「まさか、あのジョーカーが殺害されるとは……」
ジョーカーが森の中で死んでいるのをとある試験官が発見したことで、この試練の運営に関わる全てのスタッフが緊急で洋館のホールに集められていました。ジョーカーは、この島にいる誰よりも強いはずでした。彼が殺害されたということは、候補者を含めたこの島にいる人間の中に、試験官たちよりも強い者がいるということと、この人物が悪意を持って暴走した場合、ビンセントを含めた運営スタッフの中にその人物を止められる人間がいないことを意味しています。絶対に負けるはずがない人物が敗北するという想定外の事態に試験官たちは焦りを隠しきれません。
「ジョーカーが倒された今、試練を続行するのは危険です。私たちもですが、何より聖女候補たちに危険が及ぶ可能性を否定できません。悪意を持った第三者がこの島に紛れ込んでいるケースも考えられます。このまま試練を続行して良いのでしょうか? この試練のスポンサーとなっている貴族たちにも説明が……」
試験官の一人が責任者であるビンセントに問いかけます。
「今さら止められないだろう? それに、もしその人物が候補者だとすれば、それだけ聖女に近い者だということになる。我々にとっても喜ばしいことじゃないか」
ビンセントは威厳のある声で、集まってきた試験官たちを説得し始めました。説得というよりは、命令に近いかもしれません。事実、試験官たちは、このビンセントの楽観的で的外れな回答に失望していましたが、彼に何も言うことができませんでした。ビンセントの意見には、ここにいる運営スタッフは誰一人として逆らうことができないのです。
「とりあえず、試練は続行だ。君たちはミッションの準備に取り掛かってくれ」
試験官たちは、不安そうな気持ちを押し殺しながら、ホールを後にします。
「試練の中止など、あり得ないのだ。そんなことになれば、私の名声に傷がつくのでな……」
誰もいなくなったホールで、ビンセントは一人で呟きました。
試験官たちがミッションの準備を終えたあと、聖女候補たちは洋館のホールへと集められました。相変わらず険しい顔をしたビンセントが、候補者たちにミッションについての説明を始めます。
「ごきげんよう諸君。今日集まってもらったのは、君たちにこの試練で最初のミッションを受けてもらうためだ。今回のミッションは、宝探しだ。私たちはこの島の中に宝を隠している。君たちには明日の朝になるまでにその宝を見つけて私に提出して欲しい。以上だ」
ジョーカーの件で苛立っていたビンセントは、必要最低限の説明で話を終えてしまいます。
「ちょっと待ってください。そのお宝の詳しい説明は無いのですか? それでは探しようがありません」
彼の説明に納得できない候補者の一人が質問します。
「君たちからの質問は受け付けていない。以上だ」
「それを説明するのがあなたの仕事でしょう? 責任者ともあろうお方が、仕事を放棄するのですか?」
別の候補者もビンセントに噛みつきます。
「ああん? 人に聞かなければ何も出来ないのか? お前たちも聖女候補なら、少しは自分で考えて行動するんだな!」
候補者たちの質問に怒りが収まらないビンセントは、候補者たちを怒鳴りつけるように一方的に話すと、ホールを後にしてしまいました。
「相変わらず、お馬鹿な子たちね。ビンセントが宝を指定していないってことは、つまり、なんでもいいってこと。だったら、自分で宝だと思うものを持ってくればいい。この島には作りかけの建築物がたくさんあるから、そこにいって自分がお宝だって思うものを持ってくればいいのよ」
いつのまにかカタリナの隣にいた少女が彼女に聞こえるようにつぶやきました。
「あ、あなた、昨日の……」
隣に少女がいたことにまったく気が付かなかったカタリナは、驚きながら彼女に話しかけます。
「ふふ、あなたもせいぜい自分が思う宝を見つけることね。夜はあまり出歩かない方がいい。命が惜しいならね」
そう話すと、紫色のドレスを着た少女は昨日と同じようにカタリナの肩を叩いて、ウェーブのかかった茶色のロングヘアをなびかせながら、洋館の外へと出ていきました。
試験官たちはミッションの最終確認のために再びビンセントの元へ集められていました。まだ怒りが収まらないビンセントは試験官たちを睨みつけながら、次のように命令しました。
「候補者たちはまだジョーカーが殺されたことを知らない。彼を殺害した犯人以外はな。候補者たちの動向を全て観察して怪しい動きがあれば報告しろ。犯人を絞り込むんだ」
「ねえ、よかったら私と一緒に探索してくれないかな?」
洋館の入口で、とある少女がカタリナに話しかけてきました。彼女は背が小さく、純白のローブに身を纏っています。長い黒髪が肩まで伸びていて、子供のような無邪気な笑顔を浮かべていました。
「いいけど、なんで私なの?」
カタリナは少し困惑した表情で彼女に返答します。
