私の名前は玲蘭(れいらん)。かつてこの国の皇帝に寵愛された母は、妖狐であることが発覚し、非道な方法で処刑された。私はその光景を目に焼き付け、憎しみとともに生きてきた。

 母の仇を討つため、私は正体を隠しながら人間の世界に紛れ込み、復讐の機会を待っていた。そして十年後、ようやくその時が訪れた。

 私が助けた少女の名は雪音(ゆきね)という。皇太子の寵愛を受ける側室だった彼女は、正室に疎まれ、執拗な嫌がらせを受けていた。精神的に追い詰められて、自ら命を絶とうとした彼女を、私は偶然見つけて助け出した。そして、死にかけていた彼女の体に、私の魂を融合させたのだ。

 こうして、私たちは二人で一つの存在となった。雪音の姿を借りて、私は後宮に入り込み、母の復讐を果たす機会を探ることにした。

「雪音、私はあなたの身体を借りるわね。前にも話したけど、私が身体を使っている間も、あなたの意識はちゃんと残るから心配しないで」

「わかった。玲蘭、私もあなたと一緒に復讐したい。正室の麗華(れいか)が私を地獄に突き落としたように、彼女にも同じ苦しみを味わわせたいの」

「ええ、もちろんよ。まずは彼女から始めましょう」

 私は雪音の記憶をたどり、正室への復讐の方法を考えていた。彼女は皇太子からの愛を何よりも求めていた。しかし、皇太子は雪音に心を奪われ、正室に冷淡だった。それが彼女の焦燥を生み、雪音をいじめる原因となった。

 ならば、私はお前の夢の中で、最上の恐怖を見せてやる。心が壊れて、二度と元に戻せないほどの悪夢をね。

 皆が寝静まる深夜になるまで待った私は、正室の部屋に忍び込んだ。彼女は、無防備な姿で寝ていた。ずいぶんと不用心だこと。私は呆れながら、妖狐の力を解放し、彼女の夢の中に入り込んだ。

 私の作り出した暗闇の世界で正室は目覚めた。

「誰か……誰かいるの?」

 彼女がそう呟いた瞬間、私はゆっくりと彼女の前に姿を現した。

「雪音、これは何ですか? 悪ふざけは今すぐやめなさい。やめないとまた……」

 私は彼女の問いかけを無視して、十年前に私が目に焼き付けた母の最後の光景を幻影として作り出し、それを正室の前で再現してみせた。刀で首を切り落とされた母、それを見ている兵士や市民たちの歓声、地面に広がる血溜まり。

「いやああああああ!」

 正室は悲鳴をあげながら、目の前の光景から必死で逃げようとするが、私はそれを許さない。逃さないように腕をしっかりと掴んでから、私は彼女の耳元で囁いた。

「あなたも絶望を味わわせてあげる。極上の絶望をね」

 妖狐の力を完全に解放した私は彼女の背後から尾を伸ばし、首筋に絡みつかせる。彼女の脳内では、彼女自身が私の母と同じように何度も何度も首を落とされる光景が、現実のように繰り返されている。正室の瞳が恐怖に染まるのを、私と雪音は満足げに見つめていた。

「次はもっとおぞましい光景を見せてあげるわ。楽しみにしていてね」

 そう言い残し、私は夢の世界を後にした。

 翌朝、正室の悲鳴が後宮中に響き渡った。

「いやあああ! 怖い、怖いよう!!」

 目覚めた彼女は恐怖が頭から離れない。慌ててやって来た使用人の女性が来てもお構いなしに泣き叫び、まるで廃人のようになっていた。しかし、皇太子はすでに彼女への関心を失っていたので、発狂する彼女を慰めようとはしなかった。

 私はその様子を見ながら、口元に微笑を浮かべる。これはまだ私たちの復讐の始まりに過ぎない。

「玲蘭、すごいわ。本当に彼女が怯えている」

「ふふ、二度と私たちに手を出せないように、もっともっと追い詰めてやるわ。でも、やりすぎて私の正体がバレるわけにはいかないから、そこは気をつけないとね」

「うん、わかった。私も気をつけるね」

 こうして、私は雪音と共に、後宮での新たな人生を歩み始めた。母を殺した人間たちに復讐するために――。