「山本くん、なんか、いつもと違う?」
何がどうとはっきり言えないのだが、なんだか……いつもの山本くんと違うような気がする。頬に手を当てたまま「んん?」と首を傾げると、山本くんは「おいおいおい」と腰に手を当て背を反らした。
「髪型、いつもと全然違うだろ」
すぐ気付いてくれよなぁ、と顎を上向ける山本くんの髪型は、なるほどいつもと違う。いつもの短髪が、今日はシャキッと立っているし、前髪は斜めに流されている。
「ほんとだ、すごいね。とってもおしゃれだ」
もちろん俺に今時のヘアファッションなんてわからないが、山本くんのそれはおしゃれに見えた。そもそも、時間をかけて自分の髪型を整えるのがすごい。
すごいね、すごい。どうやったの。と素直に気持ちを伝えると、山本くんは「あ、いや、その」と持ち上げていた顎をおろして頭の後ろに手をやった。
「あ、ありがとう。もういいよ、十分。ヌカちに褒められると……ちょっとむずむずするから、その辺で」
「? うん」
止められてしまったので、俺は素直に黙る。しかしじろじろと眺め回すのをやめられない。
髪型が変わると本当に印象が変わるものなのだな、と感心してしまう。
「もう、ね? ちょっと、うん、十分十分。それ以上はやめよう」
山本くんの手で視界を遮られて、俺は「あ、ごめん」と謝った。
「文化祭だから、髪型変えたの?」
「そうそう。ほら、結構そういうやつ多いよ。女子も気合い入ってるし」
言われて、ほぼ模擬店仕様になった教室の中を見渡す。
机や手作りの板で区切られた奥に設置された簡易的な調理場、セルフでかけられるケチャップとマスタードの設置された机、小さなイートインスペースと、ホットドッグの看板があるフォトスポットまで。本当に、小さなお店のようだ。その中のスペースを使って、みんな思い思いに準備に励んでいる。
言われてみれば、たしかにみんないつもと雰囲気が違う。特に女子は顕著だ。いつもはストレートの髪をふわふわに巻いたり、それを結んだり、上げたり、パステルカラーのリボンを編み込んでいる子もいる。
俺たちの店のコンセプトは「アメリカ西海岸のダイナー」らしい。ということで、女子はストライプ柄のツーピースを着たウェイトレス姿、男子は同じ柄のパンツに上は白いポロシャツを着ている。俺は西海岸のダイナーなんてもちろん行ったことはないが、明るい色調がみんなのめかしこんだ髪型と相まって、なんだか陽気な雰囲気で……見ていて楽しい。
「みんな素敵だね」
みんながわいわいと盛り上がっている様子を見ていると、なんだか寝不足も吹っ飛ぶ。きらきらと輝くその光に当てられて、自分も輝かねばという気持ちになれる。
そうだ、そう。今日はせっかくの文化祭なのだ。
「山本くん、俺、頑張る」
むん、と拳を握ると、山本くんは「おう? がんばれ」と不思議そうな顔をしながらも同じく拳を握ってくれた。
んじゃ、俺も制服に着替えてくるな、と、別に用意された更衣室に移動した山本くんを見送ってから、俺は「さて」と腕まくりする。
この十日間、やっぱり俺はあまり役に立てていないというか……まぁ、ほぼほぼゴミ拾いやゴミ捨て担当だったが、今日は違う。
(役割があるって言ってたし)
源さんたちが、「ヌカちに任せたいことがある」と言っていたのだ。直々に任せたいだなんて、きっと大役に違いない。
(調理にはそれなりに自信があるし、接客だって頑張る)
それに、あんな風に明るい……みんなとお揃いの制服を着られたら、俺も元気を取り戻せそうな気がする。
楽しそうに準備を進める面々を眺めながら役目を与えられるのを今か今かと待っていた……ら、教室の入り口にやって来た数名の女子に「ヌカち!」と呼ばれた。
そこには白石さんやその友達、そして源さんが鈴なりになって並んでいた。みんな揃ってウェイトレスの格好をしていて、大層華やかで愛らしい。
「準備するから、こっちこっち」
楽しそうに笑う彼女たちに手招きされて、俺は「うん」とつられるように笑ってそちらに向かった。
*
「……はい、できたぁ!」
ふう、と白石さんが額の汗を拭う。かなり集中して作業していたらしく、「つっ、かれたぁ」と大きく息を吐いている。
