「芦原。俺、お前のことが好きだ……っ!」
学校の体育倉庫の裏。ひと気のないその場所で俺が告白しているのは、小柄でかわいらしい女の子……ではなく、百六十七センチの俺よりも十センチ以上背が高い男だった。
長身の上に顔も性格も頭もいい。そんな完璧な優等生の芦原に向かって、俺は頭を下げる。
「だ、だから、俺と付き合ってください……っ」
男からの突然の告白なんて、みんなに優しい芦原だって顔をしかめるに決まってる。
そう思いながら返事を待ったけど、芦原は黙り込んだままなにも言わなかった。
謎の沈黙と気まずい空気が流れる。
向かい合う俺たちをよそに、九月に入ったというのにまだまだ元気なニイニイゼミが声を張り上げ鳴いていた。
なんで芦原は黙ってるんだ。さっさと俺を振ってくれればいいのに。
俺は周囲から問題児扱いされているヤンキーで、芦原とは同じクラスになったことも、まともに話したこともない。もしかしたら俺の存在すら認識していないかもしれない。
そんな男に告白されて、迷惑だと思っているだろうな……。申し訳ない気持ちになっていると、芦原がゆっくりと口を開いた。
「光永。それ、本気で言ってる……?」
名前を呼ばれ、こいつ俺のこと知ってたんだと驚く。
「ほ……、本気だけど」
うなずくと、また芦原が黙り込んだ。
どうしようもない気まずさに、頼むから早く出てきてくれ……っ!と心の中で叫ぶ。
俺が芦原を呼び出し告白する様子を、友人たちが隠れて見ているはずだ。
芦原がなにかリアクションした瞬間、『どっきりでした~』『びっくりした?』とネタバラシをする予定だったのに、どうして出てこないんだろう。
こんな悪趣味な罰ゲーム、さっさと終わらせたいのに。
じれったくて唇を噛むと、芦原が一歩こちらに近づいた。
「光永は、本当に俺のことが好きなの?」
芦原はとても重要なことを確認するように、慎重な口調で問いかけてくる。
彼の声はかすかに上ずっていて、必死に動揺を隠そうとしているのが伝わってきた。驚いたり気持ち悪がったりすれば、告白した俺を傷つけると思ったのかもしれない。
さすが学校中の女子生徒が憧れる優等生。ヤンキーの俺にも気を使ってくれるなんて優しすぎる。
こんないい奴を騙している自分に、罪悪感がこみあげてきた。
この罰ゲームを一刻も早く終わらせるために、俺は芦原を見上げ口を開く。
「そ、そうだよ! 俺はずっとお前のことが好きだったんだ。気持ち悪ぃだろ、さっさと振れよ!」
こう言えば、芦原も遠慮なく俺を拒絶できる。そう思っていたのに、芦原の形のいい唇は、まったく違う言葉を発した。
「うれしい」
「――は?」
うれしいって、なにが。
「俺も、光永のことが好きだった」
「はぁ?」
こいつは、なにを言ってるんだろう。
意味が分からず眉をひそめたけど、芦原は俺をまっすぐにみつめたまま距離を詰めてきた。
「好きだ、光永」
真剣な表情でそう言う芦原に、「う、嘘だろ?」と問いかける。
むしろ、嘘であってくれ。
「嘘じゃない。冗談でこんなことを言うわけないだろ」
いつも穏やかで大人びた印象の芦原が、別人のように熱っぽい視線を俺に向ける。
「ま、待って、芦原」
近づいてくる芦原に後ずさる。
「い、言っておくけど、俺は男だからな!?」
「そんなのもちろんわかってる」
「俺たち、男同士なんだけど!?」
「だから、なに?」
芦原に至近距離で見つめられ、思わず口を閉ざした。
こいつ、無駄に顔がいい……っ。
この顔で見つめられると、なにも言葉が出なくなる。
俺が返答できずにいると、芦原の端整な顔がふわりとほころんだ。
「光永から告白してくれるなんて、夢みたいだ……」
芦原は甘い微笑みを浮かべながらそうつぶやく。
「いや、それは……っ」
違うんだ。本気で言ったわけじゃなく、ただの罰ゲームだったんだ。
慌てて説明しようとしたけど、芦原のうれしそうな顔を見ると、なにも言えなくなってしまった。