「あなたが一番、声がかけやすそうだったからよ。他の人は、ツンツンしていて、声をかけるなってオーラがプンプンしてるからねえ」
「……なるほどねえ」
(だから、あの紫色のドレスを着た子も、私に話しかけてきたのか)
「それも才能だと私は思うわ。聖女には必要なことよ」
少女は無邪気な笑みを崩さずに話し続けています。カタリナは思いがけず自分のことが褒められたことでうれしくなりました。
「ありがとう。でも、私はあなたの方がよほど聖女に向いてると思うわ。私にはロクなスキルが無いからね。あなた、名前は?」
「私はナタリーよ、よろしくね。あなたは?」
「カタリナよ。よろしくね」
二人はがっちりと握手をしました。
「それでナタリー。あなたはどこかお宝の当てはあるの?」
「うーん、正直よくわからないんだよね。逆に、カタリナはどこかめぼしい場所、ある?」
「それじゃあ、これを見てくれる?」
カタリナはカバンから地図を取り出すと、ナタリーに見えるように目の前に広げます。
「へえ、もう島の地図を書いたの? あなたすごいじゃない」
「まだ大雑把にしか書けてないけどね。高台から見えた建造物の場所は全部地図に書いておいたの。ジョーカーに会うと面倒だから、この洋館の近くの建物から行ってみる?」
カタリナは地図上の洋館から一番近くの建物を指差しながらナタリーに問いかけます。
「そうねえ。でも私は、なるべく洋館から遠くの建物に行ってみた方がいいと思うな。私が試験官なら近くには大した宝を置かないから。リスクを取ってでも、遠くの建物に行ってみたい」
「なるほど。それも一理あるわね。それなら、ここはどうかしら?」
カタリナは島の北側にある劇場のような建築物を指差しました。
「ここは多分劇場だけど、周りが森に囲まれているから、気配を消しながら進んでいけば、よほど運が悪くなければ、ジョーカーに発見されずに到達できると思う」
「ほうほう。良さそうな場所ねえ。それじゃあ、ここに行きましょう」
二人は洋館から北にある劇場らしき建物を目指して、ジョーカーに見つからないように気配を消しながら歩いていきます。
五分ほど歩くと、薄暗い森の入口に着きました。
「この森を抜けた先にあるのよね? あなた、魔法は使えるの?」
「私は基本的な魔法は一通り扱えるけど。あなたは?」
「実は私、魔法苦手なんだよねー。魔物との戦闘になったら、お任せしてもいい?」
ナタリーは両手を合わせながらカタリナにお願いします。
「わかったわ。でも、厄介な敵が出たら、あなたも手を貸してくれると助かるわ」
「わかってるって。任せてよ」
森の中は、昼間でも光が当たらず、ひんやりとしています。二人が歩くたびに枯れた葉や枝がミシミシと音を立てました。
「音を立てずに歩くのって中々難しいのねえ。これでは魔物にこちらの位置を教えているようなものだわ。ジョーカーがこの森にいないことを祈るしかないわね」
「本当ね。それに、同じような視界が続くから、迷子になりそう。コンパスを持ってきて正解だわ」
カタリナは道に迷わないように、常にコンパスを手に持ち、進むべき方向を確認しています。
途中、魔物に何度か遭遇しましたが、カタリナは魔法で危なげなく退治していきました。
「へえ、思ったよりずっと強いのねえ、あなた。ステキよ」
ナタリーは相変わらず無邪気に微笑みながらカタリナに話しかけます。
「この程度の魔物なら、苦労せずに倒せるわ」
(おかしな子ね。戦闘中は私に任せっきりで何もしようとしない。まるで私のことを試しているみたいだわ。本当に魔法が使えないならわかるけど……)
カタリナたちは森の奥にある劇場らしき建物に到着しました。劇場はずっと管理されていないらしく、コンクリート製と思われる外壁には蔦が生い茂っています。
「大きいわねえ……。こんな巨大な建物が森の中に眠っていたなんて」
「この島を所有していたエヴァンズは本当に大金持ちだったのね。この島を彼の国にしようとしていたって話は本当だったみたい」
その時、建物の中から機械仕掛けの人形がカタカタと音を立てて二人の方へと向かってきました。それを見たカタリナは思わず身構えます。
かわいそうだけど、自分たちに害をなすつもりなら壊すしかない、カタリナは心の中でそう決めました。
「ヨウコソ……ライオネルシアターへ」
機械仕掛けの人形は二人の目の前まで進むと、深々と頭を下げました。
自身の予想に反して、機械仕掛けの人形が挨拶をしてきたので、身構えていたカタリナは固い表情を緩めます。
「敵意は無さそうね。どうする?」
「とりあえず、様子を見てみましょう」
機械人形は二人を劇場の中へと誘うように建物の奥へと進んでいきます。
二人がエントランスから長い廊下を進むと、驚くほど広いホールが目の前に現れました。天井や壁面についた無数の音響反射板が、このホールをまるで異空間のような存在へと変身させています。
