空が紫に染まる夕暮れ時、高校3年の佐藤陽太は、いつものように古びた神社の境内で絵を描いていた。彼の夢は、いつか自分の絵で人々を感動させる画家になること。しかし、現実は厳しく、美大受験を控えた今も、両親からは「そんな不安定な仕事より、安定した会社に就職しろ」と反対されていた。
「ため息をつくのは、運を逃がすぞ」
突然聞こえた声に、陽太は驚いて振り返った。そこには、まるで浮世絵から抜け出してきたかのような、着物姿の老人が立っていた。
「あなたは...?」
老人は微笑むと、陽太のスケッチブックを覗き込んだ。
「なかなかの腕前だな。だが、お前の絵には魂が足りん」
「魂...ですか?」
「そうだ。本当の芸術は、魂を揺さぶるものでなければならん。お前には、もっと世界を見る必要がある」
老人はそう言うと、懐から一枚の古びた絵札を取り出した。それは、まるで生きているかのような龍の絵。陽太が見入っていると、突然、絵の中の龍が動き出した。
「なっ...!」
驚いて後ずさりした瞬間、陽太の足元が崩れ、彼は深い闇の中へと落ちていった。
目を覚ますと、そこは見知らぬ森の中。頭上には二つの月が浮かび、周囲には見たこともない植物が生い茂っている。
「ここは...異世界?」
混乱する陽太の前に、突如として現れたのは、獣のような耳を持つ少女だった。
「あなた、人間ね。どうしてこんなところに?」
「いや、僕にも分からなくて...」
少女は首を傾げると、にっこりと笑った。
「面白い! 私はミア。あなたの名前は?」
「佐藤陽太です」
「ヨウタ...珍しい名前ね。ねえ、一緒に冒険しない?」
陽太が戸惑っていると、ミアは続けた。
「この世界には、魂を映し出す不思議な絵具があるの。それを使えば、きっとあなたの絵はもっと素晴らしいものになるわ」
陽太の目が輝いた。夢を叶える鍵が、この異世界にあるのかもしれない。
「行きます。僕も一緒に冒険させてください!」
こうして、画家を目指す少年の、異世界での冒険が幕を開けた。彼の前には、魔法使いの青年や戦士の大男など、個性豊かな仲間たちとの出会いが待っている。そして、この世界の危機に立ち向かいながら、陽太は自分の絵に魂を吹き込む方法を探していく——。
陽太とミアは森を抜け、小さな村へとたどり着いた。そこで彼らは、魔法使いの青年レオンと出会う。
「魂を映す絵具?ああ、伝説の"虹霊の雫"のことか」レオンは眉をひそめた。「だが、それを手に入れるのは容易じゃない。魔王の城に封印されているらしいからな」
「魔王...」陽太は呟いた。この世界にも、物語のような存在がいるのか。
そのとき、村を揺るがす轟音が響いた。
「モンスターの襲撃だ!」村人たちが叫ぶ。
巨大な岩のような生き物が、村を蹂躙していく。陽太は恐怖で体が竦んだが、ミアとレオンは躊躇なく戦いに飛び込んでいった。
ミアは獣のような俊敏さで岩モンスターを翻弄し、レオンは炎の魔法で攻撃を加える。しかし、モンスターの硬い外殻は、簡単には壊れない。
「このままじゃ...」
陽太は、無力な自分に歯噛みした。そのとき、彼のスケッチブックが風に舞い、モンスターの足元に落ちた。
「あっ!」
咄嗟に、陽太はペンを握り、モンスターの絵を描き始めた。必死に線を重ねていくと、不思議なことに、絵が淡く光り始める。
「これは...」
描かれたモンスターの姿が、現実のモンスターと重なり、その動きを封じ込めていく。
「今だ!」レオンが叫び、渾身の魔法を放つ。ミアも、モンスターの弱点めがけて跳躍する。
轟音と共に、岩モンスターは砕け散った。
「すごいわ、ヨウタ!」ミアが駆け寄ってくる。「あなたの絵には、特別な力があるみたい」
レオンも感心した様子で頷いた。「君の才能は、この世界でこそ開花するのかもしれないな」
陽太は自分の手を見つめた。この異世界で、彼の絵は現実を動かす力を持つようだ。
「僕...もっと強くなりたい」陽太は決意を固めた。「みんなを守れるように、そして...本当の芸術を極められるように」
「その意気だ」レオンが笑う。「魔王の城を目指そう。"虹霊の雫"を手に入れれば、君の力はさらに増すはずだ」
こうして陽太たちの本格的な冒険が始まった。彼らの前には、まだ見ぬ仲間との出会いや、強大な敵との戦い、そして陽太自身の成長が待っている。
絵筆を武器に、陽太は自分の夢と、この世界の平和を守るため、歩み始めたのだった。