今日は筋肉部に入部してから三回目の部活だ。
放課後、教室を出てまっすぐ部室に向かった。廊下を歩きながら輪島のことを考えていた。俺が筋肉部に入部した日から、輪島の様子がよそよそしいというか、少し冷たいというか。輪島がいるといつも部屋が暑く感じるのに、寒く感じるし。とにかく、なんか様子がおかしい。特に今日の朝はおかしかった。
「先輩は、誰にでもお姫様抱っこされるんですか?」
朝、学校に行く準備を寮の部屋でしている時。中谷と俺が一緒にしていた筋トレについて、詳しく輪島に話をしていたら、いきなりそんな質問をされた。
「なんで突然、そんな話になった?」
「毎日、中谷先輩の話ばかりしてるから……先輩は、中谷先輩にお姫様抱っこされたら、中谷先輩にも『好き』って言うんすか?」
責めるように強めな口調の輪島。
毎日って、まだ数日だけだし、ずっと中谷の話をしてるわけじゃねえし。っていうか――。
「俺、誰にでも好きとか言わねえし。輪島以外にお姫様抱っこされても、ドキドキしねえし、多分……」
「多分?」
険しい顔になる輪島。疑ってるのか?
もやもやして嫌な気持ちになってきた。
「いや、もうどうしたんだよ、輪島。ちょっとめんどくせぇ」
「先輩は自分ではなく、中谷先輩にお姫様抱っこをしてもらえばいい」
輪島はささっと制服を着て準備をすると、沈んだ表情をして部屋から出ていく。輪島にめんどくさいと言ってしまったことをすぐに後悔した。
――いつもは冷静で、年上の俺よりも大人な雰囲気なのに、輪島、本当にどうしたんだ?
俺は輪島が部屋からいなくなって少し経つと、いつも通り食堂に行った。いつもは輪島と食べていた朝飯を、ひとりで食べた。輪島は食堂に来なかった。
――朝飯食べないの珍しいな。輪島はエルキンだから、俺たちよりも多く食べないとならない。休日は何回か、ご飯以外にも筋肉のために間食もしている。筋肉のために、ああだこうだと食事について、いつも誰よりも考えている輪島にとって、一食分抜くって重大じゃないのか?
輪島について考えていると、あっという間に部室前に着いた。今日は、輪島と朝した会話を何回も思い出している。今ので何回目だろ……。
部室に入ると、輪島以外の部員がいた。俺がTシャツとハーフパンツに着替えたタイミングで部員たちがラジオ体操をはじめた。
筋肉部は、ラジオ体操もするのか。輪島がラジオ体操をしたらきっと、動きがしなやかで誰よりもかっこいいだろうなぁ。
ラジオ体操をして輝く輪島を妄想しながら、俺も体操に加わる。そして終わるといつものように中谷と並んで筋トレをはじめた。
「矢萩くん、今日なんか浮かない顔しているけど、元気ない?」
「えっ?」
中谷の声ではっとした。
俺は今、輪島のことで頭がいっぱいになっていて、筋肉に集中していなかった。
「いや、うん……実は朝、輪島に『先輩は自分ではなく、中谷先輩にお姫様抱っこしてもらえばいい』って、冷たく言われてさ……」
「ぼ、僕が矢萩くんを抱っこ? ちょっと待ってよ! どうしてそんな話になったの?」
「実はさ――」
中谷は聞き上手で話しやすい。どんどん自分のことを話したくなる。輪島にお姫様抱っこをされてドキドキしたことから、今日の朝の会話まで、全てを話してしまった。でも、輪島から可愛いとか好きとか言われたことは、ふたりだけの秘密にしておきたくて言わなかった。
「お姫様抱っこされた時、本当に輪島のことが大好きだなって思ったんだ。その特別な気持ちは輪島にだけ感じるんだと思っていたんだけど……正直、本当にそうなのか自信がなくなってきたかも……」
「とりあえず僕が矢萩くんをお姫様抱っこして、矢萩くんがドキドキするか試してみる?」
「中谷、お姫様抱っこできるのか?」
「うん、出来ると思う」
そう言って中谷は俺を持ち上げようとした。その時、部員たちが「お姫様抱っこトレーニングか?」と、わらわら集まってきた。
放課後、教室を出てまっすぐ部室に向かった。廊下を歩きながら輪島のことを考えていた。俺が筋肉部に入部した日から、輪島の様子がよそよそしいというか、少し冷たいというか。輪島がいるといつも部屋が暑く感じるのに、寒く感じるし。とにかく、なんか様子がおかしい。特に今日の朝はおかしかった。
「先輩は、誰にでもお姫様抱っこされるんですか?」
朝、学校に行く準備を寮の部屋でしている時。中谷と俺が一緒にしていた筋トレについて、詳しく輪島に話をしていたら、いきなりそんな質問をされた。
「なんで突然、そんな話になった?」
「毎日、中谷先輩の話ばかりしてるから……先輩は、中谷先輩にお姫様抱っこされたら、中谷先輩にも『好き』って言うんすか?」
責めるように強めな口調の輪島。
毎日って、まだ数日だけだし、ずっと中谷の話をしてるわけじゃねえし。っていうか――。
「俺、誰にでも好きとか言わねえし。輪島以外にお姫様抱っこされても、ドキドキしねえし、多分……」
「多分?」
険しい顔になる輪島。疑ってるのか?