「これはすごい。見るだけで圧倒されるわね。さ、中に入ってみましょう」
ホールを進む二人の足音が音響反射板に反射し続けているのか、まるで楽器の音色のように複雑に響き続けています。
「やっぱりすごく金をかけているわ。特に音へのこだわりがすごいわね。設計者の狂気すら感じるわ」
「ナタリー、ステージを見て」
カタリナは、ステージに赤色のドレスを着た女性型の機械人形がいることに気づきました。女性型の機械人形は、二人に微笑みかけると、ゆっくりと歌い出しました。機械人形は、優しい声色で、愛の歌を歌い上げています。カタリナは、いつの間にかその美しい歌声に聞き入っていました。
「素晴らしい歌声ね」
「素晴らしい。ええ、素晴らしいわ。こんな場所で賢者の石が見つかるなんて、最高だわ」
「え、今なんて……」
ナタリーはくすくすと笑いながら素早く機械人形の前まで移動すると、手に魔力を込め、青白い魔力で輝く手で機械人形の首をもぎ取ります。
「何をしているの、ナタリー!?」
目の前で起きた出来事に驚いたカタリナは、思わず大声で叫びました。機械人形の首から、まるで鮮血のように茶色いオイルが吹き出して、ナタリーの純白のドレスを汚していきます。
「何って、目の前にお宝を見つけたから回収しただけよん」
ナタリーはカタリナの方を振り向き、ケラケラと笑いながら答えます。
「ねえ、カタリナは賢者の石って知ってる? この機械人形の動力源はねえ、賢者の石のレプリカなのよ。まあ、本物からしたら、おもちゃみたいなレベルだけど、それでもこうやって機械人形を本物の人間のように動かせるの。素晴らしいと思わない?」
カタリナには、機械人形の油で汚れたナタリーが、まるで血まみれの殺人鬼のように見えます。
「あなた、狂ってる……」
ナタリーの姿に恐怖したカタリナは、無意識の内に後ずさりしました。
「さて、お宝も手に入れたし、あなたはもういらないわ。この劇場ごと、消してあげる。試験官には事故ってことで処理してもらうわ」
「あなた、試験官とグルなの?」
「ふふ、もう出てきていいわよー」
物陰から試験官らしき女性が現れて、ナタリーに手で合図をします。
「うふふ、なーに、驚いた顔して? 彼女と仲良くなっただけよん」
試験官はそのままナタリーのもとまで歩いていき、彼女の手を取ってひざまずきました。試験官は彼女の手をつかむと、愛おしそうに手を舐め始めます。
(試験官の様子がおかしい。魅了の魔法をかけて操っているんだわ)
「あなた、魅了の魔法を使ったわね!」
カタリナはナタリーを睨みつけます。
「あはは、わかるー? 私、ホントは魔法、得意なのー。試験官一人操るくらい、どうってことないのよー」
ナタリーはニタニタしながら試験官の女性の頬に機械人形から流れたオイルを擦り付けています。
「ふふ、怖い顔してるねえ。もう、そんな眼で見つめられたら私、ゾクゾクしちゃうわ。でもあなたは、何故か魔法に耐性があるみたいね。私が何回も魅了の魔法をかけてるのに、全然効果が無いんですもの。もったいないけど、やっぱり今ここで、私があなたを不合格にしてあげます。その能力はこの先、私の邪魔になりそうだからねえ。あはははははぁ!」
ナタリーは両手に青白い魔力を溜めると、カタリナの頭上の天井に向けて一気に放出します。彼女の魔法は一筋の閃光となって天井を破壊しました。カタリナの頭上から巨大なコンクリートの塊が迫ってきます。
「マズい!」
カタリナは咄嗟に反応しましたが、大きなコンクリートの塊に身体を押しつぶされてしまいました。砕け散ったコンクリートの破片が飛び散って、砂埃が舞い上がります。
「咄嗟に身体が反応したのにねー。残念でしたー。あ、恨むなら、私じゃなくて、不運な自分か神様にしてねー。ばいばーい」
ナタリーは笑いながら試験官の女性を引き連れて劇場を後にしました。
視界が悪く、カタリナは、今自分の身体がどうなっているのかわかりません。しかし、彼女の全身には激痛が走っています。
(全身が痛い……もう、動けないわ。こんなところで死ぬなんて……そんなの……嫌……嫌……)
「いやああああああ!」
カタリナは悔しさのあまり、大声で叫びました。
「うるさいわね。今助けてあげるから、大声を出さないで」
死を覚悟したカタリナの前に、なんとあの紫色のドレスを着た少女が現れました。砂埃が嫌なのか、口には白いスカーフのような布を巻いています。
「確か、魔法に耐性があるんだったね。それでは回復魔法よりポーションの方がよさそうだ」
少女は魔法でカタリナの上にのしかかっているガレキを粉々に壊すと、カタリナにポーションを飲ませてくれました。
少女が飲ませたポーションは強力だったようで、カタリナの身体はみるみるうちに回復していきました。
「どう、立てる?」
