お姫様抱っこされてから数日が過ぎた。
 今日は学校が休みだ。

 俺と輪島は最近、朝昼晩のご飯を一緒に食べている。「先輩の筋肉のために、先輩が食べるものを全て知りたいから」と言われてからだ。そこまで俺の筋肉について考えてくれているんだと、胸の辺りが熱くなる。

 今日も朝飯を食堂ですまして、ふたり一緒に部屋に戻った。それからすぐに机に向かって勉強をしている輪島と、部屋の角で体育座りをしながら輪島の背中を眺めている俺。

 輪島をお姫様抱っこする!なんて、強気な発言をしてみたけれど、無理だな。〝ひとまわり大きい〟がどのくらい大きいのかは一切分からんけど、ひとまわりかふたまわりか、もしかしてさんまわりな可能性もあり?なぐらい大きい輪島を隅から隅までみて悟った。

――もっと、筋トレ時間を増やせばいいのか?

「なぁ、輪島」
「なんだ?」

 俺に背中を向けながら勉強を続ける輪島。

「明日、筋肉部見学しに行ってもいいか?」
「部活をか? 何故見学したいと思った?」

 輪島が勢いよく振り向き、俺と目が合う。

――輪島は、筋肉の話になると食いつき違うな。

「俺の筋トレ、今は夜にこの部屋でやるだけじゃん? 筋トレの時間が足りないのかなって思ってよ」
「何故そう考えた?」
「俺、輪島にお姫様抱っこするって言ったじゃん? そもそも輪島をお姫様抱っこするなんてムリな話なんだけど……」
「諦めるな!」

 輪島は勢いよく立ち上がった。

「今から、部室にいくぞ!」
「今からかよ」
「なんだ? 今からじゃ、嫌なのか?」
「いや、急だなって思って」

 もうちょっと部屋で輪島とのんびりしたいなぁ。ふたり同じ空間でのんびりしている時間も好き。せめて午後からがいいな。

「部室でトレーニングすることになれば、今よりもトレーニングがキツくなる。先輩には難しい、か……」

 目を細めながら見てくる輪島。
 俺には無理だとすでに諦めている言い方がなんかイラッとするな。

「いや、難しくねーし。余裕だ!」

 部室はどんな感じか、どんなトレーニングをするのか全く知らんけどな。

「よし、その気持ちが大事だ! じゃあ、いつものTシャツを着ろ! 部室行くぞ!」
「リョーカイッ!」

 俺たちはニヤッと笑い合うと着替えた。
 そして寮を出て部室がある学校に向かった。