月明かりの届かない真夜中の校舎。非常口のぼんやりとした灯りが廊下を照らす中を私たちは、手にした懐中電灯の微かな光を頼りに進んでいく。
「ねぇ祐介、もう帰ろうよ......」
私は祐介の手をぎゅっと握り、不安げに呟いた。静まり返った廊下に足音が響くたび、私の心臓がドキッと跳ねる。
「まだダメだよ。 噂の幽霊の正体を突き止めないと」
祐介はそう言って私の手を引っ張った。普段運動しない私は、息を切らしながら彼について行くのがやっとだ。
『真夜中の学校に子供の幽霊が出る』
それが昨日の朝、友達から聞いた噂だった。
「警備員のおじちゃんが巡回中に見たんだって。真夜中の廊下を、小学生くらいの男の子が歩いてたらしいよ」
私はその友達の言葉を冗談半分で聞き流していたのに、私の隣で話を聞いてた祐介が目を輝かせながら、「その幽霊が本当にいるか、俺たちで確認してこよう」って言い出したことがきっかけで私たちは今、こうして真夜中の校舎を歩いている。
「学校に忍び込んでるのがバレたら先生達に怒られるよ」
「あと一時間は巡回が無いのは調査済み。 バレようがないよ」
「幽霊が私たちに危害を加えてくるかもよ」
「存在しないのにどうやって危害を加えてくるのさ」
「ねぇ、やっぱり帰らない?」
「帰らない」
私の必死の説得も虚しく、祐介は足を止めようとせずにどんどんと先へ進んでいく。私は不安で泣きたくなってきた。
「ねぇってば……」
私が泣き出しそうになったその時だった。
カタッ
どこからか小さな物音が聞こえた気がした。私はピクリと肩を震わせる。
「……!」
私たちは顔を見合わせ、耳を澄ます。すると再び同じ音が聞こえてくる。誰かが廊下を歩くような音だ。
「え......今、何か聞こえたよね......?」
「うん......確かに聞こえた」
祐介も立ち止まり周囲を見渡すが、懐中電灯の光が届く範囲には何もない。
私たちは再び音に耳を傾ける。
カタッ カタッ
今度はさっきよりも鮮明に聞こえる。私たちからそう遠くない場所からだ。
「ねぇ、もしかして......」
「うん......幽霊かもね。 見に行ってみよう」
私たちはゴクリと唾を飲み込んだ。
正直もう帰りたい。だけど恐怖よりも、幽霊の正体が気になる自分もいる。
私の中で恐怖心と好奇心が混ざり合いながら、祐介に手を引かれるままに音のする方へと進むことにした。 一歩一歩進むたびに心臓の鼓動がどんどん早くなるのを感じる。
慎重に廊下の先を照らしていくと、非常口の薄暗い灯りの中に、ぽつんと小さな影が浮かんでいるのが見えた。
それは高校生の私たちよりもずっと背の低い、噂通りの小学生くらいの男の子で、何かを探すようにそわそわと辺りを見回しながら歩いている。
本当に幽霊がいた。 あまりのことに私たちは、悲鳴をあげる余裕も無くなっていた。
懐中電灯の光で私たちの存在に気がついたのか、その男の子は私たちを見ると目を輝かせながら、まるで待ちわびていたかのような声をあげた。
「探したよ。お父さん! お母さん!」
「......は?」「......え?」
私たちの声が被る。男の子の言葉を理解出来なかった。お父さん? お母さん? この子は何を言っているの?
助けを求めようとチラッと祐介の方を見るも、彼も驚きと混乱が混ざった表情を浮かべて固まっている。
「あのね、どうしても二人に叶えてほしいことがあって会いに来ちゃった」
私たちが混乱で固まっているのに気づいてないのか、男の子はそう言いながら嬉しそうに笑う。
「えっと......、君は誰?」
祐介が言葉を絞り出すように、掠れた声で男の子に質問する。
「僕は圭太。未来から来た二人の子供だよ」
「え、未来から......?」
「うん」
圭太と名乗る男の子は、祐介の言葉に笑顔で頷く。
「でも、未来って......」
祐介は混乱で頭が回っていないようだ。 私もそう。 いきなり未来から来たなんて言われても、すぐには受け入れない。
「でも事実だよ。僕は未来の二人から生まれてきたんだ」
圭太はそう言いながら、私たちに近づいてくる。
「それでさ、さっき僕が言った『二人に叶えてほしいこと』の話なんだけど、聞いてくれる?」
「う、うん」
私たちは混乱しながらも頷く。
「実はね、僕と一緒に行ってほしい場所があるんだ」
「行ってほしい場所?」
「そう!」
「えっと、それってどこ?」
「それはね......」
圭太が口にしたのはあまりにも有名で、あまりにも私たちとは縁遠いと思っていた場所だった。
『訪れたカップルは必ず別れると噂の縁切り神社』
圭太は私たちから生まれた子供だと言っていたのに、なぜ私たちをそんな場所に連れて行こうとしているか、その意図が全く理解できない。そもそも圭太が私たちに会いに来た理由も謎のままだ。
だけど、本能的にそこに行かないと後悔するような予感がした。
祐介の顔をチラッと見る。 すると目が合い、意思を確かめるかのように互いに頷いた。 祐介も私と同じ考えみたいだ。
「オッケー。理由は分からないけど行くよ」
「ほんと? やったぁ。 じゃあ今から行こっか」
「え、今から?」
「もちろん、早く行かないと遅くなっちゃう。ほら、行くよ」 圭太は私たちの手を引っ張りながら、早く早くと急かしてくる。