少女はカタリナの手を握ってから優しく彼女を抱き起こします。カタリナは自分の力でしっかりと立つことが出来ました。
「よし、足元もしっかりしてる。もう大丈夫よ」
「助けに来てくれたの? どうして?」
「私がこの劇場を見に来た時に、あなたの叫び声が聞こえたから、たまたま助けただけで、特に理由なんてないよ。それに、誰かを助けるのに、理由がいるのかい?」
「うわああああん」
それを聞いたカタリナは、嬉しさのあまり泣き出してしまいます。
「な、泣くんじゃないよ。助けた私が恥ずかしくなるだろ……」
少女はバツが悪そうにカタリナを見つめています。
「うう、ありがとー。ありがとー」
カタリナは少女の胸に飛び込んで、泣き続けました。緊張の糸が切れたカタリナの太ももから、温かい液体が足元へと伝っていきます。
「まったく、しょうがない子ね」
少女は泣き続ける彼女を優しく抱きしめます。
(お漏らしまでするとは、本当に怖かったんだね)
少女はカタリナの頭をやさしくなでてあげました。
カタリナを助けた少女は、ケイシィと名乗りました。
「聖女候補だって人間なんだから、ああやって他人を嵌めようとしたり、蹴落とそうとする悪いやつもいるんだ。だから、人を信用しすぎては駄目だ。今後、気をつけた方がいい」
「うん、ありがとうね、ケイシィ」
カタリナはケイシィを抱きしめたまま離しません。
(やれやれ、すっかり懐かれてしまったな)
ケイシィはもう一度カタリナの頭をなでました。
◇◇◇
「くっ、なによこいつ。倒しても倒しても立ち上がってくる。不死身だとでもいうの?」
劇場から洋館への帰り道、ナタリーは全身黒ずくめの男に襲われていました。すでに彼女のそばにいた試験官を倒したその男の顔は、真っ白な仮面で隠されています。
ナタリーは何回も黒ずくめの男を魔法で攻撃しました。
しかし、何度魔法を当てて倒しても、その男は何事も無かったかのように立ち上がり、ナタリーを追いかけてきます。
「お前、ジョーカーだろ? いい加減、しつこいわ。もういい。私の本気を見せてやるよー!」
ナタリーは両手に彼女の全身の魔力を全て集中させます。ナタリーの両手から青白い魔力が光輝いて、周囲の空気を震わせながらバチバチと音を発しています。
「はあっはあっ。これが私の全力だあー。跡形も無く消し飛べー!」
ナタリーは仮面の人物に向けて全力で魔法を放出しました。
青白い閃光が一直線に黒ずくめの人物へ向かって飛んでいきます。
「ははっ、ざまーみろー。私を本気で怒らすからこうなるのよー」
しかし、閃光の先にいるはずの人物は、ナタリーの真後ろに立っています。
「は? どうして……」
ジョーカーはナタリーの首に腕を回して、ギリギリと首を締め上げます。
「く、苦しい……。お願い、私、なんでもしますから、許してください。わ、私の身体を好きにしていいです。こう見えて、私……、処女なんです。今から証拠を見せてあげますから……、私の初めてをあなたにあげますから……、どうか命だけは……」
ナタリーはスカートをたくし上げて、履いていたショーツを下にずらしながらジョーカーに懇願します。
しかし、ジョーカーはナタリーの言葉には反応せず、無言で彼女を首を絞め続けました。
「いやあああ……死にたくない……助けて……母さ……」
それが彼女の最後の言葉でした。
ナタリーと、彼女と一緒にいた試験官は、このジョーカーと瓜二つな見た目をした人物によって、どこかへと連れていかれました。
その一部始終を目撃していた別の試験官から報告を受けたビンセントは、明らかに狼狽していました。
「ありえない。何故死んだはずのジョーカーが復活して、味方であるはずの試験官まで襲うのだ……」
試験官たちは、第一のミッションで運営側にも行方不明者が出てしまったことに衝撃を受けていました。
「これ以上の試験続行は危険です。今すぐ試験を中止にしましょう」
試験官たちは必死にビンセントに訴えます。
「たとえ今、ここで試験を止めたとしても、迎えの船が来るのは一ヵ月後だ。それまで危険が続くことに変わりはない。ならば、我々は仕事を続けるべきだ。違うかな?」
ビンセントは焦る気持ちを表に出さないように気をつけながら、冷静に試験官たちに返答しました。
「しかし、試験となれば、どうしても我々はバラけてしまいます。何が起こるかわからない以上、まとまって行動するべきです。それに、聖女候補に犠牲者が出たとなれば、スポンサーの貴族たちに責任を取れと糾弾されてしまいます」
同僚が行方不明となったことで追い詰められた試験官たちは、なおも必死にビンセントに食い下がります。
「お前たちは、いまだに自分の立場がわかっていないようだな。これは聖女を選別するという大事な仕事なのだよ。職務を放棄することは許さん。わかったな」
ビンセントは怒りのこもった声で試験官たちを納得させようとします。
「しかし……」