学校の体育倉庫の裏。ひと気のないその場所で俺が告白しているのは、小柄でかわいらしい女の子……ではなく、百六十七センチの俺よりも十センチ以上背が高い男だった。
長身の上に顔も性格も頭もいい。そんな完璧な優等生の芦原に向かって、俺は頭を下げる。
「だ、だから、俺と付き合ってください……っ」
男からの突然の告白なんて、みんなに優しい芦原だって顔をしかめるに決まってる。
そう思いながら返事を待ったけど、芦原は黙り込んだままなにも言わなかった。
謎の沈黙と気まずい空気が流れる。
向かい合う俺たちをよそに、九月に入ったというのにまだまだ元気なニイニイゼミが声を張り上げ鳴いていた。
なんで芦原は黙ってるんだ。さっさと俺を振ってくれればいいのに。
俺は周囲から問題児扱いされているヤンキーで、芦原とは同じクラスになったことも、まともに話したこともない。もしかしたら俺の存在すら認識していないかもしれない。
そんな男に告白されて、迷惑だと思っているだろうな……。申し訳ない気持ちになっていると、芦原がゆっくりと口を開いた。
「光永。それ、本気で言ってる……?」
名前を呼ばれ、こいつ俺のこと知ってたんだと驚く。
「ほ……、本気だけど」
うなずくと、また芦原が黙り込んだ。
どうしようもない気まずさに、頼むから早く出てきてくれ……っ!と心の中で叫ぶ。
俺が芦原を呼び出し告白する様子を、友人たちが隠れて見ているはずだ。
芦原がなにかリアクションした瞬間、『どっきりでした~』『びっくりした?』とネタバラシをする予定だったのに、どうして出てこないんだろう。
こんな悪趣味な罰ゲーム、さっさと終わらせたいのに。
じれったくて唇を噛むと、芦原が一歩こちらに近づいた。
「光永は、本当に俺のことが好きなの?」
芦原はとても重要なことを確認するように、慎重な口調で問いかけてくる。
彼の声はかすかに上ずっていて、必死に動揺を隠そうとしているのが伝わってきた。驚いたり気持ち悪がったりすれば、告白した俺を傷つけると思ったのかもしれない。
さすが学校中の女子生徒が憧れる優等生。ヤンキーの俺にも気を使ってくれるなんて優しすぎる。
こんないい奴を騙している自分に、罪悪感がこみあげてきた。
この罰ゲームを一刻も早く終わらせるために、俺は芦原を見上げ口を開く。
「そ、そうだよ! 俺はずっとお前のことが好きだったんだ。気持ち悪ぃだろ、さっさと振れよ!」
こう言えば、芦原も遠慮なく俺を拒絶できる。そう思っていたのに、芦原の形のいい唇は、まったく違う言葉を発した。
「うれしい」
「――は?」
うれしいって、なにが。
「俺も、光永のことが好きだった」
「はぁ?」
こいつは、なにを言ってるんだろう。
意味が分からず眉をひそめたけど、芦原は俺をまっすぐにみつめたまま距離を詰めてきた。
「好きだ、光永」
真剣な表情でそう言う芦原に、「う、嘘だろ?」と問いかける。
むしろ、嘘であってくれ。
「嘘じゃない。冗談でこんなことを言うわけないだろ」
いつも穏やかで大人びた印象の芦原が、別人のように熱っぽい視線を俺に向ける。
「ま、待って、芦原」
近づいてくる芦原に後ずさる。
「い、言っておくけど、俺は男だからな!?」
「そんなのもちろんわかってる」
「俺たち、男同士なんだけど!?」
「だから、なに?」
芦原に至近距離で見つめられ、思わず口を閉ざした。
こいつ、無駄に顔がいい……っ。
この顔で見つめられると、なにも言葉が出なくなる。
俺が返答できずにいると、芦原の端整な顔がふわりとほころんだ。
「光永から告白してくれるなんて、夢みたいだ……」
芦原は甘い微笑みを浮かべながらそうつぶやく。
「いや、それは……っ」
違うんだ。本気で言ったわけじゃなく、ただの罰ゲームだったんだ。
慌てて説明しようとしたけど、芦原のうれしそうな顔を見ると、なにも言えなくなってしまった。

