「深月ちゃん、久しぶり」
中学校の同級生と会ったのは、丁度その数日後だった。
「久しぶり。元気にしてた?」
高校に入学して2年経っても、変わらず会ってくれる友人がいるのは嬉しいものだ。同じ学校に通っているわけではないから、近況報告でかなり盛り上がるのもワンセット。
「深月ちゃんは最近どうなの、良い人いないの?」
彼女ににこにこしながらそう問われ、一瞬クラゲ君の顔が浮かんで驚く。でも未だあの感情を恋愛だと言い切るのにも、友愛だと言い切るのにも抵抗があった。
「………よく分からない人なら、いる」
いつも「私はそういうの興味ないから」とバッサリ切り捨てていた私のこの言葉は、彼女の目を好奇心で輝かせるのに十分過ぎるほどの効果があった。
「えっ、えっ、マジで! 深月ちゃんが青春してる! え、ちょっと感動」
「失礼な。それに、友愛なのか恋愛なのかよく分かってないし、まだそうと決まったわけでは」
「えー、そういう風に考える時点でちょっとは好きなんじゃないのー?」
「……どうかな」
彼女がニヤニヤしながら私の顔を覗き込むように眺めてくる。私は困って目を逸らした。
恋愛か友愛かを悩み始める時点で、少しは彼に対する感情が特別なものになっている。確かに、一理あるだろうか。
そんな風に思った私に、彼女が更に質問を投げかけてくる。
「どんな人なの?」
「どんな人、って……」
同級生。
元クラスメイト。
優しい人。
波長が合う人。
いつも飄々としているけど、ちゃんと人のために悩み傷付く人。
形容する言葉も褒める言葉も沢山あるはずなのに、何故かそれらを彼女に伝える気にはならなかった。
「良い人だよ」
「そりゃあそうでしょうよ、深月ちゃんのことだもの」
無難すぎる答えに、彼女が呆れたように声を上げる。
「そう言う心寧(ここね)ちゃんは、どうなの?」
強引に話を逸らして、彼女の反応を誘った。
クラゲ君への感情の正体は、分からずじまいだ。

「今日はありがとうね、楽しかった」
そう言って彼女の顔を見ると、彼女がにっこりと笑って頷いた。
「いえいえ、わたしもすごく楽しかった! また遊ぼうねー」
「うん、また」
「深月ちゃん頑張りなよ、次会う時にどうなったか聞かせて」
よっぽどクラゲ君の話が楽しかったらしく、別れ際にもそんなことを言ってくる。
「だから頑張りようがないんだって、分からないんだから」
笑いながらそう返して、手を振った。
「気を付けて帰ってね」
「うん、ありがとう! 深月ちゃんも気を付けてね」
彼女のことは好きだ。
話しやすいし、一緒にいると楽しい。
でも何故だかクラゲ君との会話が恋しくなっている自分に気付いて、そっと溜息を吐いた。