「次に文句を言ったら、お前の首を飛ばすぞ。あまり俺を怒らせるな」
ビンセントは、腰に差した剣の柄を握りながら試験官たちを威圧して、ようやく彼女たちを黙らせることに成功しました。
「お前たちは次のミッションのことだけを考えろ。さあ、準備に取り掛かるぞ」
試験官たちは諦めた表情を隠すことも忘れて、渋々彼に従いました。
◇◇◇
「ケイシィ、あなたのおかげでミッションをクリアできた。本当にありがとう。今度は私にお返しさせてね」
カタリナは劇場の中にあった別のお宝を回収することで、なんとかミッションをクリアすることができました。
「あんまり人を信用するな。私もあのナタリーのように君を裏切るかもしれないんだぞ?」
ケイシィは真剣な表情でカタリナを見据えます。
「それでも構わないわ。だってケイシィは私の命の恩人だもの。今度は私があなたに恩返ししないとね」
カタリナは自身の覚悟を伝えるように、ケイシィを見つめ返します。
「……好きにしてくれ。だが、お互いに聖女候補である以上、私たちはいずれ敵対することになる」
「その時は、私はあなたに勝ちを譲るわ。元々、親に無理矢理参加させられていたから、最後はそうするつもりだったの」
「それでは私が納得できないな。恩返しをしたいなら、最後まで生き残って、私と真剣に勝負してくれ」
「……わかった。最後まで全力で行かせてもらう。ありがとうケイシィ」
カタリナは覚悟を決めた顔でケイシィの手を握りました。
◇◇◇
聖女候補たちは第二のミッションの説明を受けるために洋館のホールに集められました。
「諸君。第二のミッションの内容を説明する。ずばり、第二のミッションは鬼ごっこだ。鬼はこの私、ビンセントが自ら務めさせてもらう。舞台は、この洋館の外、孤島の全ての場所だ。君たちは、明日の夜明けまでに追跡する私から逃げ切り、ここの洋館へと戻ってくること。君たちには私から逃げる準備として、一時間の猶予を与える。一時間後に私はこの洋館を出て、君たちを追いかける。説明は以上だ」
前回、ビンセントが候補者を怒ったためか、今回は彼に質問をする者はいませんでした。
しかし、カタリナはビンセントの説明に違和感を抱いています。彼女は隣にいたケイシィにその疑問をぶつけてみました。
「ねえケイシィ。今回の鬼ごっこなんだけど、本来ならジョーカーが鬼を務めるはずよね? というかそもそもジョーカーがいるから、こんな鬼ごっこなんてミッションにはならないはず。きっと、ジョーカーに何かあったんだわ。すでに倒されているとか。それで急遽ミッションを変更したんじゃないかしら?」
「ふふ、さすがだねカタリナ。いい考察だ。でもよく考えてみな。私たちは常に試験官に監視されているんだよ?」
「あ、確かに!」
カタリナは抱いていた違和感の答えが出たので、手を叩いて相槌を打ちました。
「そう、だからこれはビンセントに圧倒的に有利なミッションなんだ。彼は常に私たちの居場所を把握出来るんだからね」
「なるほど、彼はその気になればいつでも私たちを捕まえられるってわけね。これはひどい。本当に私たちにとっては理不尽なミッションだわ!」
カタリナは怒りの感情を抑えきれず、声を荒げます。
「まあまあ、ビンセントにも失敗できない理由があるんだよ。彼が追い詰められている証拠だね。でも、そこに私たちがつけ入る隙がある。うまくビンセントを出し抜いてやろう」
◇◇◇
「試験官さん、そこにいるんでしょう? あなたとお話がしたいの。出てきてもらえないかしら?」
森の中にいるケイシィとカタリナは、物陰に隠れて自分たちを監視している試験官を見つけると、自分たちと話をしようと持ちかけました。
木の陰から一人の女性が姿を現します。
「本当はいけないんだけど、今はいろいろと大変なことが起きているからね。特別に聞いてあげるわ」
ダークグリーンのタイトなドレスを着た試験官が二人に話しかけてきます。彼女が精神的にかなり疲れているのが表情からも見て取れました。
「ありがとう。あなたが話がわかる人でよかったです。今回のミッションなんですけど、あまりにも私たちが不利じゃないですか? おそらく、あなたたち試験官があのビンセントに私たちの居場所を伝える手筈になっているんでしょう?」
ケイシィは落ち着いた声で試験官に語りかけます。
「そこまで理解しているとは、さすがね、ケイシィ。あなたの言うとおり、私たちはビンセントにあなたたちの情報を定期的に報告することになっているわ」
試験官の女性は、魔力で動作するコミュニケーションデバイスをケイシィたちに見せました。
「なるほど、その機械で情報のやりとりができるんですね。それだと、あまりにもビンセントが有利で、アンフェアじゃないですか。あなたたちは本当にそんなことでいいと思ってるんですか?」
ケイシィは試験官の女性を説得するために、毅然とした声と表情で話しかけました。
