《深月さん》
唐突にクラゲ君から連絡が来て、思わずカレンダーを確認する。約束をした覚えはないけど、知らぬ間に何かの予定をすっぽかしたりしただろうか。
本日、8月18日。
カレンダーは、白紙だった。
寂しいようなほっとしたような複雑な心境でいると、スマホが再びメッセージの受信を告げる。送られてきた意味不明な文面に、首を傾げた。
《今日、くらげがくらげを買ったよ》
どういうことだ。
既読をつけた状態で数分間固まっていると、一枚の写真が送られてきた。
「あ、そういうこと」
写真には、『くらげ』が題名に入った小説が映っていた。
クラゲ君が、くらげの小説を買った。それで、『くらげがくらげを買った』。
《何かと思って固まってたよ、その本買ったの?》
《うん、深月さんが古本屋に行くって言ってたの思い出して、暇だったから行ってみた。面白そうなの買えたけど、暑さで死にそう》
《昼間から出掛けるからだよ…》
《曇ってたからいけると思ったんだけどなぁ》
クラゲ君の声がそのまま聞こえてきそうな文面に、ふふっと笑った。
《じゃあ、今日は家で読書の日?》
《最近ずっとそれな気がするけど、そうだね。暇だよー》
《じゃあ私も本読み飽きたら連絡して良い?》
《良いよー、僕もメッセージ連投しよ》
「困るなぁ」と呟いて、また笑ってしまう。困ると言いつつ、想像よりもずっと楽しげな私の声に、私自身が驚いた。

その後は、かなり頻繁にクラゲ君と連絡を取っていたように思う。
ある日は、私の昼ご飯の話から、夏に食べたい冷たい食べ物の話になって、この前彩芽と話した話題と丸被りしたり。
またある日は、最高気温が観測史上最も高くなった話から、2人揃っていつか必ず来るであろう世界の終わりに思いを馳せたり。
直接会う約束をする度胸はなかったけど、その癖寂しさと理性が喧嘩をするのは相変わらずだったけど。
熊蝉が鳴いていた頃よりも、つくつく法師が鳴き始めた頃の方が私の心が遥かに満たされていたのは言うまでもない。