「深月ぃぃぃい!」
彩芽が大声を上げながら私の席にスライディングしてきた。漫画のような動きに、思わず笑ってしまう。
「何、どうしたの一体」
「詰んだ。終わった。もうダメだ。ごめんね深月、あたし一緒に3年生になれない」
大方、試験がうまくいかなかったのだろう。試験最終日に数学と物理が置かれたスケジューリングも酷だよなと思いつつ、彩芽の頭を撫でる。
「どっちがダメだったの?」
「……まんべんなく」
「提出物は?」
「滑り込みで出した」
「じゃあ大丈夫だよきっと」
提出物をちゃんと出していれば、よほどのことがない限り致命的な評定にはならないだろう。
「何はともあれ、おつかれさま」
「ゔぅん、深月もおつかれ」
スライディングしてきた体勢から彩芽が動くことはなかったけど、声のトーンが少しだけ明るくなったのを感じて安心する。
「試験も終わったし、どこか遊びに行く?」
「良いね、行こうか」
笑って頷くと、ポケットに入ったスマホがブルブルと震えた。見ると、《友達と遊ぶ予定入ったから、今日の帰りは別々でお願いします》というクラゲ君からのメッセージだった。みんな考えていることは同じらしい。
《了解です、私も友達と遊びに行くところだよ》
《みんな考えてること一緒なんだね》
今さっき思ったことがそのまま返ってきて、思わず笑ってしまった。《そうだね、試験おつかれさま》とだけ打って、スマホをポケットに仕舞う。
「クラゲ君?」
彩芽にそう問われて、驚きつつも頷いた。
「うん、よく分かったね」
「クラゲ君とやりとりしてる深月はすぐ分かるよー、楽しそうだもん」
「まるで普段の私に覇気がないとでも言いたげだね」
「そうじゃないけどさ。仲良いね、本当に」
彩芽がにこにこしながらそう言って、直後、何かに気付いたように慌てて顔を上げる。
「あ、別に深月とクラゲ君がそういうのじゃないっていうのはちゃんと分かってるからね、その……」
「大丈夫だよ、解ってるって」
そういうの。即ち、恋愛関係。
世間一般に言う恋愛関係を求めず、俗に言う恋バナなんかも嫌う。そんな私を見ていたら、『恋愛しない人なんだな』と思うのは自然なことだろう。私自身も、そう受け取ってもらった方が楽だ。態々説明しようとも思わない。
だって、仕方がないだろう。
価値観が違うのだから。
歩み寄れはしても、完全に理解することは不可能だ。そんな無謀な試みを大事な友人にさせるほど、私は鬼畜生ではない。
「ところで、どこ行く? カラオケ?」
「良いね、歌い散らかしたい気分だー」
明るい調子に戻った彩芽の声を聞きながら、私も私をいつもの調子に戻そうと努めた。
彩芽が大声を上げながら私の席にスライディングしてきた。漫画のような動きに、思わず笑ってしまう。
「何、どうしたの一体」
「詰んだ。終わった。もうダメだ。ごめんね深月、あたし一緒に3年生になれない」
大方、試験がうまくいかなかったのだろう。試験最終日に数学と物理が置かれたスケジューリングも酷だよなと思いつつ、彩芽の頭を撫でる。
「どっちがダメだったの?」
「……まんべんなく」
「提出物は?」
「滑り込みで出した」
「じゃあ大丈夫だよきっと」
提出物をちゃんと出していれば、よほどのことがない限り致命的な評定にはならないだろう。
「何はともあれ、おつかれさま」
「ゔぅん、深月もおつかれ」
スライディングしてきた体勢から彩芽が動くことはなかったけど、声のトーンが少しだけ明るくなったのを感じて安心する。
「試験も終わったし、どこか遊びに行く?」
「良いね、行こうか」
笑って頷くと、ポケットに入ったスマホがブルブルと震えた。見ると、《友達と遊ぶ予定入ったから、今日の帰りは別々でお願いします》というクラゲ君からのメッセージだった。みんな考えていることは同じらしい。
《了解です、私も友達と遊びに行くところだよ》
《みんな考えてること一緒なんだね》
今さっき思ったことがそのまま返ってきて、思わず笑ってしまった。《そうだね、試験おつかれさま》とだけ打って、スマホをポケットに仕舞う。
「クラゲ君?」
彩芽にそう問われて、驚きつつも頷いた。
「うん、よく分かったね」
「クラゲ君とやりとりしてる深月はすぐ分かるよー、楽しそうだもん」
「まるで普段の私に覇気がないとでも言いたげだね」
「そうじゃないけどさ。仲良いね、本当に」
彩芽がにこにこしながらそう言って、直後、何かに気付いたように慌てて顔を上げる。
「あ、別に深月とクラゲ君がそういうのじゃないっていうのはちゃんと分かってるからね、その……」
「大丈夫だよ、解ってるって」
そういうの。即ち、恋愛関係。
世間一般に言う恋愛関係を求めず、俗に言う恋バナなんかも嫌う。そんな私を見ていたら、『恋愛しない人なんだな』と思うのは自然なことだろう。私自身も、そう受け取ってもらった方が楽だ。態々説明しようとも思わない。
だって、仕方がないだろう。
価値観が違うのだから。
歩み寄れはしても、完全に理解することは不可能だ。そんな無謀な試みを大事な友人にさせるほど、私は鬼畜生ではない。
「ところで、どこ行く? カラオケ?」
「良いね、歌い散らかしたい気分だー」
明るい調子に戻った彩芽の声を聞きながら、私も私をいつもの調子に戻そうと努めた。