「ヌカち、ヤバいよ、ヤバ……」
「三百六十度どこから見ても美少年。全方位美少年。なんていうかもう……光ってるわ」
そう言われて、はい、と鏡を手渡される。
目の前にかざした鏡の中には、見慣れた自分……より妙に髪がふわふわした自分がいた。さっき白石さんが「アイロン」を使って整えてくれたからだろう。なんというか、くるんくるんだ。
しかも顔もちょっと白い。白いし、まつ毛は長いし、唇は艶々している。これまた今俺の周りを囲んでいる女子生徒が「メイク」をしてくれたおかげだ。
模擬店である教室から連れ出された俺は、何故か女子用の更衣室(に使われている空き教室)に連れてこられた。そしてここに座って、と用意された椅子に腰掛け、美容室で使うようなケープをかけられて、そして髪やら顔やらをいじられることになった。
「西海岸のイメージだからジム・モリソンで行こうかと思ったんだけど、ヌカち様はやっぱりビョルン・アンドレセン系統だよねっていうか色々考えた結果こうなりました」
源さんが早口でそう言って「イメージ通りだわ」とどこか恍惚とした表情を浮かべて俺を見た。さりげなく「様」と呼ばれたが、そのことに「あの、様じゃないよ」と口を挟めるような隙もない。
どうやら俺のこのヘアアレンジや化粧は、源さんがそのイメージを考え、白石さんたちがそれを元に施すという流れになっていたらしい。
「最初写真見せられた時はどうなるかと思ったけどさぁ。さすがヌカち、どうにかなるもんね」
「そう、なのかな?」
俺の力でどうこうできたとは到底思えない。俺はゆるゆると首を振った。
「どうにかなったのは、源さんがしっかり考えて、白石さんたちみんながそれを実行してくれたからだと思う」
俺の準備を手伝ってくれた面々を順番に見やりながら「だから、ありがとう」と言うと、彼女たちは「う」と何故か胸元を押さえた。
「そ、その顔で言われると破壊力マシマシだわ」
「心臓撃ち抜かれたかと思った」
「いつにも増してヌカち力がヤバい」
各々苦しそうにうめきながら「危ない危ない」と汗を拭っている。
何が危ないのかはよくわからないが、とにかく感謝の気持ちは伝わったらしい。俺は、ほ、と息を吐いてから鏡を閉じて源さんたちを見やった。
「それで、俺は今から何をすればいい?」
調理か、接客か、とわくわくしながら拳を握りしめる。と、彼女たちは揃いも揃ってにっこりと笑顔を浮かべた。
「あの、ヌカちさ……くんには、是非、こちらをお願いしたくて」
「こちら?」
はて、と見守っていると、源さんが更衣室の端に置かれた「何か」を手に取った。
「これで」
「……これ?」
じゃんっ、と差し出されたそれを見て、俺は首を傾げた。
俺はといえば、それはもう……見事な寝不足だ。
寝不足の原因は、もちろん二宮くんである。
別に「二宮くんのせいで」なんてことを言うわけではないが、気を抜くと……どうにも彼のことを考えてしまう。これまでも彼のことを考える時間は多かったが、この十日間はもう、本当に、毎分毎秒といってもいいくらい頭にふわふわと浮かんで仕方なかった。
あの日、俺が恋を自覚した日から、二宮くんとは一度も顔を合わせていない。連絡自体は取っているのだが、通話もしていないし、現実では一度も顔を合わせていない。
それはもう、俺が彼を避けていることが原因だ。
『一緒に帰らない?』
『今日通話しようよ』
『昼休みにでも、ちょっと顔見たい』
そう言ってくれる二宮くんに、俺は……。
『ごめん。今日はもう帰っちゃって』
『ごめん。昨日寝てて、通話のお誘い気付かなかった』
『ごめん。昼休みは文化祭の準備があって』
なんて、ごめん、を免罪符にすべて断りの連絡を入れている。
ついでのようにホーム画面やメッセージアプリのアイコンまで、虹の写真から淡い水色の単色のそれに変えてしまった。その虹を見ていると、どうしても二宮くんの笑顔が頭に浮かんでしまうからだ。そのことについて二宮くんからは特に何も言われなかったので、もしかしたら気にもかけていないかもしれないが……。
『忙しいんだな。文化祭当日の約束はちゃんと覚えてる? 一緒に回れそう?』