私たちは圭太に導かれるままに、深夜の校舎を後にした。
「ねぇ祐介、もう帰ろうよ......」
私は祐介の手をぎゅっと握り、不安げに呟いた。静まり返った廊下に足音が響くたび、私の心臓がドキッと跳ねる。
「まだダメだよ。 噂の幽霊の正体を突き止めないと」
祐介はそう言って私の手を引っ張った。普段運動しない私は、息を切らしながら彼について行くのがやっとだ。
『真夜中の学校に子供の幽霊が出る』
それが昨日の朝、友達から聞いた噂だった。
「警備員のおじちゃんが巡回中に見たんだって。真夜中の廊下を、小学生くらいの男の子が歩いてたらしいよ」
私はその友達の言葉を冗談半分で聞き流していたのに、私の隣で話を聞いてた祐介が目を輝かせながら、「その幽霊が本当にいるか、俺たちで確認してこよう」って言い出したことがきっかけで私たちは今、こうして真夜中の校舎を歩いている。
「学校に忍び込んでるのがバレたら先生達に怒られるよ」
「あと一時間は巡回が無いのは調査済み。 バレようがないよ」
「幽霊が私たちに危害を加えてくるかもよ」
「存在しないのにどうやって危害を加えてくるのさ」
「ねぇ、やっぱり帰らない?」
「帰らない」
私の必死の説得も虚しく、祐介は足を止めようとせずにどんどんと先へ進んでいく。私は不安で泣きたくなってきた。
「ねぇってば……」
私が泣き出しそうになったその時だった。
カタッ
どこからか小さな物音が聞こえた気がした。私はピクリと肩を震わせる。
「……!」
私たちは顔を見合わせ、耳を澄ます。すると再び同じ音が聞こえてくる。誰かが廊下を歩くような音だ。
「え......今、何か聞こえたよね......?」
「うん......確かに聞こえた」
祐介も立ち止まり周囲を見渡すが、懐中電灯の光が届く範囲には何もない。
私たちは再び音に耳を傾ける。
カタッ カタッ
今度はさっきよりも鮮明に聞こえる。私たちからそう遠くない場所からだ。
「ねぇ、もしかして......」
「うん......幽霊かもね。 見に行ってみよう」
私たちはゴクリと唾を飲み込んだ。
正直もう帰りたい。だけど恐怖よりも、幽霊の正体が気になる自分もいる。
私の中で恐怖心と好奇心が混ざり合いながら、祐介に手を引かれるままに音のする方へと進むことにした。 一歩一歩進むたびに心臓の鼓動がどんどん早くなるのを感じる。
慎重に廊下の先を照らしていくと、非常口の薄暗い灯りの中に、ぽつんと小さな影が浮かんでいるのが見えた。
それは高校生の私たちよりもずっと背の低い、噂通りの小学生くらいの男の子で、何かを探すようにそわそわと辺りを見回しながら歩いている。
本当に幽霊がいた。 あまりのことに私たちは、悲鳴をあげる余裕も無くなっていた。
懐中電灯の光で私たちの存在に気がついたのか、その男の子は私たちを見ると目を輝かせながら、まるで待ちわびていたかのような声をあげた。
「探したよ。お父さん! お母さん!」
「......は?」「......え?」
私たちの声が被る。男の子の言葉を理解出来なかった。お父さん? お母さん? この子は何を言っているの?
助けを求めようとチラッと祐介の方を見るも、彼も驚きと混乱が混ざった表情を浮かべて固まっている。
「あのね、どうしても二人に叶えてほしいことがあって会いに来ちゃった」
私たちが混乱で固まっているのに気づいてないのか、男の子はそう言いながら嬉しそうに笑う。
「えっと......、君は誰?」
祐介が言葉を絞り出すように、掠れた声で男の子に質問する。
「僕は圭太。未来から来た二人の子供だよ」
「え、未来から......?」
「うん」
圭太と名乗る男の子は、祐介の言葉に笑顔で頷く。
「でも、未来って......」
祐介は混乱で頭が回っていないようだ。 私もそう。 いきなり未来から来たなんて言われても、すぐには受け入れない。
「でも事実だよ。僕は未来の二人から生まれてきたんだ」
圭太はそう言いながら、私たちに近づいてくる。
「それでさ、さっき僕が言った『二人に叶えてほしいこと』の話なんだけど、聞いてくれる?」
「う、うん」
私たちは混乱しながらも頷く。
「実はね、僕と一緒に行ってほしい場所があるんだ」
「行ってほしい場所?」
「そう!」
「えっと、それってどこ?」
「それはね......」
圭太が口にしたのはあまりにも有名で、あまりにも私たちとは縁遠いと思っていた場所だった。
『訪れたカップルは必ず別れると噂の縁切り神社』
圭太は私たちから生まれた子供だと言っていたのに、なぜ私たちをそんな場所に連れて行こうとしているか、その意図が全く理解できない。そもそも圭太が私たちに会いに来た理由も謎のままだ。
だけど、本能的にそこに行かないと後悔するような予感がした。
祐介の顔をチラッと見る。 すると目が合い、意思を確かめるかのように互いに頷いた。 祐介も私と同じ考えみたいだ。
「オッケー。理由は分からないけど行くよ」
「ほんと? やったぁ。 じゃあ今から行こっか」
「え、今から?」
「もちろん、早く行かないと遅くなっちゃう。ほら、行くよ」 圭太は私たちの手を引っ張りながら、早く早くと急かしてくる。
私たちは圭太に導かれるままに、深夜の校舎を後にした。


