翌朝、一同はダイニングルームに集まった。教授も含め全員揃っているものの、高槻翔太だけはいない。昨夜見つかった血文字について話し合う中で、それぞれの表情には疑念と恐怖が浮かんでいた。
「これは……ただのゲームじゃない。」
紗英が低い声で言う。「何者かが本当に私たちを――」
その時、不意に三浦悠斗が口を開いた。「……これは、“仕組まれたもの”だ。」
「どういう意味?」
紗英が問い返す。
悠斗は冷静な目で皆を見渡した。「この館そのものに“仕掛け”があるんだ。それも、人間心理を利用した罠だ。」
その言葉に、一同は息を呑んだ。そして、この閉ざされた館で始まる“ゲーム”の真実とは何なのか――それぞれの胸中に疑念と恐怖だけが渦巻いていく。

「仕掛けって……どういうこと?」
紗英が険しい表情で三浦悠斗を見つめた。その冷静沈着な瞳にも、隠しきれない動揺が浮かんでいる。
「まだ確証はない。ただ、昨夜の高槻の失踪――いや、消失には、この館そのものが関与している可能性が高い。」
悠斗は淡々と語る。その声には不思議な説得力があった。
「待ってくれよ。」
美咲が声を上げる。「館そのものが関与してるって……そんなオカルトみたいな話、信じられるわけないじゃない!」
「オカルトではない。」
悠斗は美咲の言葉を遮った。「この館は建築家・白石宗一郎の“最高傑作”だと言われている。そして彼の作品には、常にある特徴がある――人間心理を揺さぶる仕掛けだ。」
その言葉に、紗英の顔色が変わった。彼女は曾祖父である白石宗一郎について、家族から断片的に聞かされていた。彼の建築物には、単なる美しさや機能性だけでなく、人間の精神に作用する“何か”が込められていると言われていたのだ。
「……つまり、この館そのものが私たちを試している、と?」
紗英は低い声で問いかけた。
「そう考えるのが妥当だ。」
悠斗は頷く。「そして、その試練を乗り越えられなかった者は――」
「死ぬってこと?」
美咲が震える声で言葉を継いだ。
その瞬間、部屋に重苦しい沈黙が訪れた。誰もが言葉を失い、ただ互いの顔を見つめ合う。疑念と恐怖が渦巻く中、教授だけが静かに微笑んでいた。