そんなメッセージが飛んできた時は、さすがに少しドキッとした。夕暮れの中、二宮くんとゆびきりげんまんをしたのは、ほんの数週間前のこと。忘れるわけないし、忘れられるはずがない。
だというのに俺は「うん、大丈夫」と短いメッセージを返しただけだった。こんなの誠実じゃないとわかっているのだが、気持ちが露呈してしまう恐れがどうしても拭えない。
俺は「そういう意味」で人を好きになったことがない。だから、それを自覚したまま二宮くんに会って……自分が何を言ったり、どんな行動をするかわからない。もしかしたら顔を合わせた途端、俺の挙動不審で「好き」がバレてしまうかもしれない。
(そんなの、困る。困る……)
そうやって二宮くんとの接触を極力避けて、そのくせ二宮くんのことを考えて寝不足になって。いつだって早寝早起きの快眠体質だったのに、最近は日付が変わるくらいの時間まで寝付けないこともある。
おかげで、昼間は眠くて仕方ない。
*
「ふぁ……んぐ」
湧き上がって来たあくびをどうにか噛み殺す。眠気を押しやるために、むに、と頬を引っ張ると「ヌカち」と背中を叩かれた。
「おはよーう! いよいよ文化祭当日だな〜……って、なにしてんの?」
背を叩いてきたのは、山本くんだった。頬の肉を引っ張る俺を見て不思議そうな顔をしたが、俺は「や、なんでも」と誤魔化すように笑った。そして、改めて山本くんに顔を向ける。……と、彼が何やらいつもと雰囲気が違うことに気が付いた。
「山本くん、なんか、いつもと違う?」
何がどうとはっきり言えないのだが、なんだか……いつもの山本くんと違うような気がする。頬に手を当てたまま「んん?」と首を傾げると、山本くんは「おいおいおい」と腰に手を当て背を反らした。
「髪型、いつもと全然違うだろ」
すぐ気付いてくれよなぁ、と顎を上向ける山本くんの髪型は、なるほどいつもと違う。いつもの短髪が、今日はシャキッと立っているし、前髪は斜めに流されている。
「ほんとだ、すごいね。とってもおしゃれだ」
もちろん俺に今時のヘアファッションなんてわからないが、山本くんのそれはおしゃれに見えた。そもそも、時間をかけて自分の髪型を整えるのがすごい。
すごいね、すごい。どうやったの。と素直に気持ちを伝えると、山本くんは「あ、いや、その」と持ち上げていた顎をおろして頭の後ろに手をやった。
「あ、ありがとう。もういいよ、十分。ヌカちに褒められると……ちょっとむずむずするから、その辺で」
「? うん」
止められてしまったので、俺は素直に黙る。しかしじろじろと眺め回すのをやめられない。
髪型が変わると本当に印象が変わるものなのだな、と感心してしまう。
「もう、ね? ちょっと、うん、十分十分。それ以上はやめよう」
山本くんの手で視界を遮られて、俺は「あ、ごめん」と謝った。
「文化祭だから、髪型変えたの?」
「そうそう。ほら、結構そういうやつ多いよ。女子も気合い入ってるし」
言われて、ほぼ模擬店仕様になった教室の中を見渡す。
机や手作りの板で区切られた奥に設置された簡易的な調理場、セルフでかけられるケチャップとマスタードの設置された机、小さなイートインスペースと、ホットドッグの看板があるフォトスポットまで。本当に、小さなお店のようだ。その中のスペースを使って、みんな思い思いに準備に励んでいる。
言われてみれば、たしかにみんないつもと雰囲気が違う。特に女子は顕著だ。いつもはストレートの髪をふわふわに巻いたり、それを結んだり、上げたり、パステルカラーのリボンを編み込んでいる子もいる。
俺たちの店のコンセプトは「アメリカ西海岸のダイナー」らしい。ということで、女子はストライプ柄のツーピースを着たウェイトレス姿、男子は同じ柄のパンツに上は白いポロシャツを着ている。俺は西海岸のダイナーなんてもちろん行ったことはないが、明るい色調がみんなのめかしこんだ髪型と相まって、なんだか陽気な雰囲気で……見ていて楽しい。
「みんな素敵だね」
みんながわいわいと盛り上がっている様子を見ていると、なんだか寝不足も吹っ飛ぶ。きらきらと輝くその光に当てられて、自分も輝かねばという気持ちになれる。
そうだ、そう。今日はせっかくの文化祭なのだ。
