「ねぇ、2人って付き合ってんの?」
放課後、廊下に出て隣のクラスの同級生と合流すると、クラスメイトにそう問われた。こんな質問は間々受ける。
「付き合ってないよー」なんて軽く受け流しながら、零れそうになる溜息を呑み込んだ。
仲の良い男女を見かけると、カップルなのかと思うのを悪いことだとは思わないし、私もきっとそう思う。でも、こうも何度も訊かれると苛々してくるというものだ。ゴシップ目的で近づいてくるなら尚更。
「誤解を生むねー相変わらず」
「そんな他人事みたいに……」
クラスメイトの後ろ姿を見送りながら苦笑いする彼をちらりと見て、私は大きな溜息を吐いた。
「まぁまぁ、事実じゃないんだし、大丈夫でしょ。それに、深月(みづき)さんの横は居心地良いから仕方ない」
「私はクラゲ君みたいに飄々とできないの、居心地良いのは認めるけど」
帰ろっか、と言って歩き始める。
私の横にいるクラゲ君──本名は海月(かいづき)一縁(いより)という──は、高校の同級生で、1年生の時のクラスメイトだ。別に幼馴染というわけでもなく、高校入学前から知り合いというわけでもなく、本当にここ1年半の付き合いなのだが、妙に波長が合う。実は家が意外と近所だったこともあって、互いに時間が合う時は一緒に帰ることが多い。確かに、噂好きの輩からすると格好の餌であろう。
「あ、そういえば今日の単語テスト。僕もう駄目だ、深月さん出来た?」
学校から駅までの道のりの途中、クラゲ君がそう尋ねてきた。
「この私が出来たと思うか?」
「うん。深月さん頭良いもん」
「買い被りすぎだよ、そう言うクラゲ君だって頭良いじゃん」
「えー照れるなー」
クラゲ君の戯けた口調に、私は声を上げて笑った。
話題が尽きない日もあるし、互いにずっと無言の日もある。でも変わらず心地が良いから、本当に不思議だ。ちなみに今日は前者。互いの口から言葉が次々に飛び出してくる。
10分ほど歩き続けると、駅が見えてきた。階段を上がり、改札を抜け、プラットホームに降りる階段を下る。この登り降りは毎回億劫だ。
「……階段だっる」
私の心を読んだみたいに、クラゲ君がげんなりとした調子で呟く。
「無駄だよねぇこの登り降り」
「本当に」
でも1人で歩く時より、2人の時の方が少しだけ足が軽いのは何故だろうか。
「電車もう来る?」
プラットホームに降りると、クラゲ君が電光掲示板を睨みながら私に訊いた。目が悪いらしく、毎回電光掲示板と睨めっこしている。せっかく持っているのだから眼鏡を掛ければ良いのに、本人曰く「普段から掛けるのは邪魔だし鞄から出すのも面倒」らしい。変なところで横着者だ。
「次が快速だから、あと10分待つね」
「マジか……あ、自販機寄っていい?」
「良いよ」
ありがと、と言って、クラゲ君が側にあった自販機に歩いていく。後ろ姿を見送り、少しして戻ってきた彼の手元を見て呟いた。
「炭酸か、良いね」
「深月さんも好き?」
「ううん、私飲めない」
「え?」
首を傾げたクラゲ君に、ふふっと笑って続ける。
「でも、見た目は好きかな」
夏の湿気の中では、キンと冷えた炭酸飲料が妙に涼しげに映った。