「もちろん、私たちも疑問に思っているわ。でも、私たちはビンセントには逆らえないの。わかって」
「なるほど、あなたたち試験官はビンセントに絶対服従の立場なんですね。それでは、こういうのはどうでしょうか?」
ケイシィは試験官に対して、ビンセントに次のような虚偽の報告をすることを提案しました。
【試験官たちは候補者たちに不意打ちされて負傷した。そのため、彼女たちの足取りを追うことができない。その後の調査で、今回のミッションの攻略法として、候補者の一人がビンセントから自分たちの居場所を隠すために試験官を攻撃することを考案して、他の候補者たちに入れ知恵したことがわかった】
「なるほど。これなら少なくても私たちが裏切ったことにはならないわ。こんなこと、よく思いつくわね」
試験官は感心した表情でケイシィの話を聞いています。
「まあ、さすがに試験官にまで迷惑をかけるわけにはいかないですから。どうです? 私の話に乗ってくれますか?」
「いいでしょう。それで、ビンセントとあなたたち聖女候補が公平になるなら、やるべきだと私は思います。私から他の試験官にも提案してみましょう」
「ありがとう。これで私たちも安心してミッションをこなせます」
ビンセントのことをよく思っていなかった試験官たちはケイシィの提案を受け入れることにしました。
一時間後、洋館を出発したビンセントは、候補者に不意打ちされたという試験官たちの報告を聞いて唖然としました。
「クソッ、簡単に捕まえられるはずが、手を煩わせやがって。候補者の中に思ったより頭の回るガキがいたようだな。しかし、不意打ちとはいえ、試験官たちがガキどもにやられるとは。流石に今回は、説教だけでは済まさんぞ」
候補者たちの居場所を簡単に知ることができると思っていたビンセントは、この報告を聞いていつも以上に苛立っています。
「とりあえず、ガキどもが隠れそうなところをしらみ潰しに当たっていくか。近くの建物から探すとしよう」
洋館から一番近い建物へと向かうビンセントの前に、意外な人物が現れます。その人物を見た瞬間、さすがに百戦錬磨のビンセントも心臓が止まりそうになり、思わず足を止めました。
「お前は、ジョーカー!?」
黒いロングコートに身を包んだジョーカーは、ビンセントを足止めするように、彼の前に立ちはだかります。
「いや、違う。ジョーカーはすでに死んでいる。私が死体を確認したんだ、間違いない。では、お前は一体何者だ?」
ビンセントは全身の震えをなんとか抑え込みながら腰の剣を引き抜いて身構えます。ジョーカーは彼の問いかけには答えず、ケタケタと不気味に笑い出しました。
「私の問いには答えんか。まあいい。試練の邪魔をするなら、誰であろうと斬り捨てる。それだけのことだ!」
ビンセントは構えた剣に魔力を込めます。彼の持つ聖剣が青白い光を帯びて輝きだしました。ビンセントの剣は薄暗い森の中を明るく照らし、ジョーカーのつけている白面を青白く染めました。
「偽物め、あの世で私に楯突いたことを後悔するのだな!」
ビンセントは目にも止まらぬ速さでジョーカーとの距離を詰めると、一瞬で彼を斬りつけます。しかし、ジョーカーはギリギリのところで彼の斬撃を交わすと、右足で彼の剣を踏みつけて動かないようにしました。
「ぐっ、見た目を真似ただけかと思ったが、やはり手強いな。ならば……」
ビンセントは剣を覆っていた青白い魔力を一瞬で右手に移動すると、そのまま拳でジョーカーに殴りかかります。
しかし、次の瞬間、彼の視界からジョーカーの姿が消えました。
「バカな! 消えただと!」
ジョーカーはビンセントが目で追えないほどの速さで彼の背後に回り込んでいました。
そして、右腕をビンセントの首元に回して、彼の首を締め始めます。
「ぐうぅ、お前は一体!?」
ビンセントの意識はそこで途絶えました。
ジョーカーは動かなくなったビンセントの身体を地面に下ろすと、身につけていた白い仮面を投げ捨てました。
「……ようやくビンセントの身体を手に入れた。これでこの試練はマスターの思いのままだ」
ジョーカーだった人物はビンセントの身体を乗っ取ると、闇の中へと消えていきました。
聖女候補たちの二回目のミッションが終了しました。このミッションでは、夜明けまでに六名の聖女候補がビンセントに捕まって、脱落となりました。
ミッション終了後、ビンセントは試験官たちを集めると、彼女たちに頭を下げて謝罪しました。
「今回の件は私にも非があるからな。ジョーカーの件で頭に血が昇っていたんだ。そんな中でも、君たちはよく対応してくれた。本当に感謝しているよ」
ビンセントが自分たちのことを処分するだろうと覚悟していた試験官たちは、彼がまるで別人のように真摯に謝罪し、感謝の言葉をかけてきたことに驚きます。
(今回のミッション中に何か思うことがあったのかしら?)