「山本くん、俺、頑張る」
むん、と拳を握ると、山本くんは「おう? がんばれ」と不思議そうな顔をしながらも同じく拳を握ってくれた。
んじゃ、俺も制服に着替えてくるな、と、別に用意された更衣室に移動した山本くんを見送ってから、俺は「さて」と腕まくりする。
この十日間、やっぱり俺はあまり役に立てていないというか……まぁ、ほぼほぼゴミ拾いやゴミ捨て担当だったが、今日は違う。
(役割があるって言ってたし)
源さんたちが、「ヌカちに任せたいことがある」と言っていたのだ。直々に任せたいだなんて、きっと大役に違いない。
(調理にはそれなりに自信があるし、接客だって頑張る)
それに、あんな風に明るい……みんなとお揃いの制服を着られたら、俺も元気を取り戻せそうな気がする。
楽しそうに準備を進める面々を眺めながら役目を与えられるのを今か今かと待っていた……ら、教室の入り口にやって来た数名の女子に「ヌカち!」と呼ばれた。
そこには白石さんやその友達、そして源さんが鈴なりになって並んでいた。みんな揃ってウェイトレスの格好をしていて、大層華やかで愛らしい。
「準備するから、こっちこっち」
楽しそうに笑う彼女たちに手招きされて、俺は「うん」とつられるように笑ってそちらに向かった。
*
「……はい、できたぁ!」
ふう、と白石さんが額の汗を拭う。かなり集中して作業していたらしく、「つっ、かれたぁ」と大きく息を吐いている。
「ヌカち、ヤバいよ、ヤバ……」
「三百六十度どこから見ても美少年。全方位美少年。なんていうかもう……光ってるわ」
そう言われて、はい、と鏡を手渡される。
目の前にかざした鏡の中には、見慣れた自分……より妙に髪がふわふわした自分がいた。さっき白石さんが「アイロン」を使って整えてくれたからだろう。なんというか、くるんくるんだ。
しかも顔もちょっと白い。白いし、まつ毛は長いし、唇は艶々している。これまた今俺の周りを囲んでいる女子生徒が「メイク」をしてくれたおかげだ。
模擬店である教室から連れ出された俺は、何故か女子用の更衣室(に使われている空き教室)に連れてこられた。そしてここに座って、と用意された椅子に腰掛け、美容室で使うようなケープをかけられて、そして髪やら顔やらをいじられることになった。
「西海岸のイメージだからジム・モリソンで行こうかと思ったんだけど、ヌカち様はやっぱりビョルン・アンドレセン系統だよねっていうか色々考えた結果こうなりました」
源さんが早口でそう言って「イメージ通りだわ」とどこか恍惚とした表情を浮かべて俺を見た。さりげなく「様」と呼ばれたが、そのことに「あの、様じゃないよ」と口を挟めるような隙もない。
どうやら俺のこのヘアアレンジや化粧は、源さんがそのイメージを考え、白石さんたちがそれを元に施すという流れになっていたらしい。
「最初写真見せられた時はどうなるかと思ったけどさぁ。さすがヌカち、どうにかなるもんね」
「そう、なのかな?」
俺の力でどうこうできたとは到底思えない。俺はゆるゆると首を振った。
「どうにかなったのは、源さんがしっかり考えて、白石さんたちみんながそれを実行してくれたからだと思う」
俺の準備を手伝ってくれた面々を順番に見やりながら「だから、ありがとう」と言うと、彼女たちは「う」と何故か胸元を押さえた。
「そ、その顔で言われると破壊力マシマシだわ」
「心臓撃ち抜かれたかと思った」
「いつにも増してヌカち力がヤバい」
各々苦しそうにうめきながら「危ない危ない」と汗を拭っている。
何が危ないのかはよくわからないが、とにかく感謝の気持ちは伝わったらしい。俺は、ほ、と息を吐いてから鏡を閉じて源さんたちを見やった。
「それで、俺は今から何をすればいい?」
調理か、接客か、とわくわくしながら拳を握りしめる。と、彼女たちは揃いも揃ってにっこりと笑顔を浮かべた。
「あの、ヌカちさ……くんには、是非、こちらをお願いしたくて」
「こちら?」
はて、と見守っていると、源さんが更衣室の端に置かれた「何か」を手に取った。
「これで」
「……これ?」
じゃんっ、と差し出されたそれを見て、俺は首を傾げた。