もやもやして嫌な気持ちになってきた。
「いや、もうどうしたんだよ、輪島。ちょっとめんどくせぇ」
「先輩は自分ではなく、中谷先輩にお姫様抱っこをしてもらえばいい」
輪島はささっと制服を着て準備をすると、沈んだ表情をして部屋から出ていく。輪島にめんどくさいと言ってしまったことをすぐに後悔した。
――いつもは冷静で、年上の俺よりも大人な雰囲気なのに、輪島、本当にどうしたんだ?
俺は輪島が部屋からいなくなって少し経つと、いつも通り食堂に行った。いつもは輪島と食べていた朝飯を、ひとりで食べた。輪島は食堂に来なかった。
――朝飯食べないの珍しいな。輪島はエルキンだから、俺たちよりも多く食べないとならない。休日は何回か、ご飯以外にも筋肉のために間食もしている。筋肉のために、ああだこうだと食事について、いつも誰よりも考えている輪島にとって、一食分抜くって重大じゃないのか?
輪島について考えていると、あっという間に部室前に着いた。今日は、輪島と朝した会話を何回も思い出している。今ので何回目だろ……。
部室に入ると、輪島以外の部員がいた。俺がTシャツとハーフパンツに着替えたタイミングで部員たちがラジオ体操をはじめた。
筋肉部は、ラジオ体操もするのか。輪島がラジオ体操をしたらきっと、動きがしなやかで誰よりもかっこいいだろうなぁ。
ラジオ体操をして輝く輪島を妄想しながら、俺も体操に加わる。そして終わるといつものように中谷と並んで筋トレをはじめた。
「矢萩くん、今日なんか浮かない顔しているけど、元気ない?」
「えっ?」
中谷の声ではっとした。
俺は今、輪島のことで頭がいっぱいになっていて、筋肉に集中していなかった。
「いや、うん……実は朝、輪島に『先輩は自分ではなく、中谷先輩にお姫様抱っこしてもらえばいい』って、冷たく言われてさ……」
「ぼ、僕が矢萩くんを抱っこ? ちょっと待ってよ! どうしてそんな話になったの?」
「実はさ――」
中谷は聞き上手で話しやすい。どんどん自分のことを話したくなる。輪島にお姫様抱っこをされてドキドキしたことから、今日の朝の会話まで、全てを話してしまった。でも、輪島から可愛いとか好きとか言われたことは、ふたりだけの秘密にしておきたくて言わなかった。
「お姫様抱っこされた時、本当に輪島のことが大好きだなって思ったんだ。その特別な気持ちは輪島にだけ感じるんだと思っていたんだけど……正直、本当にそうなのか自信がなくなってきたかも……」
「とりあえず僕が矢萩くんをお姫様抱っこして、矢萩くんがドキドキするか試してみる?」
「中谷、お姫様抱っこできるのか?」
「うん、出来ると思う」
そう言って中谷は俺を持ち上げようとした。その時、部員たちが「お姫様抱っこトレーニングか?」と、わらわら集まってきた。



