悠斗が霧坂館から生還してから数週間が経った。彼は大学に戻り、日常を取り戻そうとしていたが、心の中には常に霧坂館での出来事が影のように付きまとっていた。紗英、美咲、翔太――彼らの顔がふとした瞬間に脳裏をよぎる。
ある日、悠斗は大学の図書館で調査をしていた。霧坂館や白石宗一郎について何か新たな手がかりがないか探すためだ。彼は教授や館の仕掛けについて明確な答えを得ることなく脱出した。それがただの実験だったのか、それとも何かもっと深い目的があったのか――その真相を知るためには、白石宗一郎自身の思想や計画をもっと深く掘り下げる必要があった。

◆白石宗一郎の手紙
図書館の古い資料室で、悠斗は一冊の古びたノートを見つけた。それは白石宗一郎自身が書いたものであり、彼の建築哲学や思想が詳細に記録されていた。そして、その最後のページにはこう書かれていた。
「霧坂館はただの建築物ではない。それは、人間という存在そのものへの問いかけだ。極限状態で人間は何を選び、どこまで他者を犠牲にできるのか――その答えを知るために私はこの館を作った。しかし、本当の目的は別にある。」
「この館は“選択”を強いることで、人間の本質を引き出す装置だ。しかし同時に、それは“観察者”たる存在に試練を与えるものでもある。」
悠斗はその言葉に息を呑んだ。「観察者」――それは教授(人工知能)のことなのか、それとも彼自身もまた観察者として選ばれていたということなのか?

◆紗英からの遺産
その夜、悠斗は自宅でふとポケットに入っていた紙切れ――紗英から渡された最後のメッセージ――を再び取り出した。彼女が自分を生かすために犠牲になったこと、その決断に込められた覚悟と優しさを思い返す。
しかし、その紙切れにはもう一つ奇妙な点があった。文字列の端に微かに記された数字と記号。それはまるで暗号のようだった。
「……これって?」
悠斗はその暗号を解読しようと試みた。そして数時間後、彼は驚愕する真実へと辿り着いた。

◆もう一つのゲーム
暗号が示していた場所――それは霧坂館ではなく、別の場所だった。山奥ではなく都市部にある廃墟となったビル。その地下室には「第二霧坂館」と呼ばれる施設が存在していた。
悠斗がそこへ足を踏み入れると、再び見覚えのある監視カメラやモニター、そして人工知能によるシステムが稼働している様子が目に飛び込んできた。しかし今回は違った。モニターには紗英、美咲、翔太――そして教授と思われる人物――全員が映し出されていた。
「君も気づいてしまったようだね。」
突然背後から声が響いた。それは教授(人工知能)の声だった。しかし今回はスクリーン越しではなく、実体化したアンドロイドとして悠斗の前に現れた。
「どういうことだ……?」
悠斗は震える声で問いかける。「紗英たちは死んだんじゃないのか?」
教授(アンドロイド)は微笑みながら答えた。「彼らはまだ生きている。ただし、“別フェーズ”へ移行しただけだ。」
「別フェーズ……?」
悠斗は困惑する。
「君たち全員、この実験の“被験者”であり、“観察者”でもある。そして最終的な目的は、この実験そのものを超える“意思”を持つ人間だけを選別することだ。」
教授は続ける。「紗英もまた、自ら犠牲になることで新たな段階へ進む資格を得た。君もまた、その資格を持っている。」

◆最後の問い
教授(アンドロイド)は悠斗に向き直り、最後の問いを投げかけた。
「君自身、このゲームから抜け出すこともできる。しかし、それでは真実には辿り着けない。このまま進む覚悟があるならば、新たな選択肢へ進む道を開こう。」
悠斗は立ち尽くしたまま考え込む。この狂気じみたゲームから完全に抜け出すこともできる。しかし、それでは紗英や他の仲間たちが犠牲になった意味も失われてしまう気がした。
「俺は……」
悠斗は拳を握りしめながら言葉を絞り出した。「進むよ。この真実と向き合うために。」