試験官たちはビンセントの態度に疑問を感じましたが、これからのことを考えて、彼の改心を素直に喜ぶことにしました。
残る聖女候補は五名。ケイシィ、カタリナ、マーガレット、プリシラ、そしてクラリスです。
次の日の朝、ビンセントは五名の候補者を洋館のホールに集めました。
「おはよう諸君。十二名いた聖女候補も、いまや残り五名となった。ここにいる五名は優秀な逸材ばかりだ。しかし我々はそんな君たちの中からさらに優秀な一人を選ばないといけない。そこで、早速だが、三回目のミッションを実施することになった」
ビンセントはそれまでの威圧的な口調とは異なり、優しく丁寧な言葉遣いで候補者たちに語りかけています。ケイシィとカタリナは、彼の雰囲気が変わったことに違和感を感じていました。
「今回のミッションは、モンスター討伐だ。期限は二週間。君たちにはこの期間内に島にいるモンスターを討伐してもらう。モンスターには、我々が強さと珍しさによってランクを設定している。もちろん、よりランクの高いモンスターを討伐した方が評価が高くなる。ただし、ただモンスターを倒すだけではダメだ。討伐の証として、モンスターの身体の一部を持ってきてもらうよ。何か質問はあるかな?」
以前のビンセントでは考えられないほど、彼が丁寧にミッションの説明をしていることで、ケイシィとカタリナはますます違和感を感じています。
「質問は無いようだね。今回、私たちが討伐対象として設定したモンスターのリストを用意させてもらった。モンスターを倒す時の参考にしてくれ。君たちにも準備が必要だろうから、ミッション開始は二日後の朝とする。それまでに討伐の用意を済ませておくといい。以上だ」
ケイシィとカタリナは、今後の作戦を立てるために、洋館の二階に上がりカタリナの部屋に入りました。
「ミッションの説明をしている時のビンセント、明らかに様子がおかしかったわ。まるで別人みたいだった」
「カタリナも気づいていたか。下手くそな演技だからな。おそらく誰かがビンセントになりすましているよ。本物の彼はもうこの世にはいないだろうね」
「でも、偽者はビンセントになりすまして、何をするつもりなのかしら?」
「おそらく、候補者の中の誰かと組んで、この後の試練を有利に進めるつもりなんだと思う。幸い、今回のミッションが始まるまでには、二日間の準備期間があるから、まずはビンセントの動向を探って、彼になりすました奴の正体を暴いてやろう」
ケイシィの予想どおり、ビンセントが、聖女候補の一人であるプリシラと密会していました。実は、プリシラは魔女で、自身と契約しているアモンという名の悪魔をジョーカーの遺体に取り憑かせていました。
そして、ジョーカーの身体に憑依したアモンを使ってビンセントを倒し、この悪魔を今度はビンセントの身体に取り憑かせていたのです。
「ふふ、アモン。ビンセントを手に入れた今、私たちの勝ちは保証されているわ。後は、目立ちすぎないように無難にミッションをこなすだけ。ま、いざとなったら事故に見せかけて他の聖女候補たちを全員消せばいいだけだしね」
プリシラの横には恍惚の表情を浮かべた裸の女性が座っています。
「ビンセントを手に入れたお礼に、この試験官の女をあげるわ。こないだの生意気な子と違って、あなたの好みでしょう? 私がしっかり調教しておいたから、あなたの好きにしていいわよ」
試験官の女性はビンセントの身体を乗っ取ったアモンにキスをすると、後ろを向いてお尻を彼の前に突き出しました。
「ね、いい感じの変態になったでしょう? ……待ってアモン。隠れて私たちのことを覗いている邪魔者がいるわ。出てきなさい」
ビンセントの跡をつけていたケイシィとカタリナがプリシラの前に姿を現します。
「なるほど、あなたが黒幕だったのね」
プリシラは想定していなかった意外な人物が出てきたため、一瞬驚いた表情をしますが、すぐに冷静さを取り戻して二人に語りかけます。
「あら、あなたたちは確か、ケイシィとカタリナだったわね。ふふ、好奇心は猫を殺すって言葉を知らなかったのかしら? 私たちの秘密を知った以上、生かしては帰さないよ! あなたたちについてきた試験官のお姉さんたちもね!」
突然、ビンセントがおぞましい金切り声を発します。この世の者が発するとはとても思えないような声に当てられた人間たちは、その場に倒れ込んでしまいました。
「ふふ、アモンに死の呪いをかけてもらったわ。これであなたたちはこの世からおさらばってわけ。あはははははぁ!」
アモンが唱えた即死魔法で試験官を含めた全員を倒したプリシラは、勝ち誇った顔で口元に手を当てながら大声で笑っています。
しかし、そのプリシラの目の前でケイシィがいきなり立ち上がります。
「あははははは……は?」
プリシラは突然の出来事に何が起きたのかしばらく理解できず、言葉を失いました。
「契約した悪魔に即死魔法を使わせるとは、あなた、なかなかやるじゃない。けど、残念ね。私もあなたと同じ魔女なの。魔法には詳しいからきちんと対策をしているのよ」
ケイシィは、即死魔法に耐性のあるアイテムを身につけていました。
そして、自分が魔女だということを周囲に知られたくないため、他の人間たちが倒れるまで倒されたふりをしていたのです。
「悪いけど、あまりあなたに時間をかけてはいられないの。カタリナを蘇生させないといけないからね」
「ふん、みくびらないでもらいたいわ。あなたも魔女なら私と同じように虐げられてきたんでしょ? 私はね、幼い頃からずっと獣以下の扱いを受けてきたの。だから聖女になりすまして――」
ケイシィと目が合ったプリシラは後悔しました。彼女から、おぞましいほどの殺気を感じたからです。抑えていた魔力を全て解放したケイシィは、プリシラが恐怖で動けなくなるほどのプレッシャーを与えています。
「あなたが何をしようと私には関係ない。けれど、あなたは私を殺そうとしたんだから、今から私に殺されても文句は言えないよね?」
ケイシィのおぞましい殺気に当てられて怯えたプリシラは、思わず彼女と契約した悪魔に助けを求めます。
「ア、アモン、助けて、アモン。私を守ってよ――」
「ふふ、あなたが契約した悪魔なら、ビンセントの身体をおいて、とっくに逃げ出したわよ」
「そんな……」
あまりの恐怖にプリシラは動けなくなりました。彼女の足下には、ふとももを伝って滴り落ちた、まだ温かい液体が溜まっています。
「あ……あ……」
プリシラはもはや声を出すことも出来なくなっていました。
ケイシィは風の魔法で高速で回転する空気の刃を作り出して、プリシラを狙って刃を飛ばしました。円の形をした高速で回転する刃は、プリシラの首を綺麗に切り落とします。彼女の首元から真紅の鮮血が噴き出して、首を失った胴体が崩れ落ちるように地面に倒れ込みました。
「あなたごとき、私の手を汚すまでもないわ。さて、カタリナを蘇生させてあげないとね。ん? カタリナ、あなた生きてるの?」
カタリナはゆっくりと立ち上がると、ケイシィに頭を下げます。
「ごめんケイシィ。実は私も、魔法に耐性があるから、即死魔法が効かなかったみたい」
実は、魔法に耐性があるカタリナもプリシラの即死魔法に倒されたふりをしていました。
「なるほど。そういうことだったのね。でもカタリナ、あなたは私が魔女だと知って、がっかりしたでしょう? 私も彼女と同じで聖女になりすますつもりなのよ……」
ケイシィは真実を知ったカタリナが自分に失望することを覚悟します。
しかし、カタリナからは意外な答えが返ってきました。
「別にあなたが何者でも、私の命の恩人であることに変わりはないから。私はあなたを信じるわ!」
「うれしいわカタリナ。私がどうして聖女になりたいのか、教えてあげるから、一つ約束してくれる?」
「もちろんよ、ケイシィ」
「私はね、処刑された聖女ソフィアと親友だったの。彼女はね、無実の罪を着せられていたのよ。私はそれを知ったから、聖女になりすまして、この国の全ての人々に復讐をすることにしたの。いずれ私がこの国を滅ぼすから、あなたはその前にこの国から脱出してね。私の本当の名前は、カッサンドラ。カッサンドラ=クリムゾン=オークスよ。覚えておいてね」
「カッサンドラか。素晴らしい名前ね。大丈夫、絶対忘れないよ。もちろん、あなたが国を滅ぼそうとしていることもね」
「よかった。ねえ、カタリナ、前に私とした約束、覚えてる?」
「もちろんよ。私とケイシィは全力で勝負するってことでしょ?」
「そうそう。それじゃあ悪いけど、今からあなたを倒させてもらうよ」
そう言うと、ケイシィは素早くカタリナのそばに近づいて、彼女の首を絞めました。
「あなたには魔法が効かないから、ちょっと手荒な方法になっちゃうけど、許してね」
ケイシィはそのままカタリナの意識を失わせました。
次にカタリナが目を覚ました時、彼女は洋館のベッドの上にいました。
「ふふ、私、負けちゃったのね。でも、これでいいのよケイシィ。あなたは必ず聖女になって、この国を滅ぼしてね」
カタリナは近くにいた試験官に、試練をリタイアすることを告げました。その後、孤島の試練はケイシィが最後まで勝ち残り、彼女が聖女候補に選ばれました。
試練から三ヶ月後、ケイシィはローア聖教会から正式に聖女として選出されました。
そして、ベルマリク王国の建国記念日に、自分の正体が魔女であることを明かします。同時に彼女は、カタリナに話したとおりに、巨大な悪魔を召喚して、ベルマリク王国を滅ぼしました。
その速報記事を新聞で見ていた一人の少女が静かにつぶやきます。
「私にはわかるわ。自分の復讐を果たして、お空へと旅立ったのよね、ケイシィ。あなたは私を助けてくれた。だから今度は私があなたを助けてあげる。どんな手を使ってもね」
カタリナは魔法で彼女を現世へと復活させるために、魔女になることを